生体認証と画像解析技術で実現する「手ぶらで買い物」

「小売りの明日」第7回 - キャッシュレス化推進がつなげる消費の活性化について、電子決済サービスや生体認証と画像解析技術を使用した事例を挙げながら解説する。

キャッシュレス化推進がつなげる消費の活性化について、電子決済サービスや生体認証と画像解析技術を使用した事例を挙げながら解説する。

電子決済サービスの「支付宝(アリペイ)」と「微信支付(ウィーチャットペイ)」が浸透している中国のキャッシュレス決済の比率は60%、政府主導により店舗にクレジットカードの取扱いを義務化している韓国は96%。一方、日本は19%にとどまっている。政府は「未来投資戦略」で2025年までに40%に引き上げる目標を掲げる。
民間企業では対話アプリ大手のLINEとみずほフィナンシャルグループが提携し、LINEがとうとう銀行業へ参入した。約7800万人のアクティブユーザーを持つLINEがペイメントサービス(決済代行業)においてもプラットフォーマーとなるべく、加盟店の手数料を一定期間無料としたことからもその本気度がうかがえる。しかし、日本のペイメントサービスは多すぎ、店舗側、ユーザー側双方に負担であり、普及にマイナスの影響を与えている。政府が統一化を図るか、参入企業の淘汰が進まない限り、継続して残る課題である。

その状況のなかで、今後注目すべきは生体認証と画像解析技術だ。スマートフォン(スマホ)を財布として利用する機会も増えたが、紛失リスクを考えるとスマホにすべてを担わせるかどうかは疑問が残る。指紋や顔認証によって決済を行う生体認証であれば、紛失リスクは解消する。店舗での暗証番号入力やQRコードの読み込みもなくなり、まさに手ぶらでの買い物が実現する。
カメラの画像解析においては米スタンダード・コグニションが展開する技術が注目される。同社のシステムでは顧客が入店して商品を手に取り、店を出るだけで決済が完了する。膨大な数の商品の形状やパターンを人工知能(AI)が学習し、人の動きを捕捉するカメラの技術と連携することで、顧客がどの商品をカートに入れているかを認識する。
店内における消費者の行動を解析し売場の最適化につなげることは効率化のみならず、マーケティングの強化という価値も生み出す。このシステムを使い2019年夏、ドラッグストアチェーンの薬王堂仙台泉館店(仙台市)で実証実験が始まる予定だ。

日本におけるキャッシュレス化の鍵を握るもう1つのポイントは、店舗側の「現金お断り」である。スウェーデンのストックホルムでは、公共交通機関である電車や地下鉄、バスに現金では乗ることができない。街中のレストランや小売店でも、現金お断りの看板やポスターを貼る店舗が目立つ。日本でも東京の馬喰町にあるカフェ「ギャザリングテーブルパントリー」が、現金お断りの店舗を展開し話題となった。
日本におけるキャッシュレス化推進には(1)政府による規格の統一化(2)銀行業参入や生体認証、AI技術を含めたペイメントサービスの進化(3)現金を受け付けない店舗側のルール化の3つが重要である。これらが三位一体となった時、日本のキャッシュレス化は2025年を待たずして40%を達成する可能性を秘める。何よりも、キャッシュレス化推進によるデータ活用が、顧客への提供価値を増大させ日本の消費の活性化へとつながっていく。

日経MJ 2018年12月24日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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