日本公認会計士協会監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQ&A」の解説 第1回Q&A公表の経緯と背景

日本公認会計士協会監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQ&A」の解説 第1回Q&A公表の経緯と背景

旬刊経理情報(中央経済社発行)2019年10月1日号に監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQ&A」に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。第1回はQ&A公表の経緯と背景です。

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この記事は、「旬刊経理情報2019年10月1日号」に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

ポイント

  • 2020年3月期より、新しい様式の監査報告書がすべての財務諸表監査に適用される。また、上場会社等の金融商品取引法に基づく監査に監査上の主要な検討事項(KAM)の早期適用が始まる。
  • KAMを含む今般の監査報告に係る改正は、監査もその一部を構成する財務報告制度全体にとって大きな変革であり、その改正趣旨の達成には、監査人だけでなく、被監査会社や利用者等の理解が不可欠と考えられる。改正の経緯や趣旨の確認のためにも、本研究報告の一読をお勧めする。


日本公認会計士協会(JICPA)より、2019年7月18日付けで監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQ&A」(以下、「本研究報告」という)が公表された。JICPAは、企業会計審議会から2018年7月に公表された「監査基準の改訂に関する意見書」(2018年改訂監査基準)に対応するために、2019年2月に、監査報告に係る監査基準委員会報告書の新規制定および改正を行っている。

本研究報告は、これら実務指針の公開草案に対するコメントやJICPAが行ったセミナー等における質疑内容をベースに、新たに導入される新しい監査報告書の実務の定着を支援するために、より詳細な解説をQ&A方式により提供するものである。
本研究報告の内容について、6回に分けて、紹介する。

1.本研究報告の作成の経緯

2018年改訂監査基準により新たに導入される「監査上の主要な検討事項(Key Audit Matters、以下、「KAM」の略称で記載する。)は、2021年3月期の上場会社等の金融商品取引法に基づく監査から適用が義務付けられるが、2020年3月期より早期適用が認められている。また、KAMのほかにも、監査報告書の情報価値を高めるため、監査報告書の記載内容の拡充が行われており、新様式に基づく監査報告書は2020年3月期のすべての監査から適用される。まさに、現在、進行している期の監査から新しい監査報告書が適用される。
JICPAは、本研究報告に先立って、2019年7月12日付けで会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」を公表している。会長声明では、上場会社の監査人に対して、新年度の監査の開始に当たり、KAMの円滑かつ有意義な導入に向けて、次の点に留意して十分な対応を図ること、および、対応には調整に時間を要することが想定されるため、早期適用の有無にかかわらず、ただちに取り組むことを要請している。

  • 監査上の主要な検討事項の候補の選定(監査計画段階から)
  • 監査上の主要な検討事項に関連する会社の開示状況の確認
  • 経営者および監査役等との協議の頻度および時期に及ぼす影響
  • グループ監査の場合、重要な構成単位の監査人とのコーディネーション
  • 決算および監査スケジュールに及ぼす影響

