借入金や転換社債の流動・非流動への分類が変わる?

IFRSのヒント - 最近、IASBが負債の流動・非流動への分類に関する基準の改訂を公表しました。借入金や転換社債の流動・非流動への分類は1年基準を適用するだけなので簡単、と思いがちですが、契約上の返済日や満期までの期間だけで判断できるわけではありません。

IASBが負債の流動・非流動への分類に関する基準の改訂を公表しました。借入金や転換社債の流動・非流動への分類は、契約上の返済日や満期までの期間だけで判断できるわけではありません。

IFRSのヒント

IFRSの適用現場から、実務のつれづれを語ります。

1.はじめに

2020年1月に、負債の流動・非流動への分類に関するIFRS基準が改訂されました。時を同じくして米国においても負債の流動・非流動分類の見直しが議論になっています。
流動・非流動への分類なんて、正常営業循環基準と1年基準を適用するだけで、IFRSも米国基準も日本基準も、大きな差異はない、と思い込んでいないでしょうか。今回のIFRSの改訂は、既存のIAS第1号「財務諸表の表示」における流動・非流動への分類の要件を変更するのではなく、明確にするものであるとされていますが、意外と大きな影響があるかもしれません。また、同時期に見直されている米国基準と差異があることを確認した上で、差異があるまま最終基準化されている点も特徴的です。
流動・非流動への分類に関するIFRS基準が改訂されたこの機会に、

  • IFRSと米国基準と日本基準、微妙に違うところがあるんだね。
  • 長期の転換社債は、当然非流動に分類すると思っていたけど、まさか全額流動負債になるとは!

といった発見があるかもしれない2つの論点についてお伝えします。

2.財務制限条項

財務制限条項が付された長期借入金を例に考えてみます。
財務制限条項に抵触していなければ、契約上の返済日に基づいて流動・非流動への分類を行うだけであり、特に頭を悩ますことはありません。しかし、期末日時点で財務制限条項に抵触している場合はどうでしょうか。
IFRSでは、期末日時点において、負債の決済を期末日後少なくとも12か月にわたり延期することのできる「権利」があるか否かに基づき判断します。実際に負債の決済を迫られるかどうかは考慮しません。
したがって、期末日時点で財務制限条項に抵触し、返済が要求されれば直ちに返済する義務がある状態の場合、現実問題として返済を迫られることがないと見込まれたとしても、この借入金は流動負債に分類しなくてはなりません。たとえ期末日後、財務諸表の公表が承認されるまでの間に契約のまき直しにすでに成功していた場合や、貸手が少なくとも期末日後12か月にわたり返済を要求しないことに合意した場合でも、流動負債への分類が必要です。そのような期末日後の事象は開示後発事象としての扱いになります。
財務諸表の公表前に、少なくとも期末日後12か月にわたり返済が要求されることがないとわかっているのであれば、直感的には流動ではなく非流動に分類した方がよいのでは、と思いがちですが、IFRSは期末日時点における「権利」の有無に基づき流動・非流動への分類を判断するため、留意が必要です。
一方、米国基準の公開草案(2019年9月公表、コメント募集はすでに終了し現在再審議中)では、財務諸表が公表されるまでの間に貸手が少なくとも期末日後12か月にわたり返済を要求しないことに合意した場合には、一定の条件を満たせば、この借入金は非流動負債に分類されます。期末日時点の権利義務に基づき判断するという考え方の原則はIFRSと同じなのですが、財務諸表が公表されるまでの間に貸手が返済を要求する権利を放棄した場合には非流動負債に分類するという現行の米国基準の規定に鑑み、例外規定を設けることが提案されています。
また、日本基準では、「1年内に支払又は返済されると認められるもの」が流動負債と定められており、負債の決済を延期できる「権利」を企業が持っているかどうかという点には直接的には着目しません。もし企業が財務制限条項に抵触し、負債の決済を延期できる「権利」を持っておらず、債権者に返済を要求されれば直ちに返済する義務がある状態であっても、返済を要求される可能性が低ければ、当該負債を流動負債には分類しないこともあるのではないかと考えられます。

3.希薄化防止条項の付いている転換社債

次に、希薄化防止条項の付いている5年満期の転換社債を例に考えてみます。希薄化防止条項の内容は、転換権の行使期間中に、転換価額以下の時価での新株発行が行われた場合には、新規発行株式の払込価額に合わせて転換価額が下げられる、というものであるとします。このような条項が付されている転換社債は少なくありません。
日本基準における転換社債の処理には、転換権を区分しない一括法と区分する区分法がありますが、いずれの場合も、社債が含まれる部分は普通社債に準じて処理されることとなり、社債の残存期間が1年以上ある場合には流動負債には分類されません。
IFRSでは、転換社債はIAS第32号「金融商品:表示」に基づき会計処理を検討する必要があり、ここでは詳細は割愛しますが、上記のような転換社債に含まれる転換権は負債に分類されます。この場合、当該転換社債の保有者が、いつでも転換権を行使して社債を株式に転換できる場合には、社債の残存期間にかかわらず、当該転換社債の社債部分は「株を引き渡すという形で負債の決済を迫られることを回避できない」としてその全額を流動負債に分類しなければなりません。しかも転換権部分は公正価値測定が必要ですから毎期の損益にも大きな影響が出るのは不可避であり、日本基準とは全く違う出来上がりとなることがわかるでしょう。
満期までの期間が5年の社債だから非流動、というように単純ではないため、慎重に検討する必要があります。
一方、現行の米国基準では、転換権の行使により社債が株式に転換されることは、負債の流動・非流動への分類を決定するにあたり、負債の決済としては扱われないこととされており、この点について公開草案でも見直しは提案されていません。したがって、転換社債の流動・非流動への分類は、転換権が行使されて社債が株式に転換される時期は考慮せず、原則として社債の残存期間に基づいて決定されることになると考えられます。

負債の流動・非流動分類なんて日本基準と同じと考えていたら、IFRSでは負債の流動比率がすごく悪化したという事態になっているかもしれません。この機会に、一度負債の流動・非流動分類を確認しておきましょう。

2019年9月に公表された米国基準の公開草案については、あずさ監査法人発行の会計・監査ダイジェストをご覧ください。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部
マネジャー 新開 朋春

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