オンラインとオフラインが融合した「新小売」戦略とは

「小売りの明日」第3回 - 「顧客・商品・店舗」におけるオンラインとオフラインを融合した新しいリテールモデルについて事例を挙げて紹介する。

「顧客・商品・店舗」におけるオンラインとオフラインを融合した新しいリテールモデルについて事例を挙げて紹介する。

中国のネット通販最大手、アリババ集団の馬雲(ジャック・マー)会長が提唱する「ニューリテール(新小売)」。消費者に関する詳細なデータに基づいて構築するリテールモデルと定義している。テクノロジーで「顧客・商品・店舗」におけるビジネスモデルを再構築することで、消費者体験の向上と企業運営の最適化を図り、新しい成長に導いていくものだ。
馬会長は「伝統的な電子商取引(EC)の時代は終焉を迎えようとしている」という。ネットなどオンラインとオフライン、物流の融合は、流通業界の未来の基礎であると提言する。
私たち自身の生活に照らし合わせてみるとわかりやすいだろう。店舗で試着をしたらECサイトでその商品の店舗価格と比較した上で購買を決定し、後日、商品は自宅へ郵送される。アパレルでは試着、食品なら試食、住宅ならイメージの確認。これらはまさに店舗の役割が変化してきているわかりやすい例と言える。

店舗はショールームとして「見る」場所で、自分に合うか「確認する」場所になりつつある。店舗は新商品の体験の場で、ブランディングをも担う。単純に通販サイトや店舗で買うという従来の行動から、消費者はオンラインとオフラインを行き来しながら最終的な購買を決める流れにシフトしている。
ここには全て物流とデータが関係してくる。購買データやアプリの履歴・行動傾向などから一人ひとりの顧客に魅力的な購買体験を提供し、それこそがこれからの流通業界において最重要課題といっても過言ではない。アリババが中国で展開するECサイト「淘宝網(タオバオ)」や地域に根付いたパパママストアをデジタル化した新たな小型店「天猫小店」、食品スーパーの「盒馬鮮生(フーマー・フレッシュ)」などはこの「魅力的な購買体験」ということを実現している代表例と言える。
タオバオでは出店しているブランドを体験できる実店舗を展開している。どのブランドを展開するかはECで蓄積したデータから導き、最も売れる場所に体験型店舗を出店する。盒馬鮮生は店頭にある商品は全てECサイトを通じて購入でき、近隣エリアへは注文から30分以内に届けることが可能なのである。店舗では商品のQRコードを読み取ることで、ECサイトにあるような詳細な商品情報を取得できる。すぐに必要のないものはECサイトのカートに入れ、後日自宅に運んでもらう。店舗とECのお互いの長所を融合させた形になっている。

中国はキャッシュレス化が進んでいるため、入店データや購入データ、異業種との相関性まで幅広いデータ活用が可能だ。それにより販売予測や在庫の最適化、自動補充計画、配送経路の最適化などを実現している。ニューリテール戦略はテクノロジーを活用する先進性と顧客体験を最大化させるという普遍性の両面を持ち合わせている。
テクノロジーはあくまで手段であり目的ではない。顧客体験に重点を置いたテクノロジー戦略こそが、アリババを世界的企業に成長させた。このようなオンラインとオフラインを融合したニューリテールといった概念は、今後の日本の小売業界にも少なからず影響を与えるだろう。

日経MJ 2018年10月22日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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