チリ税制および税制改正法案の概要

チリ税制および税制改正法案の概要

新政権下で現在のチリ税制を見直すべく税制改正法案が提案されています。本稿では、チリ基本税制の解説を中心に、今後議論の行方が注目される税制改正法案の概要について解説します。

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チリ(正式名称:チリ共和国)は南米大陸の太平洋側に位置し、アンデス山脈に沿って南北に約4,300kmにわたり広がる一方、東西の幅は平均180kmという、世界でも例を見ない特殊な国土を有しています。このような地理的な特徴から、銅産業を中心に、地形や気候などを活用したサーモンなどの漁業、ぶどうなどの農業が盛んです。一方で、消費財、工業品などの多くは輸入に依存しています。また、銅関連産業がGDPの50%以上を占めているため、銅価格の変動がGDP成長率に大きな影響を与える傾向にあります。
2018年3月にピニェラ新大統領が就任し、新政権下で現在のチリ税制を見直すべく税制改正法案が提案されています(2018年8月)。ただし、国会通過までに非常に時間を有しており、税制改正法案提出から約1年後の2019年8月22日に下院は通過したものの、未だ施行はされていません。なお、後述のとおり、現在上院での議論が凍結されているとみられています。
本稿では、チリ基本税制の解説を中心に、今後議論の行方が注目される税制改正法案の概要について解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 現行税制上、法人所得税(第1カテゴリー)には2つのRegimeが存在するが、税制改正法案では1つのRegimeに統一。
  • 税制改正が施行される場合、追加税計算時に控除できる第1カテゴリー所得の控除割合が変更される。
  • 数多くの国・地域と経済連携協定、租税条約を締結しており、約40年間にわたり開放経済を推奨していることを要因として、税務上の投資優遇措置などは多くない。
  • 一方で、ピニェラ政権が提案している税制改正法案は未だ上院を通過しておらず、内容が変更される可能性があるため、今後の動向に注目する必要がある。

I. 税制改正法案の趣旨

2014年のバチェレ前大統領政権時代に税制改革が行われた後、大きな税制改正は実施されていませんでしたので、今回ピニェラ大統領政権下で提出された税制改正法案が国会を通過、施行されれば、2014年以来の大きな税制改正となります。
現行チリでは、法人所得税(第1カテゴリー所得税)には2つのRegimeに基づく2種類の税制があり、追加税(採用するRegimeにより課税対象が異なる)が存在します。その他、個人所得税(第2カテゴリー所得税)、付加価値税(VAT)、輸入関税、地方事業税、印紙税などが存在しています。
今回の税制改正法案では、特に2つのRegimeが存在する法人所得税を1つのRegimeに統一する案が盛り込まれています。2019年8月22日には下院を通過していますが、本稿執筆時点(11月初旬)では、未だ上院を通過していません。

II. 主な税務制度

1. 法人所得税(第1カテゴリー所得税)

2014年の税制改正により、法人所得税には、(1)Attributed Regimeと(2)Partially Integrated Regimeの2つのRegimeが設けられています(図表1参照)。

図表1 Regimeによる税率の差異

  Attributed Regime Partially Integrated Regime
租税条約の有無 - あり なし
税率 25% 27%
追加税 35% 35%
税額控除割合 100% 100% 65%
実効税率 35% 35% 44.45%

(1) Attributed Regime

本税制施行後、段階的に税率が逓増し、現在の税率は25%となっています。課税対象となるのは法人が課税対象期間(チリの場合、暦年)に獲得した所得が基礎となります。また、当該企業の株主(チリ非居住者)には、企業が配当・送金するかにかかわらず、35%の追加税が課されます。ただし、追加税から法人所得税控除が可能となるため、実効税率は35%となります。

