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Close-up 3:インド企業のM&A - 現状の課題と可能性

Close-up 3:インド企業のM&A - 現状の課題と可能性

日本企業の投資有望国として1、2位を争うインド。経済成長の波が新興国に向かう中、中国や東南アジアへと進出してきた日本企業にとって、次はインドである。ただ、インド進出のペースは遅いのが実情だ。

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インドでの成功の鍵は、現地パートナーとの良好な関係の構築、現地化の徹底、適切な権限委譲と迅速な意思決定システムと言われて久しいなか、苦労している日本企業も多い。利益化には最低5年必要と言われるインド市場で、日本企業がインド企業のM&Aで成功するための方策を考察する。

注目を浴びるインド市場だが、難易度も高い

中国より十数年遅れるとされるインド経済ではあるが、確実に経済発展を続けており、そのGDPは2029年には日本を超えると言われている。人口13億人という巨大市場の内需と、今後の成長性・潜在力の高さへの期待から、日本企業のインド進出数も投資も徐々に増加している。既にインドに進出した日本企業の事業の本格化も始まっている。一方で、日本企業にとってインド企業のM&Aは難易度が高いとの声もよく聞かれる。

その背景として、まず、インド企業への出資完了までには長い時間と忍耐・労力を要することがある。交渉においては、単に売り手との熾烈な価格交渉にとどまらず、基本合意書や株式売買契約書といった各種契約に一旦合意しても後から変更を求めてくることはざらで、なかなかまとまらない。デューデリジェンスにおいては、インド企業の情報管理が悪く、欲しい情報が出てこず、プロセスが滞る。株式売買契約書の調印にこぎつけてもクロージングの前提条件である各種許認可等の不備の治癒に、インド当局の対応が遅々として完了しないなど、枚挙にいとまがない。

さらに、時間をかけて投資した後も、インド市場の内需の獲得を期待していたのに、想定以上にコストコンシャスな市場環境に悩まされる。地域ごとに異なる現地の所得水準・事情に合った品質、価格帯の製品・サービスが求められるため、投資の意思決定時の事業計画で想定した利益計画の進捗が後ずれしがちで、減損リスクにも苛まれる。なかでも、日本企業にとって一番の悩みは、誰にインド企業の経営を任せるのか、であろう。現実的には、対象企業のインド人経営陣をそのまま起用、もしくは日本側から経営人材を一部出すのが大半であり、経営トップの外部招聘はほとんどない。

ただ、これらは新興国ではよくある話であり、インドだけが特別というわけではない。インド進出の本当の難しさは何であろうか。

インド企業M&A時の主な論点

バリュエーション

  • 外資系企業によるインド企業の株式譲渡によるM&Aでは、外国為替管理法に基づきインド準備銀行(RBI)が定めたPricing Guidelineが適用され、RBIの事前承認が必要
  • 外資系企業は、インドで特定のライセンスを持つ専門家が証明するフェアバリュー(FV)以上の価格でしかインド企業の株式を取得できない
  • 外資系企業がインド居住者に事業売却をする場合は、当該FV以下の価格でしか譲渡できない(本規制により、プット・オプションが十分に機能しないリスクあり)

デューデリジェンス

  • 対象企業による利益の水増し
    • 売手側プロモーターの関係会社との取引を利用した売上拡大、費用削減
    • 回収不能な売掛金の未引当、未償却
    • 法令に準拠しない工場勤務社員・契約社員への不適切な賃金の過小支払い、法令に準拠しない低昇給率
  • 土地所有権登記の不備、操業許可証や各種許認可取得手続きの不備

法令および金融当局関連規制

  • インド上場企業から会社分割によるカーブアウトによって一部事業を取得する場合、インド裁判所の許可が必要(時間がかかる)
  • 外資系企業がインド企業から損害賠償条項に基づく支払いを受ける場合、外国為替管理法の関連規則によりRBIの事前承認が必要になるケースがある
  • 外資系企業がインド企業の株式を取得する場合、名義書換にあたり、AD Category-I Bankによる売買代金の着金確認の認証が必要(株式の取得完了前に支払いが必要)

