税効果会計の改正における実務上のポイント

会計・監査ジャーナル(第一法規株式会社発行)2019年3月号にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

会計・監査ジャーナル(第一法規株式会社発行)2019年3月号にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

この記事は、「会計・監査ジャーナル 2019年3月号」に掲載したものです。発行元である第一法規株式会社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

1.はじめに

企業会計基準委員会(ASBJ)は、平成30年2月16日に、以下の企業会計基準及び企業会計基準適用指針(以下合わせて「本会計基準等」という。)を公表した。

  • 企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」(以下「税効果会計基準一部改正」という。)
  • 企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下「税効果適用指針」という。)
  • 改正企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下「改正回収可能性適用指針」という。)
  • 企業会計基準適用指針第29号「中間財務諸表等における税効果会計に関する適用指針」

本会計基準等は、平成30年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用される(ただし、税効果会計基準一部改正は、平成30年3月31日以後最初に終了する連結会計年度及び事業年度の年度末から早期適用できる。)。本稿では、平成31年3月期における本会計基準等の適用にあたっての留意事項を解説する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。

2.会計処理に関するポイント

税効果適用指針は、会計制度委員会報告第6号「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(以下「連結税効果実務指針」という。)と会計制度委員会報告第10号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(以下「個別税効果実務指針」という。)等の内容を基本的に踏襲しているが、連結税効果実務指針と個別税効果実務指針を統合して構成及び表現を見直すだけでなく、会計処理の一部(改正回収可能性適用指針に関連する部分を含む。)についても見直している。このため、以下では、会計処理の見直しを行った主な取扱いを記載する。

(1)個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱い

従来の取扱いでは、個別財務諸表における子会社株式又は関連会社株式(以下合わせて「子会社株式等」という。)に係る将来加算一時差異について、「支払が見込まれない場合」と「組織再編に伴い受け取った子会社株式等に係る一時差異」のうち一定の要件を満たす場合を除き、一律に繰延税金負債を計上することとされていた。
この点につき、連結財務諸表における子会社に対する投資に係る将来加算一時差異(留保利益に係るものが配当により解消される場合を除く。)と、個別財務諸表における子会社株式に係る将来加算一時差異は、いずれも投資の売却又は子会社の清算により解消される点で共通していることから、税効果適用指針においては、個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱いを、連結財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱いに合わせている。すなわち、個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱いについて、親会社又は投資会社がその投資の売却等を当該会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思がない場合を除き、繰延税金負債を計上する取扱いに変更している(税効果適用指針第8項(2)2.)。

(2)(分類1)に該当する企業における繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い

改正回収可能性適用指針第18項では、「(分類1)に該当する企業においては、原則として、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする。」と「原則として、」を追加している。これは、例えば、完全支配関係にある国内の子会社株式の評価損について、企業が当該子会社を清算するまで当該子会社株式を保有し続ける方針がある場合等、将来において税務上の損金に算入される可能性が低い場合に、当該子会社株式の評価損に係る繰延税金資産の回収可能性はないと判断することが適切であると考えられることを明確にするために行われた改正である。

3.表示に関するポイント

従来の取扱いでは、繰延税金資産及び繰延税金負債の表示に関して、主にこれらに関連した資産及び負債の分類に基づいて、繰延税金資産については流動資産又は投資その他の資産として、繰延税金負債については流動負債又は固定負債として表示しなければならないとされていた。
これに対して、国際的な会計基準では繰延税金資産又は繰延税金負債を非流動区分に表示するとされているため、以下も勘案し、すべてを非流動区分に表示することに改正している(税効果会計基準一部改正第2項)。

  • 我が国の会計基準の取扱いを国際的な会計基準に整合させることは、一般的に、財務諸表の比較可能性が向上することが期待される。
  • すべてを非流動区分に表示する場合、財務諸表作成者の負担が軽減される。
  • 変更による流動比率に対する影響は限定的であり、財務分析に影響が生じる企業は多くないと考えられる。

