都市サービスのベンチマーキング報告書:改善に向けた動機を得る

世界12の都市サービスにおける効率性と有効性に関する調査・分析結果、および各都市のサービス改善事例を紹介します。

世界12の都市サービスにおける効率性と有効性に関する調査・分析結果、および各都市のサービス改善事例を紹介します。

世界各地において、都市サービスに対するニーズは変化し続けるとともに、期待も高まっています。一方で、コストに関する制約は常に存在するため、各都市は、より効率的かつ効果的にサービスを提供していかなければなりません。しかし、都市サービスを提供する側が、必ずしも変革・改善のために必要な良質なデータを持っているとは限りません。都市サービスのベンチマークは極めて困難です。それぞれの都市が直面する課題は、環境面や、社会面、政治面、経済面において全く異なり、実際に行われている都市サービスの比較では主要な前提が考慮されていません。このため、都市サービスの比較情報が存在したとしても、変革・改善のために効果的な帰結に繋がっているとは必ずしも言えない状況がありました。
KPMGが把握している限り、本報告書は、世界における都市サービスの効率性と有効性を総合的にベンチマークする、世界で初めての試みです。各都市から提供されたデータは、2017年1月初めから4月末までの期間において、KPMGが開発した専用ツールにし収集されました。本ツールは、データの提供だけでなく、差別化をもたらす鍵となる改革やサービスのトレンド、課題、成功例の提供も求めています。本報告書では、KPMGコンサルタントによるデータ分析および専門家の協議に基づき、12の都市サービスについての分析結果をセクションごとに取りまとめています。

ポイント

  • 市民からのニーズや期待が高まり、都市はより効率的かつ効果的にサービスを提供することが求められている。
  • 都市のリーダーが、より戦略的に都市サービスの改革を実行するには良質なデータが必要不可欠である。
  • 独自のグローバルベンチマーク調査を実施できる資源、時間や能力を有するのは少数の都市であり、都市サービス改善のために同程度の都市との比較調査を実施できている都市は現時点でほとんどない。

一貫生の確保:確立されたモデルの使用

ベンチマーキングを実施する際には、一貫性を確保することが鍵となります。しかし、異なる都市間を比較する上で、一貫性を確保することは大変難しいのが現状です。このためKPMGでは、自治体リファレンスモデルをベンチマーキングの基礎ツールとして使用しています。このモデルは、都市が提供するサービスを利用する顧客側と、サービスを提供する側の双方から、共通語を設定・明確化し、理解が図られるようにデザインされています。自治体のサービスをプロセスまたは組織単位で明確に定義することを目的としており、自治体の各サービスの成果をより効果的に把握することが可能です。自治体リファレンスモデルの主要な構成要素は、「サービス」、「サービスのアウトプット」、「効率性の指標」、「有効性の指標」の4つがあり、それぞれがベンチマーキングの実施において不可欠な要素になっています。

ベンチマーキングサービス

公園へのアクセス

公園への良好なアクセスは、住民の健康的な生活を推進し、より強固なコミュニティ形成にも寄与します。公園に係るサービスには公園の設計、設置、保守、修繕および運営が含まれます。
同サービスの効率性は、公園面積1ヘクタール当たりの運営コストと資本コストで表します。データ提供のあった都市における公園1ヘクタール当たりのコストは、3,200米ドルから54,900米ドルで、平均12,730米ドルを費やしています。

公園1ヘクタール当たりの運営および資本コスト

一方、有効性は、公園から800メートル以内(徒歩約10分)に住んでいる人口が、人口全体に占める割合で示します。回答があったほとんどの都市で、住民の少なくとも90%が公園の近くに住んでいることが報告されています。しかし、これらの住民による実際に公園利用状況を明確に理解している都市はほとんどありません。公園のパフォーマンスを部分的に把握しているだけでは、公園維持にかかる予算を説明することが正当化できなくなる場合もあります。
公園へのアクセスを改善するために、革新的な方法を取り入れている都市もあります。例えば、オーストラリアのアデレードやロシアのモスクワを含む多くの都市の公園では、Wi-Fiによるインターネット環境が整備され、特にミレニアル世代に対して公園利用を促進しています。さらに、近年は公園管理の方法に変化も生じています。公園の生物多様性を促進するとともに、コスト削減、環境の持続可能性の向上を目指す都市や、また、公園内の小売施設を潜在的な収入源として導入し、近代化に向けて取り組む都市があることが報告されています。

