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高度なデータ分析の適用事例(子会社のリスクスコア分析) - 「月刊監査役」寄稿記事 第3回

高度なデータ分析の適用事例(子会社のリスクスコア分析) - 「月刊監査役」寄稿3

多くの日本企業において課題となっている子会社管理に対し、効果的にデータ分析を適用する事例について紹介します。

小川 勤

品質管理本部 監査プラクティス部 部長 パートナー

あずさ監査法人

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この記事は、「月刊監査役『テクノロジーの進化による監査への影響について』」に掲載したものです。発行元である公益社団法人 日本監査役協会の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

連載初回において先端テクノロジーが会社経営及び会計監査に与える影響について紹介し、第2回では会計監査における先端テクノロジーの活用状況及び導入事例について説明した。連載最終回に当たる今回は、多くの日本企業において課題となっている子会社管理に対し、効果的にデータ分析を適用する事例について紹介する。

1. 子会社管理に関するリスク・課題

国内における生産・労働人口の減少及び需要の縮小を受け、日本企業は市場を海外に求め、積極的に海外進出を行っている。その結果、近年、日本企業の海外売上高の比率が劇的に高まっている。図表1は、日本の上場企業における海外売上高の推移を示している。2000年度には28.6%だった海外売上の割合は、直近の2017年度においては58.4%と、実に2倍以上増加している。つまり、現在日本企業の売上高の半分以上が海外で稼得されているのである。

図表1 日本企業の国内・海外売上高比率の推移

(単位:%)

日本企業の国内・海外売上高比率の推移(%)

このように急速にグローバル化が進む中、海外において日本企業がスピード感を持ってビジネス拡大を果たすにはM&Aが有効な手段となっており、事実2017年度の日本企業による海外企業の買収件数は200 件近くに上り、投資金額も増加の一途をたどっている。一方、海外企業の買収は、言語の壁や文化の違いから、当初期待したような技術獲得やシナジーを得られないといったケースは少なくない。また、物理的な遠隔性からガバナンスの目が届きにくく、場合によっては買収した子会社において不正が発覚することや多額の損失が発生することもある。実際、近年多くの企業で海外子会社・孫会社あるいはノンコアビジネスにおいて会計不正が相次いで発生している。こうした不正が起こった要因として、以下の事項が挙げられる。

  • 業績に対する過度なプレッシャー
  • グローバル人材の不足(モニタリング人材の不足)
  • 親会社によるガバナンスの機能不全
  • 海外子会社への限定的な関与(システムが一元管理されていない、人材流出リスクの懸念による親会社の限定的な関与等)


これらの子会社管理に関する問題解決に期待されるのがデータ分析である。以下、可視化・統計技術を用いた子会社管理に関するデータ分析の事例を紹介する。

2. データ分析を活用した子会社管理

(1)可視化の活用

まず、データ分析の活用として、データの可視化が考えられる。多様な視点を用いて容易に分析することができる仕組みを導入することで、全体の傾向を把握し、他とは異なる特徴を持った子会社を特定することが可能となる。
図表2は、売上高粗利益率をリスク指標として、全子会社を対象に分析を行った結果を表している。これを見ると、多くの会社が利益率5%弱から10%に収まっている一方で、海外子会社B社は21%、H社は17%と、他の子会社に比べ著しく利益率が高くなっていることが分かる。このB社・H社に対して売上債権や棚卸資産回転率など、更なる分析指標を用いてデータ分析を進めることで、棚卸資産の架空計上など固有のリスクに対する異常案件を発見する可能性が高くなる。

図表2 可視化を用いた子会社分析

図表2 可視化を用いた子会社分析

もちろん、利益率の高い新規ビジネスを開始した、あるいは利益率の高い会社を買収した、というような合理的な理由に基づく場合もあり得るが、不正の兆候の有無を把握するきっかけとして有用な手法と言える。
子会社数が増えてくると、全ての会社のリスクを網羅的に把握することは困難であるが、このような可視化の技術を活用することで、勘定明細を通査するより全体像を俯瞰してビジネスの状況を理解することができ、子会社管理を高度化する上での手助けとなる。

(2)統計手法の活用(リスクスコアによるランキング)

前述のとおり、可視化は全体傾向を把握し、他と異なる特徴を持った子会社を視覚的に捉える目的に対して有効に機能する。これに加え、過去の実績データや外部関連データを基に、統計的な手法を用いて分析することで、より客観的に各社の不正の兆候や異常な動きをあぶり出すことが可能になる。図表3は、五つのリスクシナリオに基づいた子会社のリスクをスコア化したダッシュボードである。

図表3 子会社リスクスコアリング

図表3 子会社リスクスコアリング

図表3は、五つのリスクシナリオを用いて、他の子会社と比べて異常値を含む会社(=リスクが高い会社)に「●」をつけている。このリスクシナリオは、各社ごとのKPI(Key Performance Indicator)や業種によって設定をする。例えば、インドの子会社Aは全ての項目について、「リスクあり」と判定されている。
それでは、「リスクあり」とされた項目の一つである、(3)在庫回転期間を見てみよう。
図表4の折れ線グラフのうち、下の正常範囲と判断されるグレーエリアである。このエリアの決定に当たっては、統計手法を用いている。このエリアから外れている会社については、「リスクあり」として、当該指標においてスコアが1点付与される。インドの子会社では、在庫回転期間が過去5年間継続的に正常範囲を超えているとともに、2018年度においては32か月と非常に長くなっていることから、明らかに当該指標に関するリスクは高いということが分かる。
その異常値を特定するために活用する統計手法は、箱ひげ図・決定木・ヒストグラム・回帰分析・クラスタリング等多くの手法が存在し、状況に応じて選択することになる。このように様々な切り口で、恣意性を排除した客観的な分析を行い、リスクの高い子会社の特定のサポートにつなげることができる。

