エクイティ型役員報酬の税務処理

本稿ではエクイティ型の役員報酬を損金算入することができる事前確定届出給与及び業績連動給与について、その損金算入要件を改正のポイントとともに解説します。

本稿ではエクイティ型の役員報酬を損金算入することができる事前確定届出給与及び業績連動給与について、その損金算入要件を改正のポイントとともに解説します。

ハイライト

昨今、コーポレートガバナンス・コード(CGC)の要請に基づき、法人がその役員に対して中長期的なインセンティブ効果やリテンション効果を持たせることを目的として、エクイティ型の役員報酬を支給する事例が増加しています。それに合わせて法人税法においても、役員に対する報酬の取扱いを整合させるべく、平成28年度以降、税制改正がなされてきましたが、その結果、役員給与に関する規定が複雑さを増し、実務を行うに際し、改正内容を正しく理解することが不可欠となっています。そのため、本稿ではエクイティ型の役員報酬を損金算入することができる事前確定届出給与及び業績連動給与について、その損金算入要件を改正のポイントとともに解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

Point1~3

I.税務上の取扱いの概要

法人税法における役員給与の損金不算入の規定は、図表1のように整理されます(法法34(1)(2)(3))。

図表1 役員給与の損金不算入の規定

役員給与の区分 損金算入される
3類型の該当性
税務上の
取扱い
区分A:
B及びC以外の給与
3類型のいずれかに
該当する
損金算入(*)
3類型のいずれにも
該当しない
損金不算入

区分B:
以下の給与(Cを除く)

  • 業績連動給与以外の退職給与
  • 使用人兼務役員の使用人分給与
判定は不要 損金算入(*)
区分C:
不正経理による給与
判定は不要 損金不算入

 

(*)このうち不相当に高額な部分の金額については損金不算入。上記3類型とは、以下の給与をいいます。

  • 定期同額給与(支給時期が1か月以下の一定期間ごとで、その事業年度の各支給時期における支給額が同額の給与)
  • 事前確定届出給与
  • 一定の業績連動給与

平成29年度税制改正前は、退職給与及び新株予約権による給与は、不正経理によるものでない限り、不相当に高額な部分を除き、原則損金の額に算入されていました(新株予約権については税制適格の場合は損金不算入)。しかし、税制改正により、退職給与のうち業績連動給与に該当するもの及び新株予約権についても「A」に区分され、3類型の該当性が問われます。
注目のエクイティ型の報酬については定期同額給与に該当することはあまり想定されないため、以下では事前確定届出給与及び業績連動給与を中心に改正のポイントを解説します。この場合、新株予約権については税制非適格を前提としています。なお、事前確定届出給与又は一定の業績連動給与として株式又は新株予約権を交付する場合には、それらは適格株式又は適格新株予約権であることが要件とされます(法法34(1)二)。

II.用語の定義

1.適格株式(法法34(1)二)

市場価格のある株式又は市場価格のある株式と交換される株式(役員給与を支給する内国法人又は関係法人が発行したもの)をいいます。なお、関係法人とは、一定期間にわたり役員給与を支給する内国法人に対して、他の法人による支配関係(発行済株式等の50%超を直接又は間接に保有する関係)が継続する見込みである場合の当該他の法人をいいます(2.において同じ)。

2.適格新株予約権(法法34(1)二)

その行使により市場価格のある株式が交付される新株予約権(役員給与を支給する内国法人又は関係法人が発行したもの)をいいます。

3.譲渡制限付株式(法法54(1)、法令111の2(1))

次の要件に該当する株式をいいます。

  1. 譲渡制限があり、かつ、譲渡制限期間があること
  2. 無償取得事由が定められていること(譲渡制限期間内の所定の勤務期間を継続しないこと等、その個人の勤務状況に基づく事由又は役務の提供を受ける内国法人等の業績等の状況に基づく事由に限る)

4.特定譲渡制限付株式(法法54(1))

役務提供を受ける内国法人がその対価として個人に給付する債権を、その個人が現物出資することで交付されるその内国法人の譲渡制限付株式、その他その個人に給付されることに伴ってその債権が消滅する場合のその譲渡制限付株式(具体的には、役務提供を受ける内国法人が有していたその内国法人以外の法人の譲渡制限付株式)をいいます。

5.譲渡制限付新株予約権(法法54の2(1)、法令111の3(1))

譲渡制限その他特別の条件が付く新株予約権をいいます。

6. 特定新株予約権(法法54の2(1))