飲料水の供給

飲料水の供給サービスは、湖や、川、井戸水または塩水にかかわらず、水処理および配水システムの設計、建設、保守、修理そして運営を含みます。これには、顧客への請求や内部サポートサービス、および管理コストも含まれます。
同サービスの効率性は、供給される水の1立方メートル当たりの運営および資本コストで表します。調査対象都市では、飲料水1立方メートルの当たり、0.08米ドルから5.97米ドル、平均1.14米ドルのコストがかかります。コスト要因としては、水源の種類や質、都市の地形等が挙げられます。飲料水は基本的な生理的ニーズの1つですが、低コストで対応できるものではありません。近年は水の品質基準に関する期待も高まり、また資産の老朽化にも対応が必要なため、効率性に関する重要度はますます高まっています。
一方、有効性は、供給される水に占める水漏れの割合で表します。多くの都市が損失率15%以下ですが、45%および65%の水を失っている都市もありました。

供給される水に対する水漏れの割合

水の損失の理由は、インフラ投資の不十分さや、貧困層による盗難等、さまざまな要因が考えられますが、こういった都市は漏水や盗難の防止に焦点を当てなければなりません。
飲料水供給サービスにおいて革新的な方法を実践している都市も報告されています。例えば、ポーランドのワルシャワでは、EUが共同で資金調達した5年間の設備投資プログラムの結果、水質が向上し、システム全体の信頼性も改善しています。

廃棄物の転用およびリサイクル

環境への意識が高まるにつれて、リサイクルや廃棄物転用へのニーズが高まっています。リサイクルについては収益の中立性を達成している都市はほとんどありません。都市が循環型経済に移行する中で、効率性と有効性の測定と改善に重点を置くことが重要です。
廃棄物の転用およびリサイクルサービスは、住宅、商業、工業廃棄物のリサイクル、再利用サービスを意味します。同サービスの効率性は、捨てられた廃棄物1トン当たりのコストで表します。調査対象都市では、1トン当たり32米ドルから1,177米ドルに及び、平均210米ドルでした。コスト要因としては、道路や車両、設備の状態等が挙げられます。また、廃棄物転用サービスで回収された収入を調査したところ、平均は1トン当たり65米ドルであり、コストを回収できていないことが明らかです。
一方、有効性は、収集された総廃棄物に対するリサイクルされた廃棄物の割合で表します。調査の結果、ほとんどの都市は廃棄物の3分の1程度しか転用できていないことがわかりました。
さらに、効率性と有効性を組み合わせて分析を行うと、同サービスにおけるより魅力的なパフォーマンスのイメージがどのようなものか示すことができます。

廃棄物の転用およびリサイクル-効率性と有効性の組み合わせ

この表において理想的な場所は左上に位置することであり、このようなより好ましい位置に都市が移行するための方法を調査することは、今後都市が正しい方向に進む手助けになると言えます。

将来を見据えた行動を

人々の生活は、全ての市民がいつでも利用できるヘルスケア施設、ごみ収集、発電、水サービス、火災、警察やその他提供されている社会サービスの上に成り立っています。今後、未来の都市がどのようなものになるか、そして都市や市民、政府がそれに対しどのように対応するかは誰にも分かりません。しかし、市民は、より効果的・効率的な都市サービスを要求し続けることに変わりはなく、政府は税金の投資について長期的な決定を下さなければなりません。
未来の準備をするのは私たち自身であり、それは効率性と有効性の重要な指標に対し、より複雑な洞察を行うことから始まります。都市の運営者は、市民に求められるより良い都市サービスを提供するために、効率性と有効性がどのように影響を与えるかを理解するためにデータを活用することができます。また、市民も、自治体のサービスやインフラをどのように利用するかを決定するために、こういったデータを利用することができます。

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