基準最終化に向けた再審議の開始(週刊経営財務2020年2月24日号)

基準最終化に向けた再審議の開始(週刊経営財務2020年2月24日号)

週刊経営財務(税務研究会発行)2020年2月24日号に、IFRS第17号の最終化に向けた2019年12月のIASB会議に係るKPMG/あずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

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はじめに

国際会計基準審議会(IASB)は、2019年6月26日、IFRS第17号「保険契約」(以下、IFRS第17号)を部分的に修正する公開草案「IFRS第17号の修正」(以下、本公開草案)を公表した。本公開草案は、2017年5月に公表されたIFRS第17号に対する修正を提案し、当該修正案について利害関係者からのコメントを求める目的で公表されたものである。
本公開草案は、公表されてから90日のコメント募集期間(2019年9月25日まで)に付されていたが、2019年12月のIASB会議から、寄せられたコメントを踏まえた再審議が開始された。12月の会議では、本公開草案による修正案のまま最終確定すべき論点の確認と、更新契約に係る契約獲得キャッシュ・フロー及び再保険契約における会計上のミスマッチの軽減について審議が行われ、IASBスタッフの提案通りに暫定決定された。本稿では、12月のIASB会議の概要について解説する。文中の意見にわたる部分は私見であり、特に断りのない限り、項番号および付録はIFRS第17号のものを指す。

最終確定すべき論点

12月の会議では、本公開草案にて修正が提案された論点のうち、さらなる検討を行わずに最終確定すべきとされた以下の論点について確認された(これらの修正が提案された背景についてはIFRS第17号の修正に関する公開草案の解説(週刊経営財務2019年8月26日号)を参照)。

# TOPIC
1 重要な保険リスクを移転する一部の融資契約の適用除外
2 直接連動有配当契約に係る投資関連サービスの利益への配分規準
3 保険資産・負債に係る財政状態計算書上の表示の簡素化
4 再保険契約に対するリスク軽減オプションの適用
5 リスク軽減オプションの適用に係る移行規定
6 企業結合などで取得した支払備金に関する取扱い

1.重要な保険リスクを移転する一部の融資契約の適用除外
本公開草案では、保険契約の定義を満たす融資契約であっても、保険事故に対する補償を当該契約によって創出された保険契約者の義務を決済するために要する金額に限定する契約(契約者の死亡時に融資残高の支払いが免除される融資契約等)についてはIFRS第17号又はIFRS第9号「金融商品」のいずれかの基準を適用することができるように修正されている。

2.直接連動有配当契約に係る投資関連サービスへの利益の配分規準
本提案は、2018年6月のIASB会議において検討された論点であり、直接連動有配当契約における保険収益の認識(契約上のサービス・マージン(CSM)を各報告期間へ配分するためのカバー単位の決定)について、保険カバーだけでなく、保険契約が提供する投資関連サービスも含めて給付の量と予想期間を考慮しなければならないと修正されたものである。

3.保険資産・負債に係る財政状態計算書上の表示の簡素化
本公開草案では、保険契約資産及び保険契約負債の表示について、契約グループレベルではなく、契約ポートフォリオレベルで区分して表示するように修正されている。なお、当該修正は、保有している再保険契約のポートフォリオにも適用される。

4.再保険契約に対するリスク軽減オプションの適用
本公開草案では、企業が直接連動有配当契約から生じる金融リスクを軽減するために再保険契約(出再保険)を使用する場合にも、デリバティブを用いて金融リスクを軽減する場合と同様に、リスク軽減オプション※を適用することができるように修正されている。
※保有するデリバティブにより直接連動有配当契約から生じる金融リスクを軽減する場合、当該金融リスクの変動による影響を純損益に反映させ、デリバティブの損益とマッチングさせることができるオプションが定められている(IFRS17. B115~B118項)。

5.リスク軽減オプションの適用に係る移行規定
本提案は、IFRS第17号移行日におけるリスク軽減オプションの適用に関するものであり、以下の内容となっている。

  • IFRS第17号の移行日又はそれ以前にリスク軽減関係を指定している場合には、IFRS第17号の適用開始日(IFRS第17号を最初に適用する事業年度の期首)ではなく、IFRS第17号の移行日(適用開始日の直前の事業年度の期首)から将来に向かってリスク軽減オプションの適用を認める。
  • 以下の両要件を満たす場合、IFRS第17号を遡及適用することができる直接連動有配当契約のグループに公正価値アプローチを適用することができる。
    • 移行日から将来に向かってリスク軽減オプションを使用することを選択する。
    • 移行日以前から、金融リスクを軽減するために、デリバティブまたは再保険契約を保有してリスク軽減の実態を有している。