次の要件に該当する譲渡制限付新株予約権をいいます。

  1. 当該予約権と引換えにする払込みに代えて、役務提供の対価として個人に生ずる債権により相殺されること
  2. 当該予約権が実質的に役務提供の対価と認められるものであること

III.事前確定届出給与

1.事前確定届出給与の意義(法法34(1)二、法令69(3)~(8))

事前確定届出給与とは、以下の要件のいずれも満たす役員給与をいいます。

  1. 役員の職務につき所定の時期に確定した額の金銭又は確定した数の株式若しくは新株予約権若しくは確定した額の金銭債権に係る特定譲渡制限付株式若しくは特定新株予約権を交付する旨の定めに基づいて支給する給与であること
  2. 定期同額給与及び業績連動給与以外の給与であること
  3. 所轄税務署長に、一定の届出期限までに要件(1)の定めの内容に関する届出をしているものであること。ただし、次の給与については届出不要とされている
  • 非同族会社が非常勤役員(定期給与の支給を受けない者)に支給する金銭による給与
  • 将来の役務提供に係る特定譲渡制限付株式又は特定新株予約権による給与で、株主総会等の決議により職務執行開始日から1か月以内に要件①の定め(その決議日から1か月以内に交付する旨の定めに限る)をした場合における、その定めに基づき交付されるもの

2.改正のポイント

平成29年度税制改正により確定した数の株式等が対象に加えられ、特定譲渡制限付株式以外のエクイティ型の報酬についても事前確定届出給与の対象とされました。それにより、具体的には以下のようなエクイティ型の報酬が損金算入可能な事前確定届出給与の対象となりました。

  • 特定譲渡制限付株式
  • 特定新株予約権
  • 事後交付型エクイティ報酬(事後交付型リストリクテッドストック、株式交付信託等)

IV.業績連動給与

1.業績連動給与の意義(法法34(5))

業績連動給与とは、以下の給与をいいます。

  • 役員給与を支給する法人又はその法人との間に支配関係がある法人の業績指標を基礎として算定される額の金銭、数の株式又は新株予約権による給与
  • 特定譲渡制限付株式又は特定新株予約権による給与で、無償取得され又は消滅する数が役務提供期間以外の事由により変動するもの

このように、業績連動給与には、特定譲渡制限付株式又は特定新株予約権による給与で無償取得等される数が役務提供期間以外の事由により変動するものが含まれていますが、次の2.で述べる「一定の業績連動給与」の対象とされるのは、特定新株予約権のみとされています。そのため、特定譲渡制限付株式については、業績連動給与としては損金の額に算入されません。

2.一定の業績連動給与(法法34①三、法令69(9)~(19))

「一定の業績連動給与」とは、非同族会社又は同族会社(非同族会社との間にその法人による完全支配関係があるもの)がその業務執行役員に支給する業績連動給与で、次の要件を満たすもの(他の業務執行役員の全てに次の要件を満たす業績連動給与を支給する場合に限る)をいいます。

(1)交付される金銭の額若しくは株式若しくは新株予約権の数又は新株予約権の数のうち無償で取得され、若しくは消滅する数の算定方法が以下の要件を満たすこと

  • 一定の業績連動指標を基礎とした客観的なものであること
  • 確定した額又は確定した数を限度としており、かつ、他の業務執行役員に対して支給する業績連動給与に係る算定方法と同様のものであること
  • 所定の日までに適正な手続きを経ており、その内容が当該手続きの終了日以後遅滞なく、有価証券報告書への記載等の方法により開示されていること

(2)一定の期限までに交付されること

(3)損金経理をしていること(引当金処理を含む)

3.改正のポイント

平成29年度税制改正により、給与の算定に用いられる指標が利益の状況を示す指標から業績連動指標に拡大され、名称も「利益連動給与」から「業績連動給与」に変更されました。その結果、売上高、ROA、営業利益率、株価、株式時価総額等の指標が算定に用いられることになりました。
また、事前確定届出給与と同様、業績連動給与の範囲に株式や新株予約権が加えられました。特定譲渡制限付株式も業績連動給与の範囲に含められていますが、上記1.で述べたように、損金算入される「一定の業績連動給与」の範囲には含まれない点に留意が必要です。さらに、従前は非同族会社のみを対象としていたところ、同族会社のうち非同族会社による完全支配関係があるもの、すなわち上場会社の100%子会社についても、業績連動給与を損金算入することができるようになりました。
手続きに関しては、これまでほとんど見直しがされていませんでしたが、令和元年度税制改正により、業績連動給与の算定方法を決定する報酬委員会等に、給与を支給する内国法人の業務執行役員が一定数、委員となることが認められました(引き続き過半数が独立社外取締役である等、適正性を担保する必要があります)。
これらの改正により、具体的には以下のようなエクイティ型の報酬が損金算入可能な一定の業績連動給与の対象となりました。

