改正開示府令で有報はこう書く!政策保有株式

企業会計(中央経済社発行)2019年4月号の「改正開示府令で有報はこう書く!」にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

企業会計(中央経済社発行)2019年4月号の「改正開示府令で有報はこう書く!」にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

この記事は、「月刊企業会計 2019年4月号」に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

サマリー

政策保有株式に関する情報の重要性がDWG報告で提言されたことを踏まえ、開示府令の改正に伴い、開示項目や個別開示の対象銘柄数が拡大された。本改正は2019年3月期以降の有価証券報告書に適用され、個別銘柄に関する情報の拡充は適用初年度の前事業年度にも遡及的に適用される。特に政策保有株式の多い企業では、早めの準備が必要であると考えられる。

はじめに

金融庁は2019年1月31日、有価証券報告書等の記載内容を見直すため、「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下「開示府令」という。)を改正した。2018年6月に公表された「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(以下「DWG報告」という。)の提言を踏まえた改正であり、建設的な対話の促進に向けた情報提供の一環として、政策保有株式について、保有方針や保有の合理性の検証方法などの開示を求めるとともに、個別開示の対象となる銘柄数を現状の30銘柄から60銘柄に拡大するなど、開示情報の拡充が規定されている。
本稿では、本改正の趣旨や背景、具体的な改正内容を解説するとともに、今回の改正項目の一部をすでに開示している事例を紹介する。なお、本稿の意見に関する部分は筆者の個人的な見解にすぎない。また、開示例の検索に際しては、(株)インターネットディスクロージャーの「開示Net」を利用した。

I. 本改正の趣旨や背景

政策保有株式の開示拡充は、建設的な対話の促進に向けた情報提供の一環として位置づけられている。DWG 報告によると、政策保有株式に対しては、企業間で戦略的提携を進める場合に意義があるとの肯定的な意見もある一方、安定株主の存在が企業経営に対する規律の緩みを生じさせている、保有に伴う効果が十分に検証されず資本効率が低いなどの否定的な意見もあり、政策保有株式に関する情報が投資判断と建設的な対話の双方において重要であると指摘された。
また、開示府令改正前の開示について、保有目的の説明が定型的かつ抽象的な記載にとどまり、保有の合理性や効果が検証できないとの指摘が示された。特に投資家からは、政策保有株式の保有が少数株主軽視や資本コストに対する意識の低さにつながるリスクが高いとして、保有の目的や効果、合理性など詳細な開示を求める意見が多かったとされている。
このほか、政策保有目的と純投資目的の区分の考え方が不明瞭である、個別開示の対象となる銘柄数が少ない、年度末時点のストック情報だけでは期中の変動状況を把握できないなどの問題点も指摘されており、こうした指摘を踏まえて開示府令が改正されている。

II. 具体的な改正内容

改正内容の全体像を把握するため、開示対象株式の分類と記載項目を(図表1)に示している。有価証券報告書を規定している開示府令の第三号様式上、「株式の保有状況」は第二号様式の記載上の注意(58)に準じて記載するとされており、図表には記載上の注意(58)の各規定との対応関係を示している。当該規定は長文かつかっこ内に様々な用語の定義が記載されているため、最初に各規定の対象となる株式の分類を把握することが重要である。
なお、DWG報告や金融庁のホームページでは「政策保有株式」との表現が頻繁に使われるが、開示府令上は定義づけられていない。本稿では、説明の都合上、「純投資目的以外の目的で保有する投資株式」を「政策保有株式」と記載しており、図表における特定投資株式(上場政策保有株式)とみなし保有株式が個別開示の対象となる。
政策保有株式を含む「株式の保有状況」は従来、開示府令の様式上、「コーポレート・ガバナンスの状況」の一部であったが、今回の改正に伴い、様式上も独立の項目(「株式の保有状況」)とされた。従来の「コーポレート・ガバナンスの状況」には多様な情報が記載され、頁数も多かっただけに、今回の改正によって、EDINET や民間の検索サービスが利用しやすくなると考えられる。