6.企業結合などで取得した支払備金※に関する取扱い
※本公開草案における表現は「保険金の決済に関連する負債」となっている。
本提案は、IFRS第17号移行日における例外として、修正遡及アプローチを適用する場合または公正価値アプローチを適用する場合に、移行日以前に企業結合などで取得した支払備金を、発生保険金に係る負債として分類するものである。なお、本提案は、事業を構成しない保険契約の移転及びIFRS第3号の企業結合で取得した契約に適用されることが確認された。

更新契約に係る契約獲得キャッシュ・フロー

12月の会議では、さらなる検討を行う論点のひとつとしていた、更新が見込まれる保険契約に係る契約獲得キャッシュ・フロー(代理店手数料など)の取扱いにつき、以下の暫定決定がされた。なお、IASBのスタッフは、更新契約に係る契約獲得キャッシュ・フローに関する移行措置の軽減についての分析及び提案を、次回以降のIASB会議に提供することを予定している。

契約獲得キャッシュ・フローの配分方法

保険契約グループに直接起因する契約獲得キャッシュ・フローを、「規則的かつ合理的」に以下のグループに配分することが要求される。

  • 当該保険契約グループ
  • 当該保険契約グループに含まれる保険契約の更新から生じると見込まれる保険契約を含むグループ

また、それぞれのグループに配分した後の金額の取扱いにつき、以下のとおり明確化されている。

  • 当該保険契約グループを認識した後は、配分された契約獲得キャッシュ・フローの金額を変更することはできない。
  • 未認識の保険契約グループに配分した金額は、配分方法のインプットを決定するアサンプションの変更を反映するために、各報告日に更新しなければならない。

なお、本公開草案での提案通り、企業側に過度な制限を与える可能性を懸念し、契約獲得キャッシュ・フローを「規則的かつ合理的に」配分するための方法に関するガイダンスや例示は提供されていない。当該会計処理は、保険契約グループに配分するかどうかの選択を認めるものではなく、該当する保険契約に要求される処理であるため、企業は具体的な配分方法について、契約内容等の事実や状況に応じた検討が必要になると考えられる。

資産の会計単位及び減損テスト

企業が更新後の契約を認識するまで、配分された契約獲得キャッシュ・フローは資産として認識されることとなるが、当該資産につき減損テストが要求される。この減損テストに関し、以下が確認された。

  • 減損テストの実施は、耐用年数を確定できない無形資産等について行われているような年次のプロセスではなく、各報告期間の末日現在で当該資産が減損している可能性があることを事実又は状況により示唆している場合に実施される。
  • 契約獲得キャッシュ・フローに係る資産の会計単位は、契約獲得キャッシュ・フローが配分された保険契約グループである。

なお、本公開草案では、契約獲得キャッシュ・フローに係る資産の減損テストを以下の2ステップで実施することとされている。

  • ステップ1:保険契約グループレベルでの減損テスト
  • ステップ2:予想される更新契約に配分された契約獲得キャッシュ・フローに固有の追加減損テスト

ステップ1のテストでは、契約獲得キャッシュ・フローに係る資産の帳簿価額と対応するグループの予想正味キャッシュ・インフローを各グループ単位で比較し、帳簿価額が下回る場合に減損損失が認識される。予想正味キャッシュ・インフローには、既存契約者の契約更新に係るキャッシュ・フロー及び同グループに追加される将来の契約者との契約に係るキャッシュ・フローが含まれる。
さらに、ステップ2の追加減損テストでは、既存契約者の契約更新に係るキャッシュ・フローのみを対象として、契約獲得キャッシュ・フローに係る資産の帳簿価額との比較が行われる。当該追加減損テストは、ステップ1において将来の契約者との契約に係るキャッシュ・フローを見込むことにより、既存契約の更新が見込まれないにもかかわらず減損が認識されなくなってしまうことを回避する意図がある。

