ディスラプション時代に求められるCEOの進化を促すガバナンス態勢~CEO調査2019

ディスラプション時代に求められるCEOの進化を促すガバナンス態勢~CEO調査2019

本稿では、5回目となる「KPMGグローバルCEO調査」について、意識変化や他国との差異の観点から日本企業の特徴・課題を分析し、CEOの進化に向けた重要な視点について解説します。

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KPMGは、主要11ヵ国における業務収入が100億米ドル以上の企業のCEO約1,300名(うち日本のCEOは100名)を対象に5回目となる「KPMGグローバルCEO調査」を実施しました。
本稿では、前回の調査からの意識変化や他国との差異の観点から日本企業の特徴・課題を分析し、CEOの進化に向けた重要な視点について解説します。
今回の調査結果の注目点の1つは、「市場破壊をチャンスととらえる他国と比較し、日本企業には慎重で保守的な姿勢が見られ、ビジネスモデルの変革への対応が控えめになっている」ことです。今後の成長に向けては、デジタル市場に対して機動性のある変革と適応を進めることが重要で、そのためにはCEOが長期的思考でビジョンを描き、力強いリーダーシップで組織を変革することが求められます。そのようなCEOの進化を促すためには、コーポレートガバナンスの仕組みを十分に機能させることがカギとなります。

ポイント

I.世界のCEOが見通す将来~ディスラプションが続く世界に警戒を強める

1.脅威を増す中長期的なリスク

今回の調査結果では、CEOが企業の成長に最も脅威と感じるリスクとして、環境/気候変動リスクが1位に、最先端技術/破壊的技術のリスクが3位に浮上し、昨年から順位に変動が見られました(調査結果の記載はすべて日本企業の回答状況を記載。以下、特記がない限り同様)。マクロ的に動向を把握し、長期的視点で対応方針を検討する必要があり、かつ対応コストが大きいリスクを特に注視する様子が見られます。

2.ディスラプションは必然の流れに~破壊者となるべく取り組むCEOは増加

競合に破壊される前に自ら業界の破壊者になるように積極的に取り組んでいるCEOは、日本においては59%、グローバル全体では63%に上り、ディスラプションは世界的に必然の流れになっていると言えます。

3.世界経済の見通しへの警戒感

今回の調査結果では、今後3年間の世界経済の成長見通しに自信があると回答したCEOは、昨年の85%から62%に減少しました。うち、「非常に自信がある」との回答は44%から24%とほぼ半減しており、ディスラプションが続く世界経済の成長見通しに対する警戒感が強まっています(図表1参照)。

図表1 世界経済の成長見通しに対する自信:「非常に自信がある」、または「自信がある」と回答した割合
世界経済の成長見通しに対する自信:「非常に自信がある」、または「自信がある」と回答した割合

II.他国より慎重で保守的な日本企業~ビジネスモデルの見直しに遅れ

1.経営の機動性を増すグローバル全体とは逆の流れに

前回の調査時点では、日本のCEOは、世界経済の成長の力強さを感じつつ、米国の新政権や英国のEU離脱に見られる保護主義政策などの目前の脅威やディスラプションが続く市場に過敏に反応していたと考えられます。昨年は84%ものCEOが「経営の機動性は企業の存続を左右する」と回答し、迅速な対応を強く意識する姿が表れていました。ところが今回の調査では66%に減少しています。これは、その割合が昨年の59%から67%に増加しているグローバル全体の流れとは逆の傾向を示しています(図表2参照)。

図表2 経営の機動性は企業の存続を左右する(同意する割合)

日本

図表2 経営の機動性は企業の存続を左右する(同意する割合)

2019

2018

全体

図表2 経営の機動性は企業の存続を左右する(同意する割合)

2019

2018

2.市場破壊よりもコア事業の維持・拡大を優先する保守的意識

ディスラプションが続く市場への不安から、世界経済の楽観的な見方を後退させるなか、不確実な環境における真のレジリエントな事業の定義をどのように捉えているかの問いについて、「コア事業を守れること」との回答が43%、「変化するビジネス環境に速やかに適応できること」が24%で、「市場を破壊できること」はわずか7%という結果でした(図表3参照)。

図表3 不確実な環境において、真のレジリエントな事業とは?

図表1 「パーソナライズされた」体験への顧客の期待に応えることについての、自社の成果に対するCEOの認識 「顧客の期待をかなり上回っている」、「顧客の期待を上回っている」と回答した割合

他国と比べて、日本のCEOは市場破壊の重要性は理解しつつも、自社の成長戦略としてコア事業を守ることを優先する保守的な姿勢がうかがえます。

3.市場破壊に適応するビジネスモデル変革の仕組み作りに遅れ

日本のCEOの保守的な姿勢は、ビジネスモデルの見直しの遅れとも相関性が見られました。調査結果では、「業界の破壊が起きた際にビジネスモデルを見直し競争優位性を維持できる仕組みが確立できている」と回答したCEOの割合は11ヵ国中10番目となっており、日本企業の変革の遅れが懸念されます(図表4参照)。

