ミャンマーにおける会計年度および税務年度の変更

本稿は、2019年5月28日付けでミャンマーにおいて発行された内国歳入局通達の内容および日系企業に与える影響等について解説します。

本稿は、2019年5月28日付けでミャンマーにおいて発行された内国歳入局通達の内容および日系企業に与える影響等について解説します。

ミャンマー内国歳入局(Internal Revenue Department (以下「IRD」という))は、2019年5月28日付けで協同組合および一般納税者へ宛てた内国歳入局通達(以下「本通達」という)を発行しました。従来、ミャンマーにおける会計年度および税務年度は4月1日から翌年3月31日でしたが、本通達により、ミャンマー国内にて事業を行う全ての納税者の会計年度および税務年度は、2019年4月1日から2019年9月30日の移行期(以下「移行期」という)を経て、10月1日から翌年9月30日へ変更されることとなります。
本稿は、本通達の内容および日系企業に与える影響等について解説します。なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • ミャンマー国内にて事業を行う全ての納税者の会計年度および税務年度は、2019年4月1日から2019年9月30日の移行期を経て、10月1日から翌年9月30日へ変更される。
  • 移行期の申告期限は2020年1月2日である。
  • 連結対象となっているミャンマー子会社・関連会社では、当該会計年度の変更により親会社の連結決算日とその決算日との間に差異が生じることとなるため、決算対応が増加することが予想される。
  • 本通達では移行期における実務上の取扱いについて明記されていないため、今後実務上の指針等が公表されることが望まれる。

I.本通達の内容

ミャンマーにおける国営企業および金融機関等の会計年度および税務年度は2018年よりすでに10月1日から翌年9月30日に変更されておりましたが、それ以外の企業の会計年度および税務年度は4月1日から翌年3月31日のままとされ、その変更は求められていませんでした。
しかし、本通達により、国営企業および金融機関等を含むミャンマー国内で事業を行う全ての納税者の会計年度および税務年度は、2019年4月1日から2019年9月30日の移行期を経て、10月1日から翌年9月30日へ変更されることとなります。なお、移行期の税務申告期限は、2020年1月2日となります(図表1参照)。

図表1 会計年度・税務年度および移行期の税務申告期限

図表1 会計年度・税務年度および移行期の税務申告期限

II.会計期間の変更に伴う決算対応の増加

日本等の親会社の連結対象となっているミャンマー子会社・関連会社(以下「ミャンマー子会社等」という)では、今回の会計年度の変更により親会社の連結決算日とミャンマー子会社等の決算日との間に差異が生じることとなるため、親会社が採用している会計基準に基づき対応を検討する必要があります。親会社が日本基準または国際財務報告基準(以下「IFRS」という)を採用している場合、ミャンマー子会社等の連結上の重要性を考慮したうえで、それぞれ次の対応が必要となります。

1.親会社が日本基準を採用している場合

子会社の決算日が連結決算日と異なる場合、子会社は、連結決算日に正規の決算に準ずる合理的な手続により決算を行うことが規定されています(連結財務諸表に関する会計基準(企業会計基準第22号)16項)。子会社の決算日と連結決算日の差異が3ヵ月を超えない場合は、子会社の決算日における正規の決算を基礎として連結決算ができる(ただし、子会社の決算日と連結決算日が異なることから生じる連結会社間の取引に係る会計記録の重要な不一致について、必要な整理を行うことが必要)と規定されています(同注4)。
また、関連会社について持分法を適用する際には、関連会社の直近の財務諸表を使用する。親会社と関連会社の決算日に差異があり、その差異の期間内に重要な取引等が発生している場合には必要な修正を行うことが規定されています(持分法に関する会計基準(企業会計基準16号)10項)。
親会社の連結決算日が3月31日の場合、今回の会計年度の変更によりミャンマー子会社の決算日との差異は3ヵ月を超えて6ヵ月となるため、親会社はミャンマー子会社の9月30日時点の財務情報を基礎として連結決算を行うことができないこととなります。このため、ミャンマー子会社は、ミャンマーでの会計年度に基づく9月末決算に加えて、原則として親会社の連結決算のために親会社の連結決算日である3月31日を基準日とした決算を行うことになるものと考えます。
また、親会社とミャンマー関連会社の決算日に差異があり、かつその差異の期間内に重要な取引等が発生している場合には、ミャンマー関連会社はそれらを調整した上で財務情報を親会社へ報告する必要があります。

