CVOが企業価値向上をリードする - SDGs実現のために

CVOが企業価値向上をリードする - SDGs実現のために

本稿は、国際統合報告評議会(IIRC)の名誉議長であるマーヴィン・キング博士の著作の概要を説明し、キング博士の提唱している「CVO」とその役割について紹介します。

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今般、KPMGは、国際統合報告評議会(IIRC)の名誉議長であるマーヴィン・キング博士の著作「Chief Value Officer: Accountants Can Save the Planet」の翻訳に、日本の実情を踏まえた追補章を加えた書籍を東洋経済新報社より上梓しました。
本稿は、同書の概要を説明し、キング博士の提唱している「CVO」とその役割について紹介します。

ポイント

  • 社会が複雑化し、システミックリスクの脅威が現実のものとなる中、企業は包括的なアプローチで、コーポレートガバナンス改革など、様々な施策に取り組む必要性が高まっている。
  • 企業が社会に対する価値を提供し、持続可能な存在であるためには、統合的思考を根付かせるとともに、報告という行為を通じて、限られた資源の有効利用と最適な配分を社会全体として、実現できるようにすべきであろう。
  • CVOは、「財務的なレンズ」のみで価値を判断するのではなく、「長期的なサステナブルのレンズ」を有し、企業と社会の双方にとって、最善の意思決定を支援する存在である。

I.取締役の役割と包括的なコーポレートガバナンス・アプローチ

1.取締役は知的財産、人材、そして環境や社会を考慮しなければならない

知的財産やブランド、人材、環境や社会への取組みが、企業の評価に大きな影響を及ぼしていることは、すでに、広く認識されている事実です。「Chief Value Officer: Accountants Can Save the Planet」では、「そのような社会において、企業の活動に対する責任を担っている取締役は、財務的な側面のみを考慮しているようでは、企業がおかれている事業環境を認識しているとはいえない」と述べており、これまでの財務中心的な考え方の転換が迫られていることを、まず認識すべきです。
環境問題を含む社会的な課題は、中長期的に企業の財務的な成果に大きく影響することが指摘されており、取締役会がこれらの事項をビジネスの周辺的なテーマとして取り扱うことは適当ではなくなってきています。財務業績に影響を及ぼす「非財務的な事項」をビジネスの中核のひとつに位置付け、財務と非財務を一体として、すなわち、統合的に考察することが不可欠となっています。
どのような社会的な事象が、企業の価値創造プロセスと成果に影響しているのかを議論すべきです。その上で自社のビジネスサイクルに基づく時間軸、これまでの取組みや実績、今後のビジネスモデル変革に必要なリソースの調達まで考慮して資源配分を計画し、その長期的な戦略に基づき経営の執行をモニタリングしていくことが、期待されています。

2.エンゲージメントの相手は誰かー包括的アプローチ

認識すべきもうひとつの事項は、ステークホールダーとの関係をどう考えるか、ということです。同書では、企業が関係性をマネジメントすることについて、「取締役会は、企業の主要なステークホールダーグループが誰であるのか、そして、それらの合理的かつ正当なニーズ、関心および期待が何であるのかを把握しておく必要がある」と指摘しています。これは、エージェンシー理論におけるシェアホールダーと経営者の関係についての考え方とは大きく異なるものです。
事業の遂行にあたり、執行役は、組織の中の事柄に軸をおきがちです。複雑性が拡大している社会では、ステークホールダーとのエンゲージメントにおいて、固定観念に縛られていないか常に自問し、多様性を帯びた観点から経営執行に有益な知見を得ようとする姿勢が有効となっていきます。
これは、すべてのステークホールダーについて、同じように対応しなければならない、ということではありません。
企業が目指す価値と社会へのインパクトの度合いを、ステークホールダーの特性から判断し、その上で、意思決定への支援に繋げることを同書は提起しています。

II.新たな秩序の浸透と実現に貢献する企業報告とは

1.報告書で伝えるということ

企業価値に影響を及ぼすもの、そして、企業活動の結果、創出される価値が、財務的なものだけでなく、社会的な価値と結びつく現代においては、伝えるべきものも変化していかなければなりません。「報告」という作業の本質的な役割は、複式簿記が編み出された時代から変わっていないのです。
「統合報告書は、グローバルな適用性や今日のビジネスや社会のニーズに対応するという点では、複式簿記と同じである」こと、そして「複式簿記が純粋に財務に関するものであったのに対して、統合報告書はナレッジベースであり、かつ、天然資源に制約のある世界経済における価値創造を反映する包括的、かつ、マルチキャピタルアプローチを導入している」との指摘は興味深いものです。
誠実に「報告する」ためには、その内容も企業における実態を伴ったものでなければなりません。また、社会が有する、いまや「有限である」との認識が共有されている資源を有効に配分し、活用することが適切な報告によって、可能となります。そして、企業は自らの活動領域のエコシステムで果たしうる(あるいは果たそうとしている)役割を正しく伝えることで、より高い評価を獲得し、さらなる価値創造の展開へと繋がっていくのです。