本研究報告は、このような対応を支援するために監査人を念頭において策定されたものであるが、監査人以外の関係者にも参考になるものと思われる。

2.本研究報告の構成

本研究報告は、導入部分とQ&Aに分かれており、さらにQ&AはKAMとそれ以外に分けて構成されている(図表1参照)。

図表1 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQ&A」の構成

I はじめに
1.適用範囲
2.背景
(1)経緯
(2)監査上の主要な検討事項の目的、期待される効果及び性質
(3)中長期的視点での対応の必要性
II Q&A
1.監査報告書全般のQ&A
Q1 - 1 従来の監査報告書と新しい監査報告書の変更点及び共通点
Q1 - 2 監査報告書における監査役等の財務報告に関する責任の記載
Q1 - 3 監基報700とISA700 に基づく監査報告書の記載内容の差異
Q1 - 4 日本の監査の基準に基づいて英文で監査報告書を作成する場合の留意点
Q1 - 5 監査事務所の所在地の記載
Q1 - 6 除外事項の重要性と広範性及び除外事項の記載上の留意点
Q1 - 7 継続企業の前提に関する注記又は開示の検討における変更点
2.監査上の主要な検討事項関係のQ&A
Q2 - 1 監査上の主要な検討事項の適用範囲
Q2 - 2 監査上の主要な検討事項の決定プロセス
Q2 - 3 監査上の主要な検討事項と特別な検討を必要とするリスク
Q2 - 4 監査上の主要な検討事項と内部統制の重要な不備
Q2 - 5 監査上の主要な検討事項と未修正の虚偽表示
Q2 - 6 監査上の主要な検討事項がない状況
Q2 - 7 監査上の主要な検討事項の個数及び記載量
Q2 - 8 個別財務諸表の監査上の主要な検討事項
Q2 - 9 監査上の主要な検討事項における固有の情報の記載
Q2 - 10 監査上の主要な検討事項の経年比較
Q2 - 11 監査上の主要な検討事項の記載順序
Q2 - 12 監査人が行った手続の結果や監査人の主要な見解の記載
Q2 - 13 監査上の主要な検討事項における専門家又は構成単位の監査人への言及
Q2 - 14 会社に対する財務諸表における注記の拡充の要請
Q2 - 15 会社の未公表情報の記述と監査人の守秘義務との関係
Q2 - 16 監査上の主要な検討事項を監査報告書において報告しない場合
Q2 - 17 訂正監査報告書における監査上の主要な検討事項の取扱い
Q2 - 18 監査スケジュールや監査役等とのコミュニケーションにおける留意点
Q2 - 19 株主総会における対応
Q2 - 20 監査上の主要な検討事項の監査人の法的責任に及ぼす影響

3.導入部分 - 「背景」

本研究報告の「背景」のセクションにおいて、監査基準改訂に至った経緯、今般の監査報告書の記載内容に係る見直しの概要が総論として説明されている。

(1)経緯

監査報告書の改革は、海外で始まったものであるが、その経緯が簡単にまとめられている。
監査対象の財務諸表の適否について端的に意見を述べる従来の短文式の監査報告書は、日本だけでなく海外においても、長年踏襲されてきたスタイルである。短文式の監査報告書は、監査人の職業的専門家としての結論が利用者にとって分かりやすいという長所がある一方で、そのほとんどが無限定意見であり、結果としてどの会社の監査報告書もほとんど同じ文面となり、個々の監査の特徴を示す情報がほとんどない。このような監査報告書に対しては、主として欧米の利用者から、利用者の情報ニーズに合わなくなってきており、監査報告書の情報価値を高める余地があると指摘されてきた。
2000年代後半から監査報告書の記載内容の見直しの声が高まってきたが、その背景には、財務諸表において経営者の判断により大きな影響を受ける将来情報に基づく会計上の見積りの重要性が増大したことや、2008年の金融危機において監査報告書に継続企業の前提に関する強調事項が付されなかった事案があったことなどがある。監査の内容は、個々の会社によって異なるのは言うまでもないが、同一の会社であっても年度によって変化するものであるため、監査人がどのような点に着目して監査を実施したのかについての情報を求める声が強く認識されるようになった。
このような声に対応するため、国際監査・保証基準審議会(IAASB)は、2015年1月に、監査報告書の情報価値を高めるための新しい監査報告書に関する国際監査基準(ISA)を公表し、上場会社の監査において、Key Audit Matters(KAM)として、監査の過程で監査人が特に重要と判断した事項の記載を求めることとした。ISAを採用する海外の多くの国では、既に新しいタイプの監査報告書が公表されている。米国の上場会社にも2019年6月期から段階的な適用が始まっている。
わが国においては、2015年の総合電機メーカーの事案の発覚を受けて金融庁に設置された「会計監査の在り方懇談会」から、高品質な監査を促すための提言が公表された(2016年3月)。提言には、高品質で透明性の高い監査を提供する監査人が適切に評価・選択される環境を確立するためのさまざまな施策が織り込まれているが、会計監査に関する情報の株主等への提供の充実のための施策の一つとして、KAMの導入が織り込まれた。この提言を受けて、2017年秋から企業会計審議会において監査基準の改訂に関する審議が行われ、2018年7月にKAMの記載を求める改訂監査基準が公表された。