インドに熱い視線を送るトップマネジメント、冷めたミドルマネジメント

日本企業にとっての次の巨大市場であるインドから目を背ける経営トップはほとんどおらず、中期経営計画でインド市場をターゲットにしている企業も増加している。ただ、中期経営計画でインドをターゲットに含めている日本企業のミドルマネジメントと話をすると、インドに対する印象は二極化している。どちらかと言えば、インドをやれと言われている担当者以外、インドについてはどこか冷めた印象を受けることも多い。実際、統計的にも過去の中国進出時よりも、進出のスピードが遅いようである。では、この経営トップとの温度差の要因は何か。

多くの日本企業のビジネスマンが、「インドと付き合うのは難しい」という先入観を持っている傾向がないだろうか。日本の何となくお互いに相手の意図を察しあう文化に慣れた人からすると、インド人は発言が長く、押しが強いという印象を持っている。そのような印象を持っている日本企業のミドルマネジメントとしては、インドでのM&Aを「命じられる」と、投資リスクが最小となる解を目指し、まだあまり洗練されていないインド現地企業と徹底的なコミュニケーションを繰り返し求められることになるため、心理的にインドを避けたくなりがちである。このため、経営トップほどにはインドに対する強い思いも危機感も感じづらいのが実情であろう。

ただ、インド企業に出資して、対象企業のインド人経営陣にそのまま経営を任せるだけでは、業績が悪くなった場合に、その要因をタイムリーかつ正確に把握できず、対応が後手に回る。やはり、長期的には自社内にインドにどっぷりつかった人材を育成する必要がある。そのためには、日本的な「ミドルマネジメントにやらせる」だけではなく、日本企業の経営トップ自ら、インドに対する本気度を見せ、本社からの十分な支援と評価をもって、モチベーションを高める施策が必要であろう。

実際、昨今、先進国では得られない自らの成長を求め、日本企業を辞めて、インドに飛び込む日本の若手人材も多数存在する。インド市場を狙うのであれば、成長スピードや成長の期待感と合うような仕事や役割を用意するほか、日本の若手人材にインディアンドリームを見せてやるといった若手を呼び込む雰囲気づくりも経営トップに求められるかもしれない。

インドM&A成功に向けた提案

過去の中国進出時の成功体験がインドではあまり生きないとの話を聞くが、環境、時代背景ともに現在のインド進出は2000年代の中国とは大きく異なる。過去の日本企業による中国進出は、先進国向けの輸出を目的とした製造拠点として、日本の良いものを現地に導入して輸出するコンセプトであった。これが当時、中国政府の「世界の工場」として経済発展を目指す方針とも合致したことで政府の支援もあり、参入しやすかった。一方、昨今の日本企業のインド進出の主たる目的は、大半が最初から巨大市場の内需の獲得を目的とした、新規市場開拓としてのインド市場参入となっている。

さらに、インドは原則的に投資における内外無差別を基本とする国である点にも留意が必要だ。例えば、インド政府の「Make in India」のプログラムも海外からの投資の受け入れは眼目の一つであるが、インドに投資する外資系企業をインド国内企業よりも優遇することについては含意されていない。すなわち、外資系企業も、投資先のインド国内企業として「Make in India」のインセンティブの恩恵を享受できるものの、同プログラムの対象となる重点産業への投資は、現地のインド企業との熾烈な競争に巻き込まれることを覚悟しなければならない。

インドで成功していると言われる外資系企業の特徴を分析すると、パートナーとの良好な関係の構築、迅速な意思決定、現地化の徹底、大規模な広告宣伝活動、現地の事業管理における文化的な理解、人的資源の育成などが挙げられる。要約すると、現地化がうまく行った企業が多い。加えて、インドと真剣に向き合うことについて、経営トップの強いコミットがあった点が共通している。

