会社法制の見直しに関する要綱の概要

本稿では、「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱」及び「附帯決議」の概要について解説します。

本稿では、「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱」及び「附帯決議」の概要について解説します。

2019年2月14日に開催された法制審議会第183回会議において、「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱」及び「附帯決議」が採択され、法務大臣に対して答申されました。
これは、2017年2月に、法務大臣から法制審議会に対して、近年における社会経済情勢の変化等に鑑み、企業統治等に関する規律の見直しの要否の検討の上、規律の見直しを要する場合にはその要綱を示すよう諮問がなされたことを受け、設置された会社法制(企業統治等関係)部会における調査審議を経て要綱案が取り纏められ、附帯決議とともに採択されたものです。
本稿では、当該要綱及び附帯決議の概要について解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

株主総会に関する規律の見直し

  • 株主総会資料の電子提供制度が上場会社に義務付けられる。
  • 株主提案権の濫用的な行使を制限するため、提案することができる議案の数の制限や目的等による議案の提案の制限が設けられる。

取締役等に関する規律の見直し

  • 取締役等への適切なインセンティブの付与のための規律の見直しが行われ、株式報酬等に関する規定の明確化や公開会社における情報開示に関する規定の充実が図られる。
  • 社外取締役の活用のため、一部の業務執行につき社外取締役への委託が可能とされるとともに、上場会社等に社外取締役の設置が義務付けられる。

その他

  • 社債管理補助者の設置を可能とするほか、株式交付制度が新たに設けら
    れる。

I.株主総会に関する規律の見直し

1.株主総会資料の電子提供制度

株主総会資料(株主総会参考書類、議決権行使書面、計算書類及び事業報告並びに連結計算書類)の電子提供制度により、株主の個別の承諾を得ることなく、株主総会資料を書面によらずインターネットを利用する方法で株主に提供することが可能となります。

(1)定款の定め
株式会社は、取締役が株主総会を招集するときは、株主総会資料の内容である情報について、電磁的方法により株主が情報の提供を受けることができる状態に置く措置(以下「電子提供措置」という)をとる旨を定款で定めることができるものとされます。現行法において、振替株式を発行している会社は、この定款の定めを設ける定款の変更の決議をしたものとみなされることとなります。このため、上場会社の株式は振替株式であることが求められていることから、上場会社には電子提供制度の利用が義務付けられることになります。

(2)電子提供措置
(1)による定款の定めがある株式会社の取締役は、会社法第299条第2項各号に規定する場合には、株主総会の日の3週間前の日又は株主総会の招集の通知を発した日のいずれか早い日から株主総会の日後3ヵ月を経過する日までの間、電子提供措置事項に係る情報について継続して電子提供措置をとらなければならないものとされています。
この点については附帯決議がなされており、金融商品取引所の規則において、上場会社は、電子提供措置を株主総会の日の3週間前よりも早期に開始するよう努める旨の規律を設ける必要があるとされています。

(3)株主総会の招集の通知
(2)による電子提供措置をとる場合の株主総会招集通知の発送期限については、株主総会の日の2週間前までとされています。

(4)書面交付請求
(1)による定款の定めのある株式会社の取締役は、株主総会の招集の通知に際して、株主に対し、株主総会資料を交付し、又は提供することを要しないものとされます。ただし、インターネットの利用が困難な株主の利益に配慮する必要があることから、上記(1)による定款の定めのある株式会社の株主に、当該株式会社に対して電子提供措置事項を記載した書面交付請求を認めるものとされています。

(5)電子提供措置の中断
電子提供措置期間中に、どのような場合に電子提供措置の中断がその効力に影響を及ぼさないかについて定めることとされています。

2.株主提案権

(1)株主が提案することができる議案の数の制限
株主提案権が行使される場合に当該株主が提出しようとする議案の数が10を超えるときは、10を超える数に相当することとなる数の議案については、会社法第305条第1項から第3項までの株主提案権の規定を適用しないものとされています。また議案の数については、1.役員等の選任に関する議案、2.役員等の解任に関する議案、3.会計監査人を再任しないことに関する議案、4.定款の変更に関する二以上の議案について異なる議決がされたとすれば当該議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合の当該二以上の議案については、それぞれ一議案として数えるものとされています。

