「プロセスマイニングを導入したい」 --- そうお考えの方はいらっしゃいませんか?
プロセスマイニングは手段であって目的ではありませんので、導入すれば即座にソリューションをもたらすような魔法の道具ではありません。しかし、プロセスマイニングの手法で業務プロセスを分析することで、業務改善や監査などに新たな視点がもたらされるのも、また事実です。ここではプロセスマイニングによる分析を実施するにあたっての心構えについて紹介します。

プロセスマイニングは“目的”ではない

プロセスマイニングは手段であって目的ではありません。プロセスマイニングは、あくまでも業務の流れを可視化して業務プロセスを分析するという手法でしかないのです。
「業務に無駄がありそうだ」「不正につながるリスクをチェックしたい」、あるいは「業務プロセスを標準化したい」などの課題を解決するためには業務プロセスを分析することが必要であり、そのためにプロセスマイニングという手法を適用するというのが本来あるべき課題解決の流れです。課題によっては、これまでのデータ分析の手法で十分な場合もありますので、プロセスマイニングありきではなく、どんな課題を解決したいのかを明確にしておく必要があります。
もちろん、具体的な課題がなく、何か漠然とした問題意識を抱えていて、とにかくプロセス軸を加えた分析を始めてから課題を掘り下げていくというアプローチも、間違いではありません。しかし、この場合でも、「プロセスマイニングを導入する」こと自体が目的になることはありません。

プロセスマイニングは“スマート”ではない

プロセスマイニングは、今のところ、AIやデータサイエンスなどのパワーワードからイメージされるような“スマート”な統計分析の世界とは無縁の存在です。ビッグデータに対して統計ツールを使うだけで分析できてしまったり、結果が美しく表示されたり、一発で明快なソリューションが導き出されるわけではありません。ひたすら手間のかかる作業を繰り返す、かいた汗の量と成果が比例するような分析手法です。
プロセスマイニングの最大のハードルは、プロセスの流れを可視化する際に参照するイベントログの作成にあります。イベントログとは、1.業務を案件(ケース)ごとに特定するための「取引ID」、2.どの業務プロセス(アクティビティ)なのかを示す「処理ステップ」、3.いつ処理を行ったかを表す「処理順序」(タイムスタンプ)が必須要素となるデータ群のことです。一般的には、SAPなどの基幹システムや業務システムなどに日々の業務の結果として蓄積されているデータから、必要な部分を抽出して加工し作成しますが、これが大仕事なのです。

プロセスマイニングツールを提供しているCelonis社では、SAPのデータからイベントログ作成に必要なデータを自動抽出する標準のコネクタを用意しています。これがあるので作成は簡単だという誤解もありますが、実は非常に限られた特定の条件下以外では正しく動きません。例えばSAPの受注伝票カテゴリーに「見積伝票」という機能があります。Celonis社の提供する「標準のコネクタ」と呼ばれるSQLプログラムは、見積伝票を参照して受注伝票を登録し、出荷、請求と流れるパターンは抽出しますが、それ以外のパターンは抽出しません。SAPの受注伝票カテゴリーには、「分納契約」「基本契約」「引合伝票」など、さまざまな種類の機能が用意されています。企業によって使っている伝票が異なっていたり、機能を追加したりして使われることが多いSAPの場合、ほとんどのケースで標準のコネクタは使えないと考えていいでしょう。現状イベントログは、企業ごとにどんな伝票が使われており、システム上でどんなデータの流れになっているのかを地道に調査しながらプログラムを修正し、データを加工しながら作成していくしかないのです。

プロセスマイニングは“スキル”がないとできない

イベントログ作成にあたってのもう一つの大きな問題は、逆説的な話ですが、ある程度業務を知り、プロセスの流れも把握している必要があることです。
たとえば、こんな事例があります。一般的に購買プロセスは、「受注伝票」参照→「出荷伝票」登録→「出庫伝票」確認→「請求伝票」登録というプロセスを踏みます。しかし、ある会社では親会社と子会社との取引に、SAPの「会社間請求」機能を利用していました。この場合、子会社が親会社に対して購買発注を登録すると、親会社は子会社で作った「購買発注伝票」を参照して「出荷伝票」を発行します。つまり標準的な購買プロセスなら作成するはずの「受注伝票」自体が存在しないのです。SAPにそうした機能があることや、こうしたプロセスの流れがあることを知っていないと、分析が的外れになってしまった可能性のあるケースです。
何をもって取引IDとするのか、どのアクティビティを処理ステップとするのか、システムごとに違うアクティビティの名称やタイムスタンプの付け方をどう揃えるのか、ほかに紐づけなければいけないデータは何か(担当者名、製品名、取引先名等)、それらはどのシステムの、どこに存在するのか……。イベントログの作成には業務にも、システムにも精通している必要があります。
そのため、プロセスマイニングによる分析を行うには、下表のように多様なスキルが求められます。すべてを備えている人を探すのは難しいと思われますので、チームで取り組むことになるでしょう。導入の担当者はチームの一員として、一緒に汗をかく覚悟を持たなくてはなりません。

