スマート・デジタル・ファイナンス~CFO領域におけるデジタル活用の可能性とは~

スマート・デジタル・ファイナンス~CFO領域におけるデジタル活用の可能性とは~

本稿は、 CFO領域におけるデジタル活用の可能性と次世代型のCFOの実現において求められるスマート・デジタル・ファイナンスの定義について解説します。

濱田 克己

アカウンティング・アドバイザリー・サービス事業部 パートナー

あずさ監査法人

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現代社会において不確実性が高まるなかで、企業はあらゆるリスクに直面しています。
競争優位性を武器にした短期的な対応では、これからの変化に対応することは困難でしょう。そのため、CFOはこれまでの金庫番という存在を超え、CEOのビジネスパートナーとなることやデジタルファイナンスへの対応、タレントマネジメント、グローバルな経験など、新たなCFOとしての役割が期待されています。
そこで私たちは、次世代型のCFOの実現に向け、「次世代のファイナンスの4つの領域(成長、ガバナンス、コンプライアンス、効率)にて、デジタルテクノロジーをスマートに活用し、実務者レベルの効率化、管理者レベルの強化、経営者レベルの高度化を実現する」スマート・デジタル・ファイナンスという概念を定義しました。
本稿は、 CFO領域におけるデジタル活用の可能性と次世代型のCFOの実現において求められるスマート・デジタル・ファイナンスの定義について解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 様々な局面で不確実性が高まり、変化するビジネス環境に多くのCEOが危機を感じているなか、CEOがCFOに求める役割が金庫番からCEOのビジネスパートナーとなることへと変化している。
  • 次世代型のCFOの実現に向け、次世代のファイナンスの4つの領域(成長、ガバナンス、コンプライアンス、効率)にて、デジタルテクノロジーをスマートに活用し、実務者レベルの効率化、管理者レベルの強化、経営者レベルの高度化を実現するスマート・デジタル・ファイナンスという新しい概念を定義。
  • 不確実性が高まる世界経済の中で、企業がさらなる成長を続けていくためには、スマート・デジタル・ファイナンスの推進が鍵となる。

I.CFOはビジネスパートナーとしての役割

1.変化するビジネス環境

様々な局面で不確実性が高まる中、地政学、環境・気候変動、サイバー犯罪などのリスクに企業は直面しています。2019年にKPMGインターナショナルがグローバル企業のCEOを対象に実施した調査で、多くのCEOがこうした危機を感じていることが明らかになりました。競争優位性を武器にした短期的な対応では、これからの変化に対応することは困難でしょう。企業が成長を続けるためには、自らが業界の破壊者となるビジネスモデルや、経営の機動性が鍵となります。
そこでCFOはこれまでの金庫番という役割を超え、CEOのビジネスパートナーとなることやデジタルファイナンスへの対応、タレントマネジメント、グローバルな経験などが求められます。従来は、取引の処理などの実務者レベルが大きな比重を占めていました。ところが次世代では、実務処理はデジタルテクノロジーで効率化したうえで、財務統制の強化と経営者の意思決定をサポートすることが重要なのです。

2.CFOの4つの機能領域

次世代のCFO機能は、4つの領域に整理されます(図表1参照)。財務経理が直接責任をもつ業務、影響や指導を与える業務をレーダーチャートでまとめています。I 成長、II ガバナンス、III コンプライアンス、IV 効率という4つの領域に、攻めと守り、事業部門とマネジメントという軸を重ねたものです。CFOには多岐にわたる業務がありますが、それぞれが密接に関連しあいながら、次世代CFOの機能を構成していきます。

図表1 CFOの4つの機能領域
レーダーチャート

II.スマート・デジタル・ファイナンスとは何か

1.実現のためのプラットフォーム・ストラクチャー

こうした次世代型のCFOの実現に向け、スマート・デジタル・ファイナンスはその助けとなります。私たちはスマート・デジタル・ファイナンスという新しい概念を、「次世代のファイナンスの4つの領域(成長、ガバナンス、コンプライアンス、効率)にて、デジタルテクノロジーをスマートに活用し、実務者レベルの効率化、管理者レベルの強化、経営者レベルの高度化を実現する」と定義しています。
スマート・デジタル・ファイナンスをCFOの実際の業務から考えてみましょう。スマート・デジタル・ファイナンスを実現するプラットフォーム・ストラクチャーは、3つの層として考えられます(図表2参照)。

