TCFDを巡る英国の動向~英国のグリーンファイナンス戦略、金融規制当局の動向を鳥瞰する~

TCFDを巡る英国の動向~英国のグリーンファイナンス戦略、金融規制当局の動向を鳥瞰する~

本稿ではTCFD提言を視点の中心におき、グリーンファイナンス戦略などの英国の動向を追うことで、気候関連リスクを巡る今後の留意点を解説します。

加藤 俊治

KPMG サステナブルバリュー・ジャパン/LEAD of TCFD/Taxonomy group

あずさ監査法人

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英国政府はグリーンファイナンス戦略を公表し、民間資金をグリーンな市場に誘導すること、英国金融セクターの競争力強化を目的として、ファイナンスのグリーン化、グリーンへのファイナンス、英国のグリーンファイナンス分野でのリーダーシップ獲得を3本の柱とするビッグピクチャーを公表しました。その中で、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に基づく開示フレームワークは中核をなしています。
また、英国金融当局は金融関係者、マーケット参加者から気候変動リスクの開示や規制に関する意見を幅広く求め、その結果を公表しました。
本稿ではTCFD提言を視点の中心におき、英国の動向を追うことで、気候関連リスクを巡る今後の留意点を解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

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※ GSDアプローチとは、Gap analysis(TCFD最終提言とのギャップ分析)、Scenario analysis(シナリオ分析)、Disclosure analysis(開示内容・手法の妥当性分析)を指します。

ポイント

  • 英国のグリーンファイナンス戦略は、2022年までに、すべての上場企業等にTCFD提言に基づいた開示を求めている。
  • また、同開示の強制適用を検討する旨を明言している。仮に強制適用となった場合には、それがグローバルな議論に発展する可能性がある。
  • 金融当局は金融機関、市場関係者、その他のステークホルダーからの意見を募集・公表しており、さまざまな懸念事項が示されている。

I.グリーンファイナンスの重要性とTCFD

TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)によって2017年6月に公表された提言※1(以下「TCFD提言」という)は、それがグローバルな公的機関によるものであったことから、G20加盟国等においてさまざまな反応を巻き起こしました。
本稿ではそのうち英国政府が2019年7月に公表した「グリーンファイナンス戦略」、および英国の金融当局の1つであるFCA(金融行為規制機構)が2018年10月に公表したディスカッションペーパー「気候変動とグリーンファイナンス」に対するフィードバック(2019年10月)を取り上げて、TCFDとの関連を中心に解説します。
気候関連リスクは、TCFD提言にもあるように、リスクであるだけでなく(ビジネス)機会を産業界にもたらします。新たなイノベーションとそれに基づく貸出、保険引受、資産運用などの契機となり得るグリーンファイナンスに関連する分野は、金融業界および金融当局にとって最重要のテーマであり、グリーンファイナンス戦略によってこの分野のリーダーシップをとることを標榜する英国の動向を知っておくことは、今後のグローバルな動きを予測するうえで重要性が高いと思われます。TCFD提言は同戦略の中核の1つとなっており、グリーンファイナンスにとって不可欠の要素です。


※1TCFD提言の内容等に関しては、拙稿「TCFD:気候関連リスク開示の現状と課題」(KPMG Insight Vol.39 (2019年11月号))ご参照

II.英国のグリーンファイナンス戦略

1. グリーンファイナンス戦略の概要

2つの目的と3本の柱
グリーンファイナンス戦略は、(1)民間資金をクリーンで環境的にサステナブルで強靭な成長を可能にする分野に誘導すること、(2)英国金融セクターの競争力を強化することを目的としています。これらの目的を達成するために、ファイナンスのグリーン化、グリーンへのファイナンス、英国のグリーンファイナンス分野でのリーダーシップ獲得を3本の柱としています。
第1の柱であるファイナンスのグリーン化は、気候問題、環境問題から生じる金融に関連したリスクと機会を、投融資に関する意思決定に反映させること、加えてグリーンな金融商品の市場を厚くすることを指します。
第2の柱であるグリーンへのファイナンスは、英国の低炭素社会を目指した目標※2(以下「英国の目標」という)に対する金融面からのサポートを強化し、クリーンな成長と強靭で環境的に意欲的な目標を達成することを指します。
第3の柱であるグリーンファイナンス分野での英国のリーダーシップ獲得は、ファイナンスのグリーン化(例:気候関連データの収集と分析など)、グリーンへのファイナンス(例:新しいグリーンな金融商品・サービスなど)を通じた国内外のビジネス機会を、英国の金融業界が獲得することを指します。
上記に基づく英国のグリーンファイナンス戦略の関係図は、以下のとおりです(図表1参照)。


