SAP ERP 2025年対応への戦略的な取組み~シンプルなERP導入がDXを加速~

SAP ERP 2025年対応への戦略的な取組み~シンプルなERP導入がDXを加速~

本レポートでは、多くのSAPユーザーがまずは検討するであろうSAP S/4 HANAへのバージョンアップや再度の新規導入とともに、DXのポイントを解説します。

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SAP ERPユーザーにとっては、2025年に現行SAP ERPおよびSAP Business Suiteの標準保守が終了することに備えて、バージョンアップや再度の新規導入等の検討が急務となっています。
一方で、2018年に経済産業省が公表したDX(デジタル・トランスフォーメーション)レポートは、ITシステム2025年の崖問題をテーマに掲げ、大きな注目を集めています。その本質は、1.現行システムのブラックボックス化による運用保守費用の高止まりをクラウドやERPを活用して回避し、2.削減分をDX領域へ投資してDXを成し遂げることです。
SAP ERP 2025年対応のタイミングを上手く活用して、DXを含めた企業価値の向上と競争優位の獲得を進めることが、SAPユーザーにとっては重要となります。本レポートでは、多くのSAPユーザーがまずは検討するであろうSAP S/4 HANAへのバージョンアップや再度の新規導入とともに、DXのポイントを解説します。なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りします。
 

注:2020年2月4日に、SAP本社よりERPパッケージの標準保守サポートに関する延長が発表されたが、本稿は、発表前の時点で執筆されたものである。
ただし、システムの見直しにあてられる期間が延びたとはいえ、企業にとって、ERPの在り方やDXへの取組みを加速させることは非常に重要であるので、ご参考にしていただければとの思いから、このまま掲載することとした。

ポイント

  • 「2025年の崖」の本質はDXの推進である。SAP ERPユーザー企業は、DXの取組みとしてSAP ERP 2025年対応の検討を進めるべきである。
  • そのためには、基幹業務においても新技術を活用した業務改革を実施するとともに、運用保守時のランニング費用低減まで含めたコスト削減の検討が、まずは重要となる。
  • コスト削減によるDX投資への原資確保に加えて、本質であるDXも含めた全体的な計画立案が必要である。

I.SAP ERP 2025年対応

1.SAP ERP 2025年対応への早期検討着手

KPMGのグローバルCEO調査2019によると、63%のCEOがデジタルディスラプションによって破壊されるのを待つのではなく、自ら業界の破壊者になるべく取り組んでいると回答しています。また、不確実な時代であるがゆえに、レジリエンス(機動的な変革と適応を支える強靭性の確保)を備えることが重要で、真のレジリエンスのためには、組織レベルでのDXが必要と回答しています。
2018年に経済産業省から発表された「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」が注目を集めていますが、このレポートの本質は1.レガシーシステム(多くの改修を経てブラックボックス化)の足枷の解消、具体的にはクラウドやERPを活用して運用保守費用を削減することと、2.削減分をDX投資に回し、業務や企業風土も変革対象に捉えて、企業のDXを進めることにあります。
一方、SAP ERP 2025年対応は、SAPの標準保守サポート終了に伴う、「2025年の崖」とは別の問題と捉えられます。しかしながら、多くの企業は、1990年代後半から2000年代にSAP ERPを導入し、当時は多くのアドオン開発を実施したため、ブラックボックス化したレガシーシステムとなっており、2025年の崖問題と同じ意味合いを持つと言えます。したがって、このSAP ERP 2025年対応は、単なるバージョンアップではなく、同時にDXのためのチャンスであると捉えることが重要です。近年、ERPベンダー各社はクラウド型に注力しており、SaaS型ERPの活用も考慮して検討することも有効と考えられます。これは事業の統廃合時のフレキシブルな対応にも繋がります。
SAP S/4 HANAへの移行は、約2,000社と言われるSAPユーザーが対応するため、SAPエンジニアの不足が早くも一部では問題となっています。SAPユーザー企業にとって、SAP ERP 2025年対応は、新規でSAPを導入する企業の動きも考慮すると、2025年まで“まだ5年ある”ではなく、“もう5年しかない”と考えて、対応方針の検討やバージョンアップ等全体計画の策定を早めに開始することが望ましいでしょう。

2.SAP ERP 2025年対応の方向性

SAP ERP 2025年対応では、ユーザー企業の取り得る選択肢は、1.業務改革(BPR)の効果、2.DXも含めた全体の将来像、3.保守も含めたトータルコストの観点から4つのパターンに分かれます(図表1参照)。

図表1 全体計画策定時の観点と方針
全体計画策定時の観点と方針

多くのSAP ERPユーザーは、SAP S/4 HANAへのバージョンアップ、または再度の新規導入をまずは検討すると考えられるため、本稿ではブラックボックス化の解消を目指し、再度新規でSAP S/4 HANAを導入するケースを解説します。なお、ほかのERPを選択する場合においても同じアプローチになると考えます。
かつて、ERPの導入は、“靴に足を合わせる”(すなわち、業務改革により、業務をERPに合わせる)ことが重要と言われていました。しかし残念ながら、いつの間にかERPの導入自体が目的となり、結果として、アドオン開発が膨れ上がった企業も少なくありません。幸い、近年は、RPAやAIなど新たなテクノロジーの活用が可能となり、これらのテクノロジーを組み合わせた業務改革によって、以下の点も考慮したシンプルなERPとしての再導入も戦略上優位な選択肢となります。