2.統合報告が促す3つの構造転換と統合的思考

同書においては、次の3つの構造転換が指摘されています。
まず、「サイロ(縦割り組織)により分断されたレポーティングからの移行」です。単独の報告書では、多様な情報利用者のニーズに対応できないことが、ブラックロックのCEOであるラリー・フィンクによる書簡の、「長期価値創造のための戦略的枠組みを毎年提示すること」、「取締役会がこれらの戦略をレビューしていることをCEOが明言すべきだ」というメッセージを引用しながら説明されています。
次に、「金融資本市場から、インクルーシブキャピタリズム(包括的資本主義)への移行」を挙げ、その実現のための方法を「公的機関と民間企業が統合的思考を実践し、統合報告書を作成することだ」としています。SDGsの主唱する社会的な課題の解決には企業が中心的な役割を果たさなければならない、との考え方と極めて親和性が高いものといえます。
最後に「短期資本市場から持続可能な資本主義への移行」を指摘しています。ヒラリー・クリントンの「四半期報告書の横暴行為」という言葉とともに、「短期的な利益追求の弊害は、世界的な金融危機を引き起こした大きな要因である」との見解を示し、すでに時代遅れであると述べています。
その上で、統合的思考によって、「企業が稼ぐための手法を取締役会が総体的に理解し、把握し、計画すること」がなされ、企業は持続可能な方法での価値創造の検討を行わなければならない、としています。

3.コーポレートレポーティングの新秩序

SDGsの実現、すなわちすべての経済活動の根底にある社会の持続可能性のために、あらゆる主体、特に、企業の積極的な関与が進んでいます。また、投資家が資産の受託者として、その責任に忠実に運用するため、ESG要素を投資の意思決定に組み込んでいく(インテグレーション)流れが加速しています。
社会として、限られた資源を効率的に活用していくには、その意思決定を支援するための情報が共有されている必要があります。同書では、SDGsの最終合意文書より、「環境、社会、ガバナンスの要素をコーポレートレポーティングに統合することを含む、持続可能な企業実務を推進する」との言及を引用し、「統合報告は、SDGsの成果や未達成事項を報告するための理想的な手段であると考えられる」として、具体的に、どのように関係付けられるのかを示しています。
世界中のさまざまな団体が、それぞれの問題意識や思想のもとに、新たな時代に適合した報告の在り方について提案を行っています。国際統合報告評議会(IIRC)の統合報告フレームワークは、その代表的なもののひとつであるといえます。従来の会計とこれからの会計の特徴について整理したものが、下記の図表です。

図表 コーポレートレポーティングの秩序

コーポレートレポーティングの旧秩序 コーポレートレポーティングの新秩序
長く、雑然としている 簡潔でマテリアルな事項のみ
ひな形的な説明 有効なコミュニケーション
回顧的で短期的 将来思考でより長期的
複雑 シンプルで探すのが容易
汎用的 読み手のニーズに敏感
株主向けの財務業績にフォーカス 組織とそのステークホルダーの価値創造にフォーカス
規則に従った限定的な開示 個々の状況に即した透明性の高い開示
財務資本へのスチュワードシップを投影 組織が依存し、また影響を及ぼすすべての資本へのスチュワードシップを投影
静的、固定されている 最新技術を取り入れることが可能

 

出所:「SDGs・ESGを導くCVO - 次世代CFOの要件」東洋経済新報社

III.CVOが地球を救う

1.企業価値を再定義する

株式市場における価値の80%を超える部分が見えざる資産(インタンジブル)から形成されている、というオーシャン・トモ社による調査報告はよく引用されるもののひとつです。また、企業の価値が、財務的なものだけでなく、社会的な評価によって大きく左右されてくることも、多く経営者が経験を通じて痛感している事実でしょう。
同書では、「価値とは、もはや財務のレンズを通じて見るべきものではない。むしろ長期的なサステナビリティのレンズで見るべきものである」と述べています。つまり、企業は事業を通じて、財務的成果の先にある、言い換えれば、財務のレンズでは見えない価値を、社会的な観点から再定義し、可視化しなければならないのです。
同時に、価値の源泉となる「見えざるもの」から差別化要因を特定し、それを活用し、価値を実現させるためのガバナンスの在り方や、「エコシステム」を、価値創造のストーリーとしてどれだけわかりやすく示せるか、そして、組織内部だけでなく、組織外部も含めたステークホールダーの理解と支持を得られるか否か、が成功を左右することになっていくのです。

