銀行の取締役会の将来 - リスクとガバナンスの変わりゆく様相

銀行の取締役会の将来 - リスクとガバナンスの変わりゆく様相

未来の銀行の取締役会の姿はどのようなものでしょうか。それは今日、変革の逆風が世界の銀行業界における成功の法則を書き換える中、銀行、銀行経営者、監督当局が抱える差し迫った問題です。

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データ、ロボット工学、人工知能(AI)の台頭。フィンテックがもたらす大胆な挑戦。進化する顧客の期待。前例のないサイバーリスクやプライバシーの問題。デジタル時代はまさに世界の銀行業務を再定義しつつあり、目まぐるしいスピードとかつてないほどの規模で取締役会の役割を問い直しています。

銀行とその取締役会はまた、相互に結びついたデジタル経済におけるリスク管理の強化とガバナンススキル、取締役会の構成および多様性、明確に定義された取締役会の責任などに着目した、監督当局による監視の強化および新たな要件の圧力を感じています。各国の監督当局は銀行やその取締役会に対し、自主的であるかどうかに関わらず、自らを批判的な目で見るよう促しています。

たとえば欧州およびオーストラリアの監督上のイニシアティブは、将来の銀行の取締役会のあるべき姿について監督当局が関心を強めていることを示しており、示唆に富んでいます。

またそこで起きていることや、今後の動向について、世界の他の地域の銀行および監督当局が引き続き注目していると当社は考えています。

銀行の取締役会に対する具体的かつ高い期待

欧州の銀行は、取締役会のメンバーのスキルおよび責任に関する数々の監督要件に直面しています。欧州中央銀行(ECB)の2016年SSM(単一監督メカニズム)ガバナンスおよびリスクアペタイトに関する監督ステートメント※1では、銀行の取締役会メンバーに期待されるスキルに関する具体的な要件を明確に示しています。ECBはまた、融資業務とリスク管理への取組みにおいて、第1線防御と第2線防御をより明確に区別することを求めています。

ECBのSSM監督ステートメントでは、今日の銀行が「明確に示したリスクアペタイトの枠組みにおける強固なガバナンスとリスク管理の実施」への一層の取組みを求める「経済、金融、競争、規制上の逆風に直面している」と述べています。

同ステートメントはまた、銀行の取締役会に対するSSMの「具体的で高い期待」を強調しています。その中には彼らが経営の戦略目標、ガバナンス、カルチャーを検証し、承認し、監視する必要性も含まれます。

ECBは「適格性(fit and proper)」審査(取締役会メンバーの経験や適性全般を評価)のアプローチの見直しも行い、新しく設置した総局(Directorate General)に権限を移行させました。

経済的な力や破壊的なテクノロジーは、前述のように取締役会に進化を迫る独自の圧力をもたらしているものの、欧州においては監督サイドからの影響の方がより大きいと考えられます。

このことは、銀行がこれまでITやリスクデータシステムへの投資不足に陥っていること、収益性が低いことに加えて、EU銀行同盟および資本市場同盟という、欧州単一市場を支える2つの主要なイニシアティブを確立する上で、銀行の取締役会が重要な役割を担っているという事実から、明らかだと思われます。しかし、銀行がEU銀行同盟および資本市場同盟の確立の必要に合わせて進歩するかどうかについては現時点ではまだわかりません。

※1欧州中央銀行(ECB):SSM(単一監督メカニズム)ガバナンスおよびリスクアペタイトに関する監督ステートメント、2016年6月
 

監督当局は非金融リスクへの取組み強化を要求

一方でオーストラリアの銀行は、同国の銀行・年金・金融サービス業界における不正行為に関する王立委員会※2による厳格な調査に直面しています。調査は継続中であり、取締役会およびガバナンスの実施に強く焦点が当てられています。同委員会は取締役会に対し、以下の必要性に関する疑問を提起しています。

  • 経営トップの姿勢(tone from the top)を目に見える形でカルチャーに浸透させる
  • 取締役会のスキル、専門性、多様性に取り組む
  • 規制当局への対応において十分な取組みを維持する
  • 企業の不正行為に対する説明責任および考え方を究明する
  • 事業運営の詳細や非金融リスクに対する監視を強化する
  • ガバナンスの監視強化のため、非金融リスクについて「何を知らないかを知ること」に関する見識を得る

王立委員会は金融業界における非倫理的行為、自己満足、説明責任の不足、規制当局軽視などに関する多くの公聴会を実施しています。調査はまだ継続中ですが、業界への影響は非常に大きなものとなることが予想されます。

