重要性が高まる銀行アプリの現状と課題 - モバイルチャネルによる顧客との価値共創の実現

重要性が高まる銀行アプリの現状と課題 - モバイルチャネルによる顧客との価値共創の実現

本稿では、都市銀行・地方銀行から提供されている主要なスマホアプリの調査をもとに、現状の課題と顧客に選ばれるモバイルチャネル実現に向けた成功要因について解説します。

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インターネット専業銀行やFinTech企業の金融サービスへの参入による競争環境の変化、人口減少・少子高齢化やスマートフォンを中心とした顧客行動の変化等による社会環境変化に伴い、これまでの銀行において競争力の源泉となっていた資産(店舗や人)やチャネルの在り方の見直しが求められています。
個人におけるスマートフォンの保有率は増加傾向にあり、いまやスマートフォンは私たちの日常生活に欠かせない存在となっています。その中で、各銀行では自社スマホアプリの開発・拡充をする動きが広まり、個人顧客との非対面チャネルとしてのスマホアプリの重要性が増しています。
本稿では、都市銀行・地方銀行から提供されている主要なスマホアプリの調査をもとに、現状の課題と顧客に選ばれるモバイルチャネル実現に向けた成功要因について解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • モバイルチャネルにおいても、対人チャネルと同様にお客様の声を起点とした継続的な改善活動が必要であり、顧客からのスマホアプリに対するフィードバックを元にしたアプリケーション改善サイクルの実現と体制整備が必要である。
  • スマホアプリ単体のUI(ユーザー インターフェイス)、UX(ユーザーエクスペリエンス)向上に加え、営業店など他のタッチポイントと連携を図りながら、アプリ利用に関する一貫性のある顧客経験価値(CX:カスタマーエクスペリエンス)提供に必要なコミュニケーションデザインを行う。
  • 競争環境の激しい小売や他サービス業において、良質なUIやUXと評価されているスマホアプリや顧客経験価値向上に向けた顧客コミュニケーションの取組みを参考にしながら、顧客に選ばれるデジタルチャネルへと進化させる。

I. 重要性を増すモバイル環境

1. モバイル端末保有率の変化

スマートフォンは我々の日常生活に欠かせない存在となっています。総務省における2018年 情報通信白書によると、世帯における「パソコン」の保有率72.5%に対して、「スマートフォン」の保有率は75.1%となり、スマートフォンがパソコンの世帯保有率を上回りました。また、2017年の個人におけるモバイル端末保有状況は、スマートフォンの保有率が60.9%となっています(図表1参照)。現時点においてはPHSやフィーチャーフォンなど、スマートフォン以外の通信携帯端末の選択肢がありますが、2020年以降にPHSサービスの終了、2019年後半から2022年にかけて3Gサービスの停波が各通信キャリアから発表されており、各社はスマートフォンへの買い替えを促進しています。これらのサービス停止を受け、スマートフォン全体の保有率が増加し、特に保有率の低い60代以上のシニア世代において、都心部のみならず地方においてもスマートフォンの保有者が増加する可能性があります。

図表1 個人別モバイル端末保有率の変化
図表1 個人別モバイル端末保有率の変化

出典:総務省2018年 情報通信白書をもとにKPMG作成

2. 国内銀行における銀行アプリ提供の必然性

人口動態変化やスマートフォンを中心とした顧客行動の変化により、これまで前提としていた経営を取り巻く環境が大きく崩れてきています。また、人や営業店を必要としないインターネット専業銀行やFinTechサービスでは、これまで銀行が提供してきた金融サービスにおいて、時間や手間をかけずにローコストでサービスを提供し、手数料コストを下げることで競争力をさらに強めています。
都市銀行では営業店の統廃合や大幅な人員削減・配置転換、テクノロジーを活用した次世代型店舗へのシフト、ATMの共同利用など、これまでの競争力の源泉となっていた資産やチャネルの在り方について見直しを余儀なくされています。また、地方銀行では、人口減少や超高齢化により地場マーケットの規模が縮小している中で、地域密着型であるがゆえに簡単には営業店統廃合は進められない状況下にあります。フルサービスを提供する基幹店や軽量化店舗など営業店ごとのサービスの見直しと共に、印鑑レスや伝票レス、金庫レスなど、「事務レス」による業務量削減による効率化を進めています。
その中で都市銀行・地方銀行共に自社スマホアプリの開発・拡充をする動きが広まり、個人顧客との取引接点としてスマホアプリの重要性が増しています。今後は対人店舗と接点を持たない顧客層に対して、スマホアプリの利便性としての優劣が金融機関としての優劣に繋がり、競争力を左右する時代になっていきます。

