小売業の変化~「売るだけ」から生活支援へ

「小売りの明日」第6回 - 日本国内で進む人口減少を背景に、コンパクトシティ構想と流通業の関係性を解説し、今後の小売業の在り方について考察する。

日本国内で進む人口減少を背景に、コンパクトシティ構想と流通業の関係性を解説し、今後の小売業の在り方について考察する。

数字で国内市場を見る際、人口の減少や高齢化、地方の空洞化、デフレなど負の要素を挙げればキリがない。目を背けたいところだが、ここで人口減少という事実から逃げてはならない。
国際通貨基金(IMF)が2018年11月、今後40年で日本の実質国内総生産(GDP)は25%以上減少する可能性があるとの試算を公表した。このままの推移を辿ると2045年に日本の人口が約2000万人減少するということが影響している。65歳以上の人口は2050年に39.6%となり、合計特殊出生率が2.0を上回らない限り人口は減り続け、高齢者比率がさらに高まる。さらに、2015年の生涯未婚率は男性23%、女性14%と5年で男女ともに3ポイント以上増加した。また、一人暮らし世帯が2025年までに約220万世帯も増加する。2033年には住戸の3戸に1戸は空き家となり、地方の小売店の閉鎖は加速の一途を辿るであろう。

もちろんプラスの要素もある。都市部のショッピングセンター(SC)の売上伸長率が5.6%であるほか、インバウンド(訪日外国人)は4000万人を超える予測がある。ネット上の情報を見たうえで商品を購入する「オムニチャネル・コマース」市場は2023年までに今よりも約19兆円拡大が見込まれている。目先だけなら「都市型シフト」「インバウンド対応」「オムニチャネル強化」などの対応が考えられる。しかし、マクロかつ10や20年、30年という単位での視点でみれば、今準備すべきは人口が減少する未来に向けて「コンパクト化・スリム化」することだ。1990年代は1万人に1店舗が出店の目安であったコンビニエンスストアは既に全国で5万6千店を超え、約2200人に1店舗が存在している。人口が減っていくのだから、さらなる小商圏対応とシェア拡大は欠かせない。

コンパクト化・スリム化するとは単にコスト削減を図るのではなく、店舗形態から変革し、収益性と価値を凝縮させるということだ。そして、コンパクトシティ構想と流通業の未来は非常に関係が深い。
コンパクトシティは既に1990年代から米国の「アーバニズム」や英国の「アーバンビレッジ」として展開されている。人口減少と高齢化社会に対応するために公共施設、住宅、商業施設、医療、介護、教育、交通など様々な機能を集約し、財政・生活・環境に寄与していくモデルだ。その際、小売業はそれら異業種の機能をコンパクトな店舗の中で連携を取ることが求められる。公共サービスの代行や地域のあらゆる情報やコミュニケーションのハブとなる役割を担う。車で大型商業施設に行くのではなく、徒歩や自転車圏内にその機能が集約されている地域の総合コンビニと言うとイメージしやすいのかもしれない。
例えば、店舗は日用品のみを置くか、新商品の体験の場と位置付け、それ以外はすべて家で仮想現実(VR)を用いて店舗を疑似的に歩き買い物をしてもらう。店舗の空いたスペースを異業種のサービスに活用していくというようなことも想定される。
これからの小売業は物を売るだけではなく地域の生活全般をサポートするサービス業に転換していく。そのような可能性と必要性を担っている。

日経MJ 2018年12月9日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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