王立委員会は、オーストラリア健全性規制庁(APRA)による、オーストラリア・コモンウェルス銀行(CBA)への調査※3を受けて設立されました。調査は当銀行の一連の問題や事件の要因になったと考えられるガバナンス、説明責任、カルチャーの課題を浮き彫りにしました。報告書で明らかになった論点の多くはCBAだけに限られたものではなく、その他のオーストラリア金融サービス業界の企業は、彼らもリスク管理基準を引き上げる必要があるかどうか、その是非について判断するための内省の時期を過ごしています。取締役会への期待の増加、防御ライン(thelines of defense)の強化、非金融リスクの報告強化、リスク管理報酬の影響などは、大多数の組織が近い将来取り組む必要のある分野です。

※2銀行・年金・金融サービス業界における不正行為に関する王立委員会の中間報告書、※2018年9月28日

※3オーストラリア・コモンウェルス銀行(CBA)に対する健全性調査最終報告書、※2017年8月28日

21世紀の課題に備える銀行の取締役会

監督当局、テクノロジー、経済面からの影響力が結び付き、銀行の取締役会に進化を迫る新たな圧力となる中で、監督上の指示やイニシアティブの増加が予想されます。世界の銀行がデジタル経済に合わせて取締役会をいかに大胆に、あるいは素早い改革に取り組むか、それとも監督当局が変革の道筋を示すまで待つか、現時点ではまだわかりません。

EUおよびオーストラリアの監督当局がきわめて明白にしたように、銀行が業務を行うグローバルな環境は急速に進化し、複雑さを増しています。その中で新たに生まれる課題に対処するために取締役会の本質的な改革を実行に移す上で時間を浪費すべきではありません。監督上の要件を満たしていないと判断された取締役会は、最終的には強制的に変更を強いられる可能性があります。このような例はすでにスペイン、ドイツ、イタリア、フィンランドで起きています。

将来の成功をもたらすことのできる取締役会を作り上げるため、銀行が最善を尽くすことの重要性は増大しています。そのために取締役会が持つ必要のある主要な能力は以下の通りです。

  • 金融面にとどまらず、非金融の分野まで含めた新たなリスクや諸問題について明確に理解し、知識を備え、進取の気性に富んだ人材を取締役会のメンバーとする
  • 現在および将来のすべてのリスクに着実に対処する態勢を整える。そのリスクとは、サイバーセキュリティ、自動化、データプライバシー、コンプライアンス、法的問題、顧客サービス、誠実さと評判、新商品および新サービスの質など
  • 今日の銀行は顧客に革新的なサービスを提供するため新たなパートナーシップや提携を結んでおり、相互につながったエコシステムに伴う戦略および関連リスクに対処できるよう備える。取締役会のメンバーにはこれらの課題を理解する見識と、課題を効果的に解決するために必要な洞察力とスキルを発揮できる手腕が求められる
  • 取締役会の多様性を強化する。多様性は性別のみならず年齢、スキルの組み合わせ、デジタル知識に関わっている。多様性の強化は昔からの思い込みや態度、集団思考、デジタル経済における難題あるいは理解が困難な問題への対処を渋る態度などに対抗する上で役立つ
  • 取締役会のメンバーに産業界以外の経験を持つ人材を採用する。データ分析、顧客体験、製品開発、外部コミュニケーションなどの分野におけるデジタル化の影響など、変化しつつある事業環境の中での諸問題やリスクに関し、そうした人材は価値のある新しい識見をもたらしてくれる。また産業界以外の人材は、やはり伝統的なアプローチに対抗する上で、取締役会全体の知識、能力、経験を高める可能性がある
  • 組織にふさわしい最新のカルチャーと価値観を作り上げ、維持する。将来の取締役会は、多様な経営観点からリスクのある決断に抗議する機会を提供しつつ、健全な「決断できるカルチャー」を組織内に醸成することが理想である

変革の逆風の中、いくつかの革新的な新しい取組みがすでに生まれつつあります。テクノロジー、ガバナンス、規制、リスク管理、倫理、文化その他に関する取締役会メンバーの識見を高めることを目的とした、数日間にわたる研修や「ブートキャンプ」が増加しています。さらなる取組みの変革が続くことは確かです。取締役会の従来の合言葉は監視でしたが、将来の取締役会は、監視と見識に関して確かな情報に基づく新しい見方が必然的に求められることになるでしょう。

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