IFRS第17号「保険契約」の修正案 - 5つの論点について再審議を実施

IFRS第17号「保険契約」の修正案 - 5つの論点について再審議を実施

IASBは3つの修正案を確認し再審議が進展しました。

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期中財務諸表、保険獲得キャッシュ・フロー及びクレジットカードの3つの論点に係る修正案が確認された

2020年第一回目の会議は、IFRS第17号「保険契約」の5つの分野について取り上げた。

2020年第一回目の会議において、国際会計基準審議会(以下、IASBという)は、コメント提出者から受けたIFRS第17号「保険契約」の修正案に関するフィードバックを更に検討した上で、下記3つの分野における修正案を確認した。

1.期中報告 - 企業は過去の期中財務諸表で行った会計上の見積りの取扱いを変更するか否かについて会計方針の選択とすることが要求される。

論点の所在
IAS第34号「期中財務報告」では、企業の報告頻度は年間業績の測定に影響を及ぼすべきではないとしている。ただし、IFRS第17号「保険契約」では、IFRS第17号をその後の期中財務諸表または年次報告期間に適用する場合、過去の期中財務諸表に行われた会計上の見積りの取扱いを変更してはならないと要求している。

IFRS第17号では、将来の期間に係る履行キャッシュ・フローの見積りの変更は、契約上のサービス・マージン(CSM)を調整する必要があると定めているが、実績調整(つまり、現在及び過去の期間にわたる予定キャッシュ・フローと実績キャッシュ・フローの差額)は直ちに純損益に認識される。このアプローチにより、企業の報告頻度によって、年次財務諸表で認識されるCSM及び収益が変わってしまう可能性がある。

この論点は、IAS第34号に基づいて連結ベースの期中報告を公表するグループでその子会社は期中報告が求められていない場合 (または子会社がIAS第34号が適用されない期中報告を作成している場合、もしくは親会社とは異なる報告頻度の場合) 、当該グループは複雑な実務が要求される。親会社と子会社の期中報告の関係が上記と逆の場合でも同様である。

IASBは公開草案においてはこの点についてIFRS第17号の修正を提案しなかったが、IFRS第17号の本論点に関し、特に一部の企業に以下のような問題が生じるというフィードバックを受領した:

  • 2組の会計上の見積りを保持する必要がある。
  • 期中財務諸表に関する現行の会計実務はYear-to-date basis(事後の期中報告や年次報告において見積りを洗い替える処理)だが、Period-to-period basis(報告期間ごとの切り放し法)に変更される。

IASBは2020年1月に何を決定したか?
IASBは、IFRS第17号における期中財務諸表に関する要件を修正して、企業に以下の取扱いを要求することを暫定的に決定した。

  • IFRS第17号をその後の期中財務諸表または年次報告期間に適用する場合、過去の期中財務諸表に行われた会計上の見積りの取扱いを変更するか否かについて会計方針を選択する。
  • 選択した会計方針を、全ての発行した保険契約及び保有している再契約契約に適用する。

どのような影響があるのか?また財務諸表作成者は何をすべきか?
企業は以下のいずれかを選択する必要がある:

  • 期中にIAS第34号「期中財務報告」に基づいて表示した結果を無視し、Year-to-date basisで年次財務諸表を表示するアプローチを適用する。
  • 現在のIFRS第17号の要件を適用する。

上記のアプローチの選択によって生じる差異は予測しにくいものであり(見積りの変更により生じる差異であるため)、競合他社がどちらのアプローチを選択するかも考慮する必要があるものの、企業は実務のオペレーションの観点から会計方針を選択することができると考えられる。他社と異なる会計方針を選択した企業は、会計上の見積りに重要な変更が行われた報告期間において、見積りの変更を業績に反映させるタイミングによって生じる、他社とは異なる業績への影響について説明を求められる可能性が高い。

その他、利息による付利の基準も当取扱いによって異なる。例えば、企業がIAS第34号に準拠した半期報告を公表したとする。年間を通じて新しい契約グループを形成しており、上半期においては当該期間の加重平均割引率を使用してCSMに対応する利息分を付利するが、一方、下半期は年間の加重平均割引率を用いることになる。これにより、期中報告を行わない企業とCSMに差が生じる可能性があるため、グループ内のすべての契約のCSMの利息が年間の加重平均割引率を使用して付利されることになる。
実務への影響は複雑になる可能性は高いが、どちらの会計方針を選択したとしても、IFRS第17号では期中報告日において見積りと前提を更新する必要がある。
一部の保険会社は、現在のIFRS第17号の要件に準拠するためのシステムとプロセスの構築を既に開始していると考えられるが、その他の多くの会社は当該会計方針の選択肢それぞれに関してメリットとデメリットを検討する必要がある。