図表4 子会社リスクスコアリング(在庫回転期間)

図表4 子会社リスクスコアリング(在庫回転期間)

(3)不正予測(データの蓄積・機械学習)

さらには、このような子会社データを蓄積し、過去の不正事例を教師データとして機械学習させることで、不正の発生リスクをスコア化するという取組も導入されつつある。膨大なデータから網羅的・客観的にリスクや課題を浮かび上がらせる仕組みを構築することで、より深度ある監査の実現につながっていく。

3. 子会社リスクスコアリング分析の効果

(1)金額的重要性の低い子会社のリスク

把握(新たな気付きの提供)従来の監査手続においては、金額的重要性を勘案した上で、子会社を個別に分析するという手法が主流であり、全子会社をくまなく検討するということは、人的にも、時間的にも困難な状況であった。しかしながら、十分に目が行き届いていない比較的小規模な子会社やノンコア事業を営む子会社において不正が発生するケースも増えている。そこで、こうした全ての子会社を対象とした全量分析を取り入れることで、金額的に重要性が高くない子会社におけるリスクの兆候を認識できる点で、新たな気付きを提供することが期待できる。また、こういった取組を導入することで、目の届きづらい子会社に対して(親会社がモニタリングしているという)強力な牽制をかけるという点でも、その意味合いは大きい。

(2)客観的な証拠の提供

上記新たな気付きの提供に加えて、従来リスクが高いと識別していた子会社についても、より客観的なデータ分析結果を得ることで、リスク評価の判断をサポートする材料となり得る。また、多角的な分析を通じて、どのエリアを重点的に検討すべきか、という点について示唆することも可能で、効果的な往査先の選定等、より深度ある監査につながることが期待される。
過去の経験から、一般的に不正が発生した会社は、事後的に財務数値を見ると、異常な動きをしており、なぜ気付くことができなかったのかとなるケースが多い。これは、この会社はもともとこのような動きをする会社だという人による思い込みが大きく影響している場合がある。データ分析による客観的な情報は、人の思い込みを排除することが期待できる。

(3)属人化の排除

ベテラン経理担当者や会計士の視点を分析指標として的確に取り込むことにより、特定の人物に依存することなく、誰でも様々な切り口で感覚的・視覚的にリスクを把握することが可能になる。
国内における人材不足が進む中、企業内においてもベテラン経理担当者が異動したり、定年になるものの、後継者となる人材が配置されなかったりすることで、内部で蓄積された知見が承継されないという課題がある。こうしたデータ分析を活用していくことで、ノウハウを共有化する仕組みを構築することが可能となる。
会計監査において導入されつつある子会社分析は、上記のような効果がある。グローバル化の進展だけでなく、ビジネスや環境そのものが日々変化している今日において、監査役等による監査も会計監査人や内部監査人とデータ分析結果を共有するなど連携することにより、リスクの高い子会社を適切に往査することや、執行側に適切な対応を促すことも可能になるであろう。

4. 課題

このようなデータ分析を効果的に実施・活用していくに当たっては、クリアすべき課題もある。

(1)システムの一元化・データの標準化

連載第1回、第2回でも述べたが、こうしたデータ分析を効果的に実行するためには、まず子会社財務諸表データが一元的に集約できる環境が必要となる。例えば、子会社が孫会社を連結した上で当該連結パッケージを親会社に送付しているような場合(サブ連結)、(サブ連結されている)孫会社自体の財務諸表は親会社の手元にはないため、上記で紹介した子会社リスクスコアリング分析の対象からは外れてしまう。

(2)人材育成・専門家の活用

人材という面では、分析手法やデータ分析に関する専門家が必要となる。会計監査においても、こうしたデータ分析を監査手法に取り入れるに当たっては、データ分析をサポートするデータサイエンティストやデータの抽出・加工をするIT専門家も含めてチームを組成している。
会社内においても、データ分析を取り入れようと検討する場合、適切なインフラ環境を整えるだけでなく、専門家の採用、既存人員への教育が重要となっている。

5. 最後に

「テクノロジーの進化による監査への影響について」をテーマに3か月にわたって連載を行ってきたが、改めて筆者が伝えたいのは図表5の点である。
今回の寄稿を通じて、監査役等の皆様が経営環境の変化に伴うリスクへの対応策として、先端テクノロジーへの取組を理解する足掛かりとなれば幸いである。

図表5

  • 先端テクノロジーは、今後の企業経営の在り方及び会計監査の手法に大きな影響を与える
  • 監査役等はその影響(効果・課題等)を十分に理解した上で、会社社内及び会計監査人が先端テクノロジーを効果的に適用しているか把握し、促す必要がある
  • その検討に当たっては、経営者及び会計監査人と十分な協議が必要である

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
次世代監査技術研究室 室長
小川 勤

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