企業価値を向上させる役員報酬制度設計

企業価値を向上させる役員報酬制度設計

本稿では、役員報酬制度について特に重視されている報酬の決定プロセスと中長期等の業績に連動したインセンティブ導入について解説します。

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2018年のコーポレートガバナンス・コード(CGC)改訂に伴い、上場会社に対して、企業の透明性を目的とした開示に関する方針が強化されました。役員の責務が明確にされるなか、役員報酬に関しては株主への説明責任を果たせるような支給水準、業績連動、支給項目、報酬の決定プロセスであることが求められています。
本稿では、これらのなかでも特に重視されている報酬の決定プロセスと中長期等の業績に連動したインセンティブ導入について解説します。なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

Point1~3

I.変わる日本企業の役員報酬制度

日本企業の役員報酬制度は、ここ10年ほどで大きく変化しました。まず2006年の会社法の施行により、会社の種類、会社の機関設計、取締役の役割等が大きく変化しました。続く2015年には、政府による新成長戦略の一環として、上場会社に対してコーポレートガバナンス・コード(以下「CGC」という)の適用が始まりました。
CGCの基本原則は、「株主の権利・平等性の確保」「株主以外のステークホルダー(利害関係者)との適切な協働」「適切な情報開示と透明性の確保」「取締役会等の責務」、そして「株主との対話」の5つです。また、取締役会については、独立社外取締役を2名以上置き、社内の利害関係者のみではなく、社外の知見を積極的に取り入れる必要があるとされています。さらに、グローバルに事業を展開する企業では、取締役会の3分の1以上を独立社外取締役として設置するよう推奨する等、株主を主としたステークホルダーに対して透明性が高く、合理的で公正なコーポレートガバナンス(企業統治)が求められることになりました。
これらの目指すところは、取締役中心である従来の日本型企業経営から脱却し、グローバルな事業展開における競争下において成長するという、海外の投資家や機関投資家からの資金を集めることのできる企業に変化させることです。また、そうした変化をリードする役員についても同様に、役割のみならず役員報酬制度にも、その形態、意義、支給決定プロセスに至るまでの変化が求められています。

II. CGCの求める役員報酬制度とは

1. 日本企業における取締役の責務

2006年の会社法施行以前では、役員(取締役)は従業員からの昇格者が多数を占めており、現在のように「プロ経営者」といわれる人材が外部から招聘されることは少ない状況でした。すなわち、ひと昔前の役員は、「従業員としての出世の最高位」と捉えられていることが一般的であり、たとえ取締役であっても、社長をはじめとする上位役員の部下として扱われ、株主から会社経営を委任されるという意識は、現在よりも希薄であったと考えられます。
しかし、会社法の導入により、取締役とは株主からその経営を任されている者であり、その責務は株主およびステークホルダーのために会社の重要な意思決定を行い、業務執行者(執行役、執行役員等)の管理監督を担うことであることが再認識されました。すなわち、1.会社は役員のものではなく株主のものであること、2.役員は株主から会社の運営を託された者であること、が改めて定義されたことになります(図表1参照)。

図表1 代表的な役員の種類

  役割 法的な取扱い 税法上の区分
取締役 株主総会において選任される会社の業務執行に関する意思決定や監督を行う者 会社法上の役員 役員として取扱い
執行役 委員会設置会社において取締役会にて選任される業務執行の機関 会社法上の役員 役員として取扱い
執行役員 取締役会等で選任される、取締役から業務執行の権限を与えられた者、従業員身分を有する者 会社内外の敬称(法的制約なし) 条件に応じて役員として取扱い


出典:KPMG作成

2. CGCの役員報酬に関するメッセージ

CGCは、株主を主としたステークホルダーの意向に沿った企業経営に向かうための指針であると言えます。そのため、株主より企業経営を委任されている取締役を中心とした各種役員の役割についても変革する必要があります。
具体的には、「ビジネスにおけるチャンスとリスクを正確に予見して、事業戦略を立案遂行すること」「利益を生み出し株主に還元すること」「必要な投資を必要なタイミングで行い、中長期的な企業価値を高めること」「事業の遂行においてコンプライアンスを遵守し、透明性が高く、ステークホルダーと対話を行い、誠実で信頼される企業体を作り上げること」「これらの実効性に対してコミットすること」が役員の責務となりました。

