「やって終わり」にしないコンプライアンス意識調査~2018年度を振り返り、令和時代に備える

「やって終わり」にしないコンプライアンス意識調査~2018年度を振り返り、令和時代に備える

本稿では、日本企業のコンプライアンス対応の変化を踏まえ、投資対効果の高いコンプライアンス意識調査に再構成していくためのポイントや留意点を解説します。

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グローバル化をはじめとする環境変化に対応できないまま、コンプライアンス対応上の意義が乏しいコンプライアンス意識調査を実施し続けている例が少なくありません。
日本版司法取引やGDPRの施行、海外贈収賄規制違反、品質不祥事等、2018年度に発生した制度変更・不正事案を踏まえれば、日本企業のコンプライアンス対応は、大きな転換点を迎えたものと考えられます。本稿では、そうした環境変化を踏まえ、投資対効果の高いコンプライアンス意識調査に再構成していくためのポイントや留意点を解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 2018年度は日本企業に大きな影響を与える不正事案の発生、制度改正・導入がなされ、各企業においても対応を進める必要がある。コンプライアンス意識調査についても、法規制違反の未然防止に偏重することなく、不正の早期発見・発見後の適切な対応に資するものとすべく、実施目的を見直し、目的に沿った調査項目・対象・手法等を再検討していく必要がある。
  • コンプライアンス意識調査を「やって終わり」にしないために、グローバルコンプライアンス体制構築・改善に向けた一連の施策のなかでの位置付けを明確にし、調査後に取り組むべきアクションにかかる仮説を検証する手段としてとらえ、実施することが肝要である。

I. はじめに

1. 形骸化したコンプライアンス意識調査の再生に向けて

多くの企業で実施されていると思われるコンプライアンス意識調査ですが、従前から行っている調査を見直さずに引き継いでいる等、調査がルーティーンワーク化し、形骸化してしまっている例も散見されます。
そこで、コンプライアンス対応の投資対効果の最大化に向け、事業のグローバル化をはじめとする環境変化や日系企業で相次ぐ不祥事等を踏まえ、新たな時代に対応したコンプライアンス意識調査へと生まれ変わらせるためのポイントと留意点を解説します。

II. 2018年度の振り返り

まず、今後の取組みを進めるにあたって踏まえておくべき環境変化・現況を確認するべく、コンプライアンスの観点から2018年度を振り返ります。

1. コンプライアンス活動に求められる発想の転換

2018年度、日本企業はコンプライアンス対応のさらなるグローバル化に向け、大きな転換点を迎えました。すなわち、グローバルコンプライアンスリスクの代表格である贈収賄リスクについて、リスクを十分に認識していたであろう企業でも防止しきれなかった事案、海外規制当局との司法取引を見据えた弁護士秘匿特権の保護を念頭に第三者委員会報告書の公開を限定的なものにするといった品質不祥事対応、さらに米国等で見られる手法の一部輸入である日本版司法取引制度の導入を受け、「法規制違反はすべからく未然防止すべきであり発生しない」との日本式コンプライアンス思考ではもはや通用せず、「法規制違反は起こり得るものである」として対応を進めるグローバルコンプライアンス思考へ、発想の転換を図る必要が生じています。

2. 依然として相次ぐ企業不祥事

2018年度は、2017年度以前から引き続いて、品質不祥事をはじめとするデータ改ざん、顧客や取引先との契約・手続違反事案が相次ぎました。また、罰金額が数百億円に上るFCPA(海外腐敗防止法、US Foreign Corrupt Practices Act)の摘発事案が発生し、海外贈収賄規制への対応の重要性が改めて確認されました。海外贈収賄規制については、日本版司法取引という新たな制度の第1号適用事案ともなり、その後、間を置かずに第2号適用事案も発生し、新たな制度への対応が各企業の喫緊の課題と位置付けられることにもなりました。加えて、各企業に大きな負荷を強いることとなったGDPR(EU一般データ保護規則、General Data Protection Regulation)が2018年5月に施行され、2019年1月には5,000万ユーロの罰金が課される事案が発生しています。
このうち、海外贈収賄規制については、KPMG Insight Vol.22(2017年1月号)「今、見直すべきグローバル法務・コンプライアンスリスク対応 ~贈収賄規制対応を一例として~」にて、品質不祥事については、KPMG Insight Vol.31(2018年7月号)「誤解と混乱の「品質」リスクへの実効的な対応に向けて」にて、GDPRについては、GDPR関連記事バックナンバーにて、詳しく取り上げているので、あわせてご参照いただければと思います。

3. 日本版司法取引制度のインパクト

日本版司法取引制度とは、端的に言えば、他人の犯罪について捜査協力することで、自らの罪につき有利な処分を受けられるよう検察官と取引をするものです(図表1参照)。

図表1 日本版司法取引制度(証拠収集等への協力および訴追に関する合意制度)の概要
図表1 日本版司法取引制度(証拠収集等への協力および訴追に関する合意制度)の概要

本制度の第1号適用事案により、企業と役職員個人とが、刑事手続において対立関係となり得ることが明確になり、不正の早期発見、発見後の対応にかかる体制・取組みの見直しに取り組む企業が増加しています。