2.統合報告が推進するもの

統合報告書は、統合報告の成果物のひとつです。企業の価値評価に繋がる活動として結実させるには、統合的思考の浸透がそのベースとなります。統合報告書の作成は、統合的思考による意思決定を浸透させるための有効な手段なのです。
「統合的思考は、取締役会が、自社のビジネスがどの程度、社会資本や自然資本に依存し、それらの資本にいかに影響を与えるのかを理解するのに役立つ」とされています。社会は取締役に対し、これまでの資本概念を超えた視点からの議論を期待しており、統合的思考の実践なしに、取締役はその責務を遂行しえないのです。
ブラック・サン社による調査は、統合報告の取組みにより、「取締役と経営陣のコミュニケーションに大きな改善がみられた」と報告しており、これは、「すべての部門や機能で組織の戦略が共有され、価値創造に向けた長期的な視点での意思決定がなされるのである」との提言を裏付けるものになっています。

3.CVOの役割

システミックリスクの深化にともなう企業の役割の変貌と価値概念の変化により、価値創造への包括的なアプローチに基づく、より複眼的な経営の意思決定(特に資源配分とその活用)が求められる時代にあって、同書は、財務の最高責任者ではなく、価値の最高責任者と呼ばれるべき存在の役割を提起しています。
「財務プロフェッショナルは、財務諸表、またはそこから得た情報のみを参照するのではない。むしろ、6つの資本※1を同等に俯瞰し、企業とそのステークホールダーの相関関係を社会資本の観点から考慮する変革者となるであろう。(中略)つまり、チーフ・バリュー・オフィサー(CVO)と呼ばれるべきである」との指摘は、企業が果たすべき役割の変化と、企業が社会課題の解決を通じて価値を実現するための具体的な施策への示唆となっています。
では、どのような人がその役割を担うことができるのでしょうか。同書においては、高度な職業的専門性を有する会計士への期待を表明しています。これは、現状の会計監査の範囲や手法、また、監査に関与する者に対し、大きな意識変革を要請するものではないか、と私自身は感じています。
「…カリキュラムはサステナビリティと統合報告を含めるべく改革されなければならない。改革後のカリキュラムの恩恵を受けていない会計士は(中略)価値創造プロセスについてトレー二ングを受けるべきである」と述べられています。そして、すでに、AICPAやCIMAなどは、そのようなプログラムの導入を行い、人材の育成を進めています。
日本において進行中である「有価証券報告書の開示」に関する改革の成果を、開示情報の主たる利用者である投資家の意思決定に貢献できるものにしていくため、これまでの報告書に対する責任の範囲の見直しとともに、会計プロフェッショナルの認識にも変革が必要とされているのではないかとも思われます。
キング博士は、本書に続く「The Auditor: Quo Vadis?」という著書の中で、会計プロフェッショナルに期待されている役割と責任についての論考も展開しています。
企業において、CVOといえる人材が活動を開始している事例がいくつか紹介されています。これらの企業(例えば、ニュージーランドのシーフード会社のサンフォード社)では、さまざまなビジネスが繋がり、包括的な循環(エコシステム)として、具体的な事例や読み手の納得を促す指標等とともに示されています。


※1
国際統合報告フレームワークで示している財務資本、製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本のこと。

IV.おわりに

現在、日本では、コーポレートガバナンス改革が進行中です。この改革の目的は、企業の中長期的な価値向上であり、取締役会の改革を始めとするさまざまな施策は、そのための手段であることを今一度、確認しておきたいと思います。
そのためには、私たちが用いる(限りなく有限の)資源について、できるだけ適確な情報を入手し、長期的な視点からの企業価値を実現するような意思決定に努力する必要があります。それは、例えば廃プラスチックに関わる問題に見られるように、生活のあらゆる場面で出現している状況です。
私たちは、「より少ないものから多くのものを生み出す」、「より少ないもので必要を満たす」といった考え方へシフトすることが不可避な現状にあります。
CVOは、企業の活動を「レスポンシブル」で、「サステナブル」なものとするために、大きな役割を担っています。キング博士が提唱したその役割は、SDGsの達成に深く関与しようとしている組織を、強くドライブすることになっていくと考えています。

執筆者

KPMGジャパン
統合報告センター・オブ・エクセレンス(CoE)
パートナー 芝坂 佳子

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