ミレニアル世代をターゲットに、ビジネスを刷新

フィンテックやAIなどの技術革新が与える影響や経営課題について、みずほ証券株式会社の大井聡紀氏、星子哲徳氏にお話を伺いました。

フィンテックやAIなどの技術革新が与える影響や経営課題について、みずほ証券株式会社の大井聡紀氏、星子哲徳氏にお話を伺いました。

大井 聡紀 氏、星子 哲徳 氏

Fintech技術の普及で社会は変化するか?

これからの10年を考えた場合、Fintechの技術が普及することで世の中がものすごく大きく変わるか、たとえばネガフィルムがなくなってデジカメになるというレベルのように世の中から何かがなくなって新しいものに生まれ変わるかと聞かれると、「ガラッと180度変わることはない」と答えるでしょう。銀行や証券は無くなりませんし、レガシーサービスも残るでしょう。
例えば現在、銀行は「キャッシュレス社会を実現するぞ」と意気込んでいますが、キャッシュレス化もなかなか普及しないだろうと思っています。それは、まだまだ社会的に現金を使う文化と、広範に及ぶタッチポイントが根強く残っているからです。当然、一部の人たちはキャッシュレス化を始めており、今後は「財布を持っていません」という人たちも出てくるでしょう。しかし、こちらも「今後10年」という期間では、一気にすべてがガラッと変わることはないでしょう。
一方で、金融のみならず技術革新がものすごいスピードで指数関数的に進化しています。したがって、たとえばレベル5の自動運転の車が走るとか、コンビニから店員がいなくなるとか、世の中が少しずつではありますが、変わっていくと思います。

「AI」は社会に与える一番のインパクト

これからの社会に一番インパクトを与える技術は、やはりAI(人工知能)でしょう。我々もAIを活用してさまざまなことを行なっていこうとしています。
例えばマーケティングに関していえば、その顧客に最適な金融サービスを提供するために、AIでビッグデータを解析しようとしています。
一方、経営のリスクコントロールのところにAIを使う話もあるのですが、私は結構難しいと思っています。たとえば何か経営判断を下すときに、AIのディープラーニングにより、強力なレコメンドで「XというオプションよりYを選択しなさい」と出たとします。そのとき経営者はどう判断しなければならないのか。つまり、「Yです」とYを選んで事業が失敗したときに、株主を含め、ステークホルダーに対してどう説明をするのか。まさか、「AIが判断したのでYにしました」と説明するのか。巨大な組織として本当にそれでいいのか。非常に難しい問題です。
ツールとしてAIは極めて有益なものだと思いますが、活用していくと不可逆的になっていき、判断するのがより難しくなるのでは?と感じています。

AIで「金融ジェロントロジー」は解決できるのか

日本銀行の「資金循環統計」によると、2018年12月末の個人金融資産残高は1,830兆円。そのほとんどを60歳以上の世帯が占めています。そして、現在のみずほ証券の主要顧客も同じく60歳以上の富裕層の方々です。
2030年のみずほ証券の主要顧客は、人生100年時代でもあり主要顧客のままであり続けるでしょう。しかし、金融ジェロントロジー(金融老年学)で語られる、「認知機能が低下した高齢者の資産管理はどうあるべきか」という深刻な問題に直面します。
現在70歳、80歳の方々は10年後には80歳、90歳になります。認知度が落ちてしまったことにより解約もできなくなる恐れが出てくるのです。金融業界全体の話かもしれませんが、1,800兆円もの金融資産が硬直化してしまうのではないかと、すごく懸念をしているところです。
金融取引ができるレベルなのか、AIを使って認知度判定ができるソフトウェア開発や、認知機能そのものをトレーニングするアプリを作る話もあります。このようなものを社会に浸透させ、使われないお金がずっと金庫に眠り続ける状況が起きないようにしなければならないと思っています。

