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日本企業の不正に関する実態調査

日本企業の不正に関する実態調査

本稿は、KPMGで2006年から実施している「日本企業の不正に関する実態調査」の調査結果の主要な設問に対する回答からみられる不正の実態の傾向について解説します。

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KPMGでは、2006年から「日本企業の不正に関する実態調査」を実施しており、今回の調査で6回目になります。2016年の前回調査以降、企業活動はさらにグローバル化し、本社のみならず国内および海外子会社においても不正・不祥事が発覚する事例が多くなりました。また、日本産業の根幹である製造業を揺るがしかねない品質・検査偽装の事案が次々と明るみになったのは記憶に新しいところです。一方で、AI(人工知能)技術の進歩が人々の生活を大きく変えるのではないかという期待が高まり、不正予防・発見のためのAI活用の可能性が議論されるようになりました。こうした時代背景のもと、今回の調査では、包括的に不正の内容・実態を把握する観点から、単体(回答企業)、国内外の子会社に分けた設問とし、さらに品質・検査偽装およびAIについての設問も加えました。
本稿は、それらの主要な設問に対する回答からみられる不正の実態の傾向について解説します。

ポイント

  • 不正が発生したと回答した企業は429社中135社にのぼり、その割合は回答企業の3社に1社であった。そのうち、本社(回答企業単体)では不正が発生していないものの、国内または海外子会社で不正が発生したと回答した企業は61社(約45%)にのぼった。
  • 発生した不正の損害額は、国内または海外を問わず、子会社で発生した不正の方が大きくなる傾向があった。
  • 不正発生の根本原因として最も多かった回答は、前回調査と同様に「属人的な業務運営」であった。一方で不正の発見経路として最も多かった回答は、「内部からの通報」であり、前回調査の「会計記録等の確認・承認・モニタリング」を上回った。
  • 品質・検査偽装の原因として、「収益追求・コスト削減」を挙げた企業が最も多く、また、最大のリスクとしては「信用喪失による売上減少」が「人命・安全にかかわる事故」を上回った。
  • 不正対応についてAI(人工知能)の活用が期待されてはいるものの、現時点で実際に活用されている事例は少ない。

I. はじめに

今回の「日本企業の不正に関する実態調査」は、2018年6月末時点の全上場企業3,699社(REIT、外国企業、日本銀行除く)に対して直近3ヵ年を調査対象期間として実施し、429社から回答を入手しました(回答率約11.6%)。なお、回答企業429社のうち、国内関係会社ありは345社、海外関係会社ありは258社でした。以下、主要な設問に係る回答結果について解説します。

II. 不正全般の発生状況

1. 不正の発生割合

過去3年間に企業グループ(回答企業単体、国内子会社、海外子会社)のいずれかで不正が発生したと回答した企業は135社ありました。回答企業の約32%、3社に1社の割合で不正が発生しており、2016年の前回調査(不正発生割合約29%)よりも増加しました。
不正が発生したと回答した135社のうち、回答企業単体と回答した会社は429社中74社、国内子会社と回答した企業は345社中60社、海外子会社と回答した企業は258社中45社で、いずれも約17%となりました。しかしながら、不正が発生したと回答した135社のうち、回答企業単体では不正は発生していないものの、国内子会社または海外子会社で不正が発生したと回答した企業は61社、実に約45%にのぼりました。一般的に、回答企業単体と比較し、内部統制の整備・運用が遅れがちな国内および海外子会社における管理体制の強化・実効性の確立は、今後の重要な経営課題です。

2. 不正の内容

不正が発生したと回答した135社に対して、発生した不正の内容を質問したところ、図表1の結果となりました。不正の内容として最も多かったのは回答企業単体、国内子会社および海外子会社のいずれにおいても、「金銭・物品の着服または横流し」であり、次いで「粉飾決算等の会計不正」「水増し発注等によるキックバックの受領」の不正が上位を占めました。これらは、KPMGの過去の調査とほぼ同様の結果でした。

図表1 発生した不正の内容(複数回答可)

(注)複数回答のため、合計が100%にならない

発生した不正の内容(複数回答可)

事実、「今後懸念される不正リスク」について質問したところ、図表2の結果となりました。ここでは、海外子会社への「水増し発注等によるキックバックの受領」「贈収賄」「カルテル」といった不正リスクの懸念がいずれも相対的に高い割合で示されています。海外子会社は、現地の商慣習や法律等も異なり、日本国内と同レベルで取引先への対応や管理が追いついていないケースもあると思われます。

図表2 今後懸念される不正リスク(複数回答可)

