日本公認会計士協会監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQ&A」の解説 第4回KAMの記述(1)固有情報の記載など

日本公認会計士協会監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQ&A」の解説 第4回KAMの記述(1)固有情

旬刊経理情報(中央経済社発行)2019年10月10日号に監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQ&A」に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。第4回は、KAMの記述に関連するQ&Aについて取り上げます。

この記事は、「旬刊経理情報2019年10月10日号」に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

ポイント

  • KAMをどのように記述するかの決定に際しては、KAMの記述が、利用者にとって目的適合性のある情報となっているかどうかを考慮する。利用者の監査および監査人の判断に対する理解が深まるような情報が目的適合性があるということであり、そのためには、個々の会社の特定の状況に直接関連づけた記載を含めることが極めて重要である。
  • 会社の状況等に重要な変化がなければ、KAMとして選定する項目は前年と同じとなることもあるが、会社の特定の状況に直接関連づけた記載を含めることにより、決定理由や監査上の対応に当期の状況を反映することができる。
  • 手続の結果や監査人の主要な見解を記載する場合は、KAMとして選定した項目に対する個別の監査意見を表明しているという印象を与えないように留意する。


日本公認会計士協会(JICPA)より、2019年7月18日付けで監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQ&A」(以下、「本研究報告」という)が公表された。今回は、本研究報告に含まれている監査上の主要な検討事項(Key Audit Matters、以下「KAM」という)の記述に関連するQ&A(図表1参照)について取り上げる。

図表1 KAMの決定に関連するQ&A

Q2 - 9 監査上の主要な検討事項における固有の情報の記載
Q2 - 10 監査上の主要な検討事項の経年比較
Q2 - 11 監査上の主要な検討事項の記載順序
Q2 - 12 監査人が行った手続の結果や監査人の主要な見解の記載
Q2 - 13 監査上の主要な検討事項における専門家又は構成単位の監査人への言及

1.監査報告書における「KAM」区分

(1)KAMの記載要件

監査報告書において、「監査上の主要な検討事項」区分は、監査意見および意見の根拠区分とは別に設けられる。継続企業の前提に関する重要な不確実性に関する区分がある場合などを除いて、多くの場合は、意見の根拠区分に続いてKAM区分が設けられる。
KAM区分の冒頭には、KAMとはどのようなものであるかを説明した文章を記載したうえで、監査人が決定した個々のKAMを、適切な小見出しを付して、記載する(監基報701第10項)。個々のKAMについては、次の事項を記載することが求められている(監基報701第12項)。

  • 財務諸表に関連する注記事項がある場合は、当該注記事項への参照
  • KAMの内容
  • KAMに決定した理由
  • 監査上の対応

さらに、監査上の対応として、次の項目を組み合わせて記載することが想定されている(監基報701のA46項)。

  • KAMに最も適合している、または評価した重要な虚偽表示リスクに焦点を当てた監査人の対応または監査アプローチの内容
  • 実施した手続の簡潔な概要
  • 手続の結果
  • 監査人の主要な見解

個々のKAMの記載の様式は特に指定の様式があるわけではなく、前述の項目が記載されていればどのような様式で記載してもよい。海外の国際監査基準に基づく海外の監査報告書の実例をみると、個々のKAMの小見出しの下に、段落を分けて、KAMの決定理由と監査上の対応の見出しを付して記述している例もあるが、表形式で左列にKAMの内容およびKAMの決定理由、右列に監査上の対応を記載している例が多いように思われる。KAMの選定理由と監査上の対応が左右に対応する形で記載され、理解しやすい様式として受け入れられているためと考えられる。いずれにしても、新様式の監査報告書は、KAM以外の区分も拡充されており、全体に長くなるため、利用者にとって読みやすい様式で記載することが肝要である。
監査・保証実務委員会実務指針第85号「監査報告書の文例」(2019年6月に改正版を公表)では、海外の事例を参考に、表形式のKAM区分が例示されている(図表2参照)。

