LMEの責任ある鉱物調達に関するコンサルテーション文書

2019年4月23日、ロンドン金属取引所(LME)が公表したコンサルテーション文書において加えられた重要な変更点を紹介しています。

2019年4月23日、ロンドン金属取引所(LME)が公表したコンサルテーション文書において加えられた重要な変更点を紹介しています。

これは、2018年10月に公表した「ポジションペーパー」(概要については「LME(ロンドン金属取引所)によるポジションペーパーの公表」を参照ください)に対して得られた市場参加者からのフィードバックを踏まえて作成されたものです。コンサルテーション文書において加えられた重要な変更点は以下のとおりです。

対象となる金属

対象となる金属は、現物決済の商品である、プライマリー・アルミニウム、アルミニウム合金、北米特殊アルミニウム合金(NASAAC)、コバルト、銅、鉛、ニッケル、スズ、亜鉛の全9種類の金属です。2019年3月11日付で現物決済でなくなったモリブデンは対象から外されています。

責任ある調達のフレームワーク

コンサルテーション文書で示されている責任ある調達のフレームワークに関しては、LMEのResponsible sourcingのコンサルテーションのウェブページにある図をご参照ください。

1)ブランド分類
まず、生産者(Producers)自らが実施したレッドフラッグ評価(Red Flag Assessment)の結果に基づき、個々のブランド(Brands)は、潜在的リスクの高い「高フォーカスブランド(Higher-Focus Brands)」と潜在的リスクの低い「低フォーカスブランド(Lower-Focus Brands)」に分類されます。レッドフラッグ評価を行うのは生産者ですが、生産者はその結果をLMEに報告し、LMEはそれをレビューした上で、ブランド分類を行います。したがって、生産者自身の評価は「レッドフラッグなし」であっても、LMEのレビューの結果として「レッドフラッグあり」と判断され、高フォーカスブランドに分類される可能性があります。
ポジションペーパーでは、コバルトとスズは、潜在的なリスクが高いという理由から、自動的に高フォーカスブランドに分類されていましたが、ポジションペーパーに対するフィードバックを踏まえ、コバルトとスズについても他の金属と同じようにレッドフラッグ評価を経た上で、高フォーカスブランドか低フォーカスブランドに分類されることになりました。したがって、ポジションペーパーで提案されていた「コバルトについての過渡的な措置」もなくなり、すべての金属は同じように扱われることになります。
低フォーカスブランドに分類されたブランドは、毎年、レッドフラッグ評価を実施し、その結果をLMEに報告することが求められます。レッドフラッグ評価は、毎年、前年の7月1日から当年の6月30日までの1年間を対象期間とした評価結果を、12月31日までにLMEに提出する必要があります。

2)ブランドコンプライアンス
高フォーカスブランドに区分されたブランドは、生産者独自の基準あるいは外部の基準を採用し、その基準への準拠性について監査を受けることが求められます。生産者が採用する基準はOECD紛争鉱物ガイダンスと整合している必要がありますが、整合性の評価はLMEが認定した評価者が実施します。最終的に認定評価者の評価結果をLMEがレビューし、基準が承認されます。

レッドフラッグ評価テンプレート

レッドフラッグ評価の方法や報告内容に関してLMEが求める水準を明確にしてほしいというリクエストを踏まえ、LMEは、評価と報告のための標準的なテンプレート(LME Red Flag Assessment Template)を作成しました。これは、すべての金属に共通のものであり、以下の報告項目から構成されています。

  • ブランドの基本情報(ブランド名、LMEブランドコード、生産者の社名・住所、連絡先、報告期間、提出日)
  • マネジメントシステム、サプライチェーンリスクの評価、リスクマネジメント
  • 原材料の鉱石の採掘地と経由地
  • サプライヤー
  • 原材料の鉱石の採掘地と経由地に基づく評価
  • 金融犯罪や腐敗のリスク
  • レッドフラッグ評価

レッドフラッグ評価の公表

LMEに対して提出されたレッドフラッグ評価は、最初の2年間については、LMEは集計結果のサマリー情報のみを公表します。そして、3年目と4年目にはブランド名がわからないようにしたレッドフラッグ評価を公表し、5年目以降にはじめてレッドフラッグ評価をそのままの形で公表します。

環境・安全マネジメントシステムの認証取得

生産者はISO14001とOHSAS18001あるいはISO45001の認証を取得する必要があります。ISOやOHSASと同等の認証プログラム(Equivalent Certification Programmes)を用いることも可能ですが、その場合、LMEが維持する「同等の認証プログラム」のリストにないものについては、同等であることについてLMEの承認を受ける必要があります。

タイムライン

アクション 期限
レッドフラッグ評価テンプレートの提出 2020年12月31日(以降、毎年12月31日までに更新されたものを提出)
採用しようとする基準の特定 2021年12月31日
基準の承認 2022年6月30日
基準に対する準拠性に関する監査 2022年12月31日
環境・安全マネジメントシステムの認証取得 2022年12月31日

考察

コンサルテーションの期限は2019年6月30日ですので、コンサルテーション文書の内容に関して懸念点があれば、LMEに対し、個々の会社としてあるいは業界団体を通じて、それをLMEに伝える必要があります。しかし、コンサルテーション文書は、ポジションペーパーに対するフィードバックが既に反映されたものであることから、大幅な変更は受け付けられない可能性があります。
仮にコンサルテーション文書から大きく変わらない形でルールが確定した場合、最初に求められることは、2019年7月1日から2020年6月30日までの期間の実績についてレッドフラッグ評価を行い、テンプレートを作成し、2020年12月31日までにLMEに提出することです。レッドフラッグ評価テンプレートの中では、原材料の鉱石の採掘地と経由地といった情報だけでなく、責任ある鉱物調達に適用される方針やマネジメントシステム、サプライチェーンリスクの評価、リスクマネジメントなどの情報も求められますので、ブランドに対応する責任ある鉱物調達の方針やマネジメントシステム、リスク評価の仕組みなどが現時点で確立していなければ、早急にそれらを整備する必要があります。この段階でレッドフラッグ評価テンプレートにどこまで記入できそうか検討を行った上で、記入することが難しい事項について早めに対応を進めることが推奨されます。特に、「紛争地域および高リスク地域」(CAHRA)の特定は原則的に生産者に任されており、CAHRAの特定には時間がかかることも予想されることから、なるべく早めに検討に着手し、対応すべき事項を明確にし、計画的に対応することが重要であると考えます。
また、ブランド分類を最終的に決定するのはLMEですが、レッドフラッグ評価を早めに実施し、高フォーカスブランドに分類されそうか、低フォーカスブランドに分類されそうか、ある程度の見極めを行っておくことを推奨します。その上で、高フォーカスブランドに分類される可能性があると判断する場合、外部の基準を採用すべきか、自らの基準を採用すべきか、できるだけ早めに検討に着手することが望ましいと考えます。

参考情報(外部サイト)

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