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データ分析への期待の変化~(2)監査への影響

データ分析への期待の変化~(2)監査への影響

KPMGがデータアナリティクスを活用し、監査を変える方法について前KPMG Global Audit D&A HeadのRoger O'Donnellにインタビューします。

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前稿で見たように企業でのAIを含むテクノロジーの利用はかなりの規模で進んでいます。大手の会計事務所でもdeep learningを含むcognitive technology分野に大規模な投資を行っています。KPMGにおいては、2016年3月にIBM Watsonのcognitive computing technologyを利用することを発表しました。
近年、各国の監査基準設定主体や公認会計士協会においてデータアナリティクスその他の技術を適用した監査の未来像について様々な角度から議論がなされています※1。視点はそれぞれの立場から異なるものの、短期的には既に活用されている例も含め、特に監査リスク評価のエリアで対象となる取引すべてのデータを分析し、ビジュアル化を行うことでリスクを特定する手法などが紹介されるとともに、将来的な方向あるいはコンセプトとして様々な可能性が提示されています。過去には存在しなかったが新たに生み出されたデータを活用してどのような監査ができるか、という観点では、SNSでの評価やセンチメントを分析して不正の評価や売上の推定に使うことや駐車場の監視カメラの映像から売上の推定を行うなどといったこともアイデアとして議論されています※2
一方で、データアナリティクスから得られる監査証拠のすべてが現行の監査基準で求められる監査証拠を満たすのかという点について明確でありません。規制当局の監視を受ける監査人の立場からは、基準に言及が無いことが、実施してはいけないと解されることへの懸念や、実施しても基準で求められる手続は実施しないといけないので単なる手続追加になるとの懸念から、データアナリティクス活用の妨げになりうるとの議論がIAASBの報告書でも言及されています※3。しかしながら、監査法人が社会の要求にこたえていくために、基準は制約では無く、より良い監査のあり方は社会全体で議論をしていくべきことだと考えられます。
また、新しい技術の活用は監査の専門家を不要とするわけではなくデータを正しく読み解くSME(特定領域のプロフェッショナル、Subject Matter Expert)の存在は監査においても必要です。膨大な情報があるからこそ幾通りもの解釈が可能であり、その中から財務諸表への影響を正しく読み解くことができ、また、ビジネスに寄与する知見を導き出すことも会計・監査の専門家の役割であると考えられます。
このような理解の下、KPMGがデータアナリティクスを活用して、どのように監査を変えていこうとしているのかについて前KPMG Global Audit D&A HeadのRoger O'Donnellにインタビューします。

※1 日本では、未来の監査について包括的に考察した研究として、IT委員会研究報告第48号「ITを利用した監査の展望~未来の監査へのアプローチ~」が2016年にIT委員会研究報告第52号「次世代の監査への展望と課題」が2019年にそれぞれ公表されている。米国公認会計士協会は2015年に“Audit and analytics looking toward future”を、国際監査・保証基準審議会は2016年に“Exploring the Growing Use of Technology in the Audit, with a Focus on Data Analytics”を公表している。

※2 Research Ideas for Artificial Intelligence in Auditing: The Formalization of Audit and Workforce Supplementation, Hussein Issa, Ting Sun, and Miklos A. Vasarhelyi, Journal of Emerging Technologies in Accounting: Fall 2016, Vol. 13, No. 2, pp. 1-20.

※3 Exploring the Growing Use of Technology in the Audit, with a Focus on Data Analytics, September 2016, IAASB pp.8-9

Roger O'Donnell / 北尾 俊樹

左:Roger O'Donnell
KPMG LLP
Partner, Audit

右:北尾 俊樹
有限責任 あずさ監査法人
パートナー

データアナリティクスの監査での活用のベネフィット

北尾:様々なテクノロジーの活用が見込まれていますが、とりわけ財務諸表監査においてデータアナリティクスから得られるベネフィットは何でしょうか?

Roger O'Donnell :まず監査の品質をどのようにデータアナリティクスを通して得るかが重要です。より精密な分析や母集団に対して100%テストが行われることで監査の精度が高まります。その結果としてより正確に財務諸表のどこにリスクがあるのかが見えるようになり、監査の質問が的確になり知見を追加提供できるようになります。
監査をする側にとっては2つの価値があると思います。1つは監査の品質の高まりです。これは当然、企業のベネフィットでもあります。また、それと同時に我々が企業取引データの全体にアクセスすることで、企業のプロセスに関する意義のある知見が得られるということがあります。
実際に私のチームが売上のテストをした際にこのようなことがありました。売上高のテストの一環としてthree way match※4の監査を行いますが、その詳細を見ると、完全には一致しない取引が出てきました。その原因は、たとえば、出荷遅れであったり、当初の価格が取引のどこかで変更になっていたことにあります。一般的に、こういった気付きは通常財務部門が一般に行っている分析では特定されません。なぜなら、このような分析はサプライチェーンの管理に責任を持つ部署で分析されていることが多いからです。また、このような気付きは財務諸表数値に必ずしも影響しないため、財務部門で発見されないことは問題で無くても、オペレーションには影響することから、経営陣には関心のある知見であるという場合もあります。そのような知見は経営陣に業務プロセスの改善であったり、何らかのビジネス機会の検討を可能にするかもしれません。

北尾:一方で企業は監査に効率性を期待していますが、データアナリティクスを利用して監査の効率性は高まると思いますか?

