IFRS第17号の修正に関する公開草案の解説(週刊経営財務2019年8月26日号)

IFRS第17号の修正に関する公開草案の解説(週刊経営財務2019年8月26日号)

週刊経営財務(税務研究会発行)2019年8月26日号に、IFRS第17号の修正に関する公開草案に係るKPMG/あずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

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はじめに

国際会計基準審議会(IASB)は、2019年6月26日、IFRS第17号「保険契約」(以下、IFRS第17号)を部分的に修正する公開草案「IFRS第17号の修正」(以下、本公開草案)を公表した。本公開草案は、2017年5月に公表されたIFRS第17号に対する修正案を提案し、当該修正案について利害関係者からのコメントを求める目的で公表されたものである。本稿では、本公開草案の主要なポイントを解説する。なお、文中の意見にわたる部分は私見である。

本公開草案公表までの背景

IASBは、2017年5月にIFRS第17号を公表した後、基準の適用にあたっての課題等をモニターするとともに、本基準書の適用をサポートするための会議体であるTRG(Transition Resource Group)を設置するなどの支援を行ってきた。一部の利害関係者は、TRGでの議論等を通じてIFRS第17号の当初の適用時期やいくつかの規定に関して懸念や要望を寄せており、IASBは、これまでに確認された懸念・要望等を踏まえ、IFRS第17号の修正要否に関する議論を行った。

具体的な内容の議論に先立ち、2018年10月のIASBの議論において、IFRS第17号の修正候補として25項目の論点が提示された。IFRS第17号の修正にあたっては、IFRS第17号が想定する情報の有用性を大きく損なう結果になること、既に進められている導入プロセスを過度に混乱させることや、IFRS第17号の発効日を過度に遅延させることがあってはならないという要件が設定された。数か月に及ぶIASBでの審議の結果、上記要件を満たす8つの論点について修正する旨の暫定決定がなされ、本公開草案は、主に当該8論点がコメント募集の対象となっている。(当該8論点に関してIASBにて暫定決定された背景、及び暫定決定当時の内容については、本連載第4回を参照)

修正が提案されている8論点

IASBの審議での暫定決定を踏まえ、本公開草案にて修正が提案されている8論点は以下のとおりである。

# Topic
1 IFRS第17号の発効日の延期
2 IFRS第17号の適用範囲に関する追加的な例外措置
3 更新契約に係る契約獲得キャッシュ・フロー
4 投資活動に関連するサービスへの利益の配分規準
5 リスク軽減オプションの拡充
6 再保険契約における会計上のミスマッチの低減(元受契約が不利である場合の処理)
7 保険資産・負債に係る財政状態計算書上の表示の簡素化
8 移行措置に関する要求事項の軽減

1. IFRS第17号の発効日の延期

本公開草案では、以下の修正が提案されている。

  • IFRS第17号の発効日を1年遅らせ、2022年1月1日以降に開始する事業年度からとする。
  • IFRS第4号「保険契約」(現在適用されている基準)において、一定の条件を満たす保険会社等に認められているIFRS第9号「金融商品」の適用を一時的に免除するオプションの失効日についても、IFRS第17号の発効日にあわせて延期する。

一部の利害関係者は、IFRS第17号の導入は重大な課題であり、IFRS第17号の発効日を延期すべきであるという見解を示していた。IASBは、IFRS第17号の修正を検討することと、IFRS第17号の導入をできる限り早く進めることのバランスを考慮し、当初の発効日から1年延期するという決定を行った。

2. IFRS第17号の適用範囲に関する追加的な例外措置

本公開草案では、以下の修正が提案されている。

  • 特定の要件を満たす融資契約について、IFRS第17号またはIFRS第9号のいずれかの基準を適用することができる。
  • 特定の要件を満たすクレジットカード契約について、IFRS第17号の適用範囲から除外し、IFRS第9号を適用する。

IFRS第17号における保険契約の定義はIFRS第4号から変更がなく、上記の融資契約及びクレジットカード契約は、IFRS第4号を適用した場合であっても保険契約の定義を満たし得る。しかし、IFRS第4号では、主契約である保険契約から一部の非保険要素を分離したうえで、その非保険要素に他のIFRS基準を適用することを認めている。すなわち、一部の企業は、これらの契約に対して、IFRS第9号またはIAS第39号「金融商品:認識及び測定」を適用している場合がある。
一方で、IFRS第17号は、非保険要素の分離についてはIFRS第4号に比べて制限的である。IASBは、重要な保険リスクを移転する一部の融資契約及びクレジットカード契約に対して、現行会計においてそれらの契約にIFRS第9号等を適用している企業については、IFRS第17号を適用するように変更することのコストの方が便益を上回る可能性があるということを考慮し、上記のような修正案を決定した。

