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テクノロジーの進化が会社経営及び会計監査に与える影響とは? - 「月刊監査役」寄稿記事 第1回

テクノロジーの進化が会社経営及び会計監査に与える影響とは? - 「月刊監査役」寄稿1

AI、RPA、データ分析といった先端テクノロジーが会社経営及び会計監査に与える影響及びそれに対する監査役、監査委員、監査等委員の取るべきアクションについて紹介します。

執筆者

小川 勤

品質管理本部 監査プラクティス部 部長 パートナー

あずさ監査法人

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この記事は、「月刊監査役『テクノロジーの進化による監査への影響について』」に掲載したものです。発行元である公益社団法人 日本監査役協会の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

昨今、AIによる会社経営の高度化やビジネス領域の拡大に関する記事をよく目にするが、それがどこまで現場に浸透し、どこまでビジネスの成果に結び付いているのかは定かでない。一口にAIと言っても、人によってその定義は異なり、また、テクノロジーとしての用途も様々である。そこで、筆者は、まずどのような先端テクノロジーが経営及び会計監査の在り方を変える可能性を持ち、それがどのような影響を与えるか、そしてその導入における課題について整理した。その上で、企業経営の健全性と適正性を担保する役割を担う監査役、監査委員、監査等委員(以下「監査役等」という)の視点から取るべきアクションをまとめたので参考にしていただきたい。

1.先端テクノロジーによりできること、変わること

まず、現時点において先端テクノロジーと呼ばれるAI(Artificial Intelligence)、RPA(Robotic Process Automation)、そしてデータ分析について、その概要及び期待できる効果を紹介する。

a)AI

AI(人工知能)とは、人間の脳が行っている知的な作業を実行するソフトウェアやシステムのことで、経験から学び新たなインプットに順応することで、人間が行うようにタスクを行う。
具体的には文字認識・画像解析・音声解析・自然言語処理といった技術を駆使して、人間の処理能力をはるかに超える「量」と「スピード」をもって、あらゆる情報・データを解析し、機械学習を通じて膨大なデータを学習することで、従来人間が行ってきた作業の一部又は全部を代替することが期待されている。その対象範囲はスマートスピーカーのような身近なものから、自動車の自動運転・医療診断といったもので、実に幅広い分野で実用化が進んでいる。

b)RPA

RPAとは、これまで人間が手作業で行ってきた業務を、(ソフトウェアを含む)ロボットに代行してもらうことにより、業務の効率化・自動化を実装しようとする取組である。
RPAは、現在、プロセスやルールが定義された「定型業務の自動化」が中心であるが、今後は上記の人工知能、機械学習といった技術と組み合わせて、例外対応や非定型業務もこなすより汎用的なRPAにも注目が集まる。その代表例として、経理業務における入金消込の自動化、経費精算チェックの自動化などが挙げられる。

c)データ分析

データ分析とは、何らかの目的を持って表現されたデータ(文字、符号、数値等)を集計し、分類・整理・取捨選択の上で価値を見いだす取組で、これまで多くの企業において伝統的に利用されている。
昨今では、統計解析ソフトや可視化ツールを利用することで、積み上げた膨大な顧客データを基にした精度の高い売上予測やこれまで発見しづらかった異常項目の特定など、高度な分析が誰にでもできる世界が現実味を帯びてきている。分析目的を明確にし、統計手法・機械学習技術を通じて分析されたその結果は、様々な場面で経営者の判断をサポートする。特に売上拡大を狙ったマーケット予測や、後を絶たない会計不正の兆候把握などのシーンで大きな期待が寄せられる。

2.会社に与える影響

a)会社管理の高度化

会社管理という実務においては、先に述べた先端テクノロジーを効果的に組み合わせながら導入し、その高度化を実現していくことになる。例えば、データ分析により顧客情報のような膨大なデータを適時に処理・分析し、その結果を分かりやすく可視化して示すことで、顧客の実態について経営者の理解を深め、新たな気付きをもたらす一助を担う。その結果を基に、学習を重ねたAIが顧客を獲得できていない成長領域等を提案し、経営判断の質とスピードの向上をサポートする。その過程において、RPAが必要なデータ集計作業を自動で行う、といった具合である。
また、日系企業において、近年、不正の発生などにより課題が顕在化している海外子会社管理という点では、全子会社の財務数値を分析し、統計手法等を用いて不正や誤謬が発生し得るリスクの高い子会社を特定することも可能になるかもしれない。網羅的かつ客観的なデータによって示される分析結果は、特定の個人に頼り過ぎた属人的な判断を排除することにもつながる。分析作業のうち定型的な処理はRPAを用いて自動化される。このように、本社において高度な子会社モニタリングプロセスが確立され、煩雑な業務を効率化するだけでなく、海外子会社に対して有効な牽制を利かせることにもなると考えられる。
このような先端テクノロジーを用いた会社管理の高度化を実現するためには、まずその目的とビジョンを明確にする必要がある。先端テクノロジーの活用ありきではなく、当該テクノロジーを利用して何を達成したいか、どのような効果を生み出したいかが重要である。そのためには、会社の状況及び各業務が現在どのような状況であるか把握した上で、それに対してどのようなテクノロジーを適用し、どのような効果を得るべきかを整理することが重要となる。