※2英国は2050年までに温室効果ガスの排出をネットでゼロとする新しい目標を掲げている

図表1 英国のグリーンファイナンス戦略
図表1 英国のグリーンファイナンス戦略

出典:筆者作成

2. TCFD提言の位置づけ

第1の柱では、パリ協定や英国の目標を達成するためには、気候変動その他の環境変化がもたらす金融に関連したリスクと機会を投融資に関する意思決定に統合することが必要であるとの考えから、意思決定に必要な要素を提供するものとしてTCFD提言が捉えられています。
第1の柱は、a)気候関連リスクに関する共通理解の形成、b)役割と責任の明確化、c)透明性の確保等、d)グリーン金融市場フレームワークの形成の、4つの要素から構成されています。このうちTCFD提言との関連が最も強調されているのが、c)透明性の確保等です。金融市場の本質的な機能の1つは豊富な情報に基づいてリスクを考慮したプライシングをすることで有効な意思決定を行うことにあるという考えの下、気候変動リスクが金融市場・業界にもたらす影響を認識した市場参加者は、透明性が確保された意思決定に有用な気候関連情報に基づいて、長期投資の目線で投融資の意思決定を行わなくてはならないと想定されています。それを可能とするために英国政府としては、i)TCFD提言の達成に向けたアプローチの設定、ii)高品質なTCFD提言に基づく開示実務のサポートと進捗のレビュー、iii)TCFD提言に基づく透明性の徹底を、施策として提示しています。
まずi)TCFD提言の達成に向けたアプローチの設定ですが、英国政府はTCFD提言が任意のフレームワークであることを支持しつつも、英国においてはすべての上場企業と大手のアセットオーナーに、2022年までにTCFD提言に基づく開示を実施するように要請しています。また、2020年末までにはファイナンスのグリーン化に関する中間報告を取りまとめる方針であり、その中にはTCFD提言に基づく開示実務の進捗状況が含まれる予定です。
加えて、英国の複数の規制当局からなるジョイントタスクフォースを立ち上げて気候関連の金融にまつわる課題を検討し、有効な開示を促進するための方策を調査することになっています。その中には、気候関連の開示報告を強制適用とすることが適切か否かの検討を含むとされています。
次にii)高品質なTCFD提言に基づく開示実務のサポートと進捗のレビューに関しては、開示情報はそれが意思決定を導く場合にのみ有用性があると判断できるという認識の下、産業界がTCFD提言に基づいた開示実務のベストプラクティスに至るまでにはある程度の時間を要するとの想定を許容しています。英国政府は年金規制当局※3と共同でTCFDガイダンスの開発を行うために活動したり、金融業界の気候変動に対する対応を進めるために金融規制当局※4がフォーラム※5を立ち上げるなどの活動を行ったりしています。また前述のように、2020年末までにはTCFD提言に基づく開示動向に関する中間報告が予定されています。
最後に、iii)TCFD提言に基づく透明性の徹底に関しては、TCFD提言が気候関連リスクと開示に関する有効な手段であることから、OECD(経済協力開発機構)や国連などの国際的な機関との協働や仲介役を、英国政府が積極的に果たすことが示されています。

※3The Pensions Regulator
※4PRA(健全性監督機構)とFCAを指す
※5Climate Financial Risk Forum(CFRF)

