インテリジェントオートメーションのユースケース~BPM2.0上で展開するAIを用いた高度な自動化

本稿では、AIの実務適用例の中でも特に採用プロセスの高度化や採用後のタレントマネジメントといった人材関連テーマにフォーカスし、ユースケースを解説します。

本稿では、AIの実務適用例の中でも特に採用プロセスの高度化や採用後のタレントマネジメントといった人材関連テーマにフォーカスし、ユースケースを解説します。

前稿「RPAの拡大を支えるインテリジェントモデルの実現」では、RPAの大規模展開、さらにその先のBPM2.0というデジタルプラットフォームの導入により、人+RPA+その他テクノロジーを組み合わせた統合的トランスフォーメーションの取組みについて述べてきました。
近年はRPAだけでなく、AIの実務適用例も着実に増えてきています。本稿では、AIの実務適用例の中でも特に採用プロセスの高度化や採用後のタレントマネジメントといった人材関連テーマにフォーカスし、ユースケースを解説します。大元の業務をBPM2.0上で展開することにより、特定プロセスに対する改善に連続性が生まれ大きな変革をもたらすことが可能です。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

point1~3

I.AIのユースケース

IA(Intelligent Automation)の世界を実現するためにAI(Artificial Intelligence)は欠かせない要素の一つと言えます。本稿では、AIとBPM2.0を組み合わせたユースケースを解説します。
具体的なユースケースは2つです。1つ目は、採用プロセスの高度化をテーマに、良い人材を効率的に採用していくためにAIがどのような助けになるのか、エントリーシートのスクリーニングと、採用候補者と面接官とのマッチングをサポートするユースケースです。2つ目は、人材の安定した活躍をテーマに、採用した人材に長く精力的に活躍してもらうためにAIがどのような助けになるのか、パフォーマンスの変化をモニタリングするユースケースです。

II.採用プロセスの高度化

1.エントリーシートのスクリーニング

(1)採用担当者のキャパシティを超えた応募に対応する

採用業務においては、オンラインによる応募受付が当たり前となり、大企業は大量の応募を受け入れることができるようになりました。しかし、応募受付後の選考に目を向けてみると、システム化による効率化は、選考ステップに沿った簡易なワークフローなどに限定されていることが多いようです。処理しなければならない量が増える一方、採用担当者のキャパシティはなかなか向上しておらず、結果的に採用業務の質が低下してしまっている、というのが実情ではないでしょうか。
そうは言っても人間が考えなくてはいけないことも多く、デジタル化は難しいと考えられているのもまた事実です。しかし、作業の一部をAIが代替し、採用担当者を助けることは可能です。


(2)AIによる前さばきにより、人間が確認すべきエントリーシートを選別する

エントリーシートに記述される志望動機や自己PRなどの文章は人の目で読んで評価するべきであり、自動化は難しいと思われるかもしれません。しかし、人間作業の前さばきとして、エントリーシートの事前スクリーニングにAIが役立ちます。
直接部門がかかわる面接以降の選考と違い、エントリーシートはまず採用担当者が読み込んでいくことになります。膨大な量の読み込みを短期間で求められる中、エントリーシートには明らかに冷やかしであるものや、あまりにも文章がおかしいなど、読むに値しないものも一定量含まれます。このプロセスにAIを活用することにより、明らかに不合格と判断すべき応募を事前に排除することができます。人間が確認すべきエントリーシートの量を削減するだけでなく、質の高いものを選別することができるようになるのです。


(3)合否判定だけでなく、候補者データの抽出もAIで

AIモデル構築のため、まず、振るい落とすべき不適切なワードのリストと、評価の精度を向上させるための教師データをAIに学習させます。この教師データには、たとえば文法や言葉の使い方に誤りが多い文章など、採用担当が明らかに不合格であると評価したものを使います。
AIモデル構築の当初は精度に難があり、AIが出した候補を採用担当者がダブルチェックするというプロセスが当面必要になりますが、チェック結果を追加学習させることにより、徐々にAIが自立していくでしょう。
将来的には、文章の中から候補者の特性を表す要素を抽出し、ハッシュタグで候補者データに付加していくという使い方も考えられます。抽出する主な要素は、志望している職種や領域、過去の経歴などです。また、趣味や信念などその人のパーソナリティを示すものも有効です(図表1参照)。
抽出例:#文学部、#コンサルタント、#デジタルトランスフォーメーション、#インフラ構築、#ドイツ駐在、#バスケットボール、#傾聴

図表1 エントリーシートのスクリーニング

図表1 エントリーシートのスクリーニング

2.候補者と面接官のマッチング

(1)面接予定日時の調整や、候補者と面接官のマッチングにAIを活用する

エントリーシートによる書類選考の次ステップとして、最も多いのは面接による選考です。面接官の選定や日時のセッティングには候補者・面接官双方の調整や採用担当者の意向が加味されるため、自動化は難しいと思われるかもしれません。しかし、この作業にもAIの利用が可能です。
面接では、誰がどういう情報を基に候補者と面接をするのかが鍵になります。たとえば、学生時代にアフリカへの留学経験がある候補者には、アフリカでの駐在経験があるなど共通項のある面接官をあてます。1次面接で論理的思考力の評価が特意な面接官が担当したならば、2次面接では理解力やチームワークの面での評価ができる面接官をあてるなど、こういったことができれば、採用における見極めの質が上がるとともに、候補者を惹きつけることで採用途中での離脱のリスクを低減することにも繋がります。
しかし、多くの企業では多数の候補者の選考を同時並行で進めていることもあり、以下のような課題認識があるにもかかわらず、効果的な策を打てていないのが現状ではないでしょうか。