図表2 実現のためのプラットフォーム・ストラクチャー
3つの層

※Intelligent Automationとは - 多様なテクノロジーを同一プラットフォームで最適化を図ることを意味します。

最下層は、業務オペレーションをシステムで支える「テクノロジーレイヤー」になります。ここでは会計パッケージや業務システム、データを繋ぐEAIや経理のBPMに加え、最近注目を集めるRPAやAIという技術を組み込み、業務の効率化を図ります。中央のレイヤーは、「オペレーションレイヤー」です。現在でも多くの企業では、販売・購買・生産管理や総勘定元帳などには、ERPパッケージが導入されていますが、その一方で経理実務の現場では、Excelなどでのイレギュラーな管理が残っているケースも散見されます。ここでは業務の可視化・標準化をさらに推進し、自動化・効率化に繋げていきます。
最上位層は、「インテリジェンスレイヤー」です。ここでは、これまでの数字を作るだけの仕事から、経営分析へシフトできる、ビジネストレンドや分析能力を兼ね備えた人材そのものの変革が求められます。それによりCEOのビジネスパートナーとなる次世代CFOの役割を果たす頭脳集団へと変貌できるのです。
スマート・デジタル・ファイナンスの実現には、3つのレイヤーそれぞれを機能させることが重要です。そのためには変化を短期的な取組みにせず、業務を支える基盤に長期的に組み込むことが欠かせません。

III.スマート・デジタル・ファイナンス(SDF)の可能性

1.CFOの問題意識(現状と将来)

スマート・デジタル・ファイナンスは、従来のCFO機能にどんな変化をもたらすのでしょうか。その可能性を具体的に紹介します(図表3参照)。

図表3 SDF事例の位置付け
目指すべきCFO機能の姿

(1)実務の効率化(ルーチン業務の効率化)
取引処理のような実務者レベルの業務を効率化し、定型業務の自動化や高速化には、RPAなどの様々なテクノロジーの活用が期待されます。

スマート・デジタル・ファイナンスの活用事例
事例1)
決算業務を1ヵ所で行えるプラットフォーム
会計ERPパッケージでサポートされていない残高照合、関係会社取引、見積計算業務、などの重要な決算業務や、そこで作成した証票類や作成文書などを、新たなプラットフォームで総合的に一元管理することで、業務の可視化と標準化を図り、決算数値の品質向上と統制強化を図ります(決算プラットフォームの詳しい解説はKPMG Insight Vol.38(2019年9月号)「Digital Financeに向けて決算プラットフォームの有効利用」をご参照ください)。

事例2)経費精算を効率化するスマホ、OCR、RPA連携
対外的なやり取りが多く標準化が進まない経費精算業務に対して、領収書の電子化に、スマホ、AI - OCR、電子決済、ICカードを対応させつつ電子化を加速させ、電子化された入力情報を基にRPAを活用することで業務の効率化を図ります。

事例3)リース契約データ処理を効率的に管理する
AIのプラットフォームであるIBM Watsonを活用し、リース契約書からリース期間やリース料率、さらには元利返済スケジュールを含む契約管理補助簿を自動組成しIFRS16(新リース会計基準)に準拠した会計処理を効率的に管理します。

残念ながら多くの企業では、こうしたシステム化がなかなか進んでいない現状があります。KPMGジャパンが国内企業のCFOを対象に行った調査でも、「財務経理にシステム活用が足りない」、「業務システムの統一が不十分」、「システムはあるがそれぞれが連携されていない」という声が多く聞かれました。次世代CFO機能を実現するには、システム投資が課題となることが予想されます。
 