図表1

図表1 投資有価証券に区分される株式の分類

(出所)開示府令を基に筆者が作成

1. 全体的な保有状況に関する情報

(1)定性的な情報の追加
本改正で新たに記載が必要になったのが、提出会社の株式保有に関する定性的な情報であり、具体的には、次のとおりである。

  1. 投資株式の保有目的(純投資目的、政策保有目的)の区分の基準や考え方(記載上の注意(58)a)
  2. 政策保有株式(非上場株式は省略可能)の保有方針および保有の合理性を検証する方法、個別銘柄の保有の適否に関する取締役会等における検証内容(記載上の注意(58)b)


開示府令上、「純投資目的」の定義は規定されていないが、「『企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)』に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(2019年1月31日、以下「金融庁の考え方」という。)No.68によると、「純投資目的」とは、「専ら株式の価値の変動又は株式に係る配当によって利益を受けることを目的とする場合」とされている。
また、上記1.は政策保有株式しか保有していない場合でも記載が必要である旨(No.69)、上記2.はコーポレートガバナンス・コードの原則1ー4(図表2参照)で開示すべき事項を記載すれば足りる旨(No.71)が示されている。ただし、上記2.について、単に「検証の結果、すべての銘柄の保有が適当と認められた」との一般的、抽象的な記載ではなく、たとえば、以下のような具体的な記載が望ましいとされている点には留意が必要である(No.72)。

  • 保有の適否を検証するうえで、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているかを含め、どのような点に着眼し、どのような基準を設定したか
  • 設定した基準を踏まえ、どのような内容の議論を経て個別銘柄の保有の適否を検証したか
  • 議論の結果、保有の適否について、どのような結論が得られたか

図表2

原則1-4.政策保有株式

上場会社が政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で、個別の政策保有株式について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである。
上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うべきである。


(2)定量的な情報の追加
政策保有株式全体の定量的な情報としては、従来から開示していた銘柄数及び貸借対照表計上額の合計額について、新たに非上場株式とそれ以外の株式に区分して記載することが求められた。また、それぞれの区分ごとに、株式数が変動した銘柄について、増加(減少)した銘柄数、増加(減少)に係る取得価額(売却価額)の合計額、増加の理由を記載することとなった(記載上の注意(58)c)。株式数の変動について、金融庁の考え方No.77によると、株式併合や分割、株式移転や株式交換、合併等による変動は含まれないとされている。

2. 個別銘柄に関する情報

(1)対象銘柄数の増加
個別開示が必要な銘柄数について、貸借対照表計上額が提出会社の資本金(株主資本のほうが小さい場合は株主資本)の1%を超える銘柄はすべて対象となる点は従来と同様だが、本改正に伴い、資本金基準を満たさない場合の開示対象が従来の上位30銘柄から上位60銘柄に拡大された(記載上の注意(58)d)。みなし保有株式がある場合や提出会社が持株会社の場合も、同様に開示対象が拡大されている。
金融庁の考え方No.79によると、本改正の適用初年度の有価証券報告書における前事業年度の記載にも、銘柄数の拡大は適用される。後述する開示例の分析結果(母集団450社)によると、特定投資株式とみなし保有株式を合計した開示銘柄数の平均値は25銘柄、中央値は29銘柄となっている。各社が規定上の最少銘柄を開示していると仮定した場合、29銘柄以下の企業は保有する全銘柄をすでに開示しており、60銘柄以上の企業は改正後の要求事項を満たしているため、本改正に伴う銘柄数の増加はないと考えられる。一方、30~59銘柄の209社では、前事業年度の開示銘柄数が遡及的に増加する可能性がある。
(2)個別銘柄に関する事項の追加
従来の開示項目(銘柄、株式数、貸借対照表計上額、保有目的)に追加して、新たに以下の記載が必要になった。

  • 提出会社の経営方針・経営戦略等、事業の内容及びセグメント情報と関連づけた定量的な保有効果(定量的な保有効果の記載が困難な場合には、その旨および保有の合理性を検証した方法)
  • 株式数が増加した理由(株式数が増加した銘柄のみ)
  • 当該株式の発行者による提出会社の株式の保有の有無(以下、「相互保有の有無」という。)

上述のとおり、政策保有株式全体の定量的な情報として開示する株式数の変動には、株式政策や組織再編による変動を含めないとされているが、金融庁の考え方No.83によると、個別銘柄の株式数が増加した理由を記載する際には、これらも含めることが利用者の誤解を避けるために有用であるとされている。
また、相互保有の有無について、特定投資株式については、提出会社の株主名簿や発行者の大量保有報告書などで確認できる範囲で記載することが考えられる旨(No.85)、みなし保有株式については、EDINETの全文検索機能を用いるなど、直近の有価証券報告書や大量保有報告書などにより確認できる範囲で記載することが考えられる旨(No.86)が示されている。