III. コンプライアンス意識調査の見直しポイント

前章で確認した環境変化を踏まえ、コンプライアンス意識調査の投資対効果を最大化するための主な見直しポイントを解説します。

1. 前提となる実施目的の見直し

環境変化を踏まえた見直しが行われておらず、「やって終わり」、すなわち、コンプライアンス意識調査の実施自体が目的化してしまっている例が散見されます。コンプライアンス意識調査と一言でいっても、その目的は、コンプライアンス対応のみならず、CSR対応や不正の再発防止策など企業によって大きく異なります。社外開示情報となるため、回答率を100%に近づけることが至上命題となり、未回答者への催促で手一杯になった結果、分析・活用がおろそかになってしまう、再発防止策として導入したためどのタイミングで見直しを加えていいものか判然としないまま継続実施しているなど、コンプライアンス対応としての実効性の欠如はもちろん、そもそもの目的すら見失った形で実施されてしまっているケースが多く見られます。
コンプライアンス活動における発想転換の要請を踏まえれば、各企業においては、法規制違反の未然予防にかかる取組みへの偏重から、違反の早期発見・発見後の適切な対応にも目配りし、バランスのとれたコンプライアンス対応を志向していかねばなりません。米国FCPAの規制当局であるDOJ(司法省、Department of Justice)およびSEC(証券取引委員会、Securities and Exchange Commission)においても、すべての不正を防止できるコンプライアンスプログラムはないと明言しており※1、未然予防に偏った取組みは、かえってコンプライアンスプログラムの有効性・実効性を阻害することになりかねません。
現状の意識調査の目的を確認し、現況にその目的が該当するか検討するとともに、法規制違反の未然予防、早期発見および発見後の適切な対応に向けた具体的なアクションにつなげることを目的とするよう見直しを進める必要があります。

※1 FCPA違反につながるリスクの考え方や企業に求められるコンプライアンスプログラムをとりまとめたガイドラインであるA Resource Guide to the U.S. Foreign Corrupt Practices Act(以下、「FCPAガイド」という。)において、DOJ and SEC understand that no compliance program can ever prevent all criminal activity by a corporation's employeesと記載されている。FCPAガイドの全文は米国DOJウェブサイトから入手できる

2. 調査項目

目的の見直しを踏まえ、法規制違反の予防・発見・対応をカバーしたコンプライアンスプログラム全体に目配りしつつ、法規制違反リスクやその予兆等について、調査項目に含めていくことが必要です。
ここでは、主に、贈収賄規制と品質不祥事を踏まえた検討を例に取り上げて解説します。
 

(1)贈収賄規制

FCPAに特化したガイドラインであるFCPAガイドやコンプライアンス体制全般をカバーした「Evaluation of Corporate Compliance Programs」※2を参照し、DOJ等の規制当局の要請事項を充足しつつ、関連するリスク概況を確認することで意識調査の実施意義を二重のものにすることができます。
よく見られる傾向として、年に一度の機会を有効活用しようと、調査項目に広範な内容を含めようとしがちですが、実施目的に照らし、調査後に取り組むべきアクションにつなげるべく、仮説をもって絞り込みを行うことこそが肝要です。例えば、「予防策に比して早期発見策が不十分なので強化する必要がある」との仮説を立案しているのであれば、贈収賄防止関連規程と内部通報制度の認識状況を比較できるように設計するなど、調査後のアクションの正当性を根拠づける資料とすることを見据えて設問項目を起案するべきでしょう。
なお、KPMGでは、上述したものを含む、各種コンプライアンスガイドラインをとりまとめた「Compliance Program Framework」※3を作成しています。図表2に、同Frameworkに基づいて、特に法規制違反の早期発見・発見後の適切な対応とのつながりが深い項目例を、贈収賄リスク概況の確認に係る項目例と合わせて、一例として掲載しています。

図表2 調査項目例

分類 項目 設問例




贈収賄リスク
  • 公務員との接点があるか
  • 国営企業と民間企業の区別は明確になっているか
  • 接点がある公務員が有する裁量は大きいと感じるか



人材、スキル
  • 上司は売上・利益に偏重してコンプライアンスに反する指示をしていないか
  • コンプライアンスに反した役職員は、公平かつ一貫性をもって懲戒されているか



モニタリング/監査
  • 内部通報制度の存在を認識しているか
  • 法規制違反発生時の上司への報告・内部通報が自身の義務であると認識しているか





問題対処・調査
  • 法規制違反発生時の調査協力が自身の義務であると認識しているか
  • ルールに準拠した文書管理を実施しているか※4

※2 2017年2月8日、DOJにより、当局の不正調査における企業のコンプライアンスプログラムの評価に関する枠組みを示すものとして発表された。全文は米国DOJウェブサイトから入手できる
U.S. Department of Justice Criminal Division参照