(2) Partially Integrated Regime

Attributed Regimeと同様、施行後、段階的に税率が逓増し、現在の税率は27%となっています。同様に課税所得は、課税対象期間に獲得した所得が基礎となります。追加税も課されますが、課税対象は、企業が配当・送金する場合に、当該金額に対して35%の税金が課される点が異なります。また、法人所得税は追加税から控除が可能ですが、配当・送金先が租税条約締結国であるか否かにより、その割合が異なります。具体的には、租税条約締結国が配当・送金先の場合には所得税の100%、非締結国の場合は65%が控除可能となります。その結果、実効税率は租税条約を締結しているか否かにより異なります。
いずれの場合も、納税期限は、納付の場合は4月30日まで、還付の場合は5月9日までとなります。
原則として、会計帳簿はスペイン語かつチリペソ(CLP)で記帳しなければなりませんが、一定の条件を満たす場合で、チリ税務当局(Servicio de Impuestos Internos、以下「SII」という)が承認した場合、会計帳簿を他国通貨(米ドル、ユーロなど)で記帳、申告および納付することができます。
また、法人所得税上、繰越欠損金が生じた場合は、無期限に繰越ができ、将来の課税所得から控除可能です。ただし、この適用を受けるためには、毎期適切にSIIに税務申告を行っている必要があります。

2. 損金算入要件

企業費用に関する損金算入要件として、次の事項を考慮する必要があります。

  • 費用が企業の事業活動に関係する。
  • 費用の性質等を考慮して、収入を生成するために必要となるものでなければならない。
  • 費用は、企業の財またはサービスの直接原価として、発生前に控除することはできない。
  • 費用は、支払または見積計上したかにかかわらず、対応する課税対象期間に計上されなければならない。
  • 費用が適切な文書により証明可能でなければならない。

3. 個人所得税(第2カテゴリー所得税)

労働の対価として、労働者が獲得する報酬(主に給与・賞与)から、社会保険料控除後の所得を課税標準として、次の税率が課されます(図表2参照)。

図表2 個人所得税の税率

報酬の月額 税率
0~13.5UTM 0%
13.5超~30UTM 4%
30超~50UTM 8%
50超~70UTM 13.5%
70超~90UTM 23%
90超~120UTM 30.4%
120UTM超 35%


※UTM(Unida Tributario Mensual)は月間課税単位で、2ヵ月前の消費物価上昇率に応じて毎月改定されています。2019年10月末時点の1UTMは49,229CLPとなる(参照:Chile SIIおよびChile Central Bank)。

なお、第2カテゴリー以外に獲得する所得がある場合、所得額に応じ、0~35%の総合補完税が課されます。
課税対象となる労働者は、1年間に連続して6ヵ月以上滞在している、または連続しているかにかかわらず、連続した2期間で6ヵ月以上滞在する居住者が該当します。

4. 付加価値税(VAT)

販売業者の業種を問わず、反復的な動産および不動産(土地除く)取引が課税対象取引であり、税率は19%となっています。仮払、仮受相殺後、還付ポジションの場合、無期限に繰り越すことが可能です。

5. 移転価格税制

チリの移転価格税制は、OECDガイドラインに準拠しています。移転価格が独立企業間価格規則に準拠していない場合、関連者間取引で同意された価格を調査する権限がSIIに与えられています。海外の関連者と取引を行った大企業および中規模企業、年間5億チリペソの取引またはタックスヘイブン国の関連者と取引を行った小規模企業は、誓約書1907号および1937号に関連者取引の必要事項を記載し、毎年6月末までにSIIに報告しなければなりません。また、上記に該当する企業以外も、SIIから要請がある場合には関連文書の提出が必要となります。

III. 租税条約・経済連携協定

チリは多くの国・地域と経済連携協定(EPA)・租税条約を締結しており、日本とは、2007年にEPA、2016年に租税条約の効力が生じています。租税条約のうち、日系企業に影響がある主なものは次のとおりです。

配当

  親子会社間(持分要件あり 年金基金 その他
税率 5% 免税 15%


※配当を受ける者が決議月末日を基準として25%以上を直接6ヵ月間保有すること。ただし当該税率は、日本法人がチリ法人に対して支払う配当のみに適用される(チリ条項)。