  • 特定新株予約権
  • 事後交付型エクイティ報酬(パフォーマンス・シェア等)
  • 株式交付信託

V.譲渡制限付株式等による費用の損金算入時期

1.損金算入時期(法法54(1)、54の2(1)、法令111の2(2)(3))

内国法人が個人から役務提供を受ける場合において、その役務提供に係る費用の額につき特定譲渡制限付株式が交付されたときは、その個人に給与等課税額が生ずることが確定した日にその役務提供を受けたものとして、法人税法の規定が適用されます。本規定は、個人が内国法人の役員の他、第三者の場合も含まれ、また、非居住者も対象となっています。
ここに給与等課税額とは、その個人においてその役務提供につき所得税法等の規定により、その個人の給与所得、事業所得、退職所得及び雑所得の収入金額等に算入すべき金額をいいます。
なお、特定譲渡制限付新株予約権等の場合についても、ほぼ同様の規定となっています。

2.改正のポイント

この規定の適用は、平成28年度税制改正当初は役務提供を受ける法人又はその100%直接保有の親法人が発行する譲渡制限付株式等に限られていましたが、平成29年度税制改正により、その役務提供を受ける内国法人とその発行した法人との間に特定の関係がない場合にも適用対象とされました。ただし、役員に対して特定譲渡制限付株式等を交付した場合に、それを事前確定届出給与又は一定の業績連動給与として損金算入するためには、上記Ⅰ.で述べたとおり、交付する株式等は適格株式又は適格新株予約権である必要があるため、譲渡制限が解除されるまでの間、役務提供を受ける内国法人を一定期間支配する関係が継続する見込みの法人の株式等である必要があります。
また、従前は個人における所得税の課税のタイミングと、役務提供を受ける内国法人の損金算入のタイミングが一致していましたが、平成29年度税制改正により、特定譲渡制限付株式に係る損金算入時期については、給与等課税額が生ずることが確定した日(無償取得されないことが確定した日)の属する事業年度となりました。すなわち、譲渡制限が解除されていなくても、無償取得される可能性がなくなった場合には、その時点で権利確定したといえ、そのなくなった日に役務提供を受けたものとされました。

VI.改正の適用時期

上述のとおり、近年、役員給与に関する規定について多くの改正がなされています。これらの改正の適用時期については、原則的には新株予約権、特定譲渡制限付株式又は特定譲渡制限付新株予約権に係るものについては平成29年10月1日以後、それ以外のものについては、平成29年4月1日以後(退職給与に係るものは平成29年10月1日以後)に、その支給決議(決議が行われない場合は、その支給)がされるものに適用されます。
なお、改正前の規定が適用される制度について、決議時に個別の者の給与額を定めず役位等によりそれが定められる場合において、改正適用日以後に新たに役員に就任した者があるときは、その者の給与の支給決議が形式的にはされないことも考えられますが、その選任の決議がされたことをもってその者の給与の支給に係る決議がされたと考え、改正後の規定が適用されます。

VII.まとめ

エクイティ型の役員報酬のうち図表2の類型については、事前確定届出給与及び一定の業績連動給与に該当する場合、損金算入が可能となります(ただし不相当に高額な部分は損金不算入)。

図表2 エクイティ型役員報酬類型

役員給与の類型 事前確定
届出給与
業績連動給与
(退職給与
含む)
退職給与
(業績連動
給与以外)
特定新株予約権1
(非適格ストック
オプション)
特定譲渡制限付株式1
×
事後交付型
エクイティ報酬2

 

1平成29年10月1日以後の決議に係るもの
2平成29年4月1日以後の決議に係るもの(業績連動給与型の退職給与は、平成29年9月30日までの決議に係るものは、業績連動給与の損金算入要件を満たさなくとも損金算入可)

 

※中央経済社「旬刊経理情報」2019年9月10日号に掲載されたものを転載(一部編集)しています。

執筆者

KPMG税理士法人
ファイナンス&テクノロジー
パートナー 長谷川 大輔

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