 

財務諸表作成者による検討が必要な論点
  • 各報告日において見積りと前提を更新するために、現在のプロセスに対してどのような変更が必要か(もしあれば)。
  • 現在の期中報告システムはYear-to-date basisもしくはPeriod-to-period basisのいずれの考え方に基づいているか。
  • 報告の頻度は競合他社と一致しているか。
  • IFRS第17号に基づく期中報告についてどの程度の作業を既に実施済か。変更による潜在的なコストはどの程度でメリットは何か。
  • 選択した会計方針や事業の季節性に応じて、見積りの変更による影響はどのように報告されるのか。
  • CSMに対する利息の付利等の二次的な影響は検討済か。期中に割引率が大幅に変動した場合、潜在的な影響はどのようなものか。
  • どちらの方針がより多く競合他社に選択されるか。当該会計方針の選択が投資家の予想にどのように影響するか。
  • 子会社は親会社の報告制度とどのように平仄を取るのが最適と考えられるか。
  • 適用可能なそれぞれの会計方針の長所と短所は何か。
  • 提案された会計方針の選択がシステム、プロセス、およびコントロールにどのような影響を与えるか。

2.保険獲得キャッシュ・フロー - IASBは、2019年12月に確認した保険獲得キャッシュ・フローに係る資産に関する取扱いに続き、移行措置において当該資産をどのように決定するか検討を行った。

論点の所在
公開草案において、IASBは保険獲得キャッシュ・フロー(IACF)に係る資産に対する認識・測定方法に関して、いくつかの修正を提案した。IASBは、コメント提出者より修正案にはIACFが移行時にどのように認識・測定を行うかという点が含まれていないとのフィードバックを受領した。フィードバックには、IASBは企業がどの移行アプローチを使用するかに関わらず、移行日におけるIACFに係る資産を測定するために用いる移行時の軽減措置及び簡便的な方法を提供すべきという提案が含まれていた。
 

IASBは2020年1月に何を決定したか?

項目 決定
移行時のIACFに係る資産 IASBは企業に対し、移行日におけるIACFの資産を特定・認識・測定することを要求するため、IFRS第17号「保険契約」の修正を決定した。
修正遡及アプローチの利用

IASBは修正遡及アプローチを適用している企業に対し、移行日に利用可能な情報を用い、以下の方法によりIACFに係る資産を測定することを要求するため、IFRS第17号「保険契約」の修正を決定した。

  • 移行日以前に支払われたIACFの金額を特定する(移行日前に存在しなくなった契約に関連する金額を除く)。
  • 企業は今後適用する予定と同じ規則的かつ合理的な配分方法を利用してこの金額を以下に配分する。

    • 移行日において既に認識されている保険契約グループ
    • 移行日以降に認識されると見込まれる保険契約グループ

また、IASBは修正遡及アプローチを適用している企業が、以下のことを行うよう要求することを決定した。

  • 移行時に既に認識されていた保険契約グループに対して配分されたIACFの金額を控除して、当該グループの契約上のサービス・マージン(CSM)を修正する。
  • 移行日以降に認識されると見込まれる保険契約グループについて、IACFに係る資産を認識する。
情報がない場合

企業は修正遡及アプローチを適用するための合理的で裏付け可能な情報を有していない場合、IASBはIACFに関して以下のように決定した:

  • 移行日に認識された保険契約グループのCSMの修正をゼロとする。
  • 移行日以降に認識されると見込まれる保険契約グループのIACFに係る資産をゼロとする。
公正価値アプローチ

公正価値アプローチでは、IASBは企業に対して、以下の権利を取得するためにIACFを支払っていなかった場合、移行日に請求されるであろうIACFの金額をIACFに係る資産として認識するよう要求することを決定した。

  • 移行日前に組成されたが、移行日にはまだ認識されていない保険契約の保険料からIACFを回収する権利。
  • 企業が既に支払ったIACFを再度支払うことなく、移行日後に将来の契約(予想更新契約分を含む)を取得する権利。