2.親会社がIFRSを採用している場合

連結財務諸表の作成に用いる親会社およびその子会社の財務諸表は、同じ報告日としなければなりません。親会社の報告期間の期末日が子会社と異なる場合には、実務上不可能な場合を除き、子会社は親会社の財務諸表と同日の追加的な財務情報を作成し、親会社が子会社の財務情報を連結できるようにすることが規定されています(IFRS10号B92)。
また、関連会社について持分法を適用する際には、関連会社の直近の財務諸表を使用し、親会社の報告期間の期末日が関連会社と異なる場合には、実務上不可能な場合を除き、関連会社は親会社の財務諸表と同日の財務諸表を作成することが規定されています(IAS28号33項)。
親会社の連結決算日が3月31日の場合、今回の会計年度の変更により親会社の連結決算日とミャンマー子会社等の決算日の間に差異が生じることとなります。IFRSでは原則として決算日を統一することが求められており、親会社はミャンマー子会社等の9月30日時点の財務情報を基礎として連結決算を行うことができないため、親会社の連結決算のために原則としてミャンマー子会社等は親会社の連結決算日である3月31日を基準日とした財務情報を報告する必要があります。この結果、ミャンマー子会社等は原則として9月30日と3月31日を基準日とした2度の決算を行うことが必要になると考えます。
なお、日本基準およびIFRSのいずれの場合であっても、ミャンマー子会社等の規模や連結上の重要性により必要となる対応も各社ごとに異なることが考えられるため、親会社も含めて対応について早期に協議することをお勧めいたします。

III.移行期における実務上の問題点

ミャンマー所得税法やその他の法律は税務年度は1年間を前提として規定されていることから、税務年度が6ヵ月となる移行期においては実務上の問題点が生じることが考えられます。しかし、本通達では以下のような移行期における実務上の問題点への対応について明確に記載されていないため、今後実務上の指針等が公表されることが望まれます。

1.変更の対象となる税種目

税務年度の変更の対象となる税種目は明記されていません。ただし、2018年に金融機関の税務年度が変更された際には法人所得税、個人所得税および商業税の税務年度が変更の対象とされたことから、これと同様の取扱いになるであろうと考えます。

2.個人所得税の計算

個人所得税に関する累進税率の決定のための所得金額の範囲、所得税額控除の金額、課税最低所得金額および居住者の判定基準等は、税務年度が1年間であることを前提とした金額・数値となっています。6ヵ月である移行期における上記の金額・数値の考え方について明記されていないため、これらの点を含む移行期における個人所得税の計算に関する指針の公表が待たれます。

3.法定監査の要否

移行期における法定監査の要否について明記されていません。2018年に金融機関の会計年度が変更された際には移行期である2018年4月1日から9月30日の6ヵ月を会計年度とした法定監査を求められたことから、これと同様の取扱いになるであろうと考えます。

IV.終わりに

ほとんどの日系企業の親会社が連結決算日として3月31日を採用していることから、今回の会計年度の変更によりミャンマーにおける多くの日系企業では9月30日を基準日としたミャンマーの会計年度に基づく決算と、3月31日を基準日とした親会社の連結決算のための決算という年に2回の決算業務を行うことになるものと考えられます。この場合、ミャンマーにおける日系企業の決算・税務申告の作業負担が大きく増えることが予想され、親会社も交えて対応を協議することが必要になると考えられるため、早めに実務上の対応の検討を始めることをお勧めいたします。
また、前述のとおり移行期における実務上の問題点についても明確にされる必要があることから、今後実務上の対応指針等の公表について引き続き注視していく必要があります。

執筆者

KPMGミャンマー
アソシエイトディレクター 加藤 正一

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