3. 更新契約に係る契約獲得キャッシュ・フロー

本公開草案では、以下の修正が提案されている。

  • 契約獲得キャッシュ・フロー(代理店手数料など)を、関連する更新後の契約にも配分する。
  • 企業が更新後の契約を認識するまで、配分された契約獲得キャッシュ・フローを資産として認識する。
  • 企業が更新後の契約を認識するまで、報告期間毎に当該資産の回収可能性を評価する。
  • 以下の情報を提供するようにIFRS第17号の開示規定を追加する。
    • 報告期間の期首から期末への当該資産の変動
    • 当該資産の認識の中止及び更新後の保険契約グループの測定に含める時期

企業は、新契約獲得時に代理店手数料などの新契約獲得に係るキャッシュ・フロー(以下「契約獲得キャッシュ・フロー」という)を支払う。ここで、契約更新を前提とした場合、更新後の期間が契約の境界線外と判断されれば、契約の境界線内にある当初の保険契約グループ(以下「当初グループ」という)の保険料だけでは契約獲得キャッシュ・フローを賄いきれず、当初グループが不利な契約となる可能性がある。
一部の利害関係者は、こうした当初グループは不利な契約ではないという見解を述べており、IASBは、企業が契約獲得キャッシュ・フローを予想される更新契約に配分するようにIFRS第17号を修正することは、契約獲得キャッシュ・フローに関して財務諸表利用者に有用な情報を提供するであろうという考えに合意し、上記のような修正案を決定した。
本修正内容は、このような会計処理を選択することを認めるものではなく、該当する保険契約については当該会計処理・開示を行うことが求められるものである。日本の保険会社においては該当するケースは少ないことが想定されるものの、該当の有無については検討を要するものと考えられる。

図表1 更新契約に係る契約獲得キャッシュ・フローに関する修正案
図表1 更新契約に係る契約獲得キャッシュ・フローに関する修正案

出典:公開草案の内容をもとに筆者作成

4. 投資活動に関連するサービスへの利益の配分規準

本公開草案では、以下の修正が提案されている。

  • 一般的な測定モデルにおける保険収益の認識(契約上のサービス・マージン(CSM)の各報告期間への配分)は、保険カバーだけでなく、保険契約が提供する投資リターン・サービスも含めて考慮する。
  • 以下の情報を提供するようにIFRS第17号の開示規定を修正する。
    • 報告期間の期末に存在するCSMについて、将来の純損益に認識される予想時期を定量的に開示する(現在のIFRS第17号では、定性的な開示のみを行う選択肢も存在するが、当該選択肢を削除する)。
    • 保険カバー及び投資リターン・サービスが提供する便益の相対的なウェイト付けを決定するために採用したアプローチを開示する。

IASBは、直接連動有配当契約以外の保険契約においても、基礎となる項目に依存するリターンを保険契約者に提供しているものがあるという利害関係者の主張に留意した。IASBは、これらの契約は直接連動有配当契約の定義を満たさないが、これらの契約の中には投資サービスを提供するものがあるという考えに同意した(このような契約における投資サービスを、本公開草案では「投資リターン・サービス」と呼んでいる)。IASBは、特に、保険契約者が投資リターン・サービスから便益を受ける期間とは異なる保険カバー期間を有する契約について、保険カバーと投資リターン・サービスの両方を考慮してCSMを純損益に認識することは、財務諸表利用者に有用な情報を提供するという考えに同意し、上記の修正案を決定した。
本修正案により、企業は一般的な測定モデルにおいても、投資リターン・サービスを考慮することが求められることとなった。投資リターン・サービスは、保険契約に投資要素が含まれることが前提ではあるが、投資要素を含むすべての保険契約が投資リターン・サービスを提供するわけではないとされている。IASBは、一般的な測定モデルにおける投資リターン・サービスの考慮は、主観性と複雑性を加えるものであるとしており、企業は保険契約の中に投資リターン・サービスが存在するかという点や、開示に関する検討も含め、修正案に関して追加的な検討を要することになると考えられる。

参考:投資リターン・サービスの定義(本公開草案 B119B項)