図表4 業界の破壊が起きた際にビジネスモデルを見直し競争優位性を維持できるための仕組みが確立できている(同意する割合)

単位:%

図表1 Brexitが会社の経営環境に影響を及ぼす要因(n=288)/複数回答

III.デジタルトランスフォーメーションの遅れが保守的姿勢に繋がる

1.デジタルトランスフォーメーションの遅れによる市場破壊へのためらい

デジタルディスラプションが牽引するディスラプションの時代に日本のCEOは警戒感を強め、より保守的な対応への比重が高まっていますが、この背景には、デジタルトランスフォーメーションの遅れがあると考えられます。分断されたレガシーシステムでは組織間のスピーディな情報連携が困難であり、めまぐるしく変化し、複雑化する顧客ニーズへの対応に遅れが生じます。また、ブラックボックス化されたシステムでは、データの信頼性への警戒から、経験と直感に頼った意思決定になりがちで、データ分析に裏付けられた大胆な意思決定の阻害要因となるでしょう。破壊者となるための機動的な変革と適応に必要な、タイムリーで完全な情報の収集・集積と、それを活用した的確で迅速な意思決定ができない状況では、戦略上もオペレーション上も、慎重で大きな失敗をしない保守的な選択が取られてしまうと考えられます。

2.デジタルトランスフォーメーションが進まない原因~ITインフラ刷新の阻害と人材不足

それではなぜデジタルトランスフォーメーションが進まないのでしょうか。ITインフラが刷新されない理由として、各現場の声に応じて個別にカスタマイズしたシステムを統合するには各部門の抵抗が大きいこと、現行の複雑なシステムの維持管理に予算が投じられてしまい必要な新規のIT投資が困難であること、クラウドなどの新しい技術の導入にあたりセキュリティ上の警戒心が強いことなどが考えられます。また、たとえシステムの刷新を決断できたとしても、デジタルスキルを保有する人材が十分でなく、システムやプロセスの設計・運用時に最大の効果を得ることができないケースも考えられます。

IV.根底にある課題~CEOの進化が求められる

1.自ら戦略を主導し、組織内に変革をもたらすCEOのリーダーシップの発揮

デジタルトランスフォーメーションが進まない原因をITインフラ刷新の阻害と人材不足の視点から挙げましたが、これらの課題の根底には、デジタルトランスフォーメーション推進に対するCEOのコミットメント不足があると考えられます。調査結果では、「自社の成長はビジネスの常識をチャレンジ・破壊する能力に依存する」ことに強く同意しているCEOの割合は11ヵ国中10番目になっています(図表5参照)。

図表5 自社の成長はビジネスの常識をチャレンジ・破壊する能力に依存する(強く同意する割合)

単位:%

図表1 Brexitが会社の経営環境に影響を及ぼす要因(n=288)/複数回答

今後は、CEOは新たなビジネスモデルを確立する確固たるマインドと、これまでのやり方を革新的に壊す組織内の破壊者としての自覚を持ち、失敗を許容することで積極的な挑戦を奨励し発展に繋げる企業文化を自ら醸成することが求められます。そして、デジタルトランスフォーメーションの戦略を主導して組織の機動性を高めるとともに、積極的なコミュニケーションで組織内に市場破壊戦略を示し、組織に変革と適応のプレッシャーをかけ続けることが必要となります。

2.短期的成果のプレッシャーに屈しないための長期的思考

CEOがデジタルトランスフォーメーションを推進するには、必要な領域に適切な投資を行うための長期的思考が必要となります。新しいテクノロジーから最適な効果を得られるよう、最先端の技術の動向を深くかつ適切に理解するとともに、さまざまなファクターの機会とリスクから未来を見通し、それを戦略に反映することが求められます。

V.CEOの進化を実現するガバナンス

1.組織の目的に根差した長期ビジョンに基づく判断指針を、取締役会として合意する

日本企業のデジタルトランスフォーメーションの遅れの根底にあると考えられる課題を改善し、不確実で変化の激しい環境下で経営の舵取りを担うCEOの進化を促すには、ガバナンスの観点から、強化できるポイントがいくつか考えられます。まずは、CEOが機動的な変革を推し進めるために、組織としての判断基準や判断の指針となるものを、取締役会としっかり合意しておくことが肝要です。
企業には、その根源的な目的があるはずです。たとえば、医薬品企業であれば、薬の提供を通じて患者の寿命を延ばす、といったものです。その目的達成の手段は、企業の歴史の過程で変わることがあっても、根源たる目的そのものは、そう変わるものではないと考えます。そうであれば、その目的達成を見据えた長期ビジョンは思考できるはずです。そして、組織の強み・弱みを理解したうえで、長期ビジョン実現のために必要なアクションを逆算することで戦略を立案し、その戦略遂行、さらにはビジョン達成に大きく影響し得る事象を特定することが、不確実な時代の判断指針を持つことに繋がります。
長期ビジョンと、その達成に大きく影響し得る事象が何かを、CEOによる経営執行を支える取締役会と合意できれば、今後、監督機関としての機能強化が進むであろう取締役の後ろ盾を得て、CEOによる果敢な意思決定が促されるものと期待できます。

