企業価値を守る危機管理広報とは

「レジリエンスを高める」第19回 - 有事の際に正確に情報提供する、企業価値を損なわないための広報活動について、PR会社やコンサルタントの起用も含めて解説する。

「レジリエンスを高める」第19回 - 有事の際に正確に情報提供する、企業価値を損なわないための広報活動について、PR会社やコンサルタントの起用も含めて解説する。

企業で不祥事などが発生した際、広報対応に失敗し、実際の事件によるダメージ以上に企業価値を落としてしまうケースがある。
ソーシャルメディアなどの浸透で、マスメディアでの報道がより広範囲に伝わって、事実とは異なる内容が一般的な世間の認識となってしまうケースも存在する。そのため、企業からの自主的な情報発信により「事実」を世間に直接公表することが重要となる。「広報」とは単なる情報発信のみを指すのではなく、ステークホルダーに対して意図を持って情報発信し理解を得るための活動である。

有事の際に正確な情報を提供するためには、報道機関に受け身の対応をとるのではなく、世間に対して積極的に正確な情報を提供する必要がある。また、企業の代表が不在となる場合も想定されるため、代行責任者や担当者も緊急時のメディア対応の正しい知識と判断が求められる。具体的な準備としては「ポジションペーパー」と呼ばれる対外的な対応や情報発信のポジション(立場・方針)を定めたものを用意しておくことが有効である。ここに「事実関係・経緯」「原因」「当面の対応」「再発防止策」なども整理しておき、緊急時広報対応に活用する。

不祥事が報道されると、多数の取材を申し込まれることがある。記者が一般従業員に直接取材を試みることもあるため、一個人の見解があたかも企業全体の見解のように誤解を与えないよう、「勝手に取材を受けない」というルールを徹底することがある。また、事件が社会に与える影響の度合いによっては、緊急記者会見を行うことも考慮に入れる必要がある。ただし、記者会見にはメリット・デメリットがあるため、「世間の状況」や「どこまで確実な事実を伝えることが可能か」という点を踏まえて実施の要否を判断する。
記者会見を実施しても「何も答えられない」「会見で誤った情報を伝えてしまい、後日訂正を発表する」となれば、メディアとの関係悪化や世間の信頼低下を招き、事態を悪化させてしまう。危機広報専門のPR会社やコンサルタントなど危機管理広報の経験者に助言を求めることも一案である。

企業としては、従業員一人ひとりが正確な知識と心構えを持って対応できるように、マニュアル整備や研修により組織内に浸透させ、広報対応のミスによるレピュテーション毀損を防ぐ体制を平時から準備しておくべきである。

危機管理広報での留意点

  1. トップの意識
    大規模災害や組織が関わった不正・不祥事は、企業トップの対応以外では収拾がつかないケースが多い。

  2. 初期対応
    対応を誤ると報道陣や報道に接した関係者、世間の不信を買い事態悪化の懸念も生じる。

  3. スタッフ確保
    緊急時に本部スタッフがそろわないと、すべての対応が後手に回る。

  4. 正確な情報収集
    大災害では報告が来ないことが重要な情報の場合もあるため、情報の信憑性の確認も重要である。
      
  5. 誤報への対応
    放っておくと黙認したものと見なされ、誤った情報が独り歩きする懸念も生じる。

日経産業新聞 2017年12月4日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 土谷 豪

レジリエンスを高める

お問合せ