直接連動有配当保険契約以外の保険契約は、次の場合に、かつ、次の場合にのみ、投資リターン・サービスを提供する可能性がある。

(a)投資要素が存在するか、または保険契約者がある金額を引き出す権利を有している。
(b)投資要素または保険契約者が引き出す権利を有している金額に、プラスの投資リターンが含まれると企業が見込んでいる(プラスの投資リターンは、例えば、マイナス金利の環境下ではゼロを下回る可能性がある)。
(c)企業が当該プラスの投資リターンを生み出すために投資活動を行うことを見込んでいる。

5. リスク軽減オプションの拡充

本公開草案では、以下の修正が提案されている。

  • 企業が直接連動有配当契約から生じる金融リスクを軽減するために再保険契約(出再保険)を使用する場合にも、リスク軽減オプション※を適用することができる。
    ※保有するデリバティブにより直接連動有配当契約から生じる金融リスクを軽減する場合、当該金融リスクの変動による影響を純損益に反映させ、デリバティブの損益とマッチングさせることができるオプションが定められている(IFRS17. B115~B118項)。

一部の利害関係者は、保有する再保険契約(出再契約)によって直接連動有配当契約から生じる金融リスクの一部または全部を再保険者に移転している場合、当該出再契約による経済実態を財務諸表に反映できない可能性があるという懸念を示した。IASBは、この懸念が以前にデリバティブに関して提起された懸念と同様であることを認識し、デリバティブにおいてリスク軽減オプションを許容したことと整合的となるように、IFRS第17号のB116項におけるリスク軽減オプションの範囲を拡大することを提案している。

6. 再保険契約における会計上のミスマッチの軽減(元受契約が不利である場合の出再契約の処理)

本公開草案では、以下の修正が提案されている。

  • 再保険契約が以下の両要件を満たす場合、当初認識時において元受契約が不利な契約となった場合に、対応する再保険契約の利得を認識する。
    • 元受契約の損失を比例的(proportionate basis)にカバーする再保険契約(つまり、固定された比率の保険金を回収する再保険契約)
    • 元受契約が発行される前に、または同時に発行される再保険契約

一部の利害関係者は、当初認識時においても、企業が元受契約について認識する損失を再保険者から回収する権利を有している範囲で、元受契約について損失を認識するのと同時に、再保険者から回収が予想される部分の収益を認識すべきであると提案した。こうした利害関係者の提案を検討する際に、IASBは、企業は保有している再保険契約を元受契約とは別個に会計処理すべきであるという見解を再確認したが、IASBは、保険契約グループについての損失の認識と、保有する出再契約の正味のコストまたは正味の利得の認識との相違により、会計上のミスマッチが生じる可能性があることを認識し、上記の修正を提案している。
これにより、当初認識時においても元受契約について認識した損失とマッチングするように再保険契約において利得を認識することができるようになる。当該利得は残存カバーに係る資産の「損失回収要素」として設定され、元受契約の損失要素のように事後測定においても継続的に管理される(本公開草案66B項)。

図表2 本修正案を反映した当初認識時の仕訳

前提条件

  • 20X1年の期初にカバー期間2年の元受契約を発行し、発行と同時に保険料200を受領した。
  • 当該元受契約は180の保険金と、40の契約獲得キャッシュ・フローが生じる見込みである。
  • 元受契約の発行と同時に、当該元受契約を50%比例の再保険契約に出再した。
  • 簡素化のため、割引率、リスク調整は考慮しない。
元受契約
(借方) (貸方)
保険契約負債(将来保険料) 200 保険契約負債(将来保険金) 180
不利な契約損失 20 保険契約負債(契約獲得CF) 40

 

再保険契約
(借方) (貸方)
再保険契約資産(回収保険金) 90 再保険契約資産(支払保険料) 100
再保険契約資産(CSM) 10 再保険による利得 10
再保険契約資産(損失回収要素) 10

※本修正案により、当初認識時においても、元受側の損失と再保険側の利得がマッチングする。


出典:公開草案の設例及びKPMG IFRG Limited “New on the Horizon”をもとに筆者作成

なお、この提案は、比例的なカバーを提供する保有している再保険契約についてのみが対象である点には留意が必要である。当該比例的なカバーを提供する再保険契約の定義は、本公開草案付録Aにおいて、「基礎となる保険契約グループについてのすべての発生保険金の一定割合を再保険者から回収する権利を企業に提供する出再契約。企業が回収する権利を有する一定割合は、単一の基礎となる保険契約グループの中のすべての契約について固定されているが、基礎となる保険契約グループの間では変わる可能性がある。」とされており、企業が保有する再保険契約が当該定義にあてはまるかについて検討を要するものと考えられる。