(2)ガバナンス・統制の強化
CFOが管理する財務統制は、スマート・デジタル・ファイナンスで強化します。テクノロジーを活用し、リスクの可視化やモニタリングの強化、統制・規定の標準化に繋げます。具体例としては、グループ会社の数年分の財務指標から不正や異常値を検知するAIが徐々にでき始めています。こうした技術により、現在CFOとして行っている財務統制をガバナンス強化に拡大することが可能になります。

スマート・デジタル・ファイナンスの活用事例
事例4)
プロセスを可視化するプロセスマイニング
ERPシステム上で管理されている業務トランザクションデータをもとに、通常プロセスフローの件数、処理時間、承認プロセス等を可視化することができます。一方でイレギュラーなプロセスを迅速に検知することで、発生した業務のリスクを見極め、プロセス上の不備・改善に繋げるとともに、工程の標準化を図りつつより効率的なプロセス改善の実現に役立ちます。
 

(3)意思決定サポート情報の高度化
「経営判断に役立つ情報をタイムリーに出す」ことも次世代CFOに求められる役割のひとつです。KPMGインターナショナルの調査では、「様々な切り口の新しい情報を、早くほしい」というCEOは80%にものぼりました。注目したいのは、過去から現在までの情報の分析で終わるのではなく、その結果を将来予測に繋げることです。それにはAIやビッグデータなど、テクノロジーの活用は無視できません。次世代CFOとして経営者の意思決定をサポートするためには、こうした観点から改革を進めていくことが重要です。

スマート・デジタル・ファイナンスの活用事例
事例5)
「将来」をデータから予測するプレディクティブアナリティクス
業績予想や売価トレンドなど、従来は限られた過去実績情報から分析予想をしていましたが、昨今では、ビッグデータやAIを駆使して仮説を生成し、顧客や市場の将来を高度に予測するオペレーションモデルにシフトすべく多様な取組み・試行が行われています。

事例6)オンタイムでグループ全体の状況が可視化されるグローバルファイナンスシステム
SAP S/4 HANAや他パッケージでは、異なる会計システムの情報を統一された基準に基づいてグローバルに一元的に情報管理できるグローバルファイナンスの概念をサービス提供し始めています。それにより、従来は参照できなかった各社の会計元帳をリアルタイムに参照・データ分析することが可能となり、グループ全体の状況が可視化されるとともに、分析効率の向上が見込まれます。

企業の中にはAIの分析結果に不安を感じるケースがあるようです。そこでAIが出した結論を別のAIに分析させ、どういう要素を分解しその解に至ったか監視する活用法が徐々に出はじめています。AIをどう活用するのか、さらに深いレベルで検討する時代に入っています。

IV.おわりに

企業によってCFOの役割は異なりますが、次世代のCFOを目指すために共通するポイントはあります。

  • 事業環境の変化や自社の経営戦略に基づき、将来的なCFOの役割と責任・権限を見据える
  • 財務経理部門は単なる過去数値の集計ではない、戦略的かつ未来志向の視点をもつ
  • 最新のテクノロジーやデジタル化の波を敏感に捉え、将来を見据えた積極的な投資に踏み切る
  • 従来のスコアキーパーから、経営参謀としての真のビジネスパートナーへ変化する

先を見据えて、多くの企業にとってシステム投資が課題となっています。昨今、海外メーカーのERPパッケージも選択肢のひとつになってきましたが、単なるシステムの置き換えにならないことが重要です。CFO機能を強化するためには、新しいシステムパッケージを導入して終わるのではなく、絶え間ない変革を恐れることなく推し進める強い意志を持つこと、さらには、ビジネスパートナーとして経営マインドが高い有望な人財を育成することが重要となります。
不確実性が高まる世界経済の中で企業がさらなる成長を続けていくためには、スマート・デジタル・ファイナンスの推進が鍵となります。

 

※IBM Watsonは、世界の多くの国で登録されたInternational Business Machines Corporationの商標です。

※SAP S/4 HANAはドイツにあるSAP SEやその他世界各国における登録商標または商標です。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
アカウンティングアドバイザリーサービス
パートナー 濱田 克己
ディレクター Daniel Gangl

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