日本企業の統合報告書に関する調査2018

日本企業が発行する統合報告書を対象に、さまざまな角度から調査・分析した現状と課題についてご報告します。

日本企業が発行する統合報告書を対象に、さまざまな角度から調査・分析した現状と課題についてご報告します。

統合報告書に関する調査の概要

統合報告書調査の概要
KPMGジャパンは、日本企業の統合報告書に関して2014年から継続して調査しており、今回が5回目の報告となります。「国内自己表明型統合レポート企業発行リスト2018年版」で公表された414社の報告書を対象として、調査・分析を実施しました。
本調査報告では、統合報告書の発行状況に加え、「統合思考」、「価値創造」、「マテリアリティ」、「リスクと機会」、「財務戦略」、「主要指標(KPI)」、「ガバナンス」の7つの領域における開示状況を調査し分析を行い、日本企業の統合報告書の現状と課題を考察し、提言をまとめています。
併せて、統合報告におけるThought Leadersから日本企業に向けたメッセージも掲載しております。

統合報告書発行企業の概要
2018年の統合報告書発行企業数は、前年比69社増の全414社となりました。このうち、93%を東証一部上場企業が占めています。東証一部上場企業に占める統合報告書発行企業の割合は、発行企業数でみれば全体の15%にすぎませんが、時価総額では58%と6割に達しようとしています。

7つの領域における調査結果の主なポイント

1.統合思考
「社会・環境に対するアウトカム」が経済的価値に及ぼす影響を示す報告書は50%にとどまり、「環境・社会に対するアウトカムに関する具体的な戦略目標」を含めている報告書も30%と少ない結果でした。経済的価値と社会的価値との関連性、環境と社会のアウトカムに関する戦略目標への言及が少ないことから、事業戦略とサステナビリティ戦略の結合は進展の初期段階にあると言えるでしょう。経済的価値と社会的価値との関連性の認識が説明され、環境と社会が関わるアウトカムの具体的な戦略目標が示されれば、企業の長期的な存続についての理解も深まっていくでしょう。

2.価値創造
価値創造プロセス図を用いた説明をする企業は、毎年増加傾向にあり、2018年は全体の66%となりました。しかし、統合報告書が、価値創造プロセスとその進捗を説明する媒体であることを考えると、66%は必ずしも高い割合ではありません。統合報告書を発行する以上、価値創造プロセスについての十分な説明が求められています。「どのような価値をいかに生み出すか」という考え方が組織内で共有され、統合報告書で明確な価値創造プロセスを説明されることで、読み手は価値創造の実行可能性、組織や事業の持続可能性、資本の必要性などに納得できるでしょう。

3.マテリアリティ
統合報告書で示さなければならないのは、企業価値に対して影響度の高い事象(マテリアルイシュー)です。しかし依然として、CSR項目を対象としている企業の割合が75%と高い状況でした。企業価値に大きな影響を及ぼすマテリアルイシューは、統合報告書における価値創造ストーリーを描く起点であることを確認し、マテリアリティ評価の位置づけを再考することが望まれます。

4.リスクと機会
マテリアリティ評価結果と戦略とを結び付けてリスクと機会の説明をしている企業はわずか5%にとどまりました。リスクと機会とは、マテリアリティ分析で特定されたイシューに関連するリスクと機会であるはずです。そして、これらのリスクと機会にどう対応するかを検討した結果が戦略へと反映されるものと考えます。リスクと機会を「マテリアリティ評価の結果」、さらに「戦略」と関連して捉えることが、価値創造の全体像を語る上では不可欠です。

5.財務戦略
財務戦略を記載した181社のうち、財務資本の循環を示す要素について、具体的な数値を使って網羅的に記載した企業は、23%にとどまりました。企業は、財務資本を最適なバランスで循環させ、これらの要素を十分に示すことで、価値創造ストーリーの実現に向けた道筋が示せるでしょう。財務戦略では、多様な資本を経営資源として利用し、効率的かつ持続的にキャッシュフローを創出するための方針や取組みが、具体的に事業戦略と整合した形で語られ、価値創造ストーリーの裏付けとして示されることが望まれます。

6.主要指標(KPI)
ハイライトセクションには、価値創造ストーリーやその実現に向けた戦略に関連するKPIが示されているとの仮説に基づき、各KPIの実績に加え、今後の見通しや目標値を併記する企業を調査したところ、6%にとどまりました。経営戦略の達成度合いや進捗状況を定量的に示すためにも、目標値や今後の見通しの併記が、本来の統合報告書におけるKPI開示のあるべき姿だと言えるでしょう。

7.ガバナンス
取締役会議長からのメッセージが掲載されている報告書は9%にとどまりました。ガバナンス体制の構築と実効性の向上には、責任者である取締役会議長の役割が大きいはずです。投資家をはじめ、企業に影響を与える関係者との対話において、統合報告書を有効活用するには、内容の信頼性向上が不可欠であり、取締役会議長のメッセージの内容が大きな意味をもつでしょう。

KPMGからの3つの提言

統合報告の実践には、統合的な思考が不可欠です。「統合」の範囲は、自らの組織だけにとどまらず、場合によっては相反する考え方のステークホルダーと連携することもあるでしょう。持続的な世界の実現に向け、共通認識を醸成しつつある今だからこそ、長期的な視点から組織が提供する価値を高め、有形無形の成果を社会に還元する役割が、企業には求められています。その道筋をより明確に示すため、今回の調査の結果から考察し、以下の3点を提言として掲げました。

  1. 経営陣や取締役会の考える価値創造ストーリーを伝えること
  2. 流行りのキーワードに惑わされず、統合思考に基づく経営を示すこと
  3. 価値創造ストーリーを柱に、その実態と進捗状況を示すこと

英語コンテンツ

Survey of Integrated Reports in Japan 2018よりご覧ください。

統合報告に関する解説

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