IASBは最終改訂基準において上記要件がどのように適用されるかを明確にすると示唆した。

減損 IASBは、移行時に認識されているIACFに係る資産について、企業は回収可能性評価の遡及的な適用は要求されないことを明確にした。つまり、移行日より前の期間に発生したものは減損テストの対象外である。
保険契約の移転と企業結合 IASBは、IFRS第3号の範囲に含まれる企業結合において保険契約を取得する、または事業を構成しない保険契約の移転により保険契約を取得する企業に対して、IACFに係る資産を別個に認識し、取得時点の公正価値で測定するよう要求するため、IFRS第3号「企業結合」とIFRS第17号を修正すると決定した。

 

どのような影響があるのか?また財務諸表作成者は何をすべきか?
この明確化は、移行日において更新が見込まれる保険契約に関して多額のIACFを負担している保険会社にとって有用である。保険会社に対し、移行時のIACFに係る資産を特定・認識・測定するための具体的な要件が示されており、中には簡便的な対応も含まれている。これは以下のことを意味している:

  • 保険会社は、移行時または移行前のIACFに関して利用可能な情報を評価する必要がある。当該キャッシュ・フローが保険契約グループにどのように配分され、どのように更新されると予想していたか、また時間の経過とともに上記事項はどのように変化したかなどが含まれる。
  • 保険会社は移行時に完全遡及アプローチを適用できるかどうか、または修正遡及アプローチ、公正価値アプローチのいずれを適用する必要があるかを判断する。
  • 保険会社は移行時にIACFに関する合理的で裏付け可能な情報がないと判断した場合、公正価値アプローチが適用されない限り、IACFに係る資産はゼロである。
  • 保険会社は今後適用する予定と同じ規則的かつ合理的な配分方法を利用して、移行時のIACFに係る資産の測定を行う必要があるため、企業は配分方法を検討する際に移行時の当該影響を考慮する必要がある。
  • 保険会社が移行時に公正価値アプローチを適用すると選択した場合、及び企業結合または事業を構成しない保険契約の移転により保険契約を取得する場合、IACFに係る資産の金額を決定するために会計上の判断が必要になる。

3.クレジットカード及び同様の取決めに関する適用範囲の除外 - 一部のクレジットカード契約に関するIFRS第17号からの範囲除外、及び重要な保険リスクを移転する同様の与信又は支払の取決めについて対処するための除外範囲の拡大も明確にされた。

論点の所在
一部の契約、例えばクレジットカード及びその他類似の契約は与信又は支払の取決め等を提供するが、保険カバーを提供し重大な保険リスクを移転する可能性がある。
クレジットカードを例にすると、クレジットカード発行者は契約者のクレジットカードによる購入に対し保険カバーを提供する。サプライヤーの虚偽記載による販売、或いは契約不履行等が原因で契約者より保険金請求があった場合、クレジットカード発行者が保険金を支払うことが考えられる。この取決めでは、クレジットカード発行者は以下を行う可能性がある:

  • 顧客に手数料を請求しない。
  • 個々の顧客に関連する保険リスクの評価を反映しない年会費を請求する。
  • 個々の顧客に関連する保険リスクを反映した料金を請求する。

クレジットカード契約には、保険要素と非保険要素の両方が含まれている。次の表で説明するように、非保険要素の分離に関するIFRS第17号の規定は、IFRS第4号の規定と異なるため、財務諸表作成者にとって問題となり得る。
利害関係者は、IFRS第17号が発効すると、現在クレジットカード契約における融資(或いはローン・コミットメント)をIFRS第9号「金融商品」、または他のIFRS基準に基づいて会計処理しているクレジットカード発行者が、重大な保険リスクを移転する契約に関して会計処理を変更することが必要となる点を懸念している。
IFRS第9号に準拠するために、新しい信用損失モデルを開発するコストを負担したばかりにも関わらず、上記の会計処理の変更が必要となってしまう。

IFRS第4号 IFRS第17号
保険者が保険契約から融資要素を分離し、その融資要素にIFRS第9号「金融商品」、或いは他のIFRS基準を適用することを認めている。原則として、重大な保険リスクを移転する契約全体に対してIFRS第17号を適用する必要がある。 原則として、重大な保険リスクを移転する契約全体に対してIFRS第17号を適用する必要がある。
IFRS第4号と比較すると限られた状況でのみ分離が認められる。

 

IASBは2020年1月に何を決定したか?
IASBは2020年1月の会議において、公開草案に対するフィードバックに応じて、クレジットカード契約の修正案について以下の2つを決定した。

クレジットカード契約

企業は、企業が個々の顧客に関連した保険リスクの評価を契約の価格を設定する際に反映していない場合に限り、保険契約の定義を満たすクレジットカード契約をIFRS第17号の適用範囲から除外することを要求される。
企業はクレジットカード契約の契約条件の一部として、顧客に保険カバーを提供する場合、以下が求められる:

