サプライチェーンファイナンスが資産運用を変革させる

ブロックチェーン技術で変わるサプライチェーンファイナンスについて、国際資産運用センター推進機構の有友圭一氏にお話を伺いました。

ブロックチェーン技術で変わるサプライチェーンファイナンスについて、国際資産運用センター推進機構の有友圭一氏にお話を伺いました。

有友 圭一 氏

ブロックチェーン技術で変わる「サプライチェーンファイナンス」

2030年の社会を予測した場合、仮想通貨ブームはガートナーのハイプ・サイクルも明言していますが、すでに終わっていて、ブロックチェーンは、よりスマートコントラクト化していくと思います。その中で、どんなにEコマースが発達しても、サプライチェーンはなくなりません。サプライチェーンの世界は、非常に書類が多い世界です。製造業のみなさんはご存知ですが、発注書、納品書、請求書の3つを常に突合しなければなりません。
いわゆる、信用状(L/C)の世界というのは、基本的には巨大なバックオフィスを持っている銀行しかできない。商社やリース会社もやってはいますが、基本的にL/Cというのは、銀行間でグルグル回っているだけです。しかも、そこは極めて労働集約的で、かつ書類の多い世界なのですが、ブロックチェーン技術を使うことにより、書類の作成・管理にかかる手間をかなり簡素化できると見ています。
そうすると、何が起こるか。トレードファイナンス(貿易金融)の世界というのは、これは極めて魅力的な商品なのです。なぜかと言うと、かなり高い尤度(ゆうど)が取れるのと、市場流動性が高いからです。売掛金が銀行間でグルグル回っているだけですから、市場流動性が高く、かつ利回りの高い商品です。世の中に、このような商品は他にあまりありません。
基本的には、市場流動性と利回りの関係は、どちらかを取ることになります。プライベート・エクイティと言った瞬間に、市場流動性などはありません。ETF(上場投資信託)などは、市場流動性はありますが、リターンを犠牲にしているわけです。したがって、これまでもトレードファイナンス・プロダクトは、投資家、特にプロのアセットマネジャーにとっては、魅力的な商品でした。しかし、あまりにもバックオフィスに負荷がかかるので、どうしても手が出せない。それが、ブロックチェーンにより手が出しやすくなるのですから、大きな可能性を秘めていると思うのです。投資商品としての魅力が増すでしょう。

資産運用会社も「SMEファイナンス」に進出できる

AlipayやPayPalは、ペイメントで稼いでいるわけではありません。そこは入り口であって、その先のSME(Small and Medium Enterprise)ファイナンス(中小企業向けの金融)に行けるかどうかが勝負なのです。従来SMEファイナンスに関していうと、銀行は与信しか見ていません。伝統的な与信の情報源は財務諸表ですが、これは良くて四半期に一回。しかし、多くの中小企業は監査を受けていないため、実際の業績は正確にはわかりません。一方、AlipayやPayPal、LINE Payなどのペイメントプレーヤーの圧倒的な強みは、実際の取引を確認できることです。キャッシュフローが継続的にわかる。したがって、リスクの最小化ができるのです。
では、クレジットカード会社はどうでしょうか。銀行よりは取得できる情報は多いですが、せいぜいわかるのは、昨日〇〇ストアで1,000円分を買ったこと程度で、何をどのくらい買ったかというレベルではまったくわからないのです。このことから言えるのは、ペイメントを押さえるというのは、知りうる情報の粒度が圧倒的に違うということです。資産運用会社は、ここに手を出したくて、どうしたらここに投資できるのか、ずっと画策していましたが、ブロックチェーンを使うことにより、煩雑で、巨大なバックオフィスがないとできなかった仕事が、資産運用会社でもできるようになるのです。

