Close-up 3:金融機関の新たなトップライン戦略

Close-up 3:金融機関の新たなトップライン戦略

海外の金融業界において、手数料ビジネスを強化しているプレーヤーのアプローチが注目を集めている。それら海外の金融機関では、顧客の持つ市場を顧客と共に投資、開拓するため、その企業哲学も「顧客の企業価値に貢献すること」に変化している。

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同様に、国内金融機関が手数料ビジネスを再考するには、従来の自社向け投資から脱却し、顧客と共にビジネスを創っていく視点に転換する必要がある。ジョイントベンチャーによる利益の共有型ビジネスの構築や、CVC活用やシナジー開発、金融ノウハウのサービス化といった視点が糸口になるだろう。海外のベンチマークとなる事例を紹介しつつ解説する。

BtoB手数料ビジネスのポテンシャル

デジタル技術の急速な実用化の流れの中で、現代はスタートアップの時代と言われる。スタートアップ企業が増えている理由としては、多様なデータ構築やクラウド環境の深化により、情報収集からサービス展開まで、より小規模の要員でも事業化できるといった環境の充実がある。しかし同時に、その実態は社会課題の解決に迫られて、という側面も大きい。大企業での働きづらさの問題、社会の高齢化と現役世代の減少、消費者の嗜好やニーズの細分化、社会負担の増加による個人の可処分所得の減少などを要因にして、「より小さい組織で、より高度なサービスを提供せざるを得ない」ということや、「早まるサービスの陳腐化リスクへの対応」という社会的要請である。

では、このスタートアップ時代に起業家たちは何を求めるのか。それは「容易に起業も撤退もできて、容易に収益化できる機会が得られる」ことである。すでに米国では、週日は企業で定時就業しつつ、夕方以降や土日は地域や市場、産業のための様々なニーズに着目した起業を行い、個人が副業を複数持つという働き方も多くなっている。そしてその働き方をサポートしているのが金融機関である。会社を創れば、そのバックオフィスやミドルオフィスが重たいが、初期コストゼロの従量的な課金だけでサービスを享受できる環境の整備に金融機関が一役買っているのである。

日本はどうだろうか。スタートアップを始めようとすると、全て自己責任という名の下に、経理、財務、内部統制等に関するシステムや人材を自前で備えないといけない。地域に見合った介護サービスや外国人向けのサポート事業を起業したいのに、経理回りに時間を取られ、人を雇えばコスト増に直結し、また不正リスクも高まる。「意外と誰も助けてくれない」のである。

スタートアップだけではない。大手小売店、大規模病院、地域金融機関、地域物流会社、介護サービスなど、経営難や業績不振にあえぐ業種は増えている。本業に直接関係しない、多様に拡大するコスト増加要因により、IT化の時代にもかかわらず経費高になるという矛盾こそが、日本の独特の企業環境となっている。裏を返せば、これら企業活動における本業外のコスト要因の業務群こそが、国内金融機関にとっては国内市場における新しいBtoB手数料ビジネスのブルーオーシャンと言える。

ここで、海外市場でのBtoB向け手数料ビジネスの構築で、昨今注目されているアプローチを実践している金融機関の事例を2つ紹介する。

海外のベンチマーク(1):DBSの場合

CVCの活用

シンガポール開発銀行(DBS)は昨今、他の東南アジア地域におけるリテール銀行領域への参入で注目されているが、もともとは産業支援を得意としており、フィンテックの活用とスタートアップとの連携、そして顧客企業との積極的な協働関係の構築力はアジアでもトップの金融機関の一つになっている。

DBSは昨年10月、世界的な農産品商社のアグリコープ・インターナショナル、およびブロックチェーン・スタートアップのディストリビューテッド・レッジャー・テクノロジー(DLT)と3社共同で、豪州においてアグリコープの4500人の大規模契約農家を対象としたブロックチェーン貿易プラットフォームの開発、導入を発表している。このプラットフォームでは、DBSの出資企業でもあるDLTがリアルタイム物流監視システムをブロックチェーンで実現しながら、DBS自身でもブロックチェーンを活用した貿易金融サービスを開発し、物流と金融のリアルタイム化をDBSのAPI上で実現している。「金融×CVC×他の産業」+「シナジー開発」という新たなプラットフォームといえる。

注目すべきは、本プロジェクトの目的はあくまで顧客のコスト削減と利便性向上であるが、サービスの開発、提供においては、金融機関であるDBSが投資と時間を負担したことである。この結果、DBSは顧客企業の加盟店が払う決済手数料の囲い込みや、多様な運転資金の提供機会などの獲得において独占的な地位を得ることに成功している。

海外のベンチマーク(2):NTの場合

金融BPOとしての実践

ノーザントラスト(NT)は米国の主要銀行の一角だが、典型的な米国の手数料ビジネスのトッププレーヤーとして有名だ。もともとは証券決済やそれに付随する運転資金の供給や担保融資、カストディアンやキャッシュマネジメント(CMS)などが主業務であった。しかし、「顧客資産」「顧客業務」に依拠するという自社の哲学にのっとり、金融機関としての高度なリスク管理、アンチ・マネー・ローンダリング(AML)ノウハウ、各種業界規制対応を、時には自前で、時には他社とのジョイントベンチャー(JV)設立やビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)会社の買収などを通して業務開発し、他の地域金融機関や事業会社に提供するに至っている。