※3 Frameworkの詳細は、前掲KPMG Insight Vol.31(2018年7月号)「誤解と混乱の「品質」リスクへの実効的な対応に向けて」参照

※4 当局からの調査時、文書管理が杜撰で存在するはずの文書が存在しないために証拠隠滅を疑われるといったリスクを念頭に置いている

(2)品質不祥事

自社と近い事業を営んでいる企業、あるいは同種の業務にて発生した品質不祥事事案の第三者委員会報告書・社外委員会報告書を参照し、自社にも該当し得る原因・状況等を調査項目に含めることが考えられます。各事案で共通する原因については、前述のKPMG Insight Vol.31(2018年7月号)にてとりまとめていますので、ご参照ください。あわせて、一般的な職場・就業環境について確認することも、品質不祥事をはじめとする法規制違反の原因につながる予兆確認となり得るため(図表3参照)、検討に含めるべきです。

図表3 職場・就業環境の課題と品質不祥事とのつながり

職場・就業環境の課題 品質不祥事例
人手不足・過剰労働 業務量過多により納期を守れず、データ改ざんを行った例
業務上のプレッシャー 営業部門からのプレッシャーに抗しきれずに取決めを逸脱した例
部門間のコミュニケーション 営業部門が顧客と取り決めた内容が社内に十分に展開されておらず、遵守できなかった例

ここでも、例えば、生産部門の非管理職層における人員不足が問題となっており、アプローチすべきといった仮説を有しているのであれば、その仮説を検証できるように比較対象とする部門や職層を設定したうえで設問構成を工夫することが考えられます。

3. 調査対象

自社グループの役職員を対象とすることは当然のこと、近時の贈収賄規制違反事案における賄賂の供与ルートおよび品質不祥事発生による影響に鑑みると、委託先やサプライヤー、エージェントや仲介業者等の第三者に対しても調査を行うことが有益と考えられ、すでに取組みを行っている企業も見られます。前述のFCPAガイドにおいても第三者の継続的なモニタリングが要請されています。
英国現代奴隷法、豪国現代奴隷法および米国カリフォルニア州サプライチェーン透明法等の対応においてもサプライヤー等の調査が求められるため、あわせて検討されることをお勧めします。

4. 調査手法等

(1)ツール・システムの活用

既存のソフトウェアを用いた調査を行われている企業が多く見られますが、調査実施用のツール・システムの活用により、業務量を大幅に削減することが可能です。当該システムの活用により、調査実施側はもちろん、調査を受ける側の負担も大幅に軽減することができます。最新の調査用システムでは、守秘・情報システム面の課題をカバーしつつ、従業員保有のスマートフォンからの回答も可能とされており、回答者の便宜が図られています。
 

(2)言語対応・質問数・実施時期等

海外拠点で意識調査を行う場合には、回答者の属性を念頭に置いた調査企画が必要となります。言語対応をはじめ、質問数の上限等、現地拠点担当者と事前相談したうえで検討することが望まれます。
 

(3)グローバル内部通報制度の実効性の補完

グローバル内部通報制度の整備・実効性向上に課題を抱えている企業は多いと思われますが、そうした課題への対応の一方策として、コンプライアンス意識調査に自由記述欄を設けて、内部通報の代替とすることが考えられます。自発的な情報発信である内部通報よりも、意見・情報提供を求められる意識調査のほうが、回答者側の心理的負担を軽減できることから、率直な意見を収集しやすい傾向にあるように見受けられます。通報は法規制違反の発見手段として最も有力な手段※5とされており、この機会に検討されることをお勧めします。
一方、回答可能な言語を幅広に設定している場合には、自由記述を翻訳する必要が生じるため、予算・リソースを考慮し、自由記述欄の回答については英語に限るといった工夫が必要です。

※5 公認不正検査士協会「2018年度版職業上の不正と濫用に関する国民への報告書」によれば、不正発見の手段として、通報が圧倒的に多く全体の40%を占めている。全文はREPORT TO THE NATIONS参照

5. 分析・活用

意識調査の企画時から実際の取組みには、数ヵ月を要すため、推進力が低下する傾向にあり、加えて実施目的が明確でないために分析の視点が設定できず、活用に至らない例が散見されます。前述した実施目的の見直しともかかわりますが、コンプライアンス改善に向けた取組み全体のなかでの位置づけを明確にし、意識調査後のアクション案を念頭に置きつつ、意識調査自体にかける時間・リソースの上限を決め、確実に活用まで進めることが必要です。

IV. 最後に

本稿では、コンプライアンス意識調査に焦点を当てて解説しましたが、コンプライアンス意識調査は、あくまでも一時点の姿を切り取ったものにすぎず、例えば経営陣・部門長の交代や事業の景況感によっても大きく結果が異なります。その結果に一喜一憂し、実施後の体制の整備・取組みの見直しといった改善につなげられなければ、調査を行う前後でコンプライアンス対応の水準にはまったく変化が生じないこととなってしまいます。
「やって終わり」ではなく、そこを起点とできるコンプライアンス意識調査を行うためには、調査後にとるべきアクションにつながる仮説を調査前に十分に検討したうえで調査項目・対象・手法等を見直し実施することが肝要です。

執筆者

KPMGコンサルティング株式会社
リスクコンサルティング
シニアマネジャー 水戸 貴之

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