図表1 減損テストの2ステップ
図表1 減損テストの2ステップ

出典:12月のIASB会議資料“Agenda paper 2B”の設例をもとに筆者作成

表示および注記

財政状態計算書において、契約獲得キャッシュ・フローに係る資産は、独立科目で表示されず、保険契約ポートフォリオの帳簿価額に含めて表示することが確認された。また、以下の情報を注記しなければならないことも確認された。

  • 報告期間の期首から期末への当該契約獲得キャッシュ・フローに係る資産の変動(減損損失の認識及び戻入は別掲)
  • 当該契約獲得キャッシュ・フローに係る資産の認識を中止し、更新後の保険契約グループの測定に含めると予想している時期に関する適切な期間区分での定量的な情報

再保険契約における会計上のミスマッチの軽減

本公開草案では、当初認識時における元受契約が不利な契約について、対応する再保険契約の利得を認識するという修正が提案されていたが、大半の回答者から、適用される再保険契約の定義が狭すぎるという懸念のコメントが寄せられていた。12月のIASB会議では当該コメントに対応するため、IASBスタッフより本公開草案からの変更が提案され、以下のとおり暫定決定されている。

適用対象の拡大

本公開草案では、当初認識時において利得を認識できる再保険契約は、元受契約の損失を比例的(proportionate basis)にカバーする再保険契約(つまり、固定された比率の保険金を回収する再保険契約)に限定されていた。12月のIASB会議では、適用対象を拡大し、不利な契約の当初認識時及び当該契約グループに不利な契約が追加される際に不利な契約損失を認識する場合、比例的にカバーする再保険契約に限らず対応する保有する再保険契約について利得を認識することとされた。また、当該変更は、元受契約に係る損失が認識される前または同時に、保有する再保険契約が認識される場合にのみ、適用されることが確認された。
適用範囲の拡大に伴い、再保険契約による損失回収額の算定方法についても修正され、以下の1.と2.を乗じて算出することが要求されるものと暫定決定された。

  1. 元受契約について認識された損失
  2. 元受契約に係る保険金のうち、企業が再保険契約から回収すると見込んでいる割合

要求される算定方法によると、図表2に示したとおり、損失回収額として認識される金額は、再保険契約全体のキャッシュ・フローから回収される金額ではなく、「保険金」のみに着目した割合に基づく金額となる。さらに、再保険契約が純額で損失になる契約であったとしても、元受契約の損失に見合う利得が認識されることとなる。しかしながら、適用する企業にとって実務上簡便な方法であること、及び財務諸表利用者にとって比較可能性と透明性がある有用な情報を提供するものであるとIASBは考えたようである。

図表2 再保険契約からの損失回収額の算定方法と純損益への認識
図表2 再保険契約からの損失回収額の算定方法と純損益への認識

出典:12月のIASB会議資料“Agenda paper 2C”の設例をもとに筆者作成

その他

  • 本公開草案では、IFRS17.BC304項に対する脚注を追加することが提案されていたが、適用範囲を拡大する変更に伴い、適用範囲を狭めるおそれがあるとして、本提案は削除された。
  • 再保険契約に係る認識された利得は残存カバーに係る資産の「損失回収要素」として設定され、元受契約の損失要素と整合的な方法で会計処理されることになる。これについて、一部の回答者からガイダンスを求めるコメントが寄せられていたが、IASBスタッフは、追加の設例を設けるか又は教育マテリアルを提供することを検討している。
  • 再保険契約に係る事後測定時に元受契約グループが不利となった場合の基準(IFRS17.66項(c)(ii))の適用は、元受契約に保険料配分アプローチを採用している場合にも適用される。

今後のスケジュール

IASBでは2019年12月から2020年2月までの期間において、基準最終化に向けたさらなる検討を行い、以下の論点について次回以降の会議で再審議する予定である。修正後の最終基準の公表は2020年の中頃とされている。

# TOPIC
1 重要な保険リスクを移転するクレジットカード契約の適用除外
2 直接連動有配当契約以外の保険契約に係る投資活動に関連するサービスへの利益の配分規準
3 デリバティブ以外の金融商品を利用したリスク軽減オプションの適用
4 IFRS第17号の発効日の延期
5 移行措置におけるリスク軽減オプションの遡及適用
6 基準内の用語に関する軽微な修正等
7 集約レベル
8 企業結合により取得した決済期間中の保険契約の分類
9 期中財務諸表
10 特定の移行措置に係る追加の修正及び軽減

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