  • 候補者/面接官の予定調整が極めて煩雑であり、マニュアル対応しかできない
  • 候補者に対する面接官特性が考慮できたとしても、マッチングの判断は属人的であり、事後検証まで手が回っていない
  • 人事情報以外の面接官特性も採用担当者の頭の中にあり、形式知化できておらず属人的である

候補者/面接官の予定は最終的に本人の承諾を得る必要があるものの、AIを活用して予定の突き合わせや、どの候補者に対してどの面接官が最適かというマッチングを行うことで、上記の課題解決にアプローチすることができます。


(2)マッチングのためにAIに与えるべきデータ

AIに与えるべき情報は、大きく分けて、候補者の情報、面接官の情報、採用担当からの付加情報の3つです。それぞれの例を以下に挙げます。
まず、候補者の情報としては、出身校や専攻など履歴書の情報、それに職務経歴と、これまでの選考の評価や申し送り、前節で取り上げたエントリーシートから抽出したハッシュタグといったものがあります。
次に、面接官の情報としては、所属部門、出身校や専攻、職務経歴・評価などの人事データベースから得られる基礎データを用います。これらがデータ化されていない場合は、まずこれらのデータ化を検討します。
採用担当からの付加情報には、マッチングにおけるルール(たとえば、同候補者の過去の選考プロセスにかかわっていないこと、同学/同専攻の場合は直接の面識がある可能性があるため避けることなど)、候補者/面接官それぞれに付与されたハッシュタグ、マッチング結果に対する評価(教師データ)が含まれます。
AIは上記 3つのデータを統合的に解析し、アウトプットとして候補者・面接官の組み合わせのドラフト案を提示します。最終的には採用担当者の意見を反映して確定させることになりますが、その際に考慮したポイントもハッシュタグ化して付与しておけば、次から考慮に入れこむことも可能です。
将来的には、非定型的情報をハッシュタグ化して付加していくこと、マッチング結果の妥当性を採用担当が評価をして、教師データとしてフィードバックしていくことの2点を仕組みに組み込むことにより、継続的にAIの改善を行っていきます(図表2参照)。

図表2 候補者と面接官のマッチング

図表2 候補者と面接官のマッチング

III.パフォーマンス変化のモニタリング

1.社員の離職抑止と安定した活躍のためにAIを活用する

昨今の労働力不足問題が叫ばれる中、有能な人材の安定的確保は企業にとって重要なテーマの一つです。一度辞意を表明されてからの引き留めは、非常に難しいものがあります。また、離職予備軍とも言える、現在の仕事に不平不満を持つ社員は少なくありません。このような状況を改善するために、企業は社員に対して何をすべきでしょうか。AIはその悩みに対しても力を発揮します。

2.パフォーマンスの変化をモニタリングする仕掛け

AIによって社員の業務ログを定期的に分析し、パフォーマンスの変化をモニタリングする仕掛けを作ることで、先手を打ったタレントマネジメントが実現できます。これは、単なるパフォーマンスの変動という数値の上下を見るものではありません。過去比較や他者比較、および各データの相関関係を分析させ、もしも異常な傾向が表れ始めている対象者があればアラートを発するという仕掛けです。これを現場に導入することができれば、人材の安定確保に大きく貢献できるでしょう。
このパフォーマンスの変化をモニタリングする仕掛けを実現するには、多角的な業務ログデータが必要です。たとえば、業務ごとの処理件数、業務プロセスごとの処理時間、リードタイム、左記を業務担当者ごとに細分化したデータなどです。そのため、この仕掛けは、業務がBPM2.0上で遂行されていることを前提とします。BPMシステムは、より一元的に必要なデータを入手することができるからです。また、BPMシステムなら、内包されているチャット機能もログ情報として蓄積することができます。

3.AIはそれぞれの社員の働き方改革にも寄与する

まず、初期AIモデルを構築するために、業務および各担当者の処理ログ情報、およびチャットなどの履歴情報すべてをAIに学習させます。それらのデータを用い、AIが相関関係も含めて情報を分析することで、異常値(=パフォーマンスが他人や過去の自分と比較して変化がある社員)をアラートとして検出します。
このAIは育て方が重要です。現場管理者は初期のAIが検出したアラートを基に対象となる社員とコミュニケーションを図り、状態を確認します。何か問題を抱えている・抱えていないにかかわらず、コミュニケーションから得られた情報をAIにフィードバックします。このフィードバックをAIが学習することにより、AIが出すアラートの質が改善されていき、使えば使うほど現実解をアラートできるようになります。
将来的には、チャット履歴に関しては文字分析だけでなく、別のAIを用いて感情分析をさせ学習データとして追加することも可能です。さらに、AIへのフィードバック内容を拡張すれば、リテイン施策や他業務への異動レコメンドをAIが提案できるようにもなるでしょう。

IV.おわりに

今回は、IAの領域(図表3参照)におけるルール化と学習を組み合わせたユースケースを解説しました。

図表3 IAの領域

図表3 IAの領域

このように、実業務に適用可能なAIソリューションは着実に増えており、この数年で爆発的に普及すると考えられます。技術的にも学習の次段階であるリーズニングに類するサービスも認知されるでしょう。
今回のユースケースをAI側から見ると、特定プロセスのみの改善に見えます。しかし、BPM2.0で大元の業務の流れ全体がすでにデジタライゼーションされているとすれば、このような部分最適に連続性が生まれ、IAの世界が実現できます。
また、本テーマで取り上げたように、AIは使いながら改善していくことが肝要です。したがって、ツール目線ではなくビジネス目線・業務目線でのロードマップ(AIの段階的な成長ステージング)を描き、AIの導入を進めていくべきです。

執筆者

KPMGコンサルティング株式会社
デジタルレイバー&トランスフォーメーション
シニアマネジャー 森本 丈也
マネジャー 竹ノ内 勇太

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