7. 保険資産・負債に係る財政状態計算書上の表示の簡素化

本公開草案では、以下の修正が提案されている。

  • 保険契約資産及び負債の表示について、保険契約グループではなく、保険契約ポートフォリオレベルで区分して表示する。

一部の利害関係者は、各保険契約グループについて履行キャッシュ・フローを識別するには、新たなシステムを多大なコストで導入することが必要になる可能性があると懸念を示し、実務上の取扱いとして、保険契約をグループレベルよりも高いレベルで表示する場合でも意味のある情報が提供できるであろうと提案した。IASBは、この提案に対し、グループレベルでの表示と比較した場合に、情報の有用性を著しく低下させるものではないという見解を示し、財務諸表作成者にとっての作業負担の軽減による便益は、財務諸表利用者にとっての有用な情報の限定的な喪失の可能性によるコストを上回るであろうとの結論を下した。

8. 移行措置に関する要求事項の軽減

(1)企業結合などで取得した支払備金に関する取扱い

本公開草案では、以下の修正が提案されている。

  • 修正遡及アプローチを適用する場合における特定の修正項目として、完全遡及アプローチを適用するための合理的で裏付け可能な情報を有していない場合、移行日以前に企業結合などで取得した決済期間中の保険契約を、残存カバーに係る負債ではなく、発生保険金に係る負債として分類しなければならない。
  • 公正価値アプローチを適用する場合、移行日以前に企業結合などで取得した決済期間中の保険契約を、発生保険金に係る負債として分類することができる。

支払備金は、IFRS第17号においては発生保険金に係る負債として扱われる。しかし、企業が保険契約を保険事故が発生した後に買収などにより取得し、決済される金額が不確定である場合には、IFRS 第17 号は、当該保険事故に対する保険金の決済に関連する負債を残存カバーに係る負債として分類することを企業に要求している。
一部の利害関係者は、企業が移行日前において取得した支払備金は、企業が自ら発行した他の保険契約とともに管理しているため、残存カバーに係る負債または発生保険金に係る負債のいずれかに分類することが実務上不可能であるとの懸念を示していた。IASBは、修正遡及アプローチにおける既存の要求事項及び公正価値アプローチにおける軽減措置が、この課題を解決していないことに留意した。したがって、IASBは、IFRS 第17 号への移行について新たな救済措置を提案すべきであると結論を下した。

本公開草案における表現は「保険金の決済に関連する負債」となっている。


(2)直接連動有配当契約についてのリスク軽減オプションに関する取扱い

本公開草案では、以下の修正が提案されている。

  • IFRS第17号の移行日までにリスク軽減の実態を有している場合には、IFRS第17号の移行日から将来に向かってリスク軽減オプションの使用を認める。
  • 以下の両要件を満たす場合、直接連動有配当契約のグループに公正価値アプローチを適用することができる。
    • 移行日から将来に向かってリスク軽減オプションを使用することを選択する。
    • 移行日以前から、金融リスクを軽減するために、デリバティブまたは再保険契約を保有してリスク軽減の実態を有している。

IASBは、審議の結果、企業が後知恵(Hindsight)のリスクを生じさせずに、リスク軽減オプションをIFRS 第17 号の適用開始日よりも早い日から適用することが可能であるはずとの結論を下した。したがって、IFRS 第17 号を適用する最初の報告期間と修正再表示後の比較情報との間の不整合に関する懸念に対処するため、IASBは、将来に向かって適用する場合には、企業がリスク軽減オプションを比較対象期間において適用することを認める(すなわち、移行日から将来にわたって適用することを認める)ことを決定した。

その他に提案されている修正案

本公開草案では、2018年6月及び2019年4月のIASBボード会議において暫定決定された年次改善の項目(IASBが意図しない解釈がなされることを防ぐために基準の文言を明確化するなど、比較的軽微な修正を行うプロセス)として、投資要素の定義の明確化などもあわせて反映されており、前述の8論点とあわせてコメント募集の対象とされている。

今後のスケジュール

本公開草案は90日間のコメント募集期間に付され、コメント募集期限は2019年9月25日となっている。IASBに寄せられたコメントを踏まえ、修正後の最終基準は2020年中(本稿執筆時点の情報では2020年中頃)に公表される予定となっている。

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