超インフレ経済下に所在する在外営業活動体の換算(IAS第21号とIAS第29号に関連) - IFRICニュース2020年3月 - アジェンダ却下確定

IFRS解釈指針委員会ニュース(2020年3月) - 「超インフレ経済下に所在する在外営業活動体の換算(IAS第21号とIAS第29号に関連)」については、2020年3月のIFRS-IC会議において審議された内容に更新しています。

「超インフレ経済下に所在する在外営業活動体の換算(IAS第21号とIAS第29号に関連)」については、2020年3月のIFRS-IC会議において審議された内容に更新しています。

関連IFRS

IAS第21号「外国為替レート変動の影響」
IAS第29号「超インフレ経済下における財務報告」

概要

IAS第29号は、超インフレ経済国の通貨を機能通貨とする企業の財務諸表につき、物価指数の変動を反映する形で修正再表示することを要求している。また、超インフレ経済下の通貨を機能通貨として作成された財務諸表を他の(超インフレ経済の通貨でない)表示通貨に換算する場合には資本や収益費用を含むすべての財務諸表項目を決算日レートで換算しなければならない(IAS第21号第42項)。

IFRS上の上記要請事項に関して、超インフレ経済下の通貨が機能通貨である在外営業活動体の業績及び財政状態を、報告企業の連結財務諸表において、超インフレ経済下の通貨ではない表示通貨に換算することに関連する以下の3つの論点が2020年3月のIFRS-ICで議論された。

  1. 超インフレ経済下の在外営業活動体の財務諸表をIAS第29号に従って修正再表示し、その後IAS第21号に従って超インフレ経済以外の通貨に換算を行う際に生じる連結上の差額の表示方法
  2. 超インフレ経済下の在外営業活動体に対してIAS第29号を最初に適用する際の超インフレとなる前の期間に計上された為替換算差額累計額の取り扱い
  3. 在外営業活動体が初めてIAS第29号を適用する際の比較期間の修正再表示の論点

ステータス

1. 超インフレ経済下の在外営業活動体の財務諸表をIAS第29号に従って修正再表示し、その後IAS第21号に従って超インフレ経済以外の通貨に換算を行う際に生じる連結上の差額の表示方法

IFRS-ICの決定
IFRS-ICは、2020年3月のIFRS-IC会議で、次の通り指摘した。

  • IAS第21号第43項は、企業にIAS第29号を適用して超インフレ在外営業活動体の業績及び財政状態を修正再表示したのちに、IAS第21号第42項に示される換算方法を適用することを要求している。当該アプローチの適用により、企業の超インフレ在外営業活動体への純投資が変動する場合、この変動には以下の2つの影響が含まれる。
    (a)IAS第29号を適用して、超インフレ在外営業活動体の資本に対する企業の持分を修正再表示することから生じる修正再表示の影響
    (b)超インフレ在外営業活動体の資本に対する企業の持分を、従前のレートとは異なる決算日レートで換算することから生じる換算による影響(ただし、IAS第29号を適用することによる修正再表示の影響を除く)

    例えば、超インフレの投資先在外営業活動体(100%保有)が、当該在外営業活動体の機能通貨ベースで非貨幣性資産1,000を有し、同額の資本を有していたとする。当該在外営業活動体にその他の資産・負債はなく、期首から期末の間に当該非貨幣性資産及び資本の金額に変動はなかったとする。ここで、期首から期末までの物価指数の変動が200%である場合、IAS第29号の要求事項に従い資本は3,000に再表示される。連結表示通貨への換算レートが期首は0.40、期末は0.25だったとした場合、上記(a)(b)は以下のように算定される:
    (a)IAS第29号を適用して、超インフレ在外営業活動体の資本に対する企業の持分を修正再表示することから生じる修正再表示の影響
    (修正再表示後資本に対する持分3,000 - 修正再表示前資本に対する持分1,000)×決算日レート0.25=500
    (b)超インフレ在外営業活動体の資本に対する企業の持分を、従前のレートとは異なる決算日レートで換算することから生じる換算による影響
    修正再表示前資本に対する持分1,000×(決算日レート0.25 - 期首決算日レート0.40)=△150
  • IAS第21号第8項は、為替差額を「ある通貨の特定の数量単位を異なった為替レートにより他の通貨に換算することにより生じる差額」と定義している。この定義を適用すると、上記(b)の換算の影響のみ、または、修正再表示および換算の合計の影響(上記(a)と(b)の合計)が、為替差額の定義を満たす。
  • IAS第21号の為替差額の認識及び表示に関するすべての要求事項は、為替差額を純損益又はOCIに認識することを要求しており、資本への言及は行われていない。これは為替差額は定義上収益もしくは費用に該当するためである。したがって、企業は為替差額を資本に直接認識しない。
  • IAS第1号「財務諸表の表示」第7項は、その他の包括利益の内訳項目として、在外営業活動体の財務諸表の換算から生じる為替差額を挙げている。また、IAS第21号第41項は、超インフレ経済国に所在しない在外営業活動体の財務諸表の換算から生じる為替差額を純損益ではなくOCIで認識するとし、その理由を為替レートの変動が営業活動からの現在及び将来のキャッシュ・フローに与える直接の影響が、ほとんどまたは全くないからと説明している。この説明は、在外営業活動体の機能通貨が超インフレ経済下の通貨である場合にも関連すると考えられる。よって、超インフレ経済下の在外営業活動体の換算から生じるすべての為替差額はOCIに表示すべきとIFRS-ICは結論した。したがって、要望書に記載されている事実パターンについては、企業は次の表示を行うことをIFRS-ICは結論とした。