現地化の徹底にインド現地の経営人材の力を借りる必要があるのであれば、M&Aは一つの有効な手段となる。しかしながら、M&Aで買える時間は、あくまで海外拠点で自前で生産基盤や販売網を構築する時間のみであり、利益成長の時間まで買えるわけではない。国土が広く多様なインド市場において、日本のベストプラクティスの導入やクロスセルのような単純な買収後のシナジー効果は見込みづらく、現地仕様に合わせるため、買収後に更なる経営資源を投入する必要があることが多い。結局、M&Aで買った時間と経営資源、投資後の追加支援で現地No.1を地道に目指すしかない。

日本企業の実情も踏まえると、インドでのM&A成功のための方策として以下が考えられる。

  1. 「成功の定義」の明確化
    経営トップ自ら、事前に「成功の定義」を明確にし、それに基づき、インド対象会社と協議する。インド対象会社とは、曖昧さを排し、しっかりと方針をすり合わせ、文書化し、同床異夢は避ける。経営トップ自ら、インド経営陣と中長期的なゴールに向い、並走する信頼関係を構築する。
  2. 徹底的なリスク調査
    インド対象会社の経営陣、取引先まで含め、リスクと思われることは事前に徹底的に調査する。インドは驚くべき噂社会であり、有効な風評調査が可能だ。過去には、検出された事項に目をつぶり投資した結果、失敗・撤退につながった事例も数多い。言うまでもなく、調査費用は撤退費用よりも安く済む。検出されたリスクの多くは、インド対象会社の経営陣と徹底的に協議すれば対処法はある。リスクを取り除くのではなく、「リスクをコントロールする」との判断は経営トップにしかできない。
  3. 本社による現地支援体制の整備
    M&A後に本社が求める経営管理やコンプライアンスの体制などの仕組みづくりは本社負担で構築する。日本人駐在員が孤軍奮闘とならないよう、駐在員の側に立ってサポートする現地インド人専門家を中心とした支援体制を用意する。それにより、駐在員は経営に専念でき、心理的負担も軽減する。

以上、M&Aの観点からインド市場での成功に向けた提案を述べたが、インド企業のM&Aの目的のひとつとして、有能なインド人を経営幹部として自社に取り込み、インドの先のアフリカへの展開まで含め、更なる世界市場への拡大に向けた橋頭保にするといった視点も必要であろう。少子高齢化・働き方改革など日本の労働人口、環境が激変している。その一方で、インドには世界中で活躍できる人材があふれている。これを活用しない手はないであろう。そのためには、例えば、有能なインド人を日本本社に送って育成するなど、投資先のインド企業の人材育成と帰属意識を高める仕組み作りが有効である。

日本企業を取り巻く各種課題の解決策として、インド企業へのM&Aを活用し、それがさらなる日本企業のグローバル化の深化や発展につながることを祈念する。

執筆者

KPMGインド
パートナー 太田 聖児

グローバルコンサルティングファームのデリー事務所を経て、2017年より現職。インドにおけるM&Aアドバイザリーに携わる日本人として、最長となる20年を超える経験を有する。日本企業のM&Aを通じたインド進出、合弁設立等のアドバイザリーを数多く手がける。日本およびインドで開催される各種セミナーでの講師としての登壇も多数。創価大学法学部卒業、インド国立デリー大学法学部修士課程修了。


株式会社KPMG FAS
ディレクター 山口 文義

あずさ監査法人にて、メガバンク、生命保険会社、ノンバンク等の監査や破綻金融機関の資産査定に従事した後、2007年にKPMG FASに入社。日本企業による海外M&Aにおいて財務デューデリジェンスやストラクチャリング、買収後の統合支援等の業務の提供の他、上場企業同士の経営統合支援を担当。PEファンドに出向し、事業計画策定、投資対象会社の評価、買収ファイナンスのストラクチャー策定、資金調達・金融機関交渉等にも従事した。慶応義塾大学商学部卒業、公認会計士。

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