b)課題と対応

  • 業務の仕分け、業務プロセスの標準化・定型化

先に述べたように、先端テクノロジーの活用による成果を得るには、明確な目的と現状の理解が必要であるが、他社に乗り遅れないようテクノロジーの利用から考える場合が多く見られる。本来は、まず「業務の仕分け」を行った上で「AI、RPA、データ分析をどこで何のために使うか」という目的を明確にするべきところを、「AIで何ができるか」という結果から求めるため、目指す方向を見失っているのである。
業務の仕分けをした上でテクノロジー活用の目的を明確化した後は、そのテクノロジーを活用する基盤を構築するための業務プロセスの標準化・定型化が必要となる。これは、日本の会社は一般的に属人的な業務や管理が行われているケースがまだ多く、そのままではテクノロジーの活用が難しい場合があるためである。
再び海外子会社管理を例に取ると、子会社からの財務報告プロセスや会計基準を統一化することがこれに当たる。IFRSの導入の流れを受け、多くの企業でその試みはなされているものの、いまだ十分な対応ができていない企業もある。

  • データの標準化・システムの集約化

業務プロセスの標準化・定型化と共に、先端テクノロジーを活用するための重要な課題は「データの標準化」・「システムの集約化」である。なぜなら、たとえプロセスが整備されたとしても、実際にデータ分析を行う、あるいはRPAを稼働させるとなると、システム及びデータが一定程度標準化され、また、集約化されていなければ、望むような活用はできない。
一定規模の企業は、ERP(EnterpriseResource Planning)システムを導入し、一見データの標準化・集約化が達成されているように見える。だが実際中身を見てみると、各子会社でカスタマイズされておりデータの標準化がされていない、また、同じERPシステムを使っているものの、日本と海外は別システム上で稼働している、ということが散見される。

  • 変わる勇気とやりきる覚悟

先端テクノロジーを有効活用する上では、まずその目的とビジョンを明確にすることが重要だと先に述べた。AIブームの中で危機感を募らせた経営者が「うちもAIを使ったデジタル改革を推進する」と命じても、現場レベルにその意識・意図が伝わらず、個々が片手間で対応しているうちは大きな成果は生まれず、逆に現場のストレスを生むはめとなる。変革には痛みがつきものであるが、現場は「そんなものはいらない、できない」といった言い訳でうまくやり過ごし、それに対して経営者も結果を追求せずに「やったふり」で放置していることも考えられる。経営者はより具体的に「どういった現状に対して、どのような手法で、どのような新たな価値を見いだしていくか」という明確な目的とビジョンを打ち立て、それに伴う変化を受け入れる勇気を持つことが必要である。そして現場と一体となって、それを最後までやりきる覚悟が重要となる。

c)経営者に確認する事項

上記のとおり、先端テクノロジーの活用といっても、ただ「活用しよう!」と経営者が音頭を取ったところで適切に進むものではない。監査役等として、経営者に対して図表1の事項を確認してみてはどうだろうか。

図表1 経営者に確認する事項

  • 先端テクノロジーを活用する目的・ビジョンは明確か?(テクノロジーの活用ありきでないか)
  • AI、RPA、データ分析を実施するに当たって前提となる、業務プロセスの標準化・定型化、及び、データの標準化・システムの集約化も意識して対応できているか?
  • 現場レベルまで目的・ビジョンは十分に浸透しているか?「やったふり」をしていないか?