(注)複数回答のため、合計が100%にならない

今後懸念される不正リスク(複数回答可)

3. 不正の損害金額

発生した不正の損害金額について質問したところ、図表3の結果となりました。この結果をもとに、最大損害金額と発生した不正の内容との相関性について分析したところ、「金銭・物品の着服または横流し」については損害額1,000万円未満の少額に留まる一方、「粉飾決算等の会計不正」「製品表示・性能記録等の偽装」「カルテル」の損害金額は大きくなる傾向がみられました。

図表3 不正の損害金額

(注)無回答の企業数を除外したため、合計が100%にならない

不正の損害金額

また、不正の損害金額は、回答企業単体よりも国内子会社および海外子会社の方が大きくなる傾向がみられました。特に、今回の調査で損害金額が10億円にのぼった「粉飾決算等の会計不正」「カルテル」不正のほとんどは海外子会社で発生していました。この要因の一つには、事業規模の大小やコア・ノンコア事業に拘わらず、不正が発覚するまでの期間が長くなることにより、損害金額が累積的に膨らんだ可能性が考えられます。

4. 不正の根本原因

不正が発生した根本原因について質問したところ、図表4の結果となりました。「属人的な業務運営」が最も多く、次いで「行動規範等の倫理基準の未整備または不徹底」となりました。これは前回調査と同様の傾向となっています。多くの企業では既に内部統制の整備を進めていると思われますが、国内および海外子会社、新規・ノンコア事業等の本社から目の届きにくいところで不正が発生していることと関連していると思われます。

図表4 不正の根本原因(複数回答可)

(注)複数回答のため、合計が100%にならない

不正の根本原因(複数回答可)

また、損害金額が10億円以上の不正が発生した企業では、その根本原因として「業績至上主義」「上司や同僚等に対して意見を言い出しにくい組織風土」を挙げる傾向がありました。長期間にわたり日常的なプレッシャーが企業組織全体を蝕み、いつの間にか不正への罪悪感や感覚が麻痺してしまった結果と考えられます。

5. 不正の発見経路

不正の発見経路について質問したところ、図表5の結果となりました。回答企業単体および国内子会社においては、「内部からの通報」が最も多く、海外子会社においては「会計記録等の確認・承認・モニタリング手続」が最も多くなりました。

図表5 不正の発見経路(複数回答可)

(注)複数回答のため、合計が100%にならない

不正の発見経路(複数回答可)

前回調査では「会計記録等の確認・承認・モニタリング手続」が最も多かったのに対し、今回の調査では回答企業単体および国内子会社に変化が見られました。近年、産業界に限らず被害者個人が弁護士、SNS等を通じて組織を訴えるケースが急増しているように、みずから世間やマスコミ等に情報を発信する環境が醸成されつつある時代背景とマッチしています。実際、品質・検査偽装は、内部通報を通じて現場からの声が届けられたケースが散見されます。また、2018年6月に施行された日本版司法取引の適用事例がある等を考慮すると、今後このような流れは継続していくと思われます。
一方、海外子会社は、従前と比較して、親会社本社から内部統制整備の進捗やモニタリング活動の充実化などが徐々に図られ、「会計記録等の確認・承認・モニタリング手続」の回答が多くなった可能性が考えられます。

III. 品質・検査偽装

今回の調査では、近年相次いで発覚した品質・検査偽装の問題について設問を加えました。前回調査と比較すると、今回の調査では品質・検査偽装が発生したと回答した企業が倍増しました。これは、品質・検査偽装の問題を受けて、日本経済団体連合会の要請に基づく自主点検を行った事が大きな要因と思われますが、問題の根深さを反映した結果となりました。

1. 品質・検査偽装の発生原因

品質・検査偽装の発生原因について質問したところ、上位3つに挙がったのは、「収益追求・コスト削減が優先され、品質保証の確保が後回しになっていた」「従業員教育が不足しており、コンプライアンス意識が不十分だった」「取引先や営業部門からの品質仕様・納期に関する要請を拒否できなかった」となりました(図表6参照)。コスト削減や取引先からの品質・納期要請と言った「対外的な」目に見えやすい経営課題が、「社内で解決する品質問題」より優先された結果とも考えられます。そして、長い時間をかけて各現場で当たり前のように引き継がれるうちに、感覚的に麻痺してしまい、誰も「悪い事」と思わなくなってしまった実態があります。

図表6 品質・検査偽装の発生原因(複数回答可)

