小売業界に役立つアプリの活用法

「小売りの明日」第10回 - 小売業界において、アプリをいかに活用し顧客の利便性を上げるかについて、店舗とオンラインをつないだ活用例も用いて解説する。

小売業界において、アプリをいかに活用し顧客の利便性を上げるかについて、店舗とオンラインをつないだ活用例も用いて解説する。

スマートフォン(スマホ)のアプリの年間ダウンロード数は、世界で1970億を超えると言われる。日本における1人あたりのアプリ所持数は100本以上(世界1位)で、1日あたりのアプリ利用数は約10本(世界5位)というデータもあり、消費者との接点作りにアプリがいかに重要かがわかるだろう。
アプリをダウンロードしてもらい、スマホのトップ画面に置いてもらえるかどうかは、スマホの一等地を確保できるかということだ。その中で小売店の手掛けるアプリの多くは、単なるポイントカードの代行機能が中心だ。ポイント機能もなく、ウェブサイトと変わらない情報のみのアプリに至ってはタップされることもなくなる。

アプリに求められるのは「課題解決力」ではないだろうか。その点で回転ずし最大手のあきんどスシローのアプリには学ぶべきことが多い。850万件のダウンロード数を超える「スシローアプリ」は、店舗で待たされるという顧客の課題に対応したシンプルなソリューションであり、混雑状況を把握しながら事前予約をし、スムーズな入店を支援した。
あきんどスシローはアプリに留まらず、顧客への呼び出しや席への案内に店舗内の大型ディスプレーを使ったり、自動音声応答でテイクアウトの注文を受け付けたりもする。加えて、セルフレジなどの取組みも開始した。一連の取組みは飲食業界の人材不足への対応だという評価だけでは物足りない。低価格でおいしい食材を提供しつつ収益性を確保することにもつながっている。

この流れは小売業界においても同じことが求められる。顧客のスマホに自店の情報を自動で配信する「プッシュ通知」のみを目的としたアプリでは普及しない。また、アプリの画面を開くよりも財布からポイントカードを出す方が早くて楽ならば、顧客の課題を解決させるどころか手間を増やすことになる。アプリで、どの課題を解決し、さらに店舗とオンラインがどのように連携して顧客への利便性を向上させていくのかを考慮したアプリの開発が重要になる。
アパレル業界に目を転じると、示唆に富むアプリでの取組みが多い。商品を購入する前にトータルコーディネートを確認できるアプリや、購入後にどのように使うかという「How To」を提供しているものもある。「商品(=What)」の前段階にある顧客の課題解決が、成功しているアプリの共通点として見て取れる。

アプリは商品を売り込むものではない。顧客の課題を解決するソリューションツールであると捉えることが重要だろう。顧客が自然にアプリを開くような必然性を押さえつつ、単なる宣伝広告ではないソリューションへと役割を昇華させられるかどうかが、成否を左右する。アプリ1つを取ってみても企業の経営戦略や顧客との向き合い方が色濃く出る興味深いテーマだ。

日経MJ 2019年2月11日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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