II. 主要な銀行アプリの現状と課題

iOSデバイス向けのアプリストア「App Store」において、都市銀行(4行)、第一地方銀行(64行)、第二地方銀行(39行)の全107行を対象に、提供されている自社アプリの種類・機能、ユーザコメントの調査を行いました(2019年6月1日時点)。
調査対象の86%にあたる92行が目的に応じたスマホアプリを提供しており、主要なスマホアプリとしては預金通帳や印鑑を必要としないインターネット口座向けの新規口座開設系アプリ(65行)と保有口座の預金残高・取引明細照会系アプリ(92行)に分類されます。

1. 新規口座開設系アプリの特徴と課題

提供している銀行間で大きな機能の差はなく、カメラによる本人確認資料の撮影⇒個人情報の入力⇒登録、というシンプルな流れとなっており、スマートフォンのカメラ機能を利用することからOS上で直接動作するネイティブアプリとして提供されています。来店せずに口座開設ができるという意図どおりに登録までできている顧客がいる一方で、本人確認資料の選択肢の少なさやカメラで撮影した運転免許証等の画像が本人確認資料として認識されないことで口座開設を諦めたり、来店せざるを得ない顧客が存在しています。また、個人情報入力フォームにおいて全角入力が必要となっている場合、文字変換に手間や煩わしさを感じ、ユーザーインターフェースに不満を感じている顧客も存在しています。

評価コメント

  • 本人確認書類が運転免許証にしか対応していない
  • 写真登録の反応が悪く、読み取りに失敗し登録が進まない
  • 個人情報登録欄が全角でないと入力できない

2. 預金残高・取引明細照会系アプリの特徴と課題

都市銀行においては預金残高・取引明細の照会や振込・振替までを1つのネイティブアプリで完結できる形式で提供しているのに対し、地方銀行による提供形式は以下のパターンに分類されます。

  • パターン1:ネイティブアプリで預金残高・取引明細照会機能のみ提供(31行)
  • パターン2:預金残高・取引明細照会機能をネイティブアプリで提供し、振込・振替はアプリ内からブラウザを起動、インターネットバンキング表示(36行)
  • パターン3:認証だけをネイティブアプリで行い、アプリ内でインターネットバンキング表示(31行)

パターン2・パターン3におけるインターネットバンキングとの連携は、既存システムの活用という面ではローコストで振込・振替等の更新系機能を提供することができます。しかしながら、都市銀行と比較し、利用可能な取引範囲に大差はないものの、視認性や操作性などのユーザビリティや表示速度の面で顧客から改善が求められています。日常生活において銀行アプリ以外の使い勝手の良いスマホアプリに触れている中で、顧客のスマホアプリに対する知識と期待値が上がっていることも改善が求められる一因となっています。

評価コメント

  • ウェブページに飛ぶのでブックマークと変わらない
  • ウェブに飛ばさずにアプリで完結して欲しい
  • ウェブページなので表示が遅くなることがある


認証機能については、端末が提供している顔認証や指紋認証機能への対応要望が多く挙げられています。顧客にとっては手間がかからず、より短いステップで目的を達成できることが利便性を感じる要素となっています。また、アプリ独自の認証機能に必要なIDやパスワード、利用条件などを顧客にわかりやすくアプリ内で説明することで、改善要望に応えることが可能なケースも散見されます。また、認証エラーや通信エラーが発生した際にスマホアプリやシステムが出力するエラーコード等を表示するのではなく、顧客がエラーが発生した理由を理解し、次に取るべきアクションに繋がるメッセージを表示することが重要となります。

評価コメント

  • 顔認証/指紋認証に対応しておらずログインが面倒
  • なんの暗証番号を入れるのかわからない
  • ログイン情報がすぐに初期化される
  • 表示されているエラーの意味がわからない

3. 共通課題

営業店やコールセンターなどの顧客接点においては、店頭アンケートや郵便ハガキによりお客様の声を集め、「お客様対応品質の向上」として日々の業務改善に取り組んでいます。一方、今回調査を行った口座開設や残高・取引明細アプリなどの非対面チャネルにおいて、顧客自身の「体験談」や「プラス/マイナス感情」がスマホアプリの評価やコメントとして登録されている中で、最終更新日から6ヵ月以上更新のないスマホアプリが50%弱、1年以上更新のないスマホアプリは20%も存在しています。非対面チャネルにおいても、対面チャネル同様にお客様の声を起点とした継続的な改善活動が求められます。

