インセンティブ報酬の会計処理

インセンティブ報酬の会計処理

本稿は、役員等に対してインセンティブ報酬を導入している場合の会計処理の論点について解説します。

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2019年(令和元年)5月27日に日本公認会計士協会から、会計制度委員会研究報告第15号「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」(以下「研究報告」という)が公表されました。インセンティブ報酬のなかには、会計基準が定まっていないスキームもあり、これらは現行の会計基準のもとで会計処理の検討を行うことになりますが、研究報告で示された考え方も参考にすることが考えられます。
本稿は、役員等に対してインセンティブ報酬を導入している場合の会計処理の論点について解説します。

ポイント

I.インセンティブ報酬の類型と関連する会計基準

いわゆるインセンティブ報酬とは、株価や業績に連動して支払われる株式数又は報酬額が決定される報酬であり、役員等に対して株価上昇や業績向上へのインセンティブを付与する性格を有しているとされています。インセンティブ報酬は、交付する資産によって、図表1のように分類することができます。

図表1 インセンティブ報酬の類型
インセンティブ報酬の類型

出典:研究報告より筆者作成

これらのうち、企業会計基準委員会(ASBJ)が公表する企業会計基準等において会計処理が明らかにされているものは、業績連動型ストック・オプション(無償発行のもの)、株式報酬型ストック・オプション(いわゆる1円ストック・オプション)、権利確定条件付き有償新株予約権及び(従業員向けの)株式交付信託です。したがって、それら以外のインセンティブ報酬の会計処理については、現行の会計基準等に基づき検討することになります。

II.インセンティブ報酬における会計上の論点

金銭による固定報酬と異なり、インセンティブ報酬はその金額の算定基礎が複数年度の期間にわたる株価や業績であったり、交付する資産が新株予約権や株式であったりすることから、会計上、種々の論点が生じることになります。これらは報酬として計上される費用の認識と測定の論点に関連し、後者は報酬費用の相手勘定を負債と純資産(資本)のどちらに計上するかという論点にも関連します。

1.費用化の総額(測定)

企業会計原則第二一Aにおいて、「すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない」とあり、役務の提供を受けた場合、その費用は現金支出額によって測定されます。
しかしながら、インセンティブ報酬のうち、「自社株式オプション型報酬」や「自社株型報酬」は、新株予約権や株式が交付されるものであり、現金支出を伴いません。このように、現金支出額で費用計上額を測定できない場合には、「提供されるサービス」と「対価としての財貨」が等価で交換されていることを前提に、両者のうち、いずれかより高い信頼性をもって測定可能な額に基づいて費用計上額を測定することが考えられます。企業が取得するものが従業員等から提供されるサービスである場合、一般には当該サービスを信頼性をもって測定することができないことから、その金額は付与された新株予約権や株式の価値で算定することになります。
企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」(以下「ストック・オプション会計基準」という)では、このような考え方から、報酬費用の計上額をストック・オプションの公正な評価額に基づいて算定するとされています(ストック・オプション会計基準第5項)。
ここで、報酬費用の測定に際して、新株予約権や株式のいつの時点の時価を用いるか、という論点が生じます。この点、考えられる選択肢として、「付与日」「勤務日」「権利確定日」「勤務終了日」「行使日」などがありますが、ストック・オプション会計基準では、付与日現在のストック・オプションの公正な評価単価で算定し、条件変更の場合を除き、その後は見直さないとしています(ストック・オプション会計基準第6項(1))。研究報告でも、費用計上額に焦点を当てた検討、発行されるオプション又は株式に焦点を当てた検討から、「自社株式オプション型報酬」や「自社株型報酬」の時価測定の時点は付与日(契約締結日)とされています。
一方、「株価連動型金銭報酬」の場合は、その報酬は現金で支払われることから、その支出額を合理的に見積もって負債(引当金)として計上することになります。研究報告では、株価連動型金銭報酬に係る引当金の計上額は、単価(期末)×仮想交付株式数(見込)×(既経過月数÷総月数)によって算定するとされています。

2.費用化の期間(認識)

前述の企業会計原則第二一Aに記載のとおり、企業が役務の提供を受けた場合、発生主義により費用を認識します。通常の金銭による固定報酬であれば、ある月の勤務に対して支払われる給与は、規程等に基づき計算され費用計上されます。一方、インセンティブ報酬の場合は、「提供されるサービス」が複数年度にわたることが多く、費用化の期間を検討する必要があります。
ストック・オプション会計基準では、ストック・オプションの公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき発生したと認められる額を各事業年度(会計期間)に費用計上することとされています。ここで対象勤務期間とは、「ストック・オプションと報酬関係にあるサービスの提供期間であり、付与日から権利確定日までの期間をいう」とされています(ストック・オプション会計基準第2項(9))。
ストック・オプション以外のインセンティブ報酬についても、サービス提供期間に基づいて費用化する点は変わらないと考えられます。ただし、さまざまなスキームが存在することから、その実態を適切に分析する必要があり、必ずしも規程上ないし契約上の名目的なサービス提供期間を単純に費用化の期間とするとは限りません。たとえば、譲渡制限付株式を用いたスキームでは、譲渡制限期間も判断の1つの要素となりえますが、業績評価期間、権利不確定(事前交付型における無償譲受を含む)の条件や役員を対象とする場合にはその任期とすることも考えられます。

