デジタル時代の移動・無人型店舗

「小売りの明日」第4回 - AIやドローン、バーチャル・リアリティを活用した、新しい移動・無人型店舗の可能性と価値について考察する。

AIやドローン、バーチャル・リアリティを活用した、新しい移動・無人型店舗の可能性と価値について考察する。

マーケティングとは何か。英語で分解すると「market+ing」となる。marketとは市場であり顧客で、ingとは変化を意味する。つまり、「市場や顧客の変化に対応し続けること」と捉えることができる。マーケティングの中枢には常に顧客があるということになる。
日本における無人店舗を考える上でも、常に顧客を中心に据える必要がある。
店舗が無人になることで経費削減や業務効率化だけが達成され、顧客の利便性や様々な体験がないがしろにされては本末転倒だ。店舗を無人にすることが目的ではない。飛躍的に増える購買データを活用し、商品や価値を増大させることが重要だ。

無人店舗における顧客への価値とは何か。無人店舗の価値の1つめは店舗がなくならないということだ。これは、商品を流通させるという小売業の普遍的な役割を損なわないことを意味する。地方の人口の空洞化や都市部の競合激化により閉店せざるを得ない店舗が既にあり、それは顧客にとっても切実な事態だ。
スウェーデンの企業のWheelysは中国の合肥工業大学と合同で、自走移動式のコンビニエンスストア「Moby Mart」の開発に取り組んでいる。食品や薬などを24時間体制で提供し、太陽光発電で走行するため環境負荷も低い。また、ドローンが店舗の上を旋回していることから、ドローンによる購入品の配送を行うことができると推測される。このような無人の移動型店舗は今後地方の買い物難民の救世主となる可能性を秘めている。

また、徳島県で創業し既に全国に拡大している移動型スーパーの「とくし丸」のように、地方やシニアの買い物を支える無人店舗や移動型スーパーへの期待も大きい。小売業の企業として無人店舗を展開して採算を合わせ、継続して顧客に商品を届けることは、事業拡大のためには決して逃してはいけない。
2つめは利便性の向上である。朝のレジでの時間を短縮できるなどストレスを軽減できるわかりやすい効果のほか、顔認証システムやキャッシュレス化によりすべてがデータ化されることで、消費者が欲する商品を売場に増やせる。
国内でも人工知能(AI)を活用した無人店舗の実証実験が始まっている。無人店舗では、AIにより利便性の向上とともに、購買データから来店頻度、買う品物の組み合わせに対応した品揃えがさらに強化されやすくなる。

最後の価値は新しい体験を提供することだ。ここには斬新かつ自由なアイデアが必要である。ロボットやAIコンシェルジュが接客をするのはもちろんのこと、仮想現実(VR)を活用し、実際に店舗の中を歩き回ることなく店内をバーチャルに回遊し、購入までをサポートすることも不可能ではない。Wheelysのような移動型無人店舗はあらゆる移動時間を購買や遊び、家族や恋人との楽しい時間に転換する。
今後の無人店舗の可能性は従来の常識に縛られない発想力にかかっている。顧客の利便性や体験による喜びにつながっているかどうかが成否の鍵を握る。

日経MJ 2018年11月11日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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