3. CGCの基本原則

CGCの「コーポレートガバナンス」とは、直訳すれば「企業統治」を意味し、企業のモニタリングシステムということになります。コーポレートガバナンスは企業運営における違法行為を抑止する効果があり、株主等ステークホルダーと企業との信頼関係の構築にも繋がります。コーポレートガバナンスに誠実に取り組むことは、グローバルにおいては個人投資家や機関投資家の信頼を得ることに繋がり、企業経営を継続的、持続的なものとする手段になると考えられています。

「コーポレートガバナンス・コード」は主に、「基本原則」「原則」「補充原則」の3部で構成されています。前述した5つの「基本原則」はCGCの骨格をなすものであり、CGCの理念にあたります。そして、「原則」は基本原則の詳細な内容、「補充原則」は企業として取り組む具体的な手続きとなっています。ここでは、基本原則を中心に、CGCが上場会社に何を求めているのかを簡単に解説します。

【基本原則1】株主の権利と平等性の確保
上場会社には、株主を主とした多様なステークホルダーがあり、これらステークホルダーとの適切な関係構築が企業の継続性、持続性の基盤となるという考え方があります。企業にとっては、資本提供者である株主が重要であり、特に上場会社では、その株主の権利を確保しながら持続的な成長に取り組むことが役員の責務であるとされています。株主との関係性の強化が、グローバルな投資家からの資本提供を受けることに繋がるとも言えます。

【基本原則2】株主以外のステークホルダーとの適切な協働
ステークホルダーと適切に協働しながら、企業としての持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を達成することを定めています。また、グローバルにおける社会問題や環境問題等に対する関心の高まりを踏まえ、それらの問題への積極的・能動的な対応を行うことで、社会というステークホルダーにも配慮する企業風土の醸成に向けた取組みが求められています。

【基本原則3】適切な情報開示と透明性の確保
上場会社にはさまざまな情報を開示することが求められています。しかし、法令に基づく適時開示はもとより、定性的な説明等のいわゆる非財務情報を巡っては、往々にしてその開示される情報が具体性を欠き、投資判断の価値に乏しいものとなっていました。取締役会は、こうした開示・提供される情報が投資家等に有益なものとなるように積極的に取り組み、企業と投資家の積極的な対話を進める必要があります。

【基本原則4】取締役会等の責務
上場会社の取締役会には、そもそも透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を促すことが求められています。しかし諸事情により、その意思決定によって会社が損害を被るケースもあります。そのようなケースでは、役員等が損害賠償等の責任を負うか否かの判断が必要となり、その判断には経営層の意思決定過程の合理性が重要な基準となります。本原則は、当該意思決定過程の合理性を担保することに寄与すると考えられる内容となっており、上場会社の透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を促す効果を持つことが期待されます。

【基本原則5】株主との対話
機関投資家は「『責任ある機関投資家』の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》」※1の策定を受け、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づく建設的な対話を行うことが求められています。一方、上場会社は株主と話し合い、具体的な経営戦略や経営計画等に対する理解を得るとともに、懸念があれば適切に対応を講じる必要があります。これは、経営の正統性の基盤を強化し、持続的な成長に向けた取組みに邁進するうえできわめて有益なことです。また、上場会社の役員が株主からの意見に耳を傾けることは、資本提供者からの経営分析や意見を収集し、持続的な成長に向けた健全な企業家精神を喚起する機会を得る、ということに繋がります。

※1 「『責任ある機関投資家』の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》」(金融庁 2019年5月改訂)

4. CGC適用における役員報酬制度対応の留意点

CGCの適用によって、特に上場会社の役員(経営層)には、取締役会としてあるべき機能、役割、責務が定められ、企業経営の透明性や公平性、中長期的な企業価値向上等の目指すべきゴールが明確にされました。同時に、役員が株主に対してコミットメントしなければならない事項も明確となり、当然その過程も含めた結果の開示および説明責任が求められます。
これにより、その報酬についても単に委任契約の対価である報酬水準の論点だけでなく、役員報酬制度そのものが、株主等への説明責任を果たせるものとなっているか、役員の動機付けになっているか、中長期的な企業価値向上、「攻めの経営」に資する報酬となっているか等、制度の在り方そのものに、変化が求められています。