3.相手勘定の計上区分

相手勘定の計上区分は、支払いの対価が現金ではなく、新株予約権や株式であることに起因する論点になります。したがって、検討にあたっては、交付する資産が何かがポイントになります。
一般的に、負債は、「過去の取引又は事象の結果として、報告主体の資産やサービス等の経済的資源を放棄したり引渡したりする義務」とされ(企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」(以下「純資産の部会計基準」という)第19項)、純資産は、資産と負債の差額とされています。
また、新株予約権は、「将来、権利行使され払込資本となる可能性がある一方、失効して払込資本とはならない可能性もある」ことから、その性格が確定していません。しかしながら、新株予約権は返済義務のある負債ではないことから、純資産の部に記載することとされており(純資産の部会計基準第22項(1))、「自社株式オプション型報酬」の場合の報酬費用の相手勘定は新株予約権として純資産の区分に計上されます。
事前交付型の株式報酬では、対象となる役員等へ金銭債権等を付与し、役員等が当該金銭債権等を現物出資として払い込み、株式を発行するという手続きが制度制定の当初に行われます。役員等による金銭債権等の現物出資は、株主との直接的な取引と考えられることから、貸借対照表の貸方項目の区分は、株主資本になると考えられます。
事後交付型の株式報酬は、初年度(スキーム導入時)に対象となる役員等への金銭債権等の付与の決議を行い、一定の業績等連動期間後に付与された金銭債権等が現物出資財産として払い込まれ、株式が発行されます。現行の会計基準のもとでは、役員等への金銭債権等の付与の決議時点では、株式や新株予約権の発行がなく、また、何らかの義務が生じている状況にもないことから、会計処理は行わず、業績等連動期間の各期末日に負債(引当金)を計上することが考えられます。
事後交付型の株式報酬は、企業が一定の条件を満たすサービスの提供を期待して、企業と役員等との間にいわば条件付きの契約が締結されていると考えられる点において、自社株式オプション型報酬と類似しています。しかしながら、純資産の部の表示項目が限定列挙とされている点(純資産の部会計基準第7項)から、報酬費用の相手勘定は負債になると考えられます。この考え方に基づくと、ストック・オプションや事前交付型と事後交付型では、報酬費用の相手勘定の計上区分が異なることになります。また引当金は期末ごとに最善の見積りを行うことから、株式報酬の付与日(契約締結日)を測定の基準日とするストック・オプションや事前交付型とは費用化される金額が異なる可能性があります。
株価連動型金銭報酬は、交付する対価が現金であるため、その金額が株価に連動しているとしても報酬費用の相手勘定は純資産(資本)には該当せず、将来において企業が役員等に対して現金を支払う義務を負っている点から、負債(引当金)になると考えられます。前述のように、引当金の計上額は、単価(期末)×仮想交付株式数(見込)×(既経過月数÷総月数)によって算定します。単価の測定に際しては、期末日の株価等を基礎として算定され、時価の変動に応じて評価額を見直すことになり、付与日(契約締結日)以後の事後的な株価の変動を見直さないストック・オプションや事前交付型と異なる可能性があります。
以上の考えをまとめると、図表2のようになります。

図表2 インセンティブ報酬に係る考えられる会計処理の概要
インセンティブ報酬に係る考えられる会計処理の概要

このうち企業会計基準委員会から会計基準等が公表され、処理が明確なスキームについては網掛けをしています。インセンティブ報酬には会計基準が定まっていないスキームが多くあり、また、その条件もさまざまであることから、解釈によっては必ずしもこの表のとおりに処理するとは限らない点に留意が必要です。
なお、実務対応報告第30号「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」はその適用範囲として従業員を対象としていますが、役員等を対象とした場合もスキームの概要が類似し、当該実務対応報告を参考にしている実務が見受けられます。そのため、ここでは両者を区別せず取り扱っています。

III.最後に

2019年(平成31年)3月7日に開催された公益財団法人財務会計基準機構の基準諮問会議において、今後、テーマ提案を行う可能性があるものとして「株式報酬に関する会社法制の見直し」について、法務省より説明がなされています。同会議の議事要旨では、今後、正式なテーマ提案を受けた場合には基準諮問会議として検討する旨の議長の発言があったと記されており、今後会計基準等が開発されることが期待されます。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部
シニアマネジャー 三宮 朋広

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