【時価算定基準案】確認済みですか?世界標準の「時価」の提案

本稿では、時価算定基準案等及び金融商品実務指針改正案等の内容、ならびに、これらの財務諸表作成者における影響について、解説します。

本稿では、時価算定基準案等及び金融商品実務指針改正案等の内容、ならびに、これらの財務諸表作成者における影響について、解説します。

2019年1月18日に、企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という)は、企業会計基準公開草案第63号「時価の算定に関する会計基準(案)」等(以下「時価算定基準案等」という)を公表しました。時価算定基準案等に対応するため、同日、日本公認会計士協会(以下「JICPA」という)も、会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」、同14号「金融商品会計に関する実務指針」及び金融商品会計に関するQ&Aの改正について(公開草案)(以下「金融商品実務指針改正案等」という)を公表しています。
時価算定基準案等は、時価に関する我が国の会計基準を国際的な会計基準との整合性を図る取組みの検討の結果、ASBJより公開草案として公表されたものです。また、時価算定基準案等は、JICPAの実務指針等にも影響するため、ASBJからの改正依頼に基づいて、金融商品実務指針改正案等が、JICPAより公開草案として公表されています。
なお、この時価算定基準案等及び金融商品実務指針改正案等のコメント募集期間は、2019年4月5日までとなっております。
本稿では、時価算定基準案等及び金融商品実務指針改正案等の内容、ならびに、これらの財務諸表作成者における影響について、解説します。
なお、文中の意見に関する部分は筆者の私見であることを、あらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 国際的に整合的なものとなるように、主に金融商品における時価の定義の変更が提案されている。
  • 提案されている新しい時価のポイントは、(1)算定日におけるものであること、(2)市場参加者目線であること、(3)出口価格であること、の3点である。
  • 提案どおりに基準化される場合の考えられる影響として以下の点が挙げられる:
    • その他有価証券の月中平均価格の利用が認められなくなる。
    • 第三者が提供する時価の検証が必要になる。
    • 時価を把握することが極めて困難な場合の取扱いが認められなくなる。
  • 主に金融商品の時価に関する開示の追加が提案されている。

I.時価の算定及び開示について国際的に整合性を図る理由

1.公開草案公表の経緯

我が国の会計基準においては、金融商品などについて時価評価が求められているものの、時価の算定方法について詳細なガイダンスは定められていませんでした。また、金融商品の時価の開示は求められるものの、当該時価には様々な特徴(市場価格によるもの、評価技法を用いているものなど)が混在していますが、このような特徴に基づく時価の区分開示などの開示は求められていませんでした。
これに対し、国際財務報告基準(以下「IFRS」という)や米国会計基準では、公正価値測定についてほぼ同じ内容の詳細なガイダンス及びインプットの観察可能性及び市場の活発性に応じて公正価値をレベル分けした上で公正価値のレベルごとの残高の開示などを定めています。
ASBJでは、これらの国際的な会計基準の定めとの比較可能性を向上させるために、主に金融商品の時価の算定に関するガイダンス及び開示に関して、国際的な会計基準との整合性を図る取組みに着手し、検討が重ねられました。
当該検討の結果、公表されたのが、時価算定基準案等です。
また、当該時価算定基準案等は、JICPA所管の実務指針等へも影響を与えるため、ASBJで検討の上、JICPAに改正が依頼されました。この改正依頼を受けた結果公表されたのが、金融商品実務指針改正案等になります。
新たに開発された会計基準案等、ならびに、改正が提案されている会計基準等は図表1のとおりです。

図表1 会計基準案一覧

A:ASBJ所管
A-1:新規開発された会計基準案等
企業会計基準公開草案第63号
「時価の算定に関する会計基準(案)」(以下「時価算定基準案」という)
企業会計基準適用指針公開草案第63号
「時価の算定に関する会計基準の適用指針(案)」(以下「時価算定適用指針案」という)
A-2:改正が提案される会計基準案等
企業会計基準公開草案第64号(企業会計基準第9号改正案)
「棚卸資産の評価に関する会計基準」
企業会計基準公開草案第65号(企業会計基準第10号改正案)
「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品基準案」という)
企業会計基準適用指針公開草案第64号
(企業会計基準適用指針第14号改正案)
「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」
企業会計基準適用指針公開草案第65号
(企業会計基準適用指針第19号改正案)
「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」
B:JICPA所管
B-1:改正が提案される実務指針等
会計制度委員会報告第14号
「金融商品に関する実務指針」
会計制度委員会
「金融商品に関するQ&A」
会計制度委員会報告第4号
「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」