(2)KAMの目的、期待される効果および性質

新たに導入されるKAMの目的や期待される効果については、2018年改訂監査基準の前文においても記載されており、さまざまな文献により海外の動向も紹介されている。本研究報告は、個別論点を扱うQ&Aであるが、KAMの目的や導入にあたって期待されている効果についての理解が個別論点の前提になると考えられることから、冒頭部分においてひととおりの説明が付されている。
まず、KAMの目的であるが、KAMは、当期の財務諸表監査で監査人が特に重要と判断した事項であり、個々の会社の監査の透明性の向上を図り、監査報告書の情報価値を高めることを目的とするものである。標準文言を中心とした監査報告書では、個々の会社においてどのような監査が実施されたのかに関する情報の記載がなく、監査がブラックボックスとなっているという批判への対応である(図表2参照)。

図表2 KAMの目的
KAMの目的や効果

出所:本研究報告 I.2.(2)

次に、KAMの記載により期待される効果であるが、次のようにまとめられている。

  • 想定される財務諸表の利用者に監査の品質を評価する新たな検討材料が提供され、監査の信頼性向上に資する。
  • 想定される財務諸表の利用者の監査および財務諸表に対する理解が深まり、また、企業や監査済財務諸表における経営者の重要な判断が含まれる領域を理解するのに役立つ。その結果、利用者と会社の経営者や監査役もしくは監査役会、監査等委員会または監査委員会(以下「監査役等」という)との間の対話が促進される。
  • 監査人と監査役等、監査人と経営者との間での議論が深まり、リスクに関する認識の共有が促進されることにより、会社のリスクマネジメントの強化、ひいてはコーポレートガバナンスの強化につながる。

続いて、KAMの性質については、監査基準委員会報告書701の記載をもとに、次のようにまとめられている。

  • KAMは、経営者が行う注記(適正表示達成のために必要な追加情報の注記を含む)を代替するものではない。会社の状況に関する開示を適切に行う責任は経営者にあり、会社に代わって事業上のリスクを監査人が報告することを意図したものでもない。
  • KAMは、除外事項を付すべき状況において、除外事項を代替するものではない。監査意見の形成は従来どおりであり、除外事項付き監査意見に至った根拠は除外事項として記載する。
  • KAMは、継続企業の前提に関する重要な不確実性に関して、監査人が利用者に注意喚起するために行う報告を代替するものではない。
  • KAMは、個々の監査上の主要な検討事項について、個別の監査意見を述べるものではない。

1つ目の点は、監査の前提となっているいわゆる二重責任の原則(経営者は財務諸表の作成責任を負い、監査人は監査責任を負っているというもの)とKAMとの基本的な関係を説明したものであり、KAMの性質として最も重要な側面である。また、監査基準委員会報告書や本研究報告の公開草案に対して、KAMは事業上のリスクを経営者に代わって監査人が報告するものという誤解(過剰な期待)があるというコメントが寄せられたため、事業上のリスクを報告することを目的とするものではないという一文が加えられている。リスクアプローチに基づく財務諸表監査の過程で、監査人が識別した財務諸表の重要な虚偽表示リスクのなかで、特に重要なものがKAMとして選定される。KAMは、事業上のリスクを記載することを目的とするものではないものの、事業上のリスクは、当期または将来の財務諸表に何らかの形で影響を及ぼすことがあるため、KAMにおいて事業上のリスクの記述が含まれることはある。
2つ目と4つ目の点は、監査人の意見表明は従来と何ら変わるものではなく、KAMとして選定した事項についての監査結果は財務諸表全体に対する監査意見に反映されるため、KAMの1つひとつについて監査意見を表明するものではないということを説明している。3つ目の点も、継続企業の前提に関する経営者の評価および開示責任と監査人の監査責任の関係や、継続企業の前提に重要な不確実性があった場合の監査意見に及ぼす影響に関する考え方に変更はないということを示している。
これらのことからも、KAMは、これまでの財務諸表監査の枠組み自体の変更を意図するものではないことが理解できよう。