1 58% 収益追求・コスト削減が優先され、品質保証の確保が後回しになっていた
2 47% 従業員教育が不足しており、コンプライアンス意識が不十分だった
3 39% 取引先や営業部門からの品質仕様・納期に関する要請を拒否できなかった

2. 品質・検査偽装のリスクと発覚した企業の対応

品質・検査偽装の発覚により企業が負う最大のリスクに対する意識を質問したところ、図表7-1の結果となりました。最大のリスクは、「売上の減少」とする回答が最も多く、調査前に予想していた「人命・安全にかかわる事故」を若干ですが上回るという意外な結果となりました。この結果も、やはり「対外的な」目に見えやすい経営課題に意識が向いた傾向を反映していると思われます。

図表7-1 品質・検査偽装の最大のリスク

品質・検査偽装の最大のリスク

また、品質・検査偽装が発覚した企業の適切な対応としては、「機密情報・秘匿特権等を考慮し、それ以外をすべて開示」が最も多く、積極的な開示を行うべきという回答が過半数を占めました(図表7-2参照)。長い時間をかけて「悪い事」という意識が希薄になっている企業の実情に対し、世間が当該企業に求める説明責任の水準は決して低くありません。今、日本の製造業に求められているのは、この意識のギャップを認識することです。

図表7-2 品質・検査偽装のあるべき開示

品質・検査偽装のあるべき開示

3. 品質・検査偽装を防止するための企業活動

品質・検査偽装を防止するための重要な施策について質問したところ、図表8の結果となりました。「品質・検査偽装を撲滅する企業方針、トップメッセージ」と「設計・製造部門の品質および工程能力向上への取り組み」が約2割の回答となりましたが、その他の回答は分散する結果となりました。特定の組織や活動に留まらず、企業トップから設計・製造・品質まで全社を挙げて取り組んでいく必要がある経営課題という意識の表れであると考えられます。

図表8 品質・検査偽装防止への活動
図表8 品質・検査偽装防止への活動

IV. AI(人工知能)の活用

今回の調査では、近年、急速にニュース等で話題として取り上げられることが多くなったAI(人工知能)について、不正の予防・早期発見という視点から、現状の企業の意識を確認しました。

1. 不正予防・発見のためのAIの有効性

不正予防・発見のためのAI活用の有効性について質問したところ、約半数の企業は「有効」と回答する一方、「不明」と回答した企業も約40%ありました。まだ不正予防・発見の領域におけるAIの活用が企業に浸透しておらず、活用事例も少ないため「何となく有効だと思う」という実感が垣間見えます。
事実、総務省が発行している「平成30年度版情報通信白書」によれば、AIを業務に活用している企業は22%とのことですが、今回の調査において、不正予防・発見にAIを活用していると回答した企業は2%に留まりました。

2. 不正予防・発見のための有効なAI業務

不正予防・発見のためにAIを導入している、もしくは導入に関心のある企業に対して、どのような業務への活用をしたいか質問したところ、「取引データ」「財務データ」「経費精算データ」といった回答が上位に並びました(図表9参照)。現状は、金額数値を取り扱うアナログとシステムの連動、またはシステム相互間のモニタリング手法を中心とした「内部統制の高度化」に取り組む企業もあり、そうした結果を反映していると考えられます。今後、こういった取組みの積み重ねが、不正予防・発見に向けたAIへの飛躍的な活用につながっていくのではと期待しています。

図表9 AIで導入したい業務(複数回答可)

(注)複数回答のため、合計が100%にならない

「社内にそのような企業文化が醸成されている」と回答した割合

V. 最後に

今回の調査では、不正対応への今後の取組みに向けていくつか示唆が得られましたが、過去に新聞紙上を大きく賑わせた企業不正との類似点もある印象を持ちました。内部統制報告制度導入から既に10年以上が経過し、内部統制の整備は着実に進む一方で、いわゆる「内部統制疲れ」から、業務統制処理を「こなす」こと自体が目的となり、不正リスクに対する意識をもって各業務プロセスに「実効性」あるチェックをしている企業は、実はそれほど多くありません。不正が発覚した企業はその傾向が顕著で、過去の不正調査においても「過去の慣習に倣いあまり悪いという意識はなかった」、「ノンコア事業で業務が異なり重視していなかった」、「担当者しか取引の内容を把握していなかった」というケースを見聞きします。「仏作って魂入れず」という言葉がありますが、今後、従前の内部統制に不正リスクという観点からどのように「魂」を入れていくのか、一度振り返る機会になれば幸いです。

執筆者

株式会社 KPMG FAS
フォレンジック部門
シニアマネジャー 水野 宏之

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