それぞれの末尾にてその他の会計基準等の修正及び廃止が提案されている。

II.時価算定基準案等の内容

本節では、公表された時価算定基準案等で提案されている内容の概要につきまして、解説します。
なお、時価算定基準案等及び金融商品実務指針改正案等はASBJのHP及びJICPAのHPをご確認ください。

1.時価の定義の変更

時価の定義については、IFRS第13号「公正価値測定」(以下「IFRS13」という)と同様の定義とすることが提案されています。なお、IFRS13では「公正価値」という言葉を用いているのに対し、時価算定基準案等では、「時価」という言葉を用いています(「公正価値」への修正は他の法令等への影響が懸念される等の理由)が、内容に差異はありません。時価算定基準案等の提案では、「時価とは、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると仮定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格をいう。」(時価算定基準案第5項)、とされ、「直接観察可能であるかどうかにかかわらず、算定日における市場参加者間の秩序ある取引が行われると想定した場合の出口価格」(時価基準案第30項(1))、とされています。
ここで提案されている時価の定義のポイントは3つあると考えられます。
 

  • 算定日におけるものであること
  • 市場参加者目線であること
  • 出口価格であること


また、同一の資産又は負債の価格が観察できない場合に用いる評価技法には、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用し、観察できないインプットの利用を最小限にすることも提案されています。ここで、インプットとは、市場参加者が資産又は負債の時価を算定する際に用いる仮定(時価の算定に固有のリスクに関する仮定を含む。)を指します。当該提案に従うと、観察可能な市場データではないものの、入手できる最良の情報に基づくインプットを用いる場合も算定された価格は時価となります。

2.開示

開示項目については、基本的にIFRS13における開示要求を取り入れることが提案されています。


(1)全般的な開示項目

  • 時価のレベルごとの残高の合計額
  • 時価の算定に用いた評価技法及びインプットの説明
  • 評価技法又はその適用を変更した場合には、その旨及び理由


(2)貸借対照表において時価評価する、レベル3分類の時価を対象とする開示項目

  • 重要な観察できないインプットに関する定量的情報
  • レベル3の時価に分類される金融資産・負債の期首残高から期末残高への調整表
  • レベル3の時価についての企業の評価プロセスの説明
  • 観察できないインプットを変化させた場合の時価に対する影響に関する説明


時価算定基準案等の提案では、IFRS13と同様、時価算定に用いたインプットの観察可能性及び市場の活発性に応じたレベル分けの考え方を導入しています。全般的な開示項目からは、時価の内容に関する情報がわかります。時価のレベルごとの残高の合計額からは、それぞれの時価のインプットの客観性や信頼性の程度の全体像がわかります。その上で、相対的に客観性の劣る時価であるレベル3に分類される時価について、追加の情報が提供されます。
ただし、次の開示項目に関しては、IFRS13では開示が要求されるものの、財務諸表作成のコストと情報の有用性を比較考量した結果、時価算定基準案等では、開示を要求しないことが提案されています。
 

  • レベル1の時価とレベル2の時価との間のすべての振替及びその理由
  • レベル3の時価について観察できないインプットを合理的に考えうる代替的な仮定に変更した場合の定量的影響


なお、時価がレベル3の時価に区分される金融資産及び金融負債の期首残高から期末残高への調整表において、一部の増減理由についてまとめて純額で注記することも認めることが提案されています。