3. 純投資目的株式に関する情報

保有目的が純投資目的である投資株式のストック情報として、従来は非上場株式とそれ以外の株式に区分した貸借対照表計上額の記載が求められていたが、本改正により、それぞれに区分した銘柄数も記載することになった(記載上の注意(58)e)。純投資目的株式のフロー情報(関連損益や保有目的変更に関する記載)に関しては従来と変更点はない。
後述する開示例の分析結果によると、分析対象とした450社のうち、純投資目的株式を保有している旨を開示した企業は81社、保有目的の変更を開示した企業は9社だった。なお、重要な純投資目的株式を保有している場合、(連結)財務諸表の金融商品関係注記(金融商品の取組方針や内容)において、純投資目的で株式を保有している旨を記載することが適切であると考えられ、両者の記載の整合性に留意が必要である。

III. 開示例の分析結果

政策保有株式は日本企業に特徴的な商慣習とされており、欧米企業の先進的な開示例を紹介するのは困難である。また、持株会社の場合を除いて、株式の保有状況は単体ベースで記載するため、適用する会計基準による差異も重要でないと考えられる。
そこで、一般的な認知度の高さを踏まえ、日経平均株価及びJPX日経インデックス400のいずれかに採用されている450社(2018年12月末現在)が2018年に提出した有価証券報告書(2017年10月期~2018年9月期)を母集団として、株式の保有状況に関する開示状況を調査した(図表3)。

図表3

株式の保有状況に関する開示状況

1. 事例調査の全体像

調査対象450社における政策保有株式の平均値は119銘柄だった。このうち金融機関の平均値が539銘柄であるのに対して、金融機関を除いた事業会社の平均値は81銘柄であり、金融機関の保有数が明らかに多いことがわかる。一方、個別銘柄を開示している株式(特定投資株式とみなし保有株式の合計)に関しては、金融機関の平均値55銘柄に対して、事業会社の平均値は22銘柄であり、政策保有株式全体ほどの乖離はなかった。従来の開示府令上、資本金基準を満たさない場合の開示対象が最大30銘柄で許容されていたことが影響していると考えられる。
また、DWG報告において、保有目的の説明が定型的かつ抽象的な記載にとどまっている点が指摘されたことを踏まえ、特定投資株式の保有目的の記載パターンを調査した結果、全体の平均値は2.7種類となり、業種よりも個々の企業による乖離が大きかった。大和ハウス工業(株)、TIS(株)、住友大阪セメント(株)などは記載パターンが20種類程度あり、こうした企業の特徴として、対象会社との関係(販売先や仕入先、取引金融機関や共同出資、同業者の情報収集など)、関連するセグメントや事業を銘柄ごとに区別していることが挙げられる。一方、記載パターンが1種類の企業は156社だった。当該156社における特定投資株式の平均開示数は20銘柄で、なかには100銘柄を超える企業もあった。

2. 積極的な開示例

本改正で新たに記載が義務付けられた事項について、すでに記載している事例の有無も調査した。なお、本改正の目的は企業と投資家との対話の促進であり、各企業に固有の具体的な状況を踏まえて記載されるべきであると考えられるため、以下の開示例について、どの企業にとっても適切な事例とは限らない点に留意が必要である。
政策保有株式の保有方針を記載している企業は28社あり、このうち3社の開示例を図表4で抜粋した。保有方針の具体性、保有効果を判断する機関と頻度の明示、保有する意義が薄れた株式は売却する旨などの記載が参考になると考えられる。なお、本改正では議決権行使方針の記載は義務付けられなかったが、当該28社の多くで議決権行使方針も記載していた。
政策保有株式に関して、従来はストック情報しか記載が求められていなかったが、フロー情報を記載している事例もあった。例えば、エーザイ(株)は保有株式を見直した結果として7銘柄の全株式を売却した旨、三井物産(株)は政策保有株式の増加額と主な増加理由のほか、政策保有株式における上場株式の銘柄数も記載していた。
特定投資株式に係る保有目的の記載パターンについては上述のとおりだが、みなし保有株式の保有目的に関して、多くの企業で退職給付信託に設定している旨や議決権行使の指図権限がある旨の記載にとどまるなか、三井化学(株)、(株)荏原製作所、東京急行電鉄(株)などでは、信託設定前の当初の保有目的も開示していた。

