香港財務統括会社(香港CTC)を活用した海外グループ財務機能の高度化 香港CTCがもたらす日系企業の新しいグループ財務戦略

香港財務統括会社(香港CTC)を活用した海外グループ財務機能の高度化

本稿では新しい香港CTCの制度概要と、香港CTCを活用するうえでのメリットや留意点について解説します。

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2016年4月より、香港ではコーポレート・トレジャリー・センター(香港財務統括会社、以下「香港CTC」という)を誘致する目的で税制改正されました。具体的には、海外グループ会社からのクロスボーダー・ローンに係る支払利子の損金算入が一定の要件のもと可能となり、さらに、一定の要件を満たす適格香港CTCには、香港事業所得税率の優遇制度(通常税率16.5%から8.25%へ低減)が導入されています。
この改正を契機に、日系企業の間でも香港CTCを利用して、中国およびその他海外グループ会社の資金調達・運用をより効率化し、さらには海外グループ会社の資金と為替リスクを香港CTCに集中化させて一括管理することで、グループ全体の資金効率化と税務コスト・為替リスクを低減させるなど、既存のグループ財務戦略を見直す動きが出ています。
本稿では新しい香港CTCの制度概要と、香港CTCを活用するうえでのメリットや留意点について解説します。なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 香港は世界最大のオフショア人民元市場を有する金融センターでありながら、2016年以前は香港外のグループ会社からのクロスボーダー・ローンにより発生する対外支払利息について香港税務上、損金算入可能かが不明確であり、財務統括の拠点としては使いづらい状況が続いていた。
  • しかしながら、2016年の税制改正により、香港外のグループ会社からのクロスボーダー・ローンから発生する支払利子が一定の要件のもと香港で税務上損金算入できることが明確になり、香港で財務統括事業を実施するうえでの最大の障壁が解消された。
  • さらに一定の要件を満たす適格香港CTCについては、香港外のグループ会社に提供した財務活動から発生する事業所得に対し、優遇税率8.25%(通常税率16.5%)を適用する制度が導入された。
  • 当該改正により、財務統括拠点として香港を活用するメリットが大幅に増加した。既存の香港現法の役割を見直し、香港CTCを活用した新しい発想でグループの財務戦略を再検討する日系企業が増えている。

I. 香港CTC制度概要とポイント

1. 典型的な日系企業のグループ資金管理の現状

従来の典型的な日系企業のグループ資金管理として、資金需要のある海外現地法人(図表1:海外グループA参照)に対する資金供給としては、日本本社からの親子ローン、または現地国での銀行借入のいずれかで対応しているケースがよく見受けられます。

図表1 日系企業の海外グループ資金管理の現状
図表1 日系企業の海外グループ資金管理の現状

一方、資金が余剰する海外現法(図表1:海外グループB)については、海外現地の銀行に預金、または配当・ロイヤリティ等で日本本社へ資金還流する方針となっています。しかしながら、現行の資本関係では日本本社が海外現法の株式・持分を直接保有しているため、配当に係る現地国および日本での税コストが高額となるケースでは配当実施に二の足を踏んでいます。一方、資金余剰国から資金需要国(または日本本社)へのクロスボーダー・ローンや、ロイヤリティ等による資金移動は現地国の資本規制の問題から難しく、結果として、余剰資金が現地国で滞留し、資金需要のある海外現法で有効活用されていない事例が散見されています。なお、一部の日系企業においては日本本社主導でグループ資金の集中管理が行われているものの、やはり日本が主体であり、海外の財務統括会社が主体となってグループの資金・為替の一元管理をしているケースはまだまだ少ない状況です。

2. 香港CTCを活用する新しい財務戦略とメリット

上述のとおり、現在、日系企業の多くが海外現法の余剰資金を日本に還流させ、日本主体で資金コントロールしています。しかしながら、多くの日系企業において日本国内では新規投資案件等の資金需要が乏しく、海外の余剰資金をわざわざ日本に還流させる経済合理性はあまりない状況です。香港CTC活用の最大のポイントは、海外グループ余剰資金を日本に還流させず、日本より税コストが低い香港を主体として海外グループの資金を集中的にコントロールするという発想です(図表2参照)。