3.適用時期及び経過措置

時価算定基準案等の適用時期は、2020年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することが提案されています。ただし、2021年3月31日以後終了する事業年度の年度末から適用することも認めることが提案されています。
なお、早期適用も提案されており、2020年3月31日以後終了する事業年度の年度末から適用することもできます。
経過措置については、基本的に、時価算定基準案等が定める会計方針を将来にむかって適用することが提案されています。この場合、変更による影響は初度適用時に純損益に認識されます。ただし、時価の算定にあたり観察可能なインプットを最大限利用しなければならない定めなど、時価算定基準案及び時価算定適用指針案の適用に伴い時価を算定するために用いた方法を変更することとなった場合で、当該変更の影響額を分離できる場合には、会計方針の変更に該当するものとして、過去の期間のすべてに遡及適用することも認められることが提案されています。また、この場合、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を、適用初年度の期首利益剰余金、その他包括利益等に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することも認められることが提案されています。
ただし、金融商品基準案では、遡及適用の規定は提案されていませんので、月中平均の取扱いや時価を把握することが極めて困難なものの取扱いの変更は将来に向かって適用することとなります。
また、第三者価格の利用や投資信託の時価についても、現行の取扱いを継続する経過措置を設けることが提案されています。

III.時価算定基準案等の考えられる影響

本節では、公表された時価算定基準案等が、この案で最終基準化された場合の時価の算定への考えられる影響について、解説します。

1.時価の算定方法の見直し

時価の算定方法の見直しが必要となる可能性があります。時価算定基準案等では、時価の算定についてのガイダンスが提供されています。これにより、従前とは異なる時価算定方法を採用すべき状況も想定されます。
そのため、従前用いていた時価が、時価算定基準案等における時価の定義を満たすのか否かの検証が必要になるものと思われます。

2.第三者が提供する時価の検証

時価算定基準案等では、取引相手の金融機関、ブローカー、情報ベンダー等、第三者から入手した相場価格が時価算定基準案に従って算定されたものであると判断する場合には、当該価格を時価の算定に用いることができる、と提案されています。例外として、金融機関以外の会社に対しては、インプットである金利がその全期間にわたって一般に公表されており観察可能である同一の固定金利と変動金利を交換するシンプルな金利スワップとインプットである所定の通貨の先物為替相場がその全期間にわたって一般に公表されており観察可能であるシンプルな為替予約につぃては、当該第三者から入手した相場価格を時価とみなすことができるという、実務に配慮したその他の取扱いも提案されています。
つまり、当該その他の取扱いが適用できない場合、自ら時価を算定する体制を整備するか、もしくは、第三者から入手した相場価格を検証する体制を整備するかのいずれかの対応が必要となってくるものと思われます。なお、時価算定基準案等では、この時価算定基準案に従ったものであるかの判断にあたって実施する手続の例示がなされていますので、これらの体制構築の参考になるかと思います。ただし、あくまで例示ですので、各企業が状況に応じて適切な手続を選び実施することが必要であることに留意が必要です。

3.月中平均価格の利用の禁止

現行の取扱いでは、その他有価証券の期末の貸借対照表価額に期末前1ヵ月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることが認められていますが、前述のII.1.において時価の定義のポイントとして挙げたとおり、時価は算定日におけるものとされたことにより、1ヵ月の市場価格の平均価格は時価の定義を満たさない異なるものとして、当該取扱いは削除することが提案されています。
そのため、その他有価証券の時価として期末前1ヵ月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いている場合には、決算日における時価への変更が必要となります。

4.時価を把握することが極めて困難な場合の取扱いの削除

現行の取扱いでは、金融商品の認識中止時や有価証券又はデリバティブにおいて、時価を把握することが極めて困難な場合の取扱いが規定されています。しかし、II.1.時価の定義の変更において述べたとおり、観察可能な市場データではないが、入手できる最良の情報に基づくインプットを用いる場合も時価となるため、時価を把握することが極めて困難な場合というのは想定されないと考えられました。そのため、現行の時価を把握することが極めて困難な場合の取扱いは削除することが提案されています。
その結果、従来、時価を把握することが極めて困難として時価評価を行っていなかった有価証券やデリバティブ等を保有している場合には、新たに時価を算定することが必要となります。

IV.最後に

時価算定基準案等は、第三者が提供する時価の検証など、時価の算定に関する実務を大きく変える可能性があります。
そのため、時価算定基準案等でASBJ及びJICPAから提案されている内容をご確認いただいた上で、コメントの提出をご検討いただくとともに、この案で確定した場合には本適用までそれほど猶予はありませんので、時価算定基準案等への対応への準備をご検討いただく必要があると思います。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部
シニアマネジャー 鈴木 和仁

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