税務情報(2019.8-9)

本稿は、2019年8月から9月に財務省・国税庁等から公表された税務情報ならびにKPMG税理士法人のウェブサイトに掲載している情報をまとめてお知らせするものです。

本稿は、2019年8月から9月に財務省・国税庁等から公表された税務情報ならびにKPMG税理士法人のウェブサイトに掲載している情報をまとめてお知らせするものです。

I. 2020年度税制改正

内閣府 - 政府税制調査会における連結納税制度の見直しについての会議資料の公表

2020年度税制改正では、連結納税制度の見直しが行われることが見込まれています。
政府税制調査会では「連結納税制度に関する専門家会合」(専門家会合)を設置し、2020年度税制改正に向け、2018年11月から2019年8月まで全5回にわたり連結納税制度の抜本的な見直しについての検討が行われてきました。8月27日に開催された政府税制調査会(第24回総会)では、専門家会合での議論の成果が報告され、その会議資料が内閣府のウェブサイトに掲載されました。
このうちの「連結納税制度の見直しについて」と題する資料には、たとえば以下のような見直しの方向性が示されています。

  • 見直し後の新制度(グループ通算制度(仮称))は、企業グループ内の各法人を納税単位とする個別申告方式とすることが適当である。
  • 新制度の適用対象となる法人は、現行の連結納税制度と同様、親法人とその完全支配関係にあるすべての子法人とする。
  • 企業グループ内の法人間で、プロラタ方式(赤字法人の欠損金及び企業グループ内の繰越欠損金を黒字法人の所得金額等の比で配賦する等)により損益通算を行うことが適当である。
  • 修正・更正の場合には、原則として、企業グループ内の他の法人の所得金額及び法人税額の計算に反映させない(遮断する)仕組みとするが、例外的に、法人税の負担を不当に減少させることとなると認められるときは、職権更正によりプロラタ方式で全体を再計算することができるようにする。
  • 時価評価課税や欠損金等の制限等については、組織再編税制との整合性等を踏まえた検討が必要である。
  • グループ調整計算(受取配当等、寄付金、貸倒引当金、過大支払利子税制、所得税額控除、外国税額控除、研究開発税制等)については、事務負担軽減、経営実態や制度趣旨、制度の濫用可能性、制度を選択していないグループ法人との公平性等の観点を踏まえ、個別制度ごとに検討が必要である。
  • 現行の連結納税制度を適用している連結グループは、新制度の施行後は、自動的に新制度に移行することとするが、新制度に移行することを望まない連結グループは、新制度に移行しないことができることとする。
  • 現行の連結納税制度と新制度の併存は適当ではない。
  • 新制度においては、企業グループ内の各法人に電子申告義務を課すことが適当である。
  • 円滑な移行のため、法改正から新制度の施行まで1~2年程度の準備期間を設ける。

なお、財務省のウェブサイトの「令和2年度税制改正要望」というページには、各府省庁からの要望事項が掲載されていますが、連結納税制度の見直しに関する要望は経済産業省から提出されています。

II. 2019年度税制改正

国税庁 - 租税特別措置法関係通達(法人税編)等を一部改正する通達の発遣

2019年度税制改正では、中小企業者の災害に対する事前対策のための防災・減災設備への投資に係る税制上の措置(特定事業継続力強化設備等の特別償却制度)が創設されました。
国税庁は、2019年度税制改正のうち特定事業継続力強化設備等の特別償却制度等に関する事項に対応した「租税特別措置法関係通達(法人税編)等の一部改正について(法令解釈通達)」(9月11日付)を発遣し、国税庁のウェブサイトにおいて9月13日に公表しました。

III. 消費税

国税庁 - 消費税の軽減税率制度に関するQ&A等の改訂版の公表

国税庁のウェブサイトの「消費税の軽減税率制度について」というページには、消費税の軽減税率制度に関するQ&A、通達やリーフレット、税額計算に関する資料(軽減税率の対象となる飲食料品の譲渡等がある場合の消費税額の計算及び申告書の作成方法を具体的な数値を用いて説明するもの)などが掲載されています。
Q&Aについては、寄せられた質問や疑問点を踏まえて、随時、追加や掲載内容の改訂が行われることとされているところ、国税庁は8月1日、以下の2つのQ&Aの改訂版を公表しました。
 

このQ&Aは、軽減税率の対象となる飲食料品の範囲や軽減税率の対象から除外される外食の範囲などを具体的な個別事例を用いて解説するもので、2016年4月12日の初版公表以来5回目の改訂となる今回、新たに19問が追加されるとともに、4問が改訂されました(Q&Aには追加又は改訂された時期が明記されています。)。
たとえば、遊園地の売店にとっての飲食設備とは、売店のそばに設置したテーブルや椅子など売店の管理が及ぶものが該当し、遊園地といった施設全体や園内に点在している売店の管理の及ばないベンチなどは該当しない旨(問68)や、特定のペットボトル飲料に非売品のおもちゃを付けた状態で販売する場合には一体資産の譲渡として軽減税率の適用を判断する旨(問89)などが解説されています。
なお、このQ&Aと同時に公表された「消費税の軽減税率制度に関するQ&A(制度概要編)」は、今回改訂されていません。
 

複数税率制度のもとで仕入税額控除を適正に行うため、適格請求書等保存方式(インボイス制度)が2023年10月1日から導入されることとされています。
このQ&Aは、全80問を通してインボイス制度の内容を網羅的に解説するもので、2018年6月13日の初版公表以来2回目の改訂となる今回、新たに4問が追加されました(Q&Aには追加された時期が明記されています。)。
たとえば、日々商品の返品が行われる場合の適格返還請求書の記載方法(問40)や、適格請求書発行事業者に保存が義務付けられている「交付した適格請求書の写し」には適格請求書の記載事項が確認できる程度の記載がされているもの(適格簡易請求書に係るレジのジャーナルや複数の適格請求書の記載事項に係る一覧表・明細表など)も含まれる旨(問51)などが解説されています。