図表2 監査報告書のKAM区分

監査上の主要な検討事項

監査上の主要な検討事項とは、当事業年度の財務諸表の監査において、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項である。監査上の主要な検討事項は、財務諸表全体に対する監査の実施過程及び監査意見の形成において対応した事項であり、当監査法人は、当該事項に対して個別に意見を表明するものではない。

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 監査上の対応
KAMの内容を表す小見出し○○○○
KAMに関連する財務諸表の注記事項への参照
・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・
KAMの内容を表す小見出し○○○○
KAMに関連する財務諸表の注記事項への参照
・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・

(2)除外事項付意見の場合の取扱い

監査人が、除外事項付意見を表明しなければならない状況にあるにもかかわらず、除外事項付意見を表明せず、除外事項に該当する事項をKAM区分において報告することは禁止されている(監基報701第11項)。今後も、除外事項付意見に至った理由は意見の根拠区分に記載する。一方、除外事項を付す状況を考えると、そのような事項は、当期の監査において監査人が特に注意を払い、特に重要であると判断した事項と考えられ、KAMの定義に照らしてKAMに該当することとなる。つまり、除外事項は性質としてはKAMに該当するが、監査報告書上は、記載の重複を避けるために監査意見の根拠区分に除外事項としてのみ記載するという整理がなされている。
このような整理にもとづき、監査意見が除外事項付限定意見または不適正意見の場合は、KAM区分を設け、除外事項以外にKAMとなる事項がない場合はその旨、ある場合は除外事項に記載した事項を除きKAMを記載している旨の説明文を追加する(図表3参照)。

図表3 除外事項付限定意見または不適正意見の場合のKAM区分

監査上の主要な検討事項

監査上の主要な検討事項とは、・・・(中略)・・・・当該事項に対して個別に意見を表明するものではない。

除外事項以外にKAMに該当する事項がない場合
当監査法人は、「限定付き適正意見の根拠(または不適正意見の根拠)」に記載されている事項を除き、監査報告書において報告すべき監査上の主要な検討事項はないと判断している。

除外事項以外にKAMに該当する事項がある場合
当監査法人は、「限定付き適正意見の根拠(または不適正意見の根拠)」に記載した事項のほか、以下に記載した事項を監査報告書において監査上の主要な検討事項として報告すべき事項と判断している。

(3)意見不表明の場合の取扱い

監査人が財務諸表に対する意見を表明しない場合は、監査報告書において、KAM区分を設けてKAMを記載してはならないとされている(監基報705第28項)。これは、意見不表明の原因となった事項以外にKAMに該当する事項があり、当該事項をKAM区分に記載してしまうと、財務諸表全体に対して意見を表明していないにもかかわらず、KAMに記載した事項については監査人がしっかり監査を行っているという誤解を与える可能性があるため、KAM区分は設けないこととされた(監基報705のA25項)。

2.固有の情報の記載

定型的な文章で構成される従来の監査報告書では、利用者は個々の会社の監査の状況を知ることができないという批判に対応するために、KAMは、導入されるものである。したがって、KAMの内容、決定理由および監査上の対応の記述にあたっては、個々の会社の特定の状況に関連づけて、その会社の監査に特有の情報を含めることが適切とされている(監基報701のA44項、A47項およびA48項)。Q2 - 9では、個々の会社の特定の状況に関連づけた記載がどのようなものであるのかについて、具体的な解説を提供している。
KAMの導入により期待されている効果の一つに、利用者による監査および財務諸表に対する理解が高まることが挙げられている。利用者は、財務諸表や、財務諸表以外の手段により会社が公表する情報とともに、市場動向等の入手可能なさまざまな情報とあわせて、監査報告書のKAMを読むことが想定される。したがって、監査人は、監査に関する情報として、監査人の視点や重要な判断の領域についての利用者の理解が深まるように記載することが極めて重要である。利用者にとっての情報の目的適合性の観点である。利用者の理解が深まるような情報が含まれていないKAMは、情報としての目的適合性がないということになる(監基報701のA43項参照)。そのような観点から記述にあたっての留意点として、次の点が示されている。