図表2 香港CTC活用後の、海外グループ資金管理のメリット
図表2 香港CTC活用後の、海外グループ資金管理のメリット

その際、資金余剰国の資本規制が強い場合(例:中国など)、資金を香港に集中化させる手段としては、クロスボーダー・ローンやロイヤリティ等は実務上難しく、やはり配当で香港にオフショア化させることが最も望ましいと考えられます。資金を配当で香港にオフショア化することにより、現地国の資本規制対象から外れ、他通貨への両替や資金需要国への自由な送金が可能となります。したがって、香港への配当によるオフショア化のルートを確保するため、資金余剰国の現法を香港現法の傘下に資本再編する必要性が生じます。以下では香港CTCを活用した資本再編によるメリットとポイントについて解説します。


(1)香港CTCを活用した資本再編後の税コストの低減

図表3は、典型的な日系企業の海外グループ資金管理の事例から、中国現法から余剰資金を日本本社に配当で還流し、一方、日本本社から資金需要国(例:東南アジアなど)の海外現法に親子ローンを貸し付けているケースを仮定し、香港CTCを活用した資本再編後の節税効果について試算しました。なお香港にも既存の貿易会社があるが、グループ内での役割が縮小し、見直しを迫られていると仮定しています。

図表3 香港CTCを活用した再編の税コスト比較
図表3 香港CTCを活用した再編の税コスト比較

当該ケースでは、配当に対しては中国および日本で合計約11.5%課税、さらに親子ローンの受取利息には日本で約30%課税されます。このように日本では資金需要が乏しいにもかかわらず、海外子会社の余剰資金を一旦日本に還流し、日本経由でその他海外に再投資する資金フローとなっているため、税コストの観点では非効率な状況となっています。
上記の課題を解決するため、中国現法を香港現法の傘下に資本再編します。当該再編により、中国現法からの配当を日本に還流させず、香港に還流する資金フローに変更します。資本再編後は中国から香港への配当について一定の要件を満たすことにより、配当源泉税について中国・香港租税条約上の優遇税率5%が適用される可能性があります。その場合、中国からの配当に係る税コストを11.5%から5%へ大幅に低減することが可能です。
さらに、資金需要国の現法へのグループ・ファイナンスを香港経由に変更します。当該資金フローの変更により、受取利息が香港で課税されるため(通常16.5%、適格香港CTCの場合は8.25%)、日本から実施するより有利です。図表3の前提では、配当(年間10億円)とグループファイナンス(元本200億円)の資金フローを香港経由に変更するだけでも、年間約1億円の節税効果があると試算しています。


(2)既存の香港現法の役割の見直し

資本再編後においては中間持株会社となる香港現法の役割を見直すことも重要です。具体的には、既存の香港現法を中間持株会社とする場合、役割が縮小した貿易機能を大幅に強化し物流統括会社化(または事業持分会社化)することを検討します。一例として、中国現法(およびその海外現法)が対外取引を米ドル建てで行っている場合、香港現法をリ・インボイスセンターとして商流に介在させ、中国と香港間の取引を人民元建てに変更します。これにより、中国現法は対外取引に係る為替リスクから解放されます。過去においては人民元が実質的に米ドルとペッグされていた期間もありましたが、近年では米中貿易摩擦等の影響により為替レートが大きく変動する傾向にあります。しかしながら、中国の規制により中国現法が利用可能なヘッジ手段(デリバティブ商品)は実質的に短期の為替予約等に限定されているため、対外取引を外貨建てで行う中国現法は為替リスクに対して十分な対抗手段を有しておらず、為替リスクへの対応は喫緊の経営課題となっています。香港現法がリ・インボイス機能によりグループの為替リスクを香港に集中化させ、規制が少なく様々なヘッジ手段が利用可能な香港で一括して為替リスクコントロールすることが、グループ全体へ与えるメリットは大きいでしょう。また香港現法が商流に伴う為替リスクを担うことで、商流上、香港を経由する正当性を有することになります。商流の見直しにより低税率である香港に合法的に適切なグループ利益を配分するなど、グループ全体でさらに節税効果が得られる可能性があります。
このように香港CTCを活用した資本再編については、単に配当・海外再投資の資金フローの見直しによる節税効果のみならず、同時に香港CTCを活用したグループ資金と為替リスクの一括管理など財務機能の高度化、さらに商流の見直しを行うことで、グループ全体で様々なメリットを享受できます。