したがって、要望書に記載されている事実パターンについては、企業は次の表示を行うことと、IFRS-ICは結論した。

(a)企業が、修正再表示(上記数値例における500)及び換算(同△150)の2つの影響の組み合わせがIAS第21号における為替差額の定義を満たすと考える場合には、換算及び修正再表示の影響の合計(350)をOCIに表示する。
(b)企業が、換算の影響(△150)のみがIAS第21号における為替差額の定義を満たすと考える場合には、換算の影響のみ(△150)をOCIに表示し、修正再表示の影響(500)は資本に表示する。

IFRS-ICは、2020年3月のIFRS-IC会議で、超インフレ経済下の通貨を機能通貨とする在外営業活動体の修正再表示および他の表示通貨への換算から生じる為替差額の表示についてのプロジェクトをアジェンダに追加することを検討した。IFRS-ICは、超インフレ経済下の在外営業活動体の会計処理に関する他の論点を検討せずに、当該論点のみを対象とするプロジェクトではコストを上回る財務報告の改善をもたらすという証拠が得られなかったため、アジェンダに追加しないことを決定した。

2. 超インフレ経済下の在外営業活動体に対してIAS第29号を最初に適用する際の超インフレとなる前の期間に計上された為替換算差額累計額の取り扱い

IFRS-ICの決定
IFRS-ICは、2020年3月のIFRS-IC会議で、次の通り指摘した。

  • IAS第21号は、在外営業活動体が超インフレになる前については、(a)超インフレではない在外営業活動体の業績及び財政状態の換算から生じる換算差額をOCIに表示し、(b)換算差額の累計額を資本の独立の内訳科目に表示することを要求している。
  • 要望書は、在外営業活動体が超インフレになる際に、それ以前の期間に計上された為替換算差額の累計額を資本内の他の構成要素へ振り替えるかを質問した。資本内の他の構成要素へ振り替えられる場合には、当該為替換算差額累計額はその後純損益に組み替えられることはない。
  • IAS第21号第41項は、その他の包括利益を通じて認識された為替換算差額の累計額を「在外営業活動体の処分時まで」資本の独立の内訳項目に表示することを要求している。また、IAS第21号第48項及び第48C項は、在外営業活動体の処分(または部分的な処分)時に、当該換算差額(またはその比例的持分)を資本から純損益に組替調整として振り替えることを要求している(ただし、在外子会社の部分的処分により為替換算差額を非支配持分に振り替える場合を除く)。

したがって、IFRS-ICは、要望書における事実パターンについては、企業は、在外営業活動体の処分(または部分的な処分)時まで、超インフレになる前の為替換算差額の累計額を資本の独立した内訳項目に表示すると結論した。つまり、超インフレになったとしても、その前に累積した為替換算差額の累計額を資本内の他の構成要素(その後純損益に組み替えられることがない)に振り替えることは行わない。

IFRS-ICは、2020年3月のIFRS-IC会議で、IAS第21号の原則及び要求事項が十分な判断の基礎を示していると判断し、アジェンダに追加しないことを決定した。

3. 在外営業活動体が初めてIAS第29号を適用する際の比較期間の修正再表示の論点

IFRS-ICの決定
IFRS-ICは、2020年3月のIFRS-IC会議で、次の通り指摘した。

  • 次の財務諸表において、企業が在外営業活動体の比較対象金額を修正再表示すべきかについての質問があった。
    (a)在外営業活動体が超インフレ下となった期における年次財務諸表
    (b)在外営業活動体が超インフレ下となった期の翌年度の期中財務報告(在外営業活動体が比較期中財務報告期間において超インフレ下ではなかった場合)

IFRS-ICは、2020年3月のIFRS-IC会議で、アウトリーチへの回答、受領したコメントレター及び追加的に実施した調査に基づき、当該事項に関するIAS第21号の適用に関して実務のばらつきはほとんどなく、IAS第21号第42項(b)を適用すれば、基本的には企業は年次または期中報告財務諸表において比較対象金額を修正再表示しないと判断した。よって、当該事項が広範な影響を有しているという証拠を得られなかったため、アジェンダに追加しないことを決定した。

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