(1)KAMの対象領域や金額の特定

KAMの内容を記述する際に、KAMの対象となっている領域や金額を特定する。対象領域や金額を曖昧にすると、監査の重点(KAMのポイント)が適切に伝わらないだけでなく、対象が広範に及んでいるかのような誤った憶測につながる可能性があるためである。財務諸表に表示されている勘定科目と残高を記載した場合、KAMとして取り上げている事項が勘定科目全体に及ぶのか、その一部のみに関連するのかが不明瞭となる。
たとえば、過年度に複数の企業買収を行い、貸借対照表には複数ののれんが計上されていることがある。のれんの評価がKAMに選定されることは先行国の例をみても多いが、当期の監査において監査人が特に注意を払い、特に重要であると判断した対象が、すべてののれんであるのか、一部ののれんであるのかについて対象を明確に記載しないと、KAMの決定理由や監査上の対応を会社の状況に直接関連づけた記載とすることは困難となる。
また、収益認識についてもKAMとして取り上げられることが多いが、損益計算書の売上高全体がKAMの対象となることは、少ないと考えられる。監査人は、誤謬または不正による重要な虚偽表示リスクの評価において、どのような種類の売上取引に、どのようなタイプの虚偽表示が起こり得るかを検討し、リスクを評価することが求められているためである。したがって、KAMの対象になっている売上取引の概要と概算金額を示すことが、KAMとして取り上げる事項の論点および財務諸表における重要性の理解につながる。
KAMの対象領域や金額は、KAMの決定理由と一緒に記述されることも多いと考えられるが、的確なKAMを記述するための重要な導入部分となる。

(2)固有の情報

KAMの決定理由や監査上の対応を記述するにあたっては、対象となる会社の事業内容および事業環境に紐づいた固有の要因を含めて記載することが重要である。財務報告の枠組み(会計基準)や監査の基準の文言のみで記述すると、専門用語が多用され、一般にはわかりにくい文章となる恐れだけでなく、どの企業にも共通する一般的な記載となるおそれが高い。
たとえば、会計上の見積りに関連するKAMを記述する場合、単に「見積りの手法が複雑である」、「見積りに使用されている重要な仮定は経営者の主観的判断に大きな影響を受ける」等の記述では、利用者は、会計上の見積りにどのような会社固有の不確実性に関連する要因が含まれているのか、監査人は会計上の見積りに使用されたどの要素に対して重点的な対応を行ったのかを利用者は理解することはできない。固定資産やのれんの減損テストにおいて、当該資産から生じる将来キャッシュ・フローを見積もることは財務報告の枠組みで求められており、将来キャッシュ・フローの見積りにさまざまな要素が絡み、計算が複雑になったり、経営者の判断が大きく影響することは、どんな場合にも当てはまることである。したがって、見積りが複雑であることがKAMの主要な決定理由であるのであれば、より一歩進めて、複雑となっている要因を説明することが「会社の状況に直接関連づけた記載」となる。同様に、経営者の主観的判断に大きく依存している重要な仮定については、なぜ主観性が高いのかの説明とともに、重要な仮定を左右する主な要因や、高度に専門的な知識が必要な場合はその内容などを記載することが適切である。
利用者は、会社が公表する情報のほか、市場の状況や成長性等に関するさまざまな情報も有している。KAMの記述に前述のような具体的な要素が含まれているほど、利用者はそれらの手持ちの情報とあわせて読むことにより、その会社の状況に関する理解を深めることができ、KAMの利用者にとっての情報価値が高まるものと考えられる。
また、監査上の対応をどのように記述するかは、監査人にとっては悩ましい問題と思われる。個々のKAMに関連する全ての監査手続を記述しても冗長になるだけであり、監査手続書を転載したような記述は想定されていない。KAMの決定理由に書かれた要因に適合した手続に焦点を絞り、できる限り具体的に記述することが適切であるとされている。たとえば、「関連する内部統制の整備・運用状況を評価した」、「経営者の採用した仮定を批判的に検討した」という記述だけでは、漠然としており、具体性に欠けている。KAMの決定理由に記載した要因と関連づけて、どのような統制目標に関連する内部統制であるのか、どのように批判的に検討したのかという、一歩踏み込んだ記載が利用者にとって有用な情報となると考えられている。
Q2 - 9には、のれんの減損を題材として、固有の情報を含まない記載と、固有の情報を含む記載を対比させる形で「会社の特定の状況に直接関連づけた記載」のイメージを伝えている(図表4)。