図表4 政策保有株式の保有方針の開示例

 
デンカ(株)(2018年3月期)
当社は、保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式について、当該株式が安定的な取引関係の構築や成長戦略に則った業務提携関係の維持・強化に繋がり、当社の中長期的な企業価値の向上に資すると判断した場合について、保有していく方針です。
この方針に則り、当社は取締役会にて、当該株式の検証を実施いたしました。今後も、毎年、継続して検証を行ってまいります。
また、当該株式に関する議決権の行使については、原則的には発行会社の経営方針や戦略を尊重した上で、その株式を管理する各担当部門が発行会社の経営状況等を勘案し、最終的には株主価値の向上に資するものかどうかの観点から個別に議案を精査して賛否の判断を行います。

SMC(株)(2018年3月期)
株式の政策保有は、保有先企業との取引関係の維持強化を通じて当社の企業価値向上につながる場合に限定して行っています。
財務部門においては、保有先企業との取引状況並びに保有先企業の財政状態、経営成績及び株価、配当等の状況を確認し、政策保有の継続の可否について定期的に検討を行い、政策保有の意義が薄れたと判断した株式は、取締役社長の決裁を得た上で売却しています。
また取締役会においては、上記の財務部門における検討結果も参照して、年に1回、政策保有の継続の可否について検討し決定しています。

(株)ダイフク(2018年3月期)
政策保有に関して、当社独自の「ダイフク コーポレートガバナンス・ガイドライン」において以下の通り定めています。
  • 政策保有目的を含む株式保有は、必要最小限度にとどめることを基本方針とする。一方、当社はこれまで製品の納入のみならず、アフターサービスなどを通じお客さまとの強固な信頼関係を構築してきており、そうした取引関係等の事情も考慮しながら政策保有の経済合理性を検証し、取締役会が保有の是非を決定する。
  • 政策保有株式の議決権行使については、保有先企業の中長期的な企業価値向上という点を重視しながら個別にCFOが判断する。特に、当該企業における企業不祥事や反社会的行為の有無に着目し、仮にこれらの事情が存在する場合には当該企業の改善姿勢を確認する。

おわりに

今回の開示府令の改正は多岐にわたっており、各企業は有価証券報告書の作成に向けて入念に準備する必要がある。特に政策保有株式に関する改正は2019年3月期以降の有価証券報告書に適用され、政策保有株式の保有方針や保有の合理性の検証方法、個別銘柄ごとの定量的な保有効果などについて、開示内容の十分な検討が必要であると考えられる。
この点、政策保有株式全体の保有方針等については、2018年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂を受けて対応を検討した企業も多いと考えられ、金融庁が2019年1月に開催した「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第17回)に(株)東京証券取引所が提出した資料によると、2018年12月末現在、コーポレートガバナンス・コードの原則1ー4は東証一部企業の86.5%がコンプライしている。
一方、個別銘柄ごとの定量的な保有効果を説明するには、定量的な効果の測定方法、測定過程における営業上の機密などの観点から困難を伴うことが予想される。ただし、本改正の背景として、DWG報告で政策保有株式に対する投資家の根強い懸念が示されたことを踏まえれば、各企業は投資家との対話の促進に資するかどうかの観点から、積極的な開示を検討する必要があると考えられる。また、コーポレートガバナンス・コードの改訂や本改正を契機として、政策保有株式の縮減がさらに進むことも予想される。
金融庁は2018年12月に「記述情報の開示に関する原則(案)」を公表し、記述情報(非財務情報)の重要性を強調している。また、金融庁が財務局等を通じて実施している有価証券報告書レビューにおいても、「株式の保有状況」を含めた非財務情報に対する指摘が相次いでいる。会計基準(日本基準)が徐々にIFRSに近づくなか、非財務情報を含む開示書類そのものに対して、グローバルスタンダードの充足を求める声が日に日に強まっていると感じる。各企業においては、単に従来の開示内容を踏襲するのではなく、投資家への適切な情報提供という原点に立ち返り、対話に資する開示を模索する姿勢が求められている。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部

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