  •  導入コストおよび、導入後にERPを活用する本番期間のランニングコストの最小化(導入コストと5年間の運用保守コストは同程度とも言われます)
  • グループ会社や海外子会社への展開とガバナンスへの対応
  • M&A等による事業の統廃合へのフレキシブルな対応

II.ERP導入の具体的な進め方

SAP S/4 HANA導入を進めるにあたっては、まず、業務改革、グループ会社や海外子会社への展開、将来的なインフラ基盤、DXへの対応も含め、全体計画の立案が必要です。そして実際のプロジェクトを遂行するにあたっては、全体像と新業務の将来像を明確化し、ERP導入自体がプロジェクトの目的にならないように、チェンジマネジメントを意識して進めることが重要です。

1.クラウドの活用

これまではオンプレミスが中心でしたが、今後はIaaS/PaaS型に加えて、SaaS型もアドオンの最小化と保守運用の効率面(ライフサイクルでのコスト最小化)を考慮すると、クラウドの活用は有力な選択肢に入ってくると考えらえれます。オンプレミス、クラウドの選択は、周辺システムとの関連などのフレキシビリティの度合いと、業務改革の難易度との二軸で考えることができます(図表2参照)。

図表2 オンプレミスとクラウド型の選択
オンプレミスとクラウド型の選択

オンプレミスの周辺システムが多くあり、それらのクラウド移行も難しい場合(クラウドとオンプレミス間のインターフェースの負荷が多くなる)や、大幅な業務改革が難しい場合は、オンプレミス型を選択することもあり得ますが基本的には望ましくなく、今後はIaaS/PaaSまたはSaaS型を、業務変革の難易度に応じて選択することになります。特に、グループ会社や海外子会社への拠点展開には、ガバナンスの観点からも適用が比較的容易で、コスト面でも最小化できるSaaS型ERPの活用が有効と考えられます。2025年が近づくと、SAPエンジニアの不足からSaaS型を選択せざるを得なくなり、このような動きが早まることが見込まれます。ERP各社は、SNS等カスタマー情報やIoTでのセンサー情報等の非構造化データとの連携や、AI活用ソリューションの拡充等を予定しているので、今後はERP各社のこれらクラウドソリューションをDX基盤として活用することも考えられます。大手企業では、基幹システムの領域において、主要業務はERPで、その他の周辺領域はSaaS型のポイントソリューションを組み合わせることを標準とするケースも見られるようになりました。将来的には、SaaS型パッケージの組合せによる基幹システムの構成が一般的となることが予想されます。

2.業務改革の進め方

ここで重要となるのは、業務プロセスの標準化です。慣れ親しんだ業務を変えるのは難しいものですが、アドオン削減、運用保守の効率性を考慮したコスト削減に加えて、何よりも、複雑化したレガシーシステムを再度生み出さないためにも、標準化が極めて重要です。SAP ERPの導入においては、現在Fit to Standardとして、SAP ERPの標準プロセスを標準業務フローとする(すなわち、靴に足を合わせる)ことが提唱されるようになってきました。ここで考慮することは、競争力の源泉となる業務はERPの適用の回避またはアドオンでの対応が必要ですが、それ以外の業務は標準業務フローに合わせてしまうことです。ただし、業務を変えずに標準フローを適用した場合は、ERPの適用範囲が狭まるだけとなり、マニュアル対応が増加し本末転倒となり得るため、RPAの活用等、上手く工夫をして業務を変えることが必要です。
業務改革には、4C(Cut/Create/Conbine/Convert)の観点から、業務の変更、簡略化、RPAによる自動化、アドオン判定会議を設ける(よく言われることですが、トップのリーダーシップは最も重要です。価値向上に寄与しないアドオンは認めない覚悟が重要で、承認者である会議のオーナーをCFOが担当する企業も見られます)、ルールを変える(社外に対しては困難ですが、社内においてはアドオン会議等の活用により可能です)等を検討することも有効です。
たとえばアプローチとして、現行業務プロセスA→B→Cに対して、A、CはSAP標準機能で対応できるものの、Bについては対応できずアドオンを実施しているような場合、標準プロセスのA→Cへ変更するには以下を検討します。

a SAP S/4 HANAの新規に拡充された機能の適用検討
b 業務変革
c RPA、AI等を活用した自動化
d ある業務に特化したポイントソリューションの活用
e アドオン(JAVA or ABAP)時の工夫