Roger O'Donnell :これは個々の企業がどのようなIT環境にあるかに依存すると言えるでしょう。企業がより統合されたシンプルなITシステムを利用していて、IT全般統制を含む内部統制が適切に運用されていればテクノロジーの利用により効率的に監査ができるでしょう。しかしながら、多くの企業は、異なる複数のシステムを利用しており、そこから生まれるデータに多くの疑問が生じています。結局、企業からどのようなデータを提供いただけるかによってその品質に監査の効率性は影響を受けます。これは企業が属する産業によっても異なりえます。もっとも、長期的には、合理的な期待として監査は効率的になっていくと思います。

※4 監査の手法の一つで、注文書、納品書、請求書の内容(日付や金額など)が整合しており、会計記録とも一致していることを確認する手続

100%テストの必要性

北尾:母集団の100%テストをする必要はあるのでしょうか?

Roger O'Donnell :これはよく聞かれる質問です。このように考えてみてはどうでしょうか?ヘンリーフォードにデトロイトからシカゴにどうやって早くたどり着けるかと聞いたら、馬でも鉄道でもなく私はそれらの移動手段より優れた経験が得られるものを作れると言ったでしょう。つまり過去のやり方がベストなやり方とは必ずしも言えないのです。我々は監査の専門家として、要求されることを実行するためのベストな方法を、使えるテクノロジーだけでなく、まだ存在しないテクノロジーをベースに考えるべきであり、その方法は企業の利益や投資家、社会一般の利益と一致していることが重要だと思います。サンプリングから100%テストへの変化は100年に及ぶ監査の歴史の中でも最も大きな変化と言えるかもしれませんが、監査の品質を改善するという目的に直接的な意味を持つものです。結果として私は100%テストは企業と我々の双方にとって共通の目的であると思っています。

北尾:企業にはどういう知見が提供できるのでしょうか?

Roger O'Donnell :企業が保有するあるいはその産業固有のデータにより異なります。これまで私の経験からは、企業が価値を見出した知見は、担当パートナーがよく企業を理解していてすべての監査結果を共有されていること、すべての分析結果が共有されている状況で生まれています。言い換えると、個々の企業にとって有用なデータが何かということを解釈できて実現するものだと言えます。
たとえば仕訳のテストを考えてください。すべての仕訳を分析することで決算プロセスが見えてきます。どれくらいの人が決算に関わっているかもつかめるでしょう。仕訳の数や、仕訳あたりの平均金額なども分かります。こういったことが分かっただけでも色々な気付きはあります。手仕訳が多いにもかかわらず締め日までの期間が短く、同じ業種と比べて経理スタッフが少ないということが分かれば、アドバイスができます。重要なことは意味のある知見を導くためにデータを正しく解釈できるかです。
仕訳の例でもう一つ考えてみましょう。仕訳データを分析すると95%の仕訳が$10以下だったとします。この状況が示唆することの一つは、この企業は大変精緻な起票・承認の仕組みを持っているということです。しかし、一方で非常に非効率な仕組みになっていることや、あるいはより多くのコストとリソースを使って記帳をすることを要求する仕組みになっていること、を示唆するかもしれません。何がなされるべきかという答えは、個々の企業が置かれている状況や目指す方向により異なります。したがって、我々が知見を提供するにあたっても、企業がどういう質問に答えようとしているのかということを理解しておく必要があります。そして、監査パートナーは監査の経験からその答えを知っておくべきです。

高度なデータ分析の目的

北尾:監査におけるより高度な技術の適用についてどのようにお考えでしょうか?

Roger O'Donnell :テクノロジーの進展を考える際に、簡単にイメージできるのは、銀行や保険でしょう。たとえばモバイルバンキングにより携帯電話のアプリで小切手を直接口座に入金したり振込を行ったりできます。しかし5~6年前を考えると、パソコンでは同じことができましたが、携帯電話ではできなかったのではないでしょうか。この技術の進化は、今後どのように日々の生活が変わっていくか、我々が専門家としてどのように変わっていかないといけないかを示唆しています。小切手の入金は小切手の写真を携帯で撮影し、写真のため非定型なデータですが、そこから関連する情報(小切手番号、金額、振出人)を認識して検証し、どの口座に入金するかを、アプリに組み込まれたアルゴリズムが行っており、人の手を一切介していません。cognitive technology(認知技術)あるいはAIによりファイルを読み、口座に入金するのに必要な情報を解釈しています。
監査手続の進展も同じように考えることができるでしょう。もし、非定型データを解釈できる技術があれば、請求書や契約書から必要なデータを取り出し定型的な財務データと自動で比較できるはずです。こういったことができれば素晴らしいと思いませんか。これが我々が既に取り組み、さらに進化を目指しているテクノロジーの方向です。しかしながら、これは監査人を置き換えるような技術ではありません。監査人はよりリスクの高いエリアや例外や異常を含む分析結果の解釈についての判断に時間を使うことができます。

北尾:企業の財務部門自身はどのように自社のデータアナリティクスからベネフィットを得ている、あるいは得るべきでしょうか?