利用者は社員が数人レベルの中小企業から大企業にまで及び、顧客企業は重たいミドルオフィスやリスク管理、経理業務などから解放され、より低コストで業務運営を実現している。NTの手数料ビジネスは非常に強固であり、今やトップライン収益の7割超を占めるに至っている。

顧客との共同投資に加え、新収益モデル構築のノウハウを提供

上記、ベンチマーク2社に共通しているのは、「ビジネスモデルの哲学」の存在である。DBSの場合は政府金融機関であるがゆえに、産業育成の視点での投資や業務開発に強いインセンティブがある。NTの場合は信託銀行業務から派生した周辺業務の期待を素直に受け、顧客の利便性や安全性を提供する企業DNAにのっとったものとなっている。

その哲学を実現する最初のきっかけこそが、顧客と共同で投資を実施し、顧客と利益をシェアする「プロフィットシェア型JV」であり、行内にはない第三者のノウハウをもとに新しい事業開拓のシナジーを検討できるCVCといった、複数の協働先を関与させたインオーガニック戦略から始まっている。

JVの活用:新たな競争プラットフォーム
プロフィットシェア型JV

銀行のオープンAPIを活用する場合、開発から運営までの投資をプラットフォーム運営側である金融機関で負担し、銀行のビジネスと一体となった「新しいサービス像」を提示することが、市場でユニークな競争力となる。

翻って、邦銀はどうだろうか。直近の邦銀による投資および費用支出の何%が顧客支援に使われているだろうか。おそらく、自行の勘定系等のシステム更改や維持費、人件費といった自社向けが9割を超えているのではないだろうか。海外のベンチマーク金融機関ではすでに年間の投資や費用の半分は「顧客との協働業務開発」に使われている。

「顧客企業と一緒に新しいビジネスを考える」上で大事なことは何か。一言でいえば、顧客の価値創造を最大限に尊重することである。そのためには顧客企業始め、複数の協働先との交渉内容やそれぞれの要請を形にし、共有できる将来像を事前に取り決めておくことが求められる。その場合、業務や市場の深い理解はもとより、高い実現性を伴った事業計画の策定がコアになる。事業の専門家や様々な協働関係先が一体となり、事業構築時のみならず、業務遂行時においても、共通のゴールに向かってそれぞれ適切な運営が行われることが必須となってくる。企業文化も事業領域も異なる協働関係先と手を携えながら、チームを組むには、それなりの態勢が必要になるのである。

社会課題に着目した新たな価値創造の貢献役へ

国内金融機関が顧客や協働先とともにビジネスを構築することで、新しいBtoB手数料ビジネスの好循環を作っていくために必要となる3つの機能を整理したい。第1の機能はビジネスニーズを定義できる「目」であり、第2はビジネスを容易に構築できるインフラを提供する「エンジン」機能だ。最後が、生まれたビジネスを大きく育てていくための「将来への投資」の機能である。

3つの機能

顧客や協働先の市場を拡大する要因や、経営効率を高めるビジネスニーズを特定していく「目」が最初のきっかけになる。さらに、顧客の企業運営を軽量化するインフラを提供する「エンジン」を提供し、実際にサポート業務を実践する。そして、そこで得た収益にもとづく継続的な「将来への投資」によって、さらに顧客の利益を拡大するサイクルや持続的モデルを確立することを支援することが可能になるだろう。

国内金融機関が「目」「エンジン投資」「将来の投資」の3つの機能を発揮して、新しい収益モデルを確立する上で重要な媒介となるのが、日本が長年抱える社会課題の存在だ。

先に触れた社会の高齢化や現役世代の減少からくる企業の人手不足については、企業支援プラットフォームとしての金融機関による「トレジャリー業務の提供」、「経理財務の軽量化支援」がある。この分野は従来の金融業務を活かしながら、企業の人材不足を比較的低コストで解消する支援策として金融機関の強みが発揮されやすい。

また、人口減少とともに都心への一極集中が進む日本においては、地域経済の活性化も長年の課題であり、その推進は国内金融機関に一定の役割が求められている分野であろう。地域創生のカギは経済の振興であり、それによる雇用の創出である。それには地域にあった特色のあるサービスや独自の体験の開発が必須だが、地域の知恵や人的リソースだけでは実現は難しい。特にそれらを低コストかつ高いクオリティで提供するには、業務の外注化や、必要な協働先の呼び込みとコワークのノウハウなど、プロジェクトをプロデュースする力が欠かせない。この点に関しても、金融機関が地域協働のハブとして3つの機能を発揮することで、地域に根差した新しい価値創造のサイクル、モデルの構築において、リード役を担うことが可能ではないだろうか。

国内市場において、顧客企業と共に投資し、新しい価値を創造する事業を共に創出していくことで、社会における存在価値を再構築するとともに、自社の新たな収益モデルの確立につながる。BtoB手数料ビジネスの開発こそが、国内金融機関の進むべき道と言える。

執筆者

株式会社KPMG FAS
マネージングディレクター 松浦 健彦

金融サービス会社に対して、戦略立案から統合サポートまで一貫したアドバイザリー業務を提供。KPMG以前は、会計系アドバイザリー会社および国内シンクタンクで、リース、ノンバンク含む金融機関向けにM&A、JV戦略、海外進出・統合、CVC設立・運営等の領域で、戦略策定からPMIまでチームを主導。また、国内大手長期信用銀行にて業務開発に従事。一橋大学法学部卒。

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