3.アドオン削減の考え方

アドオン時には、RICEF(Report/Interface/Conversion/ Enhance/Form)の観点から考えることも有効です。レポート(Report)については、RPAを活用したり、情報検索系のシステムを充実させることでアドオン削減を検討します。インターフェース(Interface)については、SAPによるシステム統合、インスタンス統合を考慮します。移行フェーズ(Conversion)では、ツールを活用します。拡張(Enhance)は、ExitなどSAPの拡張機能のことで、カスタマイズでは対応できない場合、アドオンの前に、まず検討することになります。拡張機能で対応できることも多いため、熟練のエンジニアを割り当てることも効果的です。また、アドオン時には、共通アドオン、ローカルアドオンの管理も必要です。ワークフローについてはRPAの活用、また帳票(Form)については業務の見直しやRPAの活用を勘案するとともに、画面系はツール等を活用し、ユーザーが自ら画面を作れるような工夫をすることも有効です。

4.拠点展開にあたって

グループ会社や海外子会社等へ展開する場合、業務の標準化によるアドオン本数削減に加えて、アプリケーションの標準化も重要です。すなわち、開発標準、マスター、コード、データ標準、展開方法自体も標準として準備し、それらに沿って開発、展開を進めることが効率化に繋がります。多角化経営の企業では、事業や製品、また地域ごとに必要な機能が異なることがあり、生産、販売拠点によっても異なります。このような場合、グローバルテンプレートを作成し、必要なアドオン機能を部品化して、アドオンライブラリーから必要な機能を組み合わせる考え方も有益です(図表3参照)。場合によっては、SaaS型を活用し、法対応等どうしても必要なアドオン以外は思い切って業務でカバーすることも結果的には効率的かもしれません。展開順についても、これらの標準を適用しやすい海外拠点からスタートして、アドオン本数が多くなる日本への展開を最後とし、アドオンを最小化する方針をとる企業も見られます。

図表3 アドオンプログラムの部品化
アドオンプログラムの部品化

5.アドオン時の工夫

最近では、SAP Cloud Platformのようなクラウドサービスも出てきており、これを活用すると汎用的なJAVAでのアドオン開発が可能となります。この場合は、人材不足が懸念されるABAP言語でアドオンを開発するよりも、エンジニアが多く、汎用的な言語であるJAVAで開発する方が効率的とも言えます。また、JAVAの場合は、ローコーディングツール/超高速開発ツールの活用も可能で、さらなる効率化も図ることができます。
SAPはグローバルで展開されているERPのため、海外のエンジニアやベンダーでの英語による開発とその後の保守も有効と考えられます。SAPエンジニア不足の観点も含め、いずれにしてもアドオンは、極力少なく作り、汎用的な技術(英語も含め)で対応することが重要です。

III.DXへの対応

SAP S/4 HANA等の新たなERPへの移行をDXへのチャンスととらえた場合、データの活用と業務の効率化を含めて検討することがDX実現に有効で、それらについても以下にご紹介します。

1.データ活用による企業競争力強化

昨今、ビッグデータをマーケティング、業務改善、リスク分析に活用している企業は増えていますが、その場合は部分最適にとどまらず、企業全体の最適化を実現することが重要です。企業全体の競争力を最大化していくためには、顧客やマーケットの変化をリアルタイムに捉え、全体最適を実現する効果的な施策を、いち早く実行に移していくことがポイントとなります。ERP、その他基幹システムや設備のセンサーデータ等の企業データと、SNSや顧客が使用中の製品の稼働データ等も含め、デジタル技術を活用した「経営分析の高度化」、「意思決定の迅速化」に取り組むことが求められます。特に、全社で統一された企業データを得られるERPはその中心となり(図表4参照)、たとえば、以下の2点を目指すことが効果的と考えられます。

(i)AIを活用した「経営分析の高度化」
AIを活用し、多様な社内外データの関連性を紐解き、膨大なデータから企業戦略を支える最適な施策を導き出す。

(ii)デジタルデータ基盤による「意思決定の迅速化」
膨大なデータをリアルタイムで分析可能とするデジタルデータ基盤を整備し、リアルタイム経営を実現する。

図表4 データ活用による企業競争力強化
データ活用による企業競争力強化

2.RPAと他テクノロジーとの連携による業務効率化

RPAと他のテクノロジーとの連携により、自動化の適用範囲が拡大しつつあります。これらを活用することで、ERP導入時の業務改革も進めやすくなります。

(i)認識系テクノロジーとの連携
目視や手書きといった「アナログなプロセス」が残っている業務の場合、OCRや映像解析、音声解析等によるデータ認識を介してデジタル化することによって、RPAの適用が可能となる。
たとえば、データエントリ業務においてOCRを活用したERPへのデータ入力等は広く行われるようになっている。

(ii)AIとの連携
業務の途上で人手を介さずに都度判断を行うといった「自律性」を補完する手段としては、AIとの連携が効果的。一部ではAIを利用したチャットボット等で保守フェーズでの問合せ業務や、定型フォーマットからのERPへの転記入力業務や突合のような上記(i)との組合せ等も行われており、今後の本格化が見込まれる。

 

※SAP、記載されているすべてのSAP製品およびサービス名はドイツにあるSAP SEやその他世界各国における登録商標または商標です。またその他記載された会社名およびロゴ、製品名などは該当する各社の登録商標または商標です。

執筆者

KPMGコンサルティング株式会社
パートナー 浜田 浩之
ディレクター 竹下 智
シニアマネジャー 吉澤 邦仁

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