3. 香港CTCの導入と高度化

(1)導入初期的段階における香港CTCの機能

香港CTCの活用について、初期フェーズではまず比較的単純な財務統括業務からスタートし、徐々に高度化することが検討されます(図表4参照)。具体的には、まず香港CTCを新設(または既存の香港現法を活用)し、マニュアルベースで資金需要のある海外現法へグループ・ファイナンスを実施することを当面の目標とします。マニュアルベースでのグループ・ファイナンス事業であれば低コストかつ少人数で実現可能であり、導入の障壁は大きく下がります。もし中国現法に資金需要がある場合、香港CTCが香港の金融機関からオフショア人民元を一括調達することで、ボリューム・ディスカウントにより調達コストを減少させ、さらに香港から人民元建てクロスボーダー・ローンを実施することで、中国現法は為替リスクなしで資金調達が可能です。

図表4 香港CTCの導入フェーズ

フェーズ1
  • 香港CTCの設立(2~3名規模で開始)
  • グループ会社間の貸付・借入(マニュアル)
  • 香港の金融機関からの資金調達(人民元)
フェーズ2
  • 海外グループを香港の傘下に資本再編
  • 資金余剰国より配当で香港に資金還流
  • リ・インボイスにより為替リスクを香港に集中し、香港で一括ヘッジ
  • キャッシュ・マネジメント・システム導入(自動)※1
フェーズ3
  • グループ各社の支払・回収業務の代行
  • グループ各社への財務統括およびシェアード・サービス提供(資金繰り管理等)
  • 香港市場からの直接調達(株式/社債)


※1 ただし中国会社については、資本規制上の問題から自動化されたクロスボーダー・キャッシュ・マネジメント・システムへの加入は認められないと考えられる。

(2)香港CTCの高度化と香港市場の活用

グループ・ファイナンス事業が有効に機能した後は、段階的に財務統括機能の高度化を目指します。例としては、キャッシュ・マネジメント・システムの導入によるグループ会社間の自動資金集中配分の実施、リ・インボイスによるグループ会社の対外仕入・販売に係る為替リスクの香港への集中化と一括ヘッジ、グループ間の債権債務を相殺して差額決済するネッティング機能の導入、グループ会社の支払いを一元化して代行する対外資金決済の高度化などが挙げられます。
さらに将来的には、香港現法による株式・社債の発行により、世界有数の証券市場である香港市場からの直接資金調達も技術的に可能です。近年ではビール世界最大手アンハイザー・ブッシュ・インベブのアジア事業統括の子会社であるバドワイザー・ブリューイング・カンパニーAPACが2019年9月に、また日系企業では日清食品ホールディングス株式会社の香港子会社である日清食品有限公司(香港日清)が2017年12月に香港証券取引所に上場し、中国・アジア事業の成長のための資金調達を行っています。

II. 香港CTC活用の留意点

上述の香港CTC活用による様々なメリットを享受するためには、資本再編に伴う、中国・香港・日本税務の検討、既存香港現法の役割の見直し、香港CTCの機能とガバナンスに係るグランドデザインの設計など様々な検討が必要です。香港CTCの活用およびグループ資本再編を行ううえでの主な留意点は以下のとおりです。

1. 中国グループ資本再編に係る中国特殊税務処理の適用

現行、日本本社が直接保有している中国現法を香港現法の傘下に組織再編する際には、原則、中国現法の公正価値をベースとしたキャピタル・ゲインに対し、10%の源泉所得税が中国で課税されます。しかしながら、資本再編が中国特殊税務処理の要件を満たせば簿価譲渡が認められ、課税の繰延べが可能です。中国グループ資本再編に係る特殊税務処理の要件には各数値基準(例:再編対象会社の持分50%以上を移転等)の他、資本再編が単なる租税回避の目的ではなく、「合理的な商業目的」を有しているかという点が最大の論点となります。合理的な商業目的を中国税務当局に対し立証するうえでも、資本再編後のグループにおける香港CTCの役割・機能をしっかりと設計することが重要です。