 

分析者(チーム)に求められる属性・スペック

  • 業界、ビジネスモデル、ビジネスプロセスへの知見
    • データが示すものを理解する能力
  • システム構成、エンタープライズアーキテクチャ、インターフェースへの知見
    • データの所在と有無を判断し、どのような分析ができるか判断する能力
  • 対象アプリケーションへの知見
    • 業務設計、使用方法、データ特性を元にした分析要件の提示、分析結果の精査をする能力
  • データ整形、データスキーマへの知見
    • データクレンジング、データ加工、SQL、テーブル設計の能力
  • BI・データビジュアライゼーションへの知見
    • 分析要件に応じた適切な視覚化デザインを設計し、適切なKPIとともに実装する能力

プロセスマイニングは“結果だけ”ではない

イベントログはいちど作成すればおしまいではないということも認識しておくべきです。作ったイベントログによる分析結果を精査し、漏れているアクティビティはないか、見落としているプロセスはないか、もっと紐付けなければいけないデータがあるのではないかなど、何度も試行錯誤して、構築し直す覚悟が必要となります。
しかし、この試行錯誤は、見直そうとしている業務プロセスへの理解を深める大きなチャンスでもあります。イベントログを作成する過程そのものが、課題解決につながる重要な要素になり得る可能性を秘めています。
そしてもちろん、努力を積み重ねてイベントログを作成したその先には、イベントログという事実に基づいたプロセスマイニングによる新たな視界が開けます。これまではブラックボックスに近かった自社のプロセスに、データという事実に基づく光を当てることができるのです。
現実に発生しているプロセスの全バリエーションの発見、プロセスモデルの強化や業務へのフィードパック・改善、業務プロセスのパターンごとのKPI分析……。プロセスがすべて明快で、既に効率化されているという企業以外にとっては、プロセスマイニングでこれまでのデータ分析だけでは知り得なかったインサイトを得ることができるようになるでしょう。

※SAPは、ドイツおよびその他の国々におけるSAP SEの商標または登録商標です。

関連コンテンツ

プロセスマイニングの理解~実現できること、イベントログとは~

(シリーズ第1回目)あらゆる分野で求められている収益性や生産性の向上。そのカギとなる施策の一つが、実際の業務の流れを可視化し、最短で無駄のない業務を構築することです。これまでにもさまざまな手法を用いた取り組みが行われてきましたが、決め手となるものがありませんでした。そこで注目されているのが、業務の流れを事実にもとづいて描くプロセスマイニングです。

プロセスマイニングで可視化できるもの

(シリーズ第2回目)プロセスマイニングを理解するシリーズ第1回目は、プロセスマイニングが、システムに蓄積されたデータを元に作成するイベントログから業務の流れのすべてを事実に基づいて可視化できることをご紹介しました。今回は、プロセスマイニングにより見えてくるものは何か、それによって業務はどう改善できるのかについてご紹介します。

プロセスマイニングで変わる業務改善とBPMの可能性

(シリーズ第3回目)業務改善の手法であるBPMは、業務プロセスや業務システムを見直し、最適なプロセスを目指し改善を続けていく取り組みのことです。プロセスマイニングをBPMに取り入れることで、新しいBPMの可能性が見えてきます。

監査を変えるプロセスマイニング

(シリーズ第4回目)企業が自らの経営や財務の状況を公表するために作成する「財務諸表」。その数字に“お墨付き(合理的な保証)”を与えるための監査が「会計監査」です。会計監査では、監査人は数字が生成されるプロセスを正確に理解し、検証します。その過程で大きな武器になるのが、プロセスマイニングです。今回は、プロセスマイニングが会計監査をどう変えるのかを紹介します。