Roger O'Donnell :やはり企業のシステム次第です。データのボリュームやデータの品質にも影響を受けます。多くの企業が予算策定・分析、あるいはその他の意思決定に利用するためにデータアナリティクスツールを導入しています。また、バンキングアプリでは小切手をスキャンすることでデータが作成されますが、同様に保険においても請求は機械がデータを読んで請求処理が行われ、これらのデータは会計部門にも連携されていきます。したがって、経理処理の対象となるデータの性質が過去と比べて異なってきていることも重要です。その結果、最新のテクノロジーを利用することでより迅速にデータを集め、効率的かつ正確な分析ができるようになっています。
しかしながら、単にデータを持っているからといってデータアナリティクスを上手く行えるというわけではありません。重要なことは、正しいデータを持っている人が答えを求めているような質問、すなわちあなたがそのデータを使って何をしたいのかということを理解していることです。どういった質問にあなたが回答したいのかを理解し、そのデータがあなたの質問に回答できるものであるかを検討することが重要です。
したがって、保有するデータに基づいてできるだけ多くの異なるダッシュボードを持ちたいというのは正しい方向性ではありません。より良いアプローチは、自社のどこに弱みがあるか、どの質問に答えるべきかを理解していて、その問題を解決するのに必要な分析を行うことに注力すべきです。ある企業で分析を行った際に、ご担当者からこの分析は自社でもやった方が良いでしょうか、と質問を受けました。答えは、そうかもしれませんが、もしそれが御社のビジネスに必要ならば、です。ある企業では、そこまで細かい分析は企業自身で行う必要はないかもしれません。

テクノロジーの進化と監査

北尾:監査がテクノロジー面でより進化していくにあたり、どういう制約があるのでしょうか?特に現行の監査基準は変わらないといけないのでしょうか?

Roger O'Donnell :より良い監査を行っていくための制約ということについて言えば、我々に与えられている機会は、監査基準設定主体としてテクノロジーに何ができ得るかを理解してもらい、監査基準設定主体が監査基準の中でテクノロジーが変更に影響を与える部分、あるいは、変更が必要な部分の検討に関与することです。我々は様々なことを監査基準に従って問題なく行っていますが、監査基準の一部をテクノロジーの影響を考慮して調整することは良いかもしれません。たとえば、現行の監査基準では監査人による棚卸立会は必須の手続とされています。もし監査企業が鉱山やオイルの企業だったとしましょう。監査人は、現場に行き一定の測定方法に従って、棚卸資産の確認をしていますが、もしロボットやドローンがこの棚卸立会を実施すればどうでしょうか。テクノロジーによりすべての資産が精密に測定されるので、おそらくより正確な確認ができるのではないでしょうか。したがって、もしロボットやドローンが監査人のコントロール下にあれば、物理的な立会と同じと認めるというような基準の変更はありえるかもしれません。
他の制約という意味では国によってインフラの整備状況は異なるためデータストレージや処理速度なども制約となりえますが、これはどちらかというと決算期が同じ月に集中していることがより強く影響するかもしれません。クラウド環境に移行するとセキュリティなどの異なる問題が出てくることもありますが、いずれも制約ということとは違うと思います。企業データを守るというのは常に必要な対応であるからです。

北尾:我々自身はどのように新しいテクノロジーを活用していかないといけないのでしょうか?

Roger O'Donnell :我々がKPMGとしてイノベーションを考えるときに、個人的に重要だと思うことは、それぞれの企業を担当するチームが持つ企業の理解からスタートすべきということです。企業は既に高度なテクノロジーを活用しており、企業プロセスに沿った形で我々のイノベーションも行われる必要があるということです。
モバイルバンキングのアプリを例に、どのように監査するかを考えると、我々は小切手を確認します、というわけにはいきません。まず、企業のプロセスと、自動化と技術によりもたらされた変化を理解する必要があります。そしてより多くの時間を自動化されているプロセスの監査に費やすことになるでしょう。
また、業種別のリーダーが特定の業種で有用なテクノロジーを考える必要もあるでしょう。棚卸立会は一つの例です。アプリによってバーコードをスキャンすることで手作業でカウントシートを作成し、入力する必要がなくなるでしょう。そして、その結果を企業の棚卸システムのデータと照合すれば良いのです。こういったことが我々の時間の使い方と手続の正確性を変えていくでしょう。

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