  • 保険カバー要素を分離して、当該要素にIFRS第17号を適用する。
  • クレジットカード契約のその他の構成要素については、IFRS第9号等の適用可能なIFRS基準を適用する。
その他同様の商品

IASBは、以下の条件を満たす場合、上記クレジットカード契約と同じように、与信又は支払の取決めを提供するその他の契約に対して、修正案の適用範囲を拡大することも決定した。例えば、デビットカード、カードのポイント、または類似のデジタル商品も対象となる。

  • 類似する契約は保険契約の定義を満たしている。
  • 企業が個々の顧客に関連した保険リスクの評価を契約の価格を設定する際に反映していない。

IASBは、類似の取決めは重大な保険リスクを移転する可能性があると考えられるため、適用範囲の拡大を決定した。

 

どのような影響があるのか?また財務諸表作成者は何をすべきか?
クレジットカードやその他同様の契約に保険カバーが含まれているが、その価格には個々の顧客に関連する保険リスクの評価は反映されていない場合、企業は保険カバー要素のみにIFRS第17号を適用し、その他要素にIFRS第9号等その他適用可能なIFRS基準をそれぞれ適用することが要求される。

クレジットカード契約または保険カバーを提供する類似製品を発行するカード発行者は、この改正された修正案の下でIFRS第17号の適用範囲から一部除外され、またそれぞれの非保険要素にどの基準が適用されるか評価する必要がある。例えば:

  • 融資またはローン・コミットメント、及びそれに関する利息はIFRS第9号が適用される。
  • カード発行者が商品やサービスの提供により得られた収入はIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」が適用される。
  • 不利な契約に該当する場合、及びIFRS第15号が適用される契約または他の会計基準でカバーされない契約のいずれかの場合、当該契約はIAS第37号「引当金、偶発債務及び偶発資産」が適用される。

IASBの目的は、保険が組み込まれたクレジットカードまたはその他同様の契約を発行する企業が、契約の構成要素のうち保険カバー要素のみにIFRS第17号を適用させることで、当該商品にIFRS第9号を適用している銀行に対し、IFRS第17号適用による負担と会計処理の変更を軽減することである。

他にも2つの分野において再審議が行われたが、修正は無く変更は生じていない

IASBは以下の分野に関するIFRS第17号の要件を変更しないことを決定した。

  • 企業結合 - 決済期間において取得した保険契約の分類。IFRS第3号「企業結合」の適用範囲内の企業結合、もしくは事業を構成しない保険契約の移転。
  • 経過措置におけるリスク軽減オプションの遡及適用の禁止。IASBはIFRS第17号の移行時とその後の期間に示される情報の信頼性に影響を与え得る後知恵が使用されるリスクを考慮し禁止である点を確認した。

残された7つの論点(発効日等を含む)

IASBの再審議の計画によると、IASBの計画に従って全ての修正案を2020年中頃に最終化するべく、今後数ヵ月間で以下の残り7つの論点に対して対応する予定である。

  • 投資サービスへの契約上のサービス・マージン(CSM)の配分に関する修正案 - 直接連動有配当保険契約ではない保険契約のカバー単位、開示及び用語の定義
  • リスク軽減オプションの適用可能性 - 当期純利益を通じて公正価値で測定する非デリバティブ金融商品
  • 提案されたIFRS第17号の適用日
  • IFRS第4号「保険契約」におけるIFRS第9号「金融商品」適用の一時的免除の延期
  • 集約のレベルー保険契約者間において世代を超えてリスクをシェアする保険契約の年次コホート
  • 特定の移行規定の修正又は軽減措置の追加(保険契約獲得キャッシュ・フローを除く)
  • その他マイナーな修正案

今後議論される予定のIFRS第17号の分野は、適用日の議論も含め、重要なものが残っているが、IASBは再審議計画に含まれていた多くの論点を既にカバーしており、2020年中頃を目途に最終版のIFRS第17号を公表するという当初のスケジュールに沿っている。再審議の進展により、財務諸表作成者のIFRS第17号適用プロジェクトの推進にもつながり、最終基準がどのようなものになるか徐々に明確になってきている。

Mary Trussell
KPMG’s Global Lead,
Insurance Accounting Change

次のステップ

IASBは、2020年中頃にIFRS第17号の最終修正案を公表する目標に沿って、2月に再審議計画に関連する議論を引き続き実施する。IFRS第17号の発効日は3月に審議される予定である。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部

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