当該変更は表示方法の変更として取り扱われるので、表示する過去の財務諸表について、新たな表示方法に従い、組替えを行う必要がある。そのため、比較情報である前連結会計年度の連結財務諸表の組替えにおいては、納税主体ごとに、流動区分に計上されていた繰延税金資産又は繰延税金負債を固定区分にいったん組み替えて相殺を行った上で、納税主体ごとの繰延税金資産又は繰延税金負債を合算して連結財務諸表を作成する点に留意が必要である。
なお、会社計算規則(平成18年法務省令第13号)においても、繰延税金資産については投資その他の資産として、繰延税金負債については固定負債として区分表示する改正がなされている(「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令」(法務省令第5号))。

4.注記事項に関するポイント

税効果会計基準一部改正では、財務諸表利用者が税効果会計に関連する注記事項を利用する目的やその分析内容、実際に利用している情報を検討した上で、現状において不足している情報を明確にすべきとの観点から、注記事項を追加している。具体的には、図表1のように、主として株価予測を行う財務諸表利用者及び主として企業の信用力の評価を行う財務諸表利用者が一般的に行っている分析内容を踏まえ、将来の税負担率の予測の観点と繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性の評価の観点から、必要と考えられる注記事項が追加されている。

図表1

分析者 分析内容
主として株価予測を行う財務諸表利用者
  • 一般的に、6か月から1年後程度の株価を予想し、当該株価に対して現在の株価が割安か割高かについての分析を行っている。
  • 将来の株価については、主に株価収益率(PER)、株価純資産倍率(PBR)、ディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)、又はそれらのうち複数を用いて予想している。
主として企業の信用力の評価を行う財務諸表利用者
  • 主として株価予測を行う財務諸表利用者の分析に加え、企業の財務の安全性や債務の返済能力についても分析を行っている。

今回追加された内容の中には、その内容が企業の置かれている状況により様々であると考えられるため、税効果会計基準一部改正においてはどのような事項を記載するかについて特段定められていない項目がある。したがって、注記事項の記載にあたっては、改正の趣旨を踏まえて、抽象的な内容ではなく、企業固有の具体的な内容が記載されているかどうかについて留意する必要があると考えられる。

(1)評価性引当額の内訳に関する事項

1.評価性引当額の内訳に関する数値情報(税効果会計基準一部改正第4項(注8)(1))
税効果会計基準一部改正では、これまで「繰延税金資産及び繰延税金負債の発生原因別の主な内訳の注記」(以下「発生原因別の注記」という。)に示されていた評価性引当額の合計額について、税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額と将来減算一時差異等の合計に係る評価性引当額に区分して記載することを定めている。
この記載にあたっては、税務上の繰越欠損金が生じている場合に必ずしも区分して記載するのではなく、発生原因別の注記として税務上の繰越欠損金を記載している場合であって、当該税務上の繰越欠損金の額が重要であるときに区分して記載することとされている。発生原因別の注記として税務上の繰越欠損金を記載するかどうかの基準は、従来から税効果会計基準において特に定められていないので、開示にあたっては、財務諸表利用者による税負担率の予測の観点及び繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性の評価の観点から、その重要性に鑑みて、企業の状況に応じて適切に判断することが考えられる。

2.評価性引当額の内訳に関する定性的な情報(税効果会計基準一部改正第4項(注8)(2))
財務諸表利用者が評価性引当額の変動の内容を理解し、税負担率に影響が生じている原因を分析することに資するように、定性的な情報として当該変動の主な内容についての注記事項が定められている。当該変動の内容は企業の置かれている状況により様々であると考えられるため、当該変動の主な内容にどのような事項を記載するかについて、特段定められていない。
したがって、各企業の固有の状況を具体的に記載することが想定されるが、財務諸表利用者の税負担率の分析に資する情報を開示するという趣旨を踏まえると、当該注記事項には、例えば、企業集団内のどの会社における評価性引当額が主に変動したのか、どの項目に係る評価性引当額がどのような事由で変動したのかなどの情報を記載することが考えられる。

