日本のCFOの担うべき役割と課題~CFOサーベイ2019の結果を受けて

デジタル時代において、日本のCFOに求められる役割は複雑化しています。環境の変化に速やかに対応するためCEOの戦略意思決定を支える役割が求められます。2019年のCFOサーベイでは、期待される機能と実際のCFO組織の現状に乖離があることがわかりました。

2019年のCFOサーベイでは、期待される機能と実際のCFO組織の現状に乖離があることがわかりました。

日本企業のCFOを対象とした初の調査、CFOサーベイ2019

ビジネスのボーダーレス化やスピード化がますます進み、環境の変化に速やかに対応するためにCFOの役割も複雑化しています。次世代のCFOは、テクノロジーを駆使し付加価値の高い情報を創出・分析し、CEOのビジネスパートナーとして戦略意思決定をサポートする役割が期待されています。この期待に対して、日本の企業のCFOはどのように捉えているのかを把握するため、KPMGジャパンで調査を実施しました。

調査結果から、日本特有の経営文化の中でCFOを取り巻く現状が明らかになりました。CFOに今後求められること、そして直面する課題をご紹介します。

  • 対象企業:直近の連結売上高3000億円以上の日本企業(240社)
  • 回答:162社
  • 調査方法:webアンケート(240社)。回答があった162社の中から、CFOインタビュー(24社)を実施
  • webアンケート項目:CFO個人およびCFO機能について(16問)、それを支えるCFO基盤について(25問)
  • CFOインタビュー項目:外部経営環境として1.テクノロジーの急速な革新、企業におけるCFO機能として2.CFOの素養、3.CFOの関与領域、4.CFOの意思決定サポート、5.CFO機能の効率化、それらを支えるCFO基盤として6.CFO基盤の評価、7.人材育成
    調査結果:冊子『KPMG Japan CFO Survey 2019』として配布

日本のCFOが抱えるジレンマ

近年、日本企業でもCEOと並びCFOの名称が広く使われるようになりました。今回の調査対象企業でも約半数が社外又は社内でCFOという名称を使用していました。日本の会社法ではCFOの設置を義務付けていません。それにも関わらずCFOという名称が浸透しているのはなぜか。それは海外子会社とのやりとりなどを通じてグローバルな対応が求められているためでしょう。
CFOが責任者となっている業務領域には、偏りがあります。調査では、財務経理領域(財務戦略、予算管理、IR)は60%以上ですが、戦略企画領域(投融資判断、経営計画、コーポレート戦略)は約50%程度となりました。リスク管理領域は、さらに減少して28%です。日本企業の場合、戦略企画領域やリスク管理領域にはCFOと異なる責任者を配置することが多いためと考えられます。

No.2 CFOが責任者となっている業務領域

海外の企業では、CEO、CFO、COOの3機能からなる「Cクラス型経営体制」がよくみられます。「Cクラス型経営体制」は、少人数でスピーディーな意思決定を重視するものです。ここではCFOは戦略企画機能をもち、企業の共同意思決定者としての役割を担います。
その一方で、日本は「合議型経営体制」が主流です。細分化された組織機能の中で、CFOは財務経理の責任者を担います。戦略企画責任者やリスク管理責任者はCFOと別に設置されている点が「Cクラス型経営体制」との違いです。
調査結果から、日本企業でCFOという肩書を有することで、あたかも「Cクラス型経営体制」における共同経営意思決定者の1人と誤解される状況が明らかになりました。日本の「合議型経営体制」においてCFOは財務経理の責任者ですが、戦略企画やリスク管理の機能も期待されてしまうのです。実際の立場と期待される役割やイメージのはざまで、日本のCFOはジレンマを抱えています。

CFOが意思決定サポートに関与していくために

日本国内のCFOがCEOのビジネスパートナーとして、意思決定に影響を与えられるような情報を提供するために、どうすればいいのでしょうか。ここでまたサーベイの回答を見てみましょう。

No.6 意思決定サポートのために提供している情報に関して、改善すべきと思われる事項

CFOが意思決定サポートで改善すべき点として、「適時性」「柔軟性」はそれぞれ70%を超えました。ここから多くのCFOは“自らの情報提供に満足していない”ことがわかります。
ところが近年、最新のデジタルテクノロジーを活用することで、その問題を改善することが可能になりました。たとえばAIやビッグデータ、インメモリコンピューティングから生み出された、高度な分析と将来予測情報を用います。「CEOの意思決定をサポートするビジネスパートナー」となるCFOには、経営数値という共通の経営言語を活用し、戦略企画やリスク管理といった各責任者の意見を取りまとめる役割が求められます。それには経営数値をタイムリーかつ柔軟に入手できる基幹システムなどの基盤整備、そしてそれを活用できることがポイントでしょう。
なによりもCFOの機能を高度化するためには、まず余力を生み出すこと。現在大きな負荷となっている情報処理や実績集計といった実務をRPAやIoTなどのテクノロジーで効率化することが急務です。それにより生まれた余力を、意思決定のサポートに向けるべきです。
最新のデジタルテクノロジーは、企業の競争力に大きな影響を与えます。CFOとしては実務や意思決定サポートなど、様々な場面でデジタルテクノロジーの活用は待ったなしといえます。

今後CFOに求められること

今回の調査では「グローバル人材が不足している」という結果が65%にのぼりました。多くの企業では「規制や法令の専門家」「デジタル人材」の確保も課題となっています。CFO領域においても、新たな能力を併せ持つ人材が求められています。これからのCFOには、経営・ビジネスセンス、高いコミュニケーション能力、高度なデータ分析・解析能力など、いままでにない専門人材が求められます。

No.17 人材に生じている課題のうち、特に重要と考えられるもの

これほど多様な人材育成を自社で行うことは多くの企業で間に合っておらず、人材の確保は中途採用やアウトソーシングを活用するケースが増えています。短期的には外部リソースで人材を補うべきです。しかし、長期的な視点で考えれば、CFO機能の中で人材を育てることが求められます。

CFOに必要な人材育成における課題とは

「新しいCFO人材を育てるには10年かかる」。そのような声を良く聞きます。なぜそれほどの時間がかかるのでしょうか。それは積み上げてきた伝統や格式の中で、キャリアパスの多様性が認められにくい土壌があるからです。将来を担う人材を育てるには、新たなプログラムとキャリアパスの構築が鍵となります。個々の能力を活かす様々な育成方法を取り入れると同時に、これまでのCFOのキャリアと異なり、一直線ではない多彩なキャリアパスを描くことが必要です。

日本特有の風土や文化の中では、日本特有のCFOが求められています。欧米型の経営を目指すのではなく、日本企業では日本の優れた点を活かしたCFO機能が発展していくことでしょう。
次世代のCFOは、デジタルテクノロジーを活用し、企業のデジタル化を率先する役割を担ってほしいと考えています。その上で新しい能力をもつCFOの育成に取り組むことで、企業のCFO機能はますます強化されていくことでしょう。

本ページは、KPMGフォーラム2019において、あずさ監査法人 アカウンティング・アドバイザリー・サービス事業部 パートナー 吉野 征宏が講演した解説をウェブコンテンツとして編集したものです。

調査レポート「KPMG Japan CFO Survey 2019(PDF:1,378kb)」はリンクよりダウンロードいただけます。

 

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