図表4 のれんの減損に関する監査上の主要な検討事項の記述の比較

  固有の情報を含まない監査上の主要な検討事項の例 固有の情報を含む監査上の主要な検討事項の例
内容及び理由 貸借対照表に計上されているのれんの残高XX百万円は重要であり、のれんの減損テストに必要な将来キャッシュ・フローの見積りは経営者の判断により重要な影響を受けるため、監査上の主要な検討事項に該当するものと判断した。 貸借対照表に計上されているのれん(残高XX百万円)には、○○○に関連するのれん(XX百万円)が含まれており、総資産のXX%を占めている。当該のれんの減損テストに必要な将来キャッシュ・フローの見積りには、収益予想に影響を及ぼす○○○の市場成長率の見込、既存顧客に関する定着率の推移見込、・・・・・、及び割引率などの重要な仮定が用いられており、経営者の判断により重要な影響を受けるため、監査上の主要な検討事項に該当するものと判断した。
監査上の対応 会社の将来キャッシュ・フローの見積り方法に関連する内部統制の整備・運用状況を評価した。また、経営者が見積りに使用した重要な仮定及びデータが適切かどうかを批判的に検討した。

将来キャッシュ・フローの見積りに経営者が用いた重要な仮定について、以下の検討を実施した。

  • ○○○の市場成長率については、外部の複数の機関が公表しているデータと比較した。
  • 既存顧客の定着率の推移見込については、過去の実績に基づく分析を行うとともに、今後の新規参入動向等を含む○○○の将来動向について、○○○が属するセクターの複数の専門家のレポートを参考に、監査人の予測との比較を行った。

出所:本研究報告Q2 - 9

3.KAMの記述に関するその他の留意点

(1)経年比較

Q2 - 10では、会社の状況に変化が生じていない場合、KAMは同じ記載となることもあるのかどうかについて扱っている。
KAMは、当年度の監査において特に重要であると判断した事項であり、毎年の監査において、監査人が判断する。したがって、会社の取り巻く環境、規制や財務報告の枠組みなどの外部要因、会社の事業内容に重要な変化がなければ、KAMとして選定される項目も変わらないことが多いと考えられる。反対に、それらに変化があれば、監査人が特に注意を払う領域も変化し、結果、選定されるKAMの項目が変化することが想定される。また、前年にKAMとして選定していた項目自体に大きな変化がない場合でも、より監査人が注意を払わなければならない他の事項が新たに生じた場合、当期の監査においては、相対的重要性に基づき、KAMとして選定しないという判断もあり得る。
KAMの導入議論において、導入後何年か経過すると、結局同じ項目が毎年KAMとして選定され、記載内容もボイラープレート化するのではないかという意見も聞かれた。このような見方は、日本だけでなく、各国の導入の議論においても指摘された点である。しかし、KAMとして選定される項目自体が毎年同じであったとしても、選定理由や監査上の対応に会社の状況に直接関連づけた固有の情報を記載することにより、記載内容にその期の動向が反映され、記述内容が変化することも考えられる。
また、KAMの導入後の何年かは、監査人が利用者からのフィードバックを受けて、より良い記述に向けて工夫を重ねていくことも期待される。状況に変化がないのであれば、KAMの記述を変えないでほしいという声も聞くが、記載のボイラープレート化につながりやすく、KAMの趣旨にそぐわないおそれがある。導入後しばらくの期間は、監査人も、会社も、利用者も、どのような記述がベターであるのかについて、学習を重ねていくことが必要と考えられる。
なお、監査の基準は、監査人に対して、前年度の監査報告書に記載されたKAMの内容を当年度の監査報告書において更新することは求めていない(監基報701のA11項)。国際監査基準も同様である。しかしながら、先行した英国においては、利用者からの要望により、監査人が前年度の監査報告書に記載したKAMからの変更点を任意で記載している例が数多くみられる。前年度の監査報告書で記載していたKAMの項目のうち、当年度の監査報告ではKAMとして扱っていない項目名とその理由を簡単に説明したり、今年新たに追加した項目の有無を説明したり、記載方法はさまざまであるが、利用者の視線に沿った対応といえよう。