(3)中長期的視点での対応の必要性

先述の会長声明において、KAMは、「上場企業のガバナンスや開示制度の様々な取組と連動して、関係者におけるリスクに関する認識の共有により会社のリスクマネジメントの強化に資するものであること」、「監査報告の変革の機会を中長期的な監査品質の向上に生かしていくという監査人の意識と取組が、将来の監査の価値に大きく影響するもの」という認識が示されている。
本研究報告においても、同様に、スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードの制定および改訂、会社法の改正、取引所の市場構造の見直し、記述情報の拡充など、現在進められている開示制度のさまざまな取組みと呼応して、監査報告書の変革は、財務報告に係るすべてのステークホルダーの意識や行動に変化をもたらす可能性があり、また、それが期待されているという考えが示されている。
適切な情報開示は会社と財務諸表の利用者との対話の基礎を提供し、監査人による高品質で透明性の高い監査はこのような適切な情報開示を支え、最終的には会社の持続的成長に資するものと考えられる。監査人は、今般の監査報告書の変革を単なる監査報告書の記載内容の変更として捉えるのではなく、監査の最終受益者にとっての監査の価値を高める中長期にわたる取組みとして対応していく必要がある点が強調されている。

4.新しい監査報告書の文例

2018年改訂監査基準の目玉はKAMであるが、KAM以外にも、2015年1月に改正された国際監査基準(ISA)に沿って、監査報告書全体の記載区分の順序の変更や記載内容の拡充が行われている。これらを反映するため、2018年2月に次の監査基準委員会報告書(監基報)が改正されている。

  • 監基報700「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」
  • 監基報705「独立監査人の監査報告書における除外事項付意見」
  • 監基報706「独立監査人の監査報告書における強調事項区分とその他の事項区分」
  • 監基報710「過年度の比較情報 - 対応数値と比較財務諸表」
  • 監基報570「継続企業」
  • 監基報510「初年度監査の期首残高」

監査基準委員会報告書は、特定の法令を前提としない汎用的な監査報告書の文例を示しており、監基報700には、基本形となる無限定意見を表明する場合の監査報告書の文例が含まれている。その他、除外事項付意見を表明する場合(監基報705)、強調事項等を付す場合(監基報706)、財務諸表に比較情報が含まれる場合(監基報710)等、各報告書が扱う状況に応じた監査報告書の文例が含まれている。
新しい様式の監査報告書は、記載区分や記載順序の見直しが行われており、これまでの監査報告書とは大きく変わっている。新様式の監査報告書は、金商法監査にとどまらず、2020年3月31日以後に終了する事業年度に対するすべての公認会計士が行う財務諸表監査に適用となるため、JICPAは、監査基準および先述の監査基準委員会報告書の改正を受けて、次のように、監査報告書の文例を含むさまざまな実務指針を改正している。

  • 監査・保証実務委員会実務指針第85号「監査報告書の文例」(2019年6月)(金商法および会社法に基づく監査報告書の文例)
  • 業種別委員会実務指針第7号「生命保険相互会社における監査報告書の文例について」(2019年7月)
  • 業種別委員会実務指針第33号「信用金庫等における監査報告書の文例について」(2019年7月)
  • 業種別委員会研究報告第4号「生命保険会社における任意監査の監査報告書の文例について」(2019年7月)
  • 非営利法人委員会実務指針第34号「公益法人会計基準を適用する公益社団・財団法人及び一般社団・財団法人の財務諸表に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(2019年7月)
  • 非営利法人委員会実務指針第39号「医療法人の計算書類に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(2019年7月)
  • 非営利法人委員会実務指針第41号「地域医療連携推進法人の計算書類に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(2019年7月)
  • 非営利法人委員会実務指針第42号「農業協同組合法に基づく会計監査に係る監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(公開草案を2019年5月末に公表)
  • 学校法人委員会実務指針第36号「私立学校振興助成法第14条第3項の規定に基づく監査の取扱い」(公開草案を2019年7月に公表)
  • 学校法人委員会研究報告32号「施設型給付費を受ける幼稚園のみを設置する学校法人等の会計及び監査に関する研究報告」(公開草案を2019年7月に公表)


次回は、大きく変わる監査報告書の全体像の理解に資するよう、本研究報告の「1.監査報告書全般のQ&A」について解説する。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
パートナー 公認会計士
住田 清芽(すみだ さやか)

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