3.監査に与える影響

a)監査品質の向上

先端テクノロジーを取り入れた次世代の監査も既に実装化の動きを見せているが、「企業が作成する財務諸表の信頼性を担保する」という監査の目的自体は従来と全く変わっていない。これまでも監査人は、過去の事例や自らの勘と経験に基づきあらゆる会計事象に対して判断を行ってきた。しかしながら、企業のビジネス拡大・複雑化に伴い、近年監査人が会計不正を見抜けなかったという事例が相次いでいる。これは、金額的に重要性の高い取引や無作為に抽出した取引のみを検証する「試査」の限界を示唆していることに他ならず、既存のアプローチだけでは会計監査は社会への期待に十分に応えられないかもしれない。
そこでAI、データ分析等の先端技術を有効に活用した次世代の監査に期待が寄せられる。例えば不正の兆候を把握するために、今まで実施されてきた売上予算と実績データを比較するという分析に加え、可視化の技術を活用することで、決算月に押し込んだと見られる架空売上のリスクを「視覚的」に捉え、分析結果を利用する会計士の思い込みや異常値を見逃すリスクを排除することができる。さらには高度な統計手法や機械学習の技術を組み合わせることによって、特定の取引、仕訳レベルで不正である確率を予測することも可能になる。
これら一連の監査作業の実施においては、RPAを有効に活用することにより、正確なアウトプットと効率化を達成することができる。RPAは24時間働いても疲れることはなく、集中力の低下による作業品質のばらつきもない。このように先端技術を駆使した監査の高度化は、監査品質と効率性を向上させ、先に述べた監査の目的である「財務諸表の信頼性確保」に大きく貢献するものである。

b)課題と対応

  • データ入手の可能性

昨今の監査においては、被監査会社から基幹システムの閲覧権限が付与され、監査人は直接データにアクセスできるケースも増えている。一方で、監査人と経理部、情報システム部の連携がうまくいかず適切なデータを入手できないケースも散見される。時間とコストをかけた挙句、望んでいたものとは異なるデータが出てきた、あるいは個々のカラムにあるべき情報が入っていないような歯抜けのデータであったという話はよく耳にする。これでは思い描いた分析結果は得られない。監査において先端技術を有効活用するためには、必要なデータを必要なタイミングで入手することが重要で、監査人がその必要性を被監査会社に十分に説明することが必要であるとともに、被監査会社のデータ提供に関する協力が不可欠である。

  • 多様な専門家の利用

監査の高度化を実現するためには、監査人もデータ分析やシステムに関わる知識を持たなければならないが、一人の会計士がその全ての分野をカバーすることは現実的でない。そのため、IT専門家、AI専門家、データサイエンティストといった会計監査以外の領域の専門家と協力しながら監査を行うことが重要になる。これまでの監査においても年金数理人・企業価値評価専門家といったスペシャリストが必要に応じて関与していたが、次世代監査の実施という観点では、様々な専門家が、テクノロジー利用の目的の設定から結果の評価に至るまであらゆるステージにおいて協業し、成果に結び付けることが重要である。

  • 先端テクノロジーを活用した判断力の向上

「会計士という職業は、将来AIに取って代わられる」という言葉をしばしば耳にする。しかしながら、最後に判断を下すのは、会計監査に関する知見・経験を有する人間であり、先端テクノロジーは、飽くまでその人間が判断するためのサポートを提供するものであると考える。例えば、AIから出た結果に対して、ブラックボックス化されているアルゴリズムを基に不正や誤謬を指摘しても被監査会社の理解は得られないであろう。実際には、これらの技術を使ってはじき出された分析結果をサポートデータとして活用し、監査人が自らの知見と経験を基にあらゆる要素を考慮した上で最終判断を下し、それに基づき被監査会社に説明することで、理解が得られるのである。したがって、重要になるのは、監査人がAIを始めとする先端技術と上手に共存しながら、それを有効利用する形で判断能力を向上させていくことであり、それこそが次世代の監査人に求められる必須スキルとなる。

c)会計監査人に確認する事項

上記のとおり、会計監査において先端テクノロジーを有効に活用するためには、監査人も対応すべき事項が多い。それを担保するために、監査役等として会計監査人に対して図表2の事項を確認してみてはどうだろうか。

図表2 会計監査人に確認する事項

  • 会計監査において、どのような技術を、どの場面で、何を目的として活用しているか?
  • そのような先端テクノロジーを活用するために必要となるデータは会社と会計監査人間で特定され、また、十分に提供されているか?
  • 会計監査人は適切なスキルを持った専門家を活用しているか?
  • 分析結果を会計士が判断する能力を持っているか?

先端テクノロジーによる変革は、ビジネスの持続的な成長につながる多くの可能性を持つ一方で、上述のとおり対処すべき課題はたくさんある。本連載が、先端テクノロジーの導入について監査役等として経営者とどう取り組んでいくべきか、監査人との連携を通じて経営の健全性と適正性をどのように担保していくべきか、その整理・考察に役立てば幸いである。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
次世代監査技術研究室 室長
小川 勤

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