年金資産が退職給付債務を超えた場合

年金資産が退職給付債務を超えた場合について、会計上の取り扱いを解説します。

年金資産が退職給付債務を超えた場合について、会計上の取り扱いを解説します。

Question

年金資産が退職給付債務を超えた場合には、会計上、超えた部分はどのように取り扱われるか?

Answer

1.年金資産が退職給付債務を超過した場合は、当該超過額を「退職給付に係る資産」(個別財務諸表では「前払年金費用」)として資産計上する。

2.年金資産が企業へ返還された場合は、返還額を、企業の資産の増加と「退職給付に係る資産」(個別財務諸表では「前払年金費用」)の減少として処理し、返還額に対応する未認識数理計算上の差異を損益認識する。

解説

1.年金資産が退職給付債務を超過した場合

会計基準第13項では、「退職給付債務から年金資産の額を控除した額(以下「積立状況を示す額」という。)を負債として計上する。ただし、年金資産の額が退職給付債務を超える場合には、資産として計上する。」としている。

また、会計基準第39項において、個別財務諸表上は、当面の間、「退職給付債務に未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を加減した額から、年金資産の額を控除した額を負債として計上する。ただし、年金資産の額が退職給付債務に未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を加減した額を超える場合には、資産として計上する。」とされている。

すなわち、連結財務諸表上は、ある企業年金制度について年金資産と退職給付債務との大小関係をみた場合、前者が後者を超過していた場合は当該超過額を貸借対照表上に「退職給付に係る資産」として資産計上し、後者が前者を超過していた場合は当該超過額を「退職給付に係る負債」として負債計上することになる。

また、個別財務諸表上は、ある企業年金制度について「年金資産±未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用」と退職給付債務とを比較し、前者が後者を超過していた場合は当該超過額を貸借対照表上で「前払年金費用」として資産計上し、後者が前者を超過していた場合は当該超過額を「退職給付引当金」として負債計上することになる。

なお「年金資産>退職給付債務」となる原因には、以下のようなものが考えられる。

(1)年金資産の実際運用収益が長期期待運用収益を上回る場合
(2)割引率の引上げによる退職給付債務の減少
(3)退職給付水準の引下げによる退職給付債務の減少
(4)「財政計算による年金掛金よりも退職給付費用が小さい」という状態の継続


(1)および(2)の場合、平成10年6月に公表された「退職給付に係る会計基準」及び「退職給付に係る会計基準注解」では、年金資産の超過部分は資産および利益として認識することができなかったが、平成16年の「退職給付会計に関する実務指針(中間報告)」等の改正により、このような場合であっても年金資産の超過部分を資産計上し、発生した数理計算上の差異または過去勤務債務は、企業が採用する処理年数および処理方法に従い、費用処理することとされた。

2.年金資産の積立超過の全部または一部が企業へ返還された場合

上記1.(1)および(2)を原因として年金資産が退職給付債務を超過する場合、当該積立超過額が企業に返還される場合がある。この場合、返還された資産および返還されなかった資産とも、年金資産の要件をすべて満たしていれば、当該返還額を事業主の資産の増加と退職給付に係る資産の減少(又は退職給付に係る負債の増加)として処理する(適用指針第45項)。

また、具体的な会計処理については、適用指針第45項に基づき、以下のように行うことになる。

・返還時点における年金資産に係る未認識数理計算上の差異のうち、当該返還額に対応する金額を、返還時に損益として認識する(当該差異の重要性が乏しい場合を除く)。

・この場合、返還された年金資産に個別に対応する未認識数理計算上の差異が明らかな場合は当該対応額を損益に計上するが、返還された年金資産に個別に対応する未認識数理計算上の差異を特定することが困難な場合は返還時の年金資産の比率等により合理的に按分した金額を損益に計上する。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
金融アドバイザリー部
ディレクター 浅海 路史

※本ページは、書籍『Q&A 退職給付会計の実務ガイド(第2版)』(2013年12月発行)から一部の内容を取り上げてウェブ版としてアップデートしたもので、記載内容はページ公開(2019年4月)時点の情報です。

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