2. 日本タックスヘイブン対策税制による合算課税

資本再編後は香港現法が中間持株会社となり、かつ香港の事業所得税率は16.5%のため、外国子会社合算税制により香港現法の所得が日本で合算課税される可能性があります。再編後の香港現法の経済的実体について、事前にしっかりと設計する必要があります。具体的には、たとえば既存の香港現法(貿易会社)を再編後の中間持株会社とする場合、貿易機能を大幅に強化し、海外現法との商流にリ・インボイスセンターとして介在する物流統括会社にアップグレードするなどの検討が必要です。

3. 中国から香港への配当に係る中国・香港租税条約上の優遇税率(5%)の適用

中国グループ会社を香港現法の傘下に資本再編後、中国から香港に配当する際、配当に係る中国源泉税に中国・香港租税条約上の優遇税率5%を適用するためには各種要件を満たす必要があります。配当を受領する香港現法が単なるペーパー・カンパニーではなく、経済的実体を伴う「受益者」であることが必要です。実務的には、香港現法が受益者として中国当局から認められるために、香港現法は香港税務当局から税務上の居住者認定を受ける必要があります。

4. 香港CTCの対外支払利子に係る香港税務上の損金算入

上述のとおり、香港外のグループ会社からの借入に伴う対外支払利子について香港税務上で損金算入が認められますが、通常のグループ・ファイナンス事業(香港税務当局のガイドラインでは、月4回以上、かつ1回当り25万香港ドル超の借入・貸付を行い、各事業年度において4社以上のグループ会社に対し借入・貸付を行う)を実施していることや、貸手側の受取利息に適用される税率が香港税率より高いことなど、一定の要件を満たす必要があります。

5. 適格香港CTCによる香港優遇税率(8.25%)の適用

適格香港CTCの要件を満たせば、香港外のグループ会社に提供した財務活動から発生する事業所得については、香港優遇税率8.25%が適用されます。しかしながら、要件を満たすためには事業を財務活動のみに限定する必要があり、適格香港CTCに物流機能など他の機能を付加することは難しいため、香港現法の機能が制限されてしまいます。そのため、香港CTCの導入初期段階では優遇税率の適用を重視せず、通常香港税率16.5%を適用する代わりに香港現法の機能に柔軟性を持たせ(物流機能と財務機能の双方を1社で担うなど)、将来的に高度化するにつれ、物流統括会社と財務統括会社の2つに分割して適格香港CTCを目指すことが、実務上望ましいと考えられます(図表3参照)。

6. 香港CTCの役割に係るグループ内のコンセンサス

資本再編後の既存香港現法の役割の見直し、グループ全体における香港CTCの機能やガバナンスについて、短期的・中長期的な観点でグランドデザインをしっかりと設計し、事業部の垣根を超えたグループ内での横断的なコンセンサスを得ることが非常に重要です。コンセンサスが得られないまま導入してしまうと、香港CTCのグループにおける役割と責任が明確化されず、形骸化するリスクがあります。なお香港CTCについては、グループの財務活動の一翼を担うことから、事業部の管轄とせず、日本本社コーポレート部門の管轄とし、本社から直接コントロールすることも検討すべきでしょう。

III. 最後に

日本国内市場の成熟化と長引く景気低迷を受け、日系企業は新たな成長エンジンである、中国・東南アジア諸国を始めとする海外への進出を加速しています。日系企業が海外に成長の軸足を移すなか、財務戦略についても、よりグローバルな視点に立ち、積極的に海外を活用する時代になったと感じています。2016年度の税制改正を機に、世界の金融センターである香港にありながら、あいまいだった香港現法の目指すべき役割と存在意義が明確になり、グローバルで成長を目指す日系企業にとって香港CTCを活用する意義は大きいと感じています。本稿が日系企業のグローバル財務戦略を検討されるうえで一助となれば幸いです。

執筆者

KPMG中国 上海事務所
アカウンティングアドバイザリーサービス
シニアマネジャー 八木 俊彦

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