3.評価性引当額の注記の対象となる範囲
繰越外国税額控除や繰越可能な租税特別措置法上の法人税額の特別控除等に係る繰延税金資産について、繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)を注記の対象とするか否かが明らかではないとの意見が聞かれたことから、これらについても評価性引当額に関する注記の対象となることが明らかにされている(税効果会計基準一部改正第4項(注8)(1)なお書き及び第32項)。
なお、子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異について、税効果適用指針第22項(1)を満たさないことにより繰延税金資産を計上していない場合、当該将来減算一時差異に係る繰延税金資産が存在しないため、繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)も存在しない。また、組織再編に伴い受け取った子会社株式等(事業分離に伴い分離元企業が受け取った子会社株式等を除く。)に係る将来減算一時差異のうち、当該株式の受取時に生じていたものについて、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思決定及び実施計画が存在しない場合に、税効果適用指針第8項(1)ただし書きにより繰延税金資産を計上していないときについても同様である。

(2)税務上の繰越欠損金に関する事項

1.税務上の繰越欠損金に関する繰越期限別の数値情報(税効果会計基準一部改正第5項(注9)(1))
税務上の繰越欠損金の繰越期間にわたって課税所得が生じたときの税負担率の予測に資するように、税務上の繰越欠損金に関する数値情報として、繰越期限別に、税務上の繰越欠損金の額に納税主体ごとの法定実効税率を乗じた額、当該税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額及び当該税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の額についての注記事項が定められている。
なお、年度の区切り方については、税務上の繰越欠損金の状況に応じて適切に設定することが考えられるため、特段定められておらず、企業の状況に応じて、適宜、設定することができる。この点、主として株価予測を行う財務諸表利用者が将来2年から5年後の予想財務諸表を用いて税負担率の予測を行っていることを踏まえ、5年以内に繰越期限が到来する場合には比較的、短い年度に区切ることが考えられるとされている。また、平成30年3月期決算における早期適用の事例においては、5年以内の期間を1年単位で区切っている例が多く見受けられた。

2.税務上の繰越欠損金に関する定性的な情報(税効果会計基準一部改正第5項(注9)(2))
税務上の繰越欠損金に関する繰越期限別の数値情報のほかに、財務諸表利用者による税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性の評価に資するように、定性的な情報として当該繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由についての注記事項が定められている。
なお、回収可能と判断した主な理由は、企業の置かれている状況により様々であると考えられるため、当該理由にどのような事項を記載するかについて、特段定められていない。したがって、各企業の固有の状況を具体的に記載することが想定されるが、当該注記事項は、繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性の評価に資する情報を開示することを目的としていることを踏まえると、例えば、企業集団内の主にどの会社で生じた税務上の繰越欠損金で、どのような事由により発生したか、どのような事由により将来において税務上の繰越欠損金を解消させると見込んでいるのかを記載することが考えられる。

(3)個別財務諸表における注記事項

個別財務諸表においても評価性引当額の内訳に関する数値情報(4.(1)1.参照)の記載を求めることとしている。一方、評価性引当額の内訳に関する定性的な情報(4.(1)2.参照)、税務上の繰越欠損金に関する繰越期限別の数値情報(4.(2)1.参照)及び税務上の繰越欠損金に関する定性的な情報(4.(2)2.参照)は、従来から税効果会計基準に定められている注記事項及び財務情報以外についての開示等から理解し得る部分も少なくないことから、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表において当該注記事項の記載を要しない(税効果会計基準一部改正第4項及び第5項)。

(4)適用初年度の取扱い

税効果会計基準一部改正の適用初年度において、同基準の適用は表示方法の変更として取り扱われるため、比較情報については税効果会計基準一部改正により追加された注記事項を記載する必要がある。ただし、適用初年度における実務上の負荷が配慮されており、経過的な取扱いとして、税効果会計基準一部改正により追加された注記事項を比較情報に記載しないことができる(税効果会計基準一部改正第7項)。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
公認会計士
前田 啓(まえだ けい)、三宮 朋広(さんのみや ともひろ)

このページに関連する会計トピック

会計トピック別に、解説記事やニュースなどの情報を紹介します。

このページに関連する会計基準

会計基準別に、解説記事やニュースなどの情報を紹介します。

お問合せ