IFRS 16はChallengingだ!

IFRSのヒント - IFRSの新リース基準であるIFRS第16号「リース」(IFRS 16)が2019年1月以降に開始する事業年度から適用になっています。一般的な3月決算の会社では2019年4月1日から適用を開始しています。

IFRSの新リース基準であるIFRS第16号「リース」(IFRS 16)が2019年1月以降に開始する事業年度から適用になっています。一般的な3月決算の会社では2019年4月1日か

IFRSのヒント

IFRSの適用現場から、実務のつれづれを語ります。

1.はじめに

IFRS 16が今期から適用になって、多くの質問を受けます。会社が実際に所有している資産ではなく、「資産を一定期間にわたって使用する権利」を認識する基準なので、従来の会計感覚的になじみがなく、IFRSを適用する多くの会社で実務上の課題に直面しています。

その中でも特に、「リース期間」についての相談を多く受けます。「リース期間」はリースの契約期間とは異なり、『借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間(貸手のみが解約できる期間を含む)に、(a) リースを延長するオプションの対象期間(借手が当該オプションを行使することが合理的に確実である場合)及び(b) リースを解約するオプションの対象期間(借手が当該オプションを行使しないことが合理的に確実である場合)の両方を加えた期間』と定義されています。何が難しいかといって、リースの継続が「合理的に確実」であるか否かの判断要素が具体的に示されていない中、今まではオペレーティング・リース処理を前提に、「リース期間」をほとんど気にする必要がなかった不動産リースなどについても、「リース期間」の判定が求められるようになったことに加え、不動産のリース契約は個別性が高く、画一的な判定になじまないため、物件ごとの諸条件・諸事情をどのように「リース期間」に反映するかという点です。検討を進めると、個々には最善の見積りと思われる場合でも、種々様々なリース契約間での整合性が気がかりになるケースもでてきます。

また、IFRSを開発している国際会計基準審議会(IASB)も、基準を開発して後はお任せということではありません。適用上の課題が明らかになると、IFRS解釈指針委員会(IFRS IC)というところに課題が投稿されて、どう解釈すべきか議論がなされます。ここでも数多くのリースに関する論点について議論がなされています。
最近もIFRS ICにおける「リース期間」に関する議論の内容が公表されましたが、実務にも影響を及ぼす可能性のあるものであり、そこでの議論を踏まえた2つの論点についてお伝えします。

2.リース期間と賃借施設改良の償却年数の関係について

具体例として、店舗スペース(当初契約期間:3年 借手に延長オプションあり)を借りて、魅力的な空間を演出するために、リース終了時に取り外して転用できない照明設備(経済的耐用年数:16年)を設置したケースを考えてみます。計画通りにいかず、撤退する可能性も十分にあることを想定し、会社は当初契約期間を3年という短めに設定したとします。
この場合、

  • 経済的に16年使える設備を、本当に3年で使用を終了するのか?
  • 相当額の設備投資であれば、短期間での撤退の可能性は低いのでは?
  • 3年での撤退もあり得るのであれば、長期展開の目処が立つまで簡易的な設備しか設置しないはずでは?
  • 過去の類似店舗の実績から判断すると、短期間での撤退の可能性は低いのでは?

等々の疑問を検討しながら、リース期間を慎重に決定する必要があります。

また、上記検討の結果、延長オプションも考慮してリース期間が10年と決定された場合、照明設備の経済的耐用年数が16年であったとしても、設備の実際の使用見込年数を慎重に検討して、賃借施設改良の償却年数を決定する必要があります。

IFRS ICも、リース終了時に取り外して転用できない賃借施設改良の償却年数は、リース期間を上限として定めなければならないとは言っていませんが、両者の差異には十分な注意が必要でしょう。償却年数のほうがリース期間より長く設定されているようであれば、それは本当に妥当と主張できるのか(償却年数が長すぎるのでは?もしくはリース期間が短すぎるのでは?)、今一度立ち止まって再確認する必要があるかもしれません。

3.ペナルティについて

リース契約に解約・更新オプションがついていない場合、一般的にはリース期間は契約期間と一致すると考えられます。
一方、契約期間が10年であったとしても、3年経過後、借手・貸手双方がいつでも相手方の合意なく、かつ、ペナルティなしに解約できるのであれば(解約オプション)、3年経過以降リースが継続するかどうか借手にとっても貸手にとってもわからず、その場合、リース期間は3年を超えることは一般的に想定されません。

ここで、「ペナルティなしに解約できるのであれば」と記載しましたが、例えば、解約するために貸手に多額のペナルティが発生するのであれば、貸手は実際には解約しない可能性が高く、借手が3年を超えて借りることを希望する場合、借り続けることができると考えられます。この場合、リース期間は3年より長くなる可能性があります。

今回のIFRS ICにおける議論では、この「ペナルティ」には解約補償金等の支払い義務だけでなく、より広義な経済的インセンティブの観点を含むことが明らかにされました。

従って、貸手に(集客力の維持や代替テナントが容易には見つからない立地のためなど)契約を解約したくないという経済的インセンティブがある場合、上記ケースでは、リース期間の検討において、貸手の解約オプションは考慮せず、借手が借り続けることを望むのであれば、リース期間は3年を超えて決定される可能性もあります。「3年過ぎたらいずれの当事者も解約補償金を支払わずに解約できるのだから、リース期間は3年!」と決めつけていませんか?リース期間は10年かもしれません!こちらも今一度立ち止まって再確認する必要があるかもしれません。

ここでは、解約オプションについてお話しましたが、更新オプションにも同様の論点があります。

なお、IFRS ICが採り上げたこの論点は「延長・解約オプションが含まれる契約において、リースを継続しないオプションが無効化されるケースとはどのような場合か」についてフォーカスした議論ですが、明示的なオプションがついていない契約についてのリース期間の考え方にも影響があるのではないかという指摘もあり、今後の動向には注意が必要です。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部
シニアマネジャー 松尾 洋孝

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