(2)記載順序

Q2 - 11では、KAMが複数ある場合のKAMの記載順序に関する設問が設けられている。記載順序については、特段の要求事項は定められておらず、監査人の判断により決定される(監基報701のA32項)。KAMの項目の相対的な重要性の高い順に配列する方法のほか、財務諸表の表示や注記の順番に配列する方法などが例示されている。
そのほか、強調事項(財務諸表で記載されている内容について、利用者の注意を喚起するために監査報告書で繰返し記載する事項)とKAMの双方に該当し、強調事項として記載することが監基報上要求されていない事項は、利用者の目に触れやすくするために、KAM区分の最初に記載するとされている(監基報706のA2項参照)。
海外の事例では、筆者のみた限りでは、財務諸表や注記の順番にKAMを配列していると思われるケースは少数派と思われる。KAMの項目が少なく、結果的に財務諸表の順番となっているものもあり、監査人の意図は不明ではあるが、相対的な重要性に基づく配列を指向している例が一般的には多いと思われる。しかし、相対的な重要性が同じ程度のものも当然あり、記載順序に明確な意味づけを求めることはあまり意味がないように思われる。

(3)手続の結果や監査人の主要な見解

Q2 - 12では、監査上の対応として記載することができる、監査人が実施した手続の結果や監査人の主要な見解を記載する場合の留意点が示されている。
前述のとおり、監査上の対応として組み合わせて記載する4つの要素に、手続の結果や監査人の主要な見解が含まれている。KAMに最も適合またはリスクに焦点をあてた監査アプローチの内容または監査手続の概要は、監査上の対応として不可欠と考えられるが、監査手続の結果や監査人の主要な見解の記載は、強制されるものではなく、監査人の判断により記載される。
これらを監査上の対応に含める場合は、KAMとして選定した項目に対する個別の監査意見を表明しない、また個別の意見を表明しているという印象を与えないように留意する(監基報701のA47項)。監査人は、財務諸表全体に対してのみ意見を表明するため、監査意見に除外事項が付されていない限り、KAMとして取り上げている項目に関する不満足な事項はなかったということを意味している。監査手続の結果の記載は、必ずしも監査上の発見事項の記載を想定しているわけではないが、発見事項を記載する場合は監査意見と矛盾しているような印象を与えないように留意する必要がある。
さらに、Q2 - 12では、手続の結果は、監査上の対応として記載した手続の結果を事実に基づき客観的に記述するのに対して、監査人の主要な見解は、監査上の対応として記載した手続の対象となった要素に対する監査人の評価(主観的な判断を含む)の記述である旨、両者の違いを説明している。また、KAMとして取り上げている項目に関連する勘定残高等についての結論を積極的または消極的な方法で表明すると、個別の監査意見(またはレビューの結論)を述べている印象を与える。そのような印象を与える具体的な文例(図表5参照)を示し注意を促している。