(2)目的等による議案の提案の制限
1.株主が、専ら人の名誉を侵害し、人を侮辱し、若しくは困惑させ、又は自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で株主提案を行う場合、2.株主提案により株主総会の適切な運営が著しく妨げられ、株主の共同の利益が害されるおそれがあると認められる場合には、株主提案権の規定を適用しないこととされています。

II.取締役等に関する規律の見直し

1.取締役等への適切なインセンティブの付与

(1)取締役の報酬等

  1. 報酬等の決定方針
    監査役会設置会社又は監査等委員会設置会社の取締役会は、取締役の個人別の報酬等の内容が定款又は株主総会の決議により定められている場合を除き、会社法第361条第1項に規定される取締役の報酬等の内容として定款又は株主総会の決議による同項各号に掲げる事項(報酬等の額、具体的な算定方法、金銭でないものについては具体的な内容)についての定めがある場合、当該定めに基づく取締役の個人別の報酬等の決定方針を決定しなければならないものとされます。
  2. 金銭でない報酬等に係る株主総会の決議による定め
    取締役の報酬等のうち、(ア)当該株式会社の株式又は当該株式の取得に要する資金に充てるための金銭については、当該株式数の上限その他法務省令で定める事項、(イ)当該株式会社の新株予約権又は当該新株予約権の取得に要する資金に充てるための金銭については、当該新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項、(ウ)金銭でないもの(当該株式会社の株式及び新株予約権を除く)については、その具体的な内容について、定款に定めていない場合には株主総会の決議によって定めるものとされています。
  3. 株式報酬等
    上場会社は、定款又は株主総会の決議による上記2.(ア)に掲げる事項についての定めに従い株式を引き受ける者の募集をするときや、上記2.(イ)に掲げる事項についての定めに従い新株予約権を発行するときは、出資を要しないものとする規定が設けられています。
  4. 情報開示の充実
    会社役員の報酬等に関して、報酬等の決定方針に関する事項や取締役会の決議による報酬等の決定の委任に関する事項、業績連動報酬等に関する事項等について、公開会社における事業報告による情報開示に関する規定の充実を図るものとされています。

(2)補償契約、役員等賠償責任保険契約
一定の場合に役員等に係る費用や損失を株式会社が補償することを約する契約(補償契約)、株式会社が保険者との間で締結する保険契約のうち、役員等の職務の執行に関して生ずることのある損害を保険者が填補することを約する、役員等を被保険者とするもの(役員等賠償責任保険契約)に関する規定を設けることとされます。

2.社外取締役の活用等

(1)業務執行の社外取締役への委託
指名委員会等設置会社を除く株式会社と取締役との利益が相反する状況にある場合やその他取締役が株式会社の業務執行により株主の共同の利益を損なうおそれがある場合には、当該株式会社は、その都度、取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議。ただし取締役又は執行役への委任は不可)によって、当該株式会社の業務執行を社外取締役に委託できるものとされ
ます。

(2)社外取締役を置くことの義務付け
監査役会設置会社(公開会社であり、かつ大会社であるものに限る)であって有価証券報告書提出会社である場合に、社外取締役を置くことを義務付けることとされています。

III.その他

1.社債の管理

社債管理補助者の設置ができる場合や、社債権者集会の決議の省略が可能な場合等が定められることとされます。

2.株式交付

株式会社が他の株式会社(会社法上の株式会社に限られ、外国会社は除く)をその子会社とするために、当該他の株式会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付する、株式交付に関する規律を設けることとされています。

3.その他

会社の登記に関して、新株予約権に関する登記、会社の支店の所在地における登記に関する規定を見直すこととされています。また、株式会社の代表者の住所が記載された登記事項証明書に関しては、本要綱では当該住所の登記事項からの削除や閲覧制限を行う規定は設けられませんでしたが、この点については附帯決議がなされており、株式会社の代表者が配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律等に規定する被害者等であること等を理由としてなされた申出が相当と認められる時は、当該代表者の住所を登記事項証明書に表示しない措置を講ずることができる等の規律を法務省令において設ける必要があるものとされます。
このほか、取締役等の責任追及の訴えに係る訴訟における和解、議決権行使書面の閲覧等の請求に関する規律が設けられることとされるほか、株式の併合等に関する事前開示事項の充実や、会社法第331条第1項第2号の取締役の欠格条項(成年被後見人、被保佐人等)の規定を削除するものとした場合における規律の整備を行うものとされています。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部
マネジャー 飯嶋 めぐみ

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