金利指標改革(IBOR Reform)が会計に及ぼす影響とは?

IFRSのヒント - 最近、IASBがIBOR Reformに関する最終基準を公表しました。これは、現行の会計基準の一部適用を修正するものですが、なぜ会計基準の修正が必要になるのでしょうか。

最近、IASBがIBOR Reformに関する最終基準を公表しました。これは、現行の会計基準の一部適用を修正するものですが、なぜ会計基準の修正が必要になるのでしょうか。

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IBOR Reformとは?

IBORとはInterbank Offered Rate(銀行間取引金利)の略称で、LIBORはその代表的なものです。LIBORは世界の金利市場の基礎となる金利指標である一方、その公表プロセスにおいて一部の関係者が自行に有利なように不正な情報操作を行っていたことが2012年に発覚、以来、IBORに代わる、取引データに基づく信頼性の高い代替的金利(RFR:リスクフリーレート)の検討が国際的に進められてきました。2017年7月には、英国当局が2021年末以降のLIBOR廃止の可能性について言及したことで、IBORがいよいよ無くなるかもしれないとして、一気に関心が高まることになりました。
日本においては、日本円LIBORのRFRとしてTONA(Tokyo Overnight Average Rate)と呼ばれる無担保コール翌日物レートが特定されています。TIBORについてはLIBOR不正を受けた制度の見直しが行われた結果、現時点では今後も存続することが予定されています。しかし、国際的に各種存在するIBORのうち、どれがどのような金利指標に、どのようなプロセスをたどっていつ置き換わるのか、という展望についてはまだまだ不透明な部分が多いと言えます。
IBORは様々な金融商品において基準金利として参照され、そのマーケットは巨大であるため、IBOR Reformは会計的にも大きな影響をもたらすことになります。LIBOR廃止が現実味を帯びる中でその混乱懸念が改めて認識され、会計面でも制度的な対応の必要性が叫ばれることになりました。

IBOR Reformに伴う会計的影響とは?

例えば、ある企業が、銀行からLIBOR+2%の変動金利で10年間の借入を行っていたとします。もし、LIBORの公表が停止されてしまうと、その時点以後の利息を決定することができなくなってしまいます。これでは困りますので、LIBORが実際に停止される前に契約は何らかの形で変更されると見込まれます。
契約変更が生じると、どういう問題があるのでしょう?
IFRSを適用する企業では、たとえば、以下のような点が考えられます。

  • 契約変更はIFRSの規定により、既存の借入をいったん返済し、新たな借入れを行ったものとみなして会計処理することを要求されるかもしれません。その結果、既存の借入に生じていた含み損益を純損益で一括認識する必要が生じるかもしれません。
  • 条件変更が「新たな借り入れ」として扱わなくて済む場合でも、金利条件は変わります。この利率の変更をどのように会計処理に反映させるのか。スプレッドが変わる可能性もあり、その場合は借入期間を通じた実効金利の調整などが必要になってしまうかもしれません。
  • 利率の変更と同時に他の契約条項も合わせて変更した場合には、上記の事項をどのように会計処理に反映させるのか、さらに複雑な検討が必要になることが懸念されます。

ヘッジ会計へも影響が・・・

IBOR Reformの会計上の影響は、上記のような契約変更時においてのみ生じるわけではありません。例えば、仮に上記の企業がこの借入金に対してキャッシュフローヘッジを適用し、金利スワップを使ってLIBOR金利を固定金利に変換していたとします。この場合、

  • LIBORが停止される可能性のある2022年以降の期間に関してもキャッシュフローヘッジを適用することは可能なのでしょうか。新たな金利条件にはLIBORという要素が含まれなくなると予想されるのであれば、当該期間に係るキャッシュフローヘッジ剰余金は純損益への振り替えが必要となるのかもしれません。
  • また、実際の契約変更自体は2022年のLIBOR廃止より前に行われることが想定されるため、2022年より前の期間に関しても「ヘッジ対象のキャッシュフローが発生する可能性が非常に高いとは言えない」ということになり、契約変更が想定される時点以後についてのヘッジ会計は適用できなくなるのかもしれません。
  • さらに、借入金の契約変更と金利スワップの契約変更は同時に行われるとは限りません。また、参照する金利が両者で同じになるとは限りません。契約変更のタイミングや参照金利の違いから生じるヘッジの非有効はどのように会計処理すればよいのでしょうか。

このように考え始めると、そもそも、今、LIBORを参照する借入金を対象にキャッシュフローヘッジを適用していいのかどうかというところまで疑問が生じてしまいます。LIBOR Reformはまだ先だと思っていたら、なんと会計上の影響は今すぐにでも生じるものだったのかもしれません!!
IASBが慌ただしく対処に動き始めたのにはこのような背景があります。

IBOR Reformに対応するための改訂基準の公表

今回のIASBの改訂基準(現行の会計基準の一部修正)は、IBOR Reformに起因して発生するヘッジ会計適用上の問題に対応することを目的に公表されました。今後、より広範な検討が予定されています。
これは、IBOR Reformが個別企業レベルの問題ではなく、マーケット全体が対処しなければならない一大イベントであること、IBOR Reformの影響を現行の会計基準に基づき会計処理した場合の会計情報が、財務諸表利用者に有用な情報を提供しないと判断されたことによります。
IASBが公表した最終基準についてもう少し詳しく知りたい方は、あずさ監査法人発行のポイント解説速報をご覧ください。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部

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