III. 顧客に選ばれるモバイルチャネル実現に向けた成功要因

銀行法改正による規制緩和、FinTech企業や異業種の金融サービス参入などにより、銀行の顧客に対する意識変革が求められています。モバイルチャネルを中心に顧客に選ばれる金融サービスを継続的に提供していくために必要なポイントを解説します。

1. 顧客共創型アプリケーションライフサイクルの実現

顧客は「評価が高い商品やお店を選択する」、「他の購入者のコメントを参考にしながら購入する」など他人の評価や経験談を自己の意思決定における判断材料として日常的に利用しています。自社アプリに対する低評価やネガティブコメントは、これから利用しようとしている新規顧客や主にモバイルチャネルを利用する既存顧客にとって、企業イメージの低下に繋がると共に、スマホアプリのダウンロードや利用を躊躇させる一因となります。
顧客の不安を取り除くためには、顧客のフィードバックにスピーディに対応し、機能追加やUI改善を行うアジャイル型開発手法と運用を組み合わせたアプリケーションライフサイクルの実現と体制整備が必要です(図表2参照)。

図表2 顧客共創型アプリケーションライフサイクル
図表2 顧客共創型アプリケーションライフサイクル

顧客と共に利便性と操作性の高いスマホアプリを創り上げ、アプリ全体を通じて得られた良質な経験と有用性を感じた顧客による評価やコメントが、企業イメージ向上と新たな顧客への利用促進という好循環を生み出します。

2. タッチポイント全体を通じた顧客経験価値マネジメント

単体の非対面チャネルとしてのスマホアプリにおける機能や画面のUI向上、アプリを通じて得られるUX向上に加えて、自社サイトや営業店行員、コールセンターなど他のタッチポイントと連携を図りながら、顧客の視点から見て、アプリ利用に関する一貫性のある顧客経験価値を提供できるかがポイントとなります。
 

(1)顧客体験プロセスの可視化

対象となる顧客がアプリを認知して、ダウンロード、利用、問い合わせ、評価に至るまでのプロセスの定義と、そのプロセス上でどのタッチポイントにアクセスするのかを可視化します。タッチポイントは自社が提供するものだけではなく、顧客行動を理解したうえで外部サイト等も含めて洗い出し、顧客目線で可視化をすることが重要です。
 

(2)タッチポイントごとのコミュニケーションデザイン

可視化されたタッチポイントへアクセスした際、顧客の持つ感情・思考や抱えている課題を洗い出し、企業として顧客にどのような経験上の価値を提供し、応えていくのかを検討します。
KPMGでは顧客経験価値を向上させる要素を“Six Pillars”として定義しており、各タッチポイントで1つないしは複数の要素を向上させるアクションをとることを推奨しています。

検討事例

プロセス:口座開設アプリの認知
タッチポイント:営業店
顧客の感情:営業店行員から推奨されて便利そう、でも1人でできるか不安
想定アクション:

  • Case1 登録がうまくいかないことがあることを正直に伝え(誠実性)、本人確認書類撮影ポイントや問題発生時の問い合わせ先を事前に教える(問題解決力)
  • Case2 その場で一緒にアプリダウンロード・登録を行う(パーソナライズ+親密性)

アプリ利用者の増加や利用率の向上には営業店での推進も欠かせませんが、他チャネルから受けた経験がスマホアプリを超えて銀行全体に対する感情へと繋がっていることを念頭に置き、アプリ提供主管部だけではなく、組織全体で顧客経験価値向上に取り組む必要があります(図表3参照)。

図表3 顧客経験価値マネジメントフレームワーク
図表3 顧客経験価値マネジメントフレームワーク

3. 横並び意識からの脱却

多くの銀行が共通して提供している口座開設系アプリや残高確認系アプリを見る限り、提供している機能範囲やユーザーインターフェースに大差はありません。しかしながら、取引銀行は顧客ごとに異なるにもかかわらず、各銀行のスマホアプリに対して同様の改善要望がフィードバックされています。従前からの業界内における横並び意識や前例主義に則り、同業他行を参考にしながら同一レベルのアプリを提供しているように見受けられます。
競争環境の激しい小売業や他サービス業など、顧客にとっての利便性を常に考え、顧客に選ばれ続けることに注力している異業種がモバイル端末向けにどのようなユーザーエクスぺリンスや企業全体での顧客経験価値を提供しているのかを参考にしながら、よい物を取り入れつつ、選ばれるデジタルチャネルとして進化させていくことが必要です。

執筆者

KPMGコンサルティング株式会社
ディレクター 角坂 晃啓

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