図表5 個別の意見を述べているような印象を与える文例

  • 実施した監査手続の結果、○○に関する会社の見積金額は、適用される財務報告の枠組みに準拠して適切に算定されていると結論付けた。
  • 会社が行った○〇に関する見積りは、合理的であった。
  • 会社が行った○〇に関する見積りについて、合理的でないと認められる点はなかった。
出所:本研究報告Q2 - 12

(4)監査人が利用した専門家または構成単位の監査人への言及

Q2 - 13では、監査上の対応において、監査人が利用した専門家または構成単位の監査人に言及することができるのかどうか、記載する場合の留意点を取り扱っている。
監査人は、十分かつ適切な監査証拠を入手するため、会計や監査以外の分野において専門知識を有する者を利用することがある。また、グループ監査において、グループ財務諸表に含まれる構成単位の財務情報に関する作業を他の監査人に依頼することがある。いずれの場合も、監査意見に対しては、監査報告書に記載される業務執行社員が単独で責任を負っているため、KAMの監査上の対応において、専門家や構成単位の監査人に言及すると、監査人の責任を軽減または分割しているようにみえないかという懸念に関する論点である。
専門家の業務の利用については、除外事項において専門家の業務を利用したことに触れる必要がある場合は別として、無限定意見の場合は、監査報告書において専門家の業務の利用に言及することを禁止する要求事項が監基報620「専門家の業務の利用」に設けられている。そのため、監基報701において、KAM区分において監査アプローチを記載する際に専門家の業務を利用したことを記載してもよいことを、複雑な金融商品の公正価値の評価において専門家の業務を利用した例を用いて示している(監基報701のA49項)。
一方、構成単位の監査人については、監査基準委員会報告書では何も触れられていないため、Q2 - 13において、専門家の場合と同様に、監査上の対応の記述において、構成単位の監査人について言及できる旨を明確化している。ただし、グループ監査における監査人の責任を分割しているという誤認を避けるために、構成単位の監査人の名称まで記載することは想定しておらず、構成単位の名称(所在国やセグメント名等を組み合わせて記載してもよい)を記載することとしている。
いずれの場合も、基本的には、Q2 - 9で示されている「企業の特定の状況に直接関連づけた記載」となるように、次の留意点が示されている。

  • どのような領域の専門家をどのような局面(リスク評価、リスク対応手続、または結果の評価など)で利用したかについて、利用した業務の内容、範囲および目的等を具体的に記載する。
  • 構成単位の監査人が実施する作業内容や結論について、グループ監査チームが十分な理解や評価を行った旨だけではなく、KAMの対象領域や金額に関する情報として、構成単位の名称(国地域名、セグメント名等)を示した上で、KAMの決定理由に記載した要因に関して構成単位の監査人が実施した監査手続を具体的に記載する。

次回は、KAMと会社の開示との関係を中心に解説する。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
パートナー 公認会計士
住田 清芽(すみだ さやか)

このページに関連する会計トピック

会計トピック別に、解説記事やニュースなどの情報を紹介します。

このページに関連する会計基準

会計基準別に、解説記事やニュースなどの情報を紹介します。

JICPA「監査報告書に係るQ&A」の解説

© 2022 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the KPMG global organization of independent member firms affiliated with KPMG International Limited, a private English company limited by guarantee. All rights reserved. © 2022 KPMG Tax Corporation, a tax corporation incorporated under the Japanese CPTA Law and a member firm of the KPMG global organization of independent member firms affiliated with KPMG International Limited, a private English company limited by guarantee. All rights reserved.


For more detail about the structure of the KPMG global organization please visit https://home.kpmg/governance.

お問合せ

 

ご依頼・ご相談

 

loading image RFP(提案書依頼)

Myページへ

会員登録すると、興味・関心のあるテーマのコンテンツが表示され、お気に入りの記事をライブラリに保存できます。

Sign up today