「サプライチェーンファイナンス」は日本が一番になれる可能性も

「スマートコントラクト化により紙がなくなり、事務の負荷も軽減され、その結果としてバックオフィスが軽くなる」くらいのイメージではなく、「今まで手を出せなかった人たちが、手を出せるようになり、これが金融商品に変わっていく」ということです。銀行は、もうトレードファイナンスにあまり興味がありません。事務コストがかかりすぎですし、手間暇をかけてやるほどキャピタルライトではない。ここを支配したいと思うほど魅力的な商品でもない。
現在、トレードファイナンスの恩恵を受けている会社は、大企業です。それは、やはり信用力があるからで、銀行も相手にしてくれるのです。しかし、サプライチェーンを構成しているのは多くの中小企業です。今後は、銀行が受けてくれない中小企業の与信を、ヘッジファンドがポートフォリオの一環の中で受け入れ、トレードファイナンスの恩恵を得るようになるでしょう。日本人はサプライチェーンファイナンスをしっかりとやる必要があります。なぜかと言うと、伝統的に日本企業はサプライチェーンが強い。世界のサプライチェーンの概念は、ほとんど日本企業が作ったと言っても過言ではありません。
JIT(ジャスト・イン・タイム)も、TQM(トータル・クオリティー・マネジメント)、6シグマも、日本の製造業からスタートしています。論文を書いたのはアメリカの大学教授かもしれませんが、最初に実践したのは日本企業です。ところが、日本企業はサプライチェーンは強いが、サプライチェーンファイナンスは弱い。この理由は、日本企業は業務を細分化しているので、製造、物流、経理が完全に分業化されているからです。ただ、素地としては海外のバンカーと比べても日本人のバンカーのほうが圧倒的にサプライチェーンを理解している。そういう意味で、日本がここは一番になれる可能性があると思います。

実は「AI」はあまり進化していない

AI(人工知能)に関していうと、実は20年ぐらい、あまり変わっていません。
AIは人間のように仮説を立てられませんし、ストーリーもつくれません。たとえば私が言った「サプライチェーンファイナンスが、資産運用業界を変える」は仮説です。仮説をつくる能力は人間の専売特許なのです。
一方、AIが強いのは、仮説に対して過去のファクトを引っ張ってくることです。days like thisというロジックがあり、「今日みたいな日って、あった?」と聞くと、こんな日はなかったと思うかもしれませんが、実は因数分解すると何回かある。どれが近いかということも、一応、数学的に出せます。
ヘッジファンドのカリスマで、AIを20年ほど使用しているレイ・ダリオ氏(世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーターの創業者)は、すべての物事を新入社員であろうが、創業者であろうが、全社で決めているそうです。
まず、全員がそれぞれ仮説を出します。次に、その仮説のもっともらしさを、それぞれが評価します。そこにはAIも1人のプレイヤーとして参加して評価するわけです。それぞれ、何を評価しているのかと言うと、それぞれの目利き力とストーリーの説得力を評価しているのです。レイ・ダリオ氏の発言にもコメントがバンバン来ます。「そろそろ引退したほうがいいのでは?」「20年前の世界を見ていますね」とか、新入社員からポンポン言われるわけです。
これは「ラジカル・トランスペアレンシー」というプロセスで、ポストAI時代を担うと言われている合意形成の方法です。
投資の世界では、社内政治があった瞬間に間違うわけです。間違うと、お金がなくなるから困ります。公務員の世界では、たとえ間違ったとしても、次の年も一定程度の税金は見込めますが、投資の世界では一回の間違いが大きな損失につながるのです。
だから、レイ・ダリオ氏が一番気にしているのは、自分が偉くなればなるほど裸の王様になるので、そうならない仕組みをつくること。そこは、やはり凡人とは違いますね。

有友 圭一 氏

一般社団法人 国際資産運用センター推進機構 理事
一般社団法人 東京国際金融機構 専務理事
Kensho Technologies LLC アジア代表

マッキンゼー、デロイトトーマツ、PwCで金融とテクノロジー担当のパートナーを歴任し、日本のみならず北米、ヨーロッパ、東南アジアで様々な金融機関に関与。一般社団法人国際資産運用センター推進機(JIAM)を共同設立し、現在は理事を務める。一般社団法人東京国際金融機構(FinCity.Tokyo)専務理事、Kensho Technologies LLC(S&P AI専門企業)アジア代表も務める。

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