2.CEO選任プロセスを変革し、CEOが能力を発揮しやすい環境を整える

変化の激しく不確実な時代に必要なのは、過去のオペレーションの延長線上のマイナーチェンジやコスト削減といったコア事業を延命させ続けるためのマインドではなく、長期志向でビジョンを実現し、組織の目的を達成するために、いま何を決断すべきかを見極め、果敢な決断をしていくマインドです。
日本においては、CEOが影響力を持つ取締役会により次期CEOが任命されることが多く、任命したCEOが退任後も相談役や顧問として組織への関与を続けることも珍しくありません。そのような状況下で、新CEOは、先代のCEOが築いた戦略やビジネスモデルを抜本的に見直したり、先代CEOが担当していた事業にメスを入れることが難しく、失敗しないことを優先した経営がなされがちだと考えます。
しかし、これからの時代には、変化を敏感に察知し、今あるものを自ら破壊し、その後のシナリオを描く能力が求められます。CEOがこのような能力を存分に発揮できる環境を作るためにも、次のCEO選任において、客観的な基準と透明性の高いプロセスを整備、運用することが肝要です。

3.指名委員会を機能させ、CEOの選任、評価、解任の手続きを明確にする

既存のコアビジネスの延命を重視するマインドのままでは、外部環境の変化に気付きにくく、気付いた時には組織内の病巣が拡大し手遅れとなりかねません。CEOが能力を発揮しやすい環境を作るために、次期CEOの選任をCEOの専権事項とせず、客観性と透明性の高い公正な基準とプロセスを整備・運用する必要性があることについては、先述のとおりです。そこで主たる役割を担うべきとされているのが指名委員会です。
組織を一番よく知るCEOが次期CEOを指名すべきだという考え方もあると思いますが、指名プロセスを客観性と透明性の高い公正なものとするには、独立社外取締役を中心とした指名委員会を機能させる必要があるでしょう。不確実な時代において、社内にはない見識の活用はクリティカルですから、独立社外取締役の果たす役割は大きいと考えます。また、CEOだけで、経営リーダーに求められるすべての要件を満たすことができない場合も実際には考えられます。ですから、経営執行のリーダーシップを担うCスイート全体として能力を高めるため、役割や責任に応じた知識・能力・経験を持つ人材を適所に登用する必要があり、CEOの参謀として、どのようなメンバーを主要なCXOとして配置するのか、指名委員会では、そこまで検討する必要があるでしょう。
また、CEOや主要なCXOの指名だけでなく、そのパフォーマンス評価や、解任の際の基準とプロセスを明確にしておくことも大切です。そうしなければ、CEOの能力が発揮できていないと判断した場合、また、その時の環境に即して、これまでとは違うスキルセットを持つ経営リーダーが必要となった場合に、迅速な対応を取りにくくなります。

4.長期シナリオを常にレビューし、変革を続ける

企業の根源的な目的達成を見据えた長期ビジョンの実現、およびそのために必要なアクションを逆算して立案した戦略の遂行に大きく影響し得る事象について、CEOと取締役会が合意しておくことが肝要であることは本章の初めに述べました。それらが判断指針となることにより、長期の視点で、ブレのない果敢な経営判断の促進が期待できます。しかし、刻一刻と変化する環境下において、その判断指針が有効であり続けるとは限りません。CEOが他の取締役のメンバーとともに、短中長期それぞれの時間軸で環境変化やリスクと機会を見極め、長期で描いていたシナリオを変えるべきなのかレビューし、適時に判断していくことも大切です。
つまり、CEOを含む取締役会は、長期視点で組織の方向性を議論し、見極める役割を担っていくことが重要となるのです。このような役割を取締役会が担うことを考慮し、どのようなメンバーが取締役として必要なのかを検討することで、取締役会そのものも、レジリエントな経営が必要となる時代において機能を発揮しやすいものへと変革させていくことが可能となるでしょう。
CEOも、そのような議論ができるメンバーを取締役会に求めるべきであり、そうすれば、組織内では得られない知見や経験を有し、客観的な立場で厳しく社内常識にチャレンジする独立社外取締役や、組織の重要なステークホルダーに近い視点で意見する取締役も当然含まれることとなります。昨今、取締役会の多様性促進を求める議論が多く聞かれるのも、そのような理由が背景にあるのではないでしょうか。

VI.まとめ

日本企業のCEOは、ディスラプションの時代に経営を推進するリーダーとして、自ら破壊者となり、変革を果敢に遂行するマインドを持つことが求められていると言えます。デジタルトランスフォーメーションや外部環境の変化が組織の存続性を大きく揺るがしかねない今、CEOに求められる資質が変容していることを認識し、自ら行動力を発揮するとともに、自身の行動力を発揮しやすいような体制へとガバナンスを変革させることも重要なカギとなるでしょう。このような時代に、ガバナンス改革の必要性が叫ばれるのは必然の流れであると考えます。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
アカウンティングアドバイザリーサービス
ディレクター 菅野 香織
シニアマネジャー 橋本 純佳

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