LMEの責任ある鉱物調達に関する要求事項の公表

2019年10月25日、英国ロンドンにある非鉄金属取引所であるロンドン金属取引所(LME)は、LMEに登録しているブランドに対する責任ある調達に関する要求事項を公表しました。

2019年10月25日、英国ロンドンにある非鉄金属取引所であるロンドン金属取引所(LME)は、LMEに登録しているブランドに対する責任ある調達に関する要求事項を公表しました。

これは、2018年10月に公表された「ポジションペーパー」(概要については「LME(ロンドン金属取引所)によるポジションペーパーの公表」を参照ください)および2019年4月に公表された「コンサルテーション文書」(概要については「LMEの責任ある鉱物調達に関するコンサルテーション文書」を参照ください)に対して市場参加者から得られたフィードバックを踏まえて作成された、最終的な要求事項です。要求事項は、LME RulebookのPart 7の改定内容のほか、以下の3つの文書から構成されています。

  • Overview of LME responsible sourcing
  • LME Policy on Responsible Sourcing of LME-Listed Brands
  • LME Red Flag Assessment Template

コンサルテーション文書からの大きな変更点として、1)「高フォーカスブランド」と「低フォーカスブランド」の区分がなくなり、要求事項への順守を実証するにあたってのアプローチを複数の「トラック」から選択できるようになったこと、また、2)LMEに対する報告等の期限が若干後ろ倒しになったことが挙げられます。以下ではこの2点に焦点を当てて解説します。

順守のためのアプローチの複数のトラックからの選択

LMEの責任ある調達に関する要求事項は、「OECD紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデューデリジェンス・ガイダンス」(以下、「OECDガイダンス」)に則って作成されています。事業者(Producers)には、まず、OECDガイダンスのStep 1(マネジメントシステムの確立)とStep 2a(レッドフラグの特定)を実施することが求められます。LMEの要求事項における「レッドフラグ」の定義はOECDガイダンスで示されているものと同じであり、LMEはレッドフラグを特定するためのテンプレート(LME Red Flag Assessment Template)を用意していますので、このテンプレートを用いてレッドフラグの特定を行います。

結果としてレッドフラグが特定された場合、トラックA(Recognised Alignment-Assessed Standard Track)を選択する必要があります(下図)。トラックAでは、OECDガイダンスと整合した外部あるいは内部(自社)の基準に従い、Step 2b(リスク評価)からStep 5(報告)までのプロセスを実施することが求められます。外部あるいは内部の基準がOECDガイダンスと整合しているかどうかについては、基準のオーナーあるいは事業者がLMEに提出するOECD Alignment Assessmentに基づき、LMEが決定します。外部の基準を用いる場合、当該基準に基づき監査が行われますが、内部の基準を用いる場合、LMEが認定する第三者による監査を受ける必要があります。事業者は、監査を受けた報告書をLMEに提出し、LMEによるレビューを受けます。

順守のためのアプローチの複数のトラックからの選択

出典:LME(2019)Overview of LME responsible sourcing.に基づきKPMG作成

一方、レッドフラグが特定されなかった場合、トラックB(Audited LME RFA Track)またはトラックC(Published LME RFA Track)を選択します。トラックBを選択した場合、LMEが認定する第三者による監査を受けたレッドフラグ評価(RFA)をLMEに提出します。事業者は、LMEから承認を受けた段階で、RFAを外部に公表します。トラックCを選択した場合、事業者はRFAをLMEに提出し、LMEによるレビューを受けます。この場合、RFAの内容はLMEから開示されます。

また、これとは別に、レッドフラグが特定されたか否かに関わらず、事業者は、ブランドの金属が生産されている製錬所において、ISO14001とOHSAS18001またはISO45001の認証を取得する必要があります。ISOやOHSASと同等の認証プログラム(Equivalent Certification Programmes)を用いることも可能ですが、その場合、同等であることについてLMEの承認を受ける必要があります。

スケジュール

スケジュールは下表のとおりであり、トラックBあるいはトラックCを選択した場合、最初のRFAの対象期間は原則的に2021年1月から2021年12月までの1年間となります。コンサルテーション文書の段階では、2019年7月1日から2020年6月30日までの期間の実績についてレッドフラグ評価を行い、テンプレートを作成し、2020年12月31日までにLMEに提出するというスケジュール案でしたので、1年半、後ろ倒しになったと言えます。

ISO14001とOHSAS18001またはISO45001の認証を取得する期限も2023年12月31日となり、1年、後ろ倒しになりました。

 

  A: Recognised Alignment-Assessed Standard Track B: Audited LME RFA Track C: Published LME RFA Track
最初の報告の対象期間 N/A 2021年1月から2021年12月31日 2021年1月から2021年12月31日
最初の報告の期限 2022年6月30日(使用を意図する基準の通知) 2022年6月30日(監査済のRFAの提出) 2022年6月30日(RFAの提出)
OECDガイダンスと整合した基準であることの承認 2022年12月31日 N/A N/A
基準に照らした監査 2023年12月31日 N/A N/A
ISO14001とOHSAS18001またはISO45001の認証の取得 2023年12月31日


出典:LME(2019)Overview of LME responsible sourcing.に基づきKPMG作成

考察

要求事項に順守するためのスケジュールは、1年から1年半、後ろ倒しになり、要求事項に対応するための時間的な余裕が生まれたと言えます。しかし、仮にレッドフラグが特定され、トラックAに進むことになった場合、用いるべき基準を特定した上で、それに従ってStep 2b(リスク評価)からStep 5(報告)までのプロセスを実施することが求められます。利用すべき基準の検討、OECD Alignment AssessmentについてのLMEや基準のオーナーとの調整、リスク評価などには時間がかかります。したがって、Step 1の方針・マネジメントシステムの構築とStep 2aのレッドフラグの特定には早めに着手し、その結果としてレッドフラグが特定され、トラックAを選択しなければならないと判明した場合、対応のための検討に早めに着手することが望ましいと考えます。

参考情報(外部サイト)

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