上記に関するe-Tax News
KPMG Japan e-Tax News No. 179(2019年8月2日発行)

IV. 租税条約

1. アメリカとの租税条約を改正する議定書 - 発効

財務省は8月30日、「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約を改正する議定書」(改正議定書)を発効させるための批准書の交換が行われ、改正議定書が同日付で発効したことを公表しました。この改正議定書は、2013年1月25日(日本時間)に署名され、日本では2013年6月17日に国会にて承認されていたものの、米国での上院による承認に時間を要したことから、署名から約6年7ヵ月後の発効となりました。
この改正議定書により、たとえば投資所得(配当及び利子)に対する源泉地国免税の対象が、以下のように拡大されます。
 

  改正前 改正後
配当 免税要件:持株割合50%超
保有期間12ヵ月以上
免税要件:持株割合50%以上
保有期間6ヵ月以上
利子 原則:10%
金融機関等の受取利子:免税
原則:免税


改正議定書は、2019年8月30日に効力を生じ、次のものについて適用されます。

  • 源泉徴収される租税:2019年11月1日以後に支払われ、又は貸記される額
  • その他の租税:2020年1月1日以後に開始する各課税年度

仲裁に関する規定は、次のものについて適用されます。

  • 2019年8月30日において両国の税務当局が検討を行っている事案
  • 2019年8月30日の後に検討が行われる事案

情報交換及び徴収共助に関する規定は、対象となる事案又は租税債権に係る課税年度にかかわらず、2019年8月30日から適用されます。


財務省プレスリリース
日本語:アメリカ合衆国との租税条約を改正する議定書が発効しました
英 語: Protocol Amending Tax Convention with the United States Entered into Force


上記に関するKPMG Japan tax newsletter(2019年8月30日発行)
改正日米租税条約(日本語)
Amended Japan-US Tax Treaty(英語)

2. クロアチアとの租税協定 - 発効

財務省は8月14日、「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とクロアチア共和国との間の協定」(2018年10月19日署名)を発効させるために必要な相互の通告が8月6日に完了したことを公表しました。これにより、本協定は、2019年9月5日から効力を生じ、次のものについて適用されます。

  • 課税年度に基づいて課される租税:2020年1月1日以後に開始する各課税年度の租税
  • 課税年度に基づかないで課される租税:2020年1月1日以後に課される租税

情報交換及び徴収共助に関する規定は、対象となる租税が課される日又はその課税年度にかかわらず、2019年9月5日から適用されます。
日本とクロアチア共和国との間にはこれまで租税協定は存在せず、本協定は、両国の緊密化する経済関係等を踏まえて新たに締結されるものです。本協定は、両国間で生ずる二重課税を除去するため、両国において課税することができる所得の範囲を定める規定等を設けています。また、本協定の締結によって、両国の税務当局間において、協定の規定に従っていない課税についての協議、租税に関する情報交換及び租税債権の徴収共助の実施が可能となります。


財務省プレスリリース
日本語:クロアチアとの租税協定が発効します
英 語:Tax Agreement with Croatia will Enter into Force

3. ペルーとの租税条約 - 実質合意

財務省は9月6日、日本国政府とペルー共和国政府が両国間の租税条約について実質合意に至ったことを公表しました。
この条約は、今後、両国政府内における必要な手続を経たうえで署名され、その後、両国における国内手続(日本の場合は国会の承認を得ることが必要)を経て、発効することとなります。


財務省プレスリリース
日本語:ペルーとの租税条約について実質合意に至りました
英 語:Tax Convention with Peru Agreed in Principle

4. ウズベキスタンとの租税条約 - 改正交渉開始及び実質合意

財務省は9月9日、日本国政府とウズベキスタン共和国政府が現行の租税条約(所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の条約、1986年発効)を改正するための交渉を9月10日より開始することを公表しましたが、9月20日、実質合意に至ったことを公表しました。
新条約は、今後、両国政府内における必要な手続を経たうえで署名され、その後、両国における国内手続(日本の場合は国会の承認を得ることが必要)を経て、発効することとなります。
なお、新条約は、ウズベキスタン共和国以外の国と日本との間で適用されている現行の租税条約に影響することはありません。


財務省プレスリリース
日本語:
ウズベキスタンとの租税条約の改正交渉を開始します
ウズベキスタンとの新租税条約について実質合意に至りました
英 語:
Negotiations for Tax Convention with Uzbekistan will be Initiated
New Tax Convention with Uzbekistan Agreed in Principle

5. ウルグアイとの租税条約 - 署名

財務省は9月17日、日本国政府とウルグアイ東方共和国政府との間で「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とウルグアイ東方共和国との間の条約」の署名が9月13日に行われたことを公表しました。ウルグアイ東方共和国との間にはこれまで租税条約は存在せず、本条約は、両国の経済関係の発展を踏まえて新たに締結されるものです。
本条約は、両国間で生ずる二重課税を除去するため、両国において課税することができる所得の範囲を定める規定等を設けています。また、本条約の締結によって、両国の税務当局間において、本条約の規定に従っていない課税についての協議、租税に関する情報交換及び租税債権の徴収共助の実施が可能となります。


財務省プレスリリース
日本語:ウルグアイとの租税条約が署名されました
英 語:Tax Convention with Uruguay was Signed

執筆者

KPMG税理士法人

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