III. 適切な役員報酬制度は企業価値を向上させる

1. 任意の報酬委員会の設置

図表2はCGCにおける役員報酬に関する内容を定めた原則です。このなかではまず、役員報酬決定プロセスにおいては、上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合は、その決定にあたって任意の報酬委員会を設置することが求められています。

図表2 CGCにおける役員報酬に関する定め

(補充原則10 -(1))
上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、例えば、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の諮問委員会を設置することなどにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである。
役員報酬に関する原則
  • 役員報酬の方針とそのプロセスの開示(原則3 - 1)
  • 中長期的な会社の業績とそれに連動した報酬と現金報酬と自社株報酬の割合(補充原則4 - 2(1))


出典:KPMG 作成

 

これまで日本企業の役員報酬の決定は、取締役会に一任されるケースが多く見られました。報酬総額は株主総会の決議を得るものの、それ以降の配分は取締役会の決議事項であり、取締役会においても代表取締役に一任されます。つまり、実質的に代表取締役社長等がその他の取締役の月額報酬、賞与の分配を決定していたのです。しかも、報酬決定要素はブラックボックス化されており、報酬額のみならず、経営計画に対する役員のコミット感やモチベーション等に不透明さを招いていました。これでは、株主に対して独立性、客観性のある説明責任を果たしているとは言えません。それを改善するためにも、指名委員会等設置会社の形態でなくとも、任意の報酬委員会を設置し、役員報酬決定プロセスに関する透明性を担保したうえで開示できる内容にすることが求められます。

2. 業績に連動した報酬

CGCでは、中長期的な企業業績を踏まえた役員報酬を設定することを定めています。従来の日本企業の役員報酬は固定報酬が大きな水準を占めており、企業業績の変動があまり反映されていませんでした。それが、株主の理解の得られない大きな要因となっています。今後は、図表3にある報酬の種類をバランスよく組み合わせ、企業業績を反映した役員報酬を設定する必要があるでしょう。

図表3 役員報酬の種類
役員報酬の種類

出典:KPMG作成

(1)固定報酬(基本報酬)
固定報酬(基本報酬)は、ほとんどの企業で、すべての役員に支給されていると考えられる報酬の基礎的なものであり、定期同額の原則で支給されています。日本企業の役員報酬は、固定報酬の占める割合が、海外と比較して高くなっています。したがって、この割合をインセンティブに移行してくことが今後のポイントと言えます。

(2)年次インセンティブ報酬(Short Term Incentive)
年次インセンティブ報酬とは主に、業績連動の指標として測る期間がおおむね1年以内のものを指し、通常、年度ごとに業績指標を設定し、その達成度合い等に応じて報酬を支給するものです。年次インセンティブ報酬の支給方法は、業績に応じて支給額が0円~月額の固定報酬の数倍となるような業績連動性の強い報酬と、一定の固定報酬(役員の役位ごとに設定されているもの)と業績連動報酬がミックスされている業績連動性の弱い報酬に区分されます。最近ではCGCの影響もあり、年次インセンティブ報酬を取り入れている企業は、業績連動性の強い報酬を選択することが増えてきたように思えます。

(3)中長期インセンティブ報酬(Long Term Incentive)
中長期インセンティブ報酬は、おおむね3年から5年程度の業績等に応じて支給されることが多く、株式または現金で支給されます。特に、中長期インセンティブ報酬に株式が用いられる理由は、CGCで求められていることのみならず、中長期的な企業価値の向上において、特に上場会社では株価を指標とするためです。一方で、日本の株式市場における株価は企業業績を反映していない外部要因に強く影響を受けることがあり、株式報酬は役員の中長期インセンティブ報酬にはそぐわないという議論もあります。
しかし、先に述べたように、日本企業の役員報酬は海外の企業に比べて固定報酬の割合が高く、企業業績がどのように変動しても株主から企業運営を委任されている役員の報酬が常に一定となる矛盾した状況にあります。株主の理解を得るためにも、業績に連動した株式報酬の導入は進めていくべきと考えます。

執筆者

KPMGコンサルティング株式会社
ディレクター 宮城 政憲

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