国内法に従うと、原則として35%の源泉税率が適用されます。

利子

  銀行等
その他
税率 4% 10%


国内法に従うと、原則として35%の源泉税率が適用されます。

使用料

  設備 その他
税率 2% 10%


国内法に従うと、取引の種類に応じて、次の源泉税率が課されます。

  • 商標権や特許、その他類似の資産の利用: 30%
  • 実用新案権、意匠権の利用、ソフトウェアプログラムの利用:15% (ただし、取引が関連者間で行われる場合、または受領者がチリ所得税法で定めたタックスヘイブンの居住者である場合には30%)
  • 汎用ソフトウェアプログラムの利用: 0% (ただし、プログラムの利用が限定されており、商業目的で複製等がされない場合のみ)

IV. 税制改正法案の概要

ピニェラ大統領政権下で新しい税制改正法案が提出されました。その目的は次のとおりです。

  • 現行チリ税制の簡素化
  • 不明確な条項の明確化
  • 成長、起業家精神、投資、貯蓄、雇用の奨励
  • 脱税の回避

本目的を踏まえ、現行税制の見直しを含めた法案が提出されていますが、そのなかでも既存企業に影響を与える可能性がある主な項目は、次のとおりです。

  1.  2つのRegimeを1つに統一
  2. 新規投資プロジェクトにかかる資産の加速度償却
  3. 損金算入要件の見直し
  4. 恒久的施設(PE)の定義と課税範囲を明確化
  5. 留保利益に対する課税

法案の中には法人所得税の税率を引き下げる項目も含まれていましたが、今回の税制改正では、議会の承認が得られず断念されました。仮に法案が成立した場合、税率は27%となると見込まれています。一方で、中小企業に対する税率は25%となります。

1. 2つのRegimeを1つに統一

現行の追加税計算時に適用される法人所得税の控除は、チリと有効な租税条約が締結されているかどうかにかかわらず、100%の税額控除をすることができます。これにより、たとえば、未だチリと租税条約が有効となっていない米国に管理会社を保有する企業の利益配当・送金時には、税額控除額増額の影響があります。

2. 新規投資プロジェクトにかかる資産の加速度償却

投資を促進する目的から、開発、探鉱、拡張などのプロジェクトのために新規に取得した固定資産について、2年間にわたり、投資の50%の即時償却を認める条項も含まれています(施行後2年の間に、アラウカニア州(チリ南部の地域)で行われる新規の固定資産取得に関しては、即時償却可)。

3. 損金算入要件の見直し

損金算入についても要件の見直しが行われ、企業の事業活動に係る利益、発展等に関連する費用、現在および将来の所得を獲得するための費用等、事業活動に関連する費用であれば、原則として損金算入可とするなど、損金算入要件が緩和されています(ただし、文書により適切に証明する必要があります)。

4. 恒久的施設(PE)の定義と課税範囲を明確化

PEの定義は現行税制下では不明確ですが、今回の税制改正案では、OECDモデル条約に基づき、国内法でもPEの定義を明確にし、PEに該当する場合における課税範囲を明確化しています。

5. 留保利益に対する課税

2016年12月末時点での留保利益を2019年末日まで保有している場合、当該留保利益に対して、30%を課税(Substitutive tax)することを企業が選択することを認めています。仮に課税した場合には、当該留保利益を原資としたチリ非居住者への配当等に関する追加税は発生しません(追加税35%よりも、5%低い税率となります)。
ただし、前述のとおり2019年8月22日に下院を通過した一方で、同年10月中旬から本稿執筆時点(11月初旬)まで継続している、チリ国内で発生している市民によるデモ・抗議活動の鎮静化を優先するため、上院での議論が凍結しているとみられます。さらに11月初旬には、デモ・抗議活動から発生しているチリ政府への要求に一部応えるための財源確保のため、税制改正法案に追加的な条項を含めた法案が国会に提出されています。
2019年に下院を通過した税制改正法案では、その目的が「投資促進」とされていましたが、同年11月初旬に国会に提出された追加的な条項の趣旨は「社会保障のための財源確保」であるとみられています。本趣旨から、当該追加的条項の中には、大企業に対するPartially integrated regimeの適用が継続されるなど、前述の改正案を一部修正する条項も含まれているため、今後の動向について適宜注視する必要があります。

執筆者

KPMGチリ
シニアマネジャー 保坂 浩二

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