ミレニアル世代を囲い込むことが大きな経営課題

現在20代、30代の人たち、いわゆるミレニアル世代が、やがて40代、50代になり、みずほ証券の主要顧客になっていくときに、突然、その人たちがたくさんのお金を持ってみずほを訪れるということはないと思っています。したがって、若いうちに我々の顧客になっていただくことがとても大切なのです。
では、どうやって顧客になっていただくか。これは我々の結構重たい経営課題の1つです。
いろいろな調査・研究をしてわかってきたことは、今の富裕層の人たちは、やはり多くの方が「みずほだから信用があって」とか、「昔からみずほと取引してるから、今もみずほと取引してるんですよ」という人たちです。しかし、ミレニアル世代の人たちは、あまりそういうブランドを気にしません。
「みずほだから」では取引しなくなっています。これは、ミレニアル世代の金融に対する向き合い方が変わってきているからだと思います。今のミレニアル世代が求めているのは、「すごくお得で便利で、スタイリッシュな金融サービス」です。そして、「そのサービスをたまたま提供していたのがみずほだったら、みずほと取引する」という、「サービスドリブン」、「テクノロジードリブン」になってきています。
みずほが看板で商売できる時代は終わりつつあります。今までのやり方をそのままミレニアル世代に提供しても、受け付けてくれません。ミレニアル世代を囲い込むためには、ミレニアル世代に対して刺さるサービスを提供していかなければなりません。サービスも、ビジネスの進め方も、新しくしていかなくてはならないのです。

オープンイノベーションを活用して「共存共栄」する

Fintechはここ5年ほど、ずっと熱い話題になっています。おそらく今後はオープンイノベーションの動きが更に加速するでしょう。銀行も証券も、これまでは新しいサービスを作るときは、社内の企画の人たちが議論しながら作っていました。しかし今は、スタートアップと協業することも非常に受け入れられやすい環境になってきています。
そこで、たとえばスタートアップ企業や、すでに顧客基盤をしっかりと持つプラットフォーマーとの協業で、それらの企業が持つミレニアル世代の顧客を、業務提携でデータのシェアリングをしながら将来的にはみずほの顧客になっていただくようにするとか、JV(ジョイントベンチャー)で新しい証券ビジネスを作るといったことも考えています。
スタートアップ企業の課題は、優れたUI/UXを持っているが、なかなか顧客が集まらないことです。そこは彼らに、「みずほ証券の顧客基盤やプラットフォームを使ってください。そして我々の顧客にサービスを提供してください。そこから得られる収益はシェアをしていきましょう」と言えます。すると、彼らも一気に我々の顧客を自分の顧客にできるし、その逆もしかりで、みずほもそういった優れたUI/UXを持つサービスを使うことができるのです。
今までのやり方とだいぶ変わるところですが、これからのカギは「共存共栄」していくことだと思っています。

チャレンジできるエコシステムを社内に作る

Fintechに係る技術に頼ったサービスは、同時にコモディティ化する恐れがあります。
そこで、優位性を担保するためにやらなければならないことは、シリコンバレーのような斬新でユニークなサービスや製品が生み出される環境、エコシステムを作ることだと思っています。
社内だけではなく社外も含めて、いろいろな人がみずほ証券の中でチャレンジできるような仕組みを作り、新しい事業、新しいサービスをどんどん生み出していく。それがうまくいかなかったときは、そのままピボット(方向転換)して違う事業やサービスに変えて、まだ開発を続けるのか、いったんそれはクローズにするのか、その意思決定を高速でできるような、まさにシリコンバレー型エコシステムの仕組みを作っていく。
常に新しいことに取り組んでいるという仕組みを、社内に作っていかなくてはならないと思っています。

大井 聡紀 氏

みずほ証券株式会社
デジタルイノベーション部長

法人営業、国際業務企画、大手米銀出向、個人業務企画、新規事業創出企画、シリコンバレー勤務を経て現職。20年超に及ぶ銀行業務を通じて営業・企画業務・新規事業創出やスタートアップ連携、ベンチャー投資、海外企業との協業経験を多数有する。

 

星子 哲徳 氏

みずほ証券株式会社
デジタルイノベーション部 ディレクター

支店営業を経て債券部へ配属。様々な債券の調査・分析業務に従事したのち、商品企画部、ネットチャネルのマネージャー等を経て、2018年度より現職。この間、新商品等の導入や他企業との協業施策等の推進を主導。

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