3. 留意点

TCFD提言は気候関連リスクの開示に関する任意のフレームワークではありますが、前述のように英国政府は強制適用とすることが適当であるか否かを検討するとしています。そもそも2022年までにすべての上場企業がTCFD提言に基づく開示を実施することが目標となっており、その目標が達成されれば強制適用と同様の効果があったと考えてよいと思われます。仮に検討の結果、気候関連情報の開示が強制適用された場合にはグローバルな議論に発展する可能性があり、2020年の中間報告およびそれ以降の英国規制当局の動向に注目していく必要があります。

III.英国FCAのディスカッションペーパーに関するフィードバック

1. 経緯

FCAは金融規制当局の一員として、2018年10月にディスカッションペーパー「気候変動とグリーンファイナンス」(以下「DP」という)を公表しました。その趣旨は、上場有価証券の発行体の開示実務の中に気候変動リスクが含まれる可能性があること、18,000余りの金融機関の健全性を監督する立場から、金融機関に対して気候変動リスクや低炭素経済への移行に伴うリスクを適切に管理するように要請する立場にあること、消費者保護等の責任を負う立場から、消費者のグリーンな金融商品への投資志向が適切に保護されなくてはならないと考えていること、そしてグリーンファイナンスのマーケットを充実させるにあたって、規制当局がその障害となるべきでないという認識にありました。
TCFD提言に基づく開示は、欧州のサステナブルファイナンスに関するアクションプラン、本稿の前段で取り上げた英国政府のグリーンファイナンス戦略と並んで、金融サービス市場にインパクトを与える気候変動リスク関連の重要事項として取り扱われています。
FCAの一連の動きは、グリーンファイナンス戦略の一環として位置づけられています。

2. フィードバックの概要

FCAはコメント募集後の2019年10月にDPに対するフィードバックを公表し、以下の5つの視点からまとめています。
第1に、有価証券発行体である開示企業からは、気候変動リスクの自社における重要性の判断に課題は残るものの、TCFD提言が有効なフレームワークであると評価されています。ただし、さらなる開示ガイダンスに対する要望、企業規模に応じた対応の必要性を求める声があったとされています。
第2に、FCA監督下の金融機関(銀行、保険会社、アセットオーナー、アセットマネジャーなど)からは、TCFD提言に基づく開示を支持する声が多かったものの、企業規模やリスクプロファイルに従った適用範囲の検討を要望する声があったとされています。
第3に、サステナビリティに関する共通の基準等に関しては、確実にその金融商品がグリーンと判断できる基準が必要であり、欧州のサステナブルファイナンスに関するアクションプランに基づく基準設定を支持する声があったとされています。
第4に、ステークホルダーからの懸念事項として、短期的な成果を求める金融カルチャーがグリーンファイナンス市場の成長を脅かす可能性があるのではないか、共通の基準がないとグリーンでない金融商品に投資してしまうリスク、いわゆるグリーンウォッシュのリスクが生じるのではないかという懸念が示されたとされています。
第5に、産業界との対話の必要性に関する声が多く、CFRFを通じたベストプラクティスの共有を求める声があったとされています。

3. 今後の予定

上述の懸念や要望に関してプライオリティをつける作業を行ったうえで、対応していくとされています。
2020年の早い時期にはコンサルテーションペーパーを公表する予定ですが、そのなかにはTCFD提言に基づく開示に関して、“comply or explain”による新たな開示ルールを提案するとともに、現行の開示義務と気候変動リスクの関係を明確化することが含まれています。

IV.最後に

英国政府はグリーンファイナンス戦略を低炭素経済への移行に関する施策として定め、その中でTCFD提言は中核をなす1つの要素として認定されています。
これは同提言が単なる開示フレームワークに留まらず、ガバナンス、リスク管理、戦略、KPIによる経営管理にまで至る包括的な枠組みであることの、1つの証左ではないかと考えます。
TCFD提言の重要性は、金融市場だけでなく企業経営全体においても今後ますます大きくなるものと予測され、グローバルな動向に、今まで以上に注目する必要があります。

執筆者

KPMGジャパン
コーポレートガバナンス センター・オブ・エクセレンス